零崎問識の人間問答   作:忘旗かんばせ

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第四問『死は或いは泰山より重く或いは鴻毛より軽死』2

 

 ◆   ◆

 

「————————は?」

 

 零崎問識が。

 仙瓩おとふが。

 石凪赭石が。

 全員が全員、尽く惚けたように、口を開ける。

 

 そこにあったのは——死体だった。

 

 死んでいた。

 死んでいた。

 死んでいた。

 死んでいた。

 死んでいた。

 

 殺人ピエロが。

 戦う野球選手が。

 狂気の大学教授が。

 誰もその姿を知らないはずの、小さな隠密少女が。

 誰もその姿に覚えがない、青白い肌の男が。

 

 死んでいて、

 死んでいて、

 死んでいて、

 死んでいて、

 死んでいた。

 

 その全てが殺されていて。

 殺されすぎるくらいに殺されていて。

 壊されすぎるくらいに壊されていて。

 破壊されすぎるくらいに破壊されていて。

 ともすればその原型が、わからないくらい。

 五つの死体は、五つの死体であろうものは。

 その尽くが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()——

 

 その死体たちの中心に。

 

 一人の男が——立っている。

 

「死吹屍飼(しかい)——っつったらしいぜ、そいつはさ」

 

 唐突に。

 背を向けたまま——その男は語り始める。

 

 背が高い——とは、言えない。

 せいぜいが、平均程度。百七十を越えるか越えないか、という程度に見える。

 

 体型は細身。ただし、決して痩せこけているというわけではなく、むしろ、細身ながらも筋肉質な、脂肪のない体付き。

 

 引き締まった体に——黒革のショートブーツ。裾の窄まった、デニム地のオーバーオール。至って普通の白いシャツに——両手を二の腕まで覆う、巨大な手袋。何が素材なのかもわからない、ドス黒い色の巨大なそれが、シルエットを酷く歪にしていて。

 

 伸びた癖毛を赤銅色に染め——後頭部で一本の三つ編みに束ねている。

 

 男は。

 高く、通りのいいその声で、話し続ける。

 

「誰も知らねぇ死体が一個あるってなるとよぉ、なんかの伏線なんじゃねぇかとか、なんかのトリックなんじゃねぇかとか、余計な想像が捗っちまって仕方がねぇだろ。この場に伏線なんてねぇってのにさ。この後にトリックなんてねぇってのにさ。読者の皆様に余計な頭を使わせてたんじゃ、申し訳ってやつが立たねぇだろ? だから俺が代わりに、紹介しといてやろうと思ってよ」

 

 けはは、なんて特徴的な笑い声をあげて——男は背を向けたまま語り続ける。

 

 その背に垂れ落ちる三つ編みが、尾のように揺れて——どこか。

 

 獣のような、肖像。

 

「死吹屍飼——『地獄沙汰(ネクロマンモニズム)』の死吹屍飼、だったっけか? なんだかごちゃごちゃ言ってやがったが、あれだ。こいつは()()()()()()()()()()()()ってよ。けはは。爆笑だろ? こいつときたら、いい歳こいてすげぇシスコンでやがってさ、()()()()()を盗ってった石凪墓石が憎くて憎くて、挙げ句の果てにその子供までもがずーっと憎くてたまらなかったんだと。だから石凪の混乱に漬け込んで——混乱に巻き込まれた隙に漬け込んで、ぶっ殺してやろうってつもりだったらしい。つっまんねぇ動機だとは思わねぇか? 人殺すって時に、よりにもよって怨恨かよ。マジにつまらねぇ。だらしねぇ。男として、イケてねぇにも程がある。呆れてものも言えねぇや。お遊戯やってんじゃねぇんだからよって話だぜ」

 

 ()()()()()——笑う、笑う、笑う。

 

 その背はまるで隙だらけで——隙だらけのように見えて——けれど。

 その場にいる、誰もが。

 まるで縛り付けられたように——動けない。

 

「で、だ。そんなつまんねぇ男だがよ、一個だけ面白れぇ特技ってのがあったのよ。けはは。わりかし爆笑の宴会芸だぜ。合コンで披露すりゃあ大ウケ間違いナッスィーング! ま、オンナノコにモテるかは微妙なとこだがよ。けはははは——」

 

 確か——

 

「『蝋人形』、っつってたかねぇ? 死吹の死配人どもの中でも、()()()()()()()——とかなんて語ってやがったがよ。けはは——それがてめぇの死因になってやがるってんだから爆笑だよな……っと、話が脇道に逸れ過ぎちまったか。けはは。許してくれよ。久々の娑婆なもんでさぁ」

 

 えーっと、どこまで話したんだったか。

 後頭部をかきながら、男は言う。

 

「あーっと、そうそう、『蝋人形』だったよな。超絶爆笑一発芸。こいつは死吹の連中のお家芸である身体支配の応用だっつー話なんだがね、しかしこいつの身体支配が特殊なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってとこだ」

 

 ここまで聞きゃあ、もう大体想像つくだろ? けはは——なんて、楽しげに言って。

 

()()()()()()()()()()。それが死吹屍飼の『蝋人形』の真骨頂だそうでよ——まったく、爆笑だとは思わねーか? こいつは死人を墓の下から掘り起こして、動死体(リビングデッド)に変えちまうってんだけどよ——」

 

 ()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()——と。

 

 笑いながら。

 笑い、嗤い、咲いながら——

 男はゆったりと——振り返る。

 

 中分けの、短い前髪。

 紫色の猫目。

 中性的な、ともすれば女性的でさえあると言える、美しい顔立ち。

 その造形にまるで似つかわしくない——凶悪な、猛獣のような笑み。

 

 その姿は。

 その有様は。

 暴力の世界においては——あまりにも有名だ。

 

 ともすれば。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()——

 

「身元不明死体の解説義務も終えたとこだし——ここらで、俺の自己紹介をしとこうか」

 

 ぎしり、と。

 歯を食いしばるようにして、凶相の笑みを浮かべ。

 男はその名を——名乗って見せる。

 かつて。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「俺の名前は——零崎(ぜろざき)常識(じょうしき)。『寸鉄殺人(ペリルポイント)』零崎常識だ」

 

 

 

 今からお前をぶっ殺すから、よろしく頼むぜ、後輩くん。

 





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