【推しの子】の二次小説です。

 タイトル通りこんな展開で終わっても別に良いじゃないかと考えて書いた初投稿の作品です。

 普段は読み専なため駄文となっております。しかもご都合主義なため色々とガバガバな設定と展開になっておりますが、そこは目をつぶってスルーしてください。
 あと、作品のお気に入り登録と評価付与をしてもらえると作者が喜ぶのでお願いします。


※苦手な方はブラウザバック推奨です。


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 「B小町」ライブツアー最終日の配信日なので投稿します。


【推しの子】こんな展開で終わっても別に良いじゃないか

 

12月25日 クリスマス

 海がみえる崖近くの場所で、黒いフードで顔を隠したアクアと、柵に腕をのせながらスマートフォンでライブ配信を視聴しているカミキヒカルがいた。

 

「君も一緒に観るかい? ライブ配信」

 

「B小町」ライブツアー最終日の配信を一緒に観ないかと語り掛けてくるカミキヒカルに対し、アクアは返事を返さずに自分の考えを語り始めた。

 

「ずっと考えていた。アイの言う通りにアンタを救う方法を」

 

 きっかけは2枚のDVDだった。一枚はアクアに、もう一枚はルビーへと向けて、アイが15才になった我が子に向けて残していたものだった。

 

 映像には、アイがなぜ「彼」と別れたのかその理由が語られていた。

 

「彼」が芸能界の闇に侵されており、自分に依存する形になっていたこと。命の重さに押しつぶされそうになっていたこと。壊れる寸前であったこと。

 

 そんな中、アイは自分のお腹の中に子どもがいるとわかり、このことを「彼」が知ったら壊れてしまうと判断し、「私は君を愛せない」と告げて別れたのだ。

 

 だが、それでも本当は「彼」とずっと一緒に居たかったのだと。「彼」の背負っているものを一緒に背負い、子どもたちと一緒に未来を生きたいのだと。

 

───愛はよく分からない。それでも愛しいと思った初めての人だから……。

 

 映像の中のアイはそう語った。

 

 そして、映像の最後に「彼」が今も迷っているのなら自分と一緒に救ってほしいと。

 

 15年後のアクアとルビーに向けて、そう伝えるのだった。

 

 

 

 

 最初、アクアはアイを殺した自分たちの父親であり、映像の中で「彼」と呼ばれていた人物に復讐するつもりであった。

 

 そのために芸能界に入り、アイと関係のあった芸能関係者と接触し、その人のDNAを採取することでDNA検査を行い、父親を特定しようとした。

 

 その後、黒川あかねによって、父親を特定することができた。

 

 だが、アクアは復讐をしなかった……。

 

 映像の中で「彼」の名前を一度も出さずに最後までその身を案じていたアイの願い。そして何よりも自分と同じ苦しみを受けたはずの妹であるルビーが人を許していく道を選んだ。

 

 だからこそ、アクアは二人の意思を尊重し、復讐として「彼」であるカミキヒカルを手にかけることをやめたのだ。

 

「だけど、もう手遅れだったんだな。カミキヒカル。お前は自分の為だけに嘘を重ねてきた。醜悪な嘘つきだ」

 

「なんの事?」

 

 とぼけたように答えるカミキヒカル。

 

 だが、その両の瞳には黒い星が宿っていた。

 

 

 

 

「なんの事?」

 

「僕が何をした?」

 

人を刺した(・・・・・)?」

 

人を突き落とした(・・・・・・・・)?」

 

何もしてないじゃないか(・・・・・・・・・・・)そんな事(・・・・)

 

 カミキヒカルは語る。

 

 自分はただアイの話をしただけだと。

 

 友人だと思っていた元『B小町』メンバーの『ニノ』こと新野冬子とその彼氏である菅野良介の二人に自分の情けない失恋話を語った。

 

 二人があんなにもアイに執着していると知らなかった。

 

 カミキヒカルはかたる。

 

 アイが宮崎の病院で子供を出産しようとしているから会いに行くべきかどうか迷っていると話した。

 

 そこで何が起きたのか自分は何もしらない。

 

 カミキヒカルは騙る。

 

 アイが死んだ日もそうだ。

 

 自分はアイに会う勇気がないから、代わりに花束を届けてもらっただけで、別に誰かを害するつもりなんてなかった。

 

「それも嘘なんだろ」

 

 カミキヒカルの話をアクアは一刀両断した。

 

「俺にとってはお前が娘を守らなかった事が全てだ。ニノの精神状況を理解していながら何の対策も取らず傍観していたことが全てなんだよ」

 

「殺そうとしたな? 実の娘(ルビー)を」

 

 瞳に宿った黒い星を輝かせながら殺意を滲ませるアクアに対し、それ以上に黒い星を強く輝かせながら、狂気的な笑みを浮かべるカミキヒカル。

 

「下劣で利己的な嘘つき。お前は人殺しよりも醜悪だ」

 

 意図的に他人の心をくすぶらせ、弱った者に狂気の炎を灯し、自身の手は一切汚さず、自分の都合の為だけに殺人犯(かがいしゃ)犠牲者(ひがいしゃ)を生み出してきた教唆犯(きょうじん)

 

 それがカミキヒカルという男の正体であった。

 

「ああ、そうか。君も同じなんだね」

 

 ひとりで何かを悟ったカミキヒカルは語る。

 

君は僕と同じ目をしている

 

「人を信じさせる説得力を持ち、スター性と呼ぶべきカリスマを放つ…」

 

「人をだまし従わせる。『嘘つきの瞳』だ」

 

「君も僕と同じように何人の人を扇動してきたんだろう?」

 

 思いもよらない言葉を受けて、固まるアクア。

 

「自分の目的の為に、何人の人を騙してきた?」

 

「自分の才能が他人の人生に影響を与えるのは、心地が良かっただろう?」

 

 少しの間をおいてからアクアは答えはじめる。

 

「確かに僕らは自分の為に人の心を動かし、騙し従わせる醜い存在だ」

 

 カミキヒカルの言葉に自分たち(・・・・)はその通りであると、アクアは肯定する。

 

「けれど、ルビーは僕らとは違う」

 

 だが、ルビーはそうではないのだと強く断言する。

 彼女は自分たちとは異なり、自分の為に騙るのではなく、誰かのために愛を語る(歌う)のだと

 

「今もルビーは愛を歌っている」

 

「聞いたものが信じれば救われる様な愛の歌を」

 

「会った事もない誰かに。今、孤独でいる誰かに」

 

「愛を求める誰かに、愛を伝えるための、誰かを愛したいと願う者の──愛の瞳だ

 

 アクアの黒い星が白い輝きへと変わる。

 

「アンタはここで消えてくれ。ルビーの未来の為に」

 

 左手に握ったナイフを突き出しながら、そう告げるのだった。

 

 

 

 

「妹の未来……か」

 

 そう言うと、カミキヒカルは「B小町」ライブツアー最終日の配信を流していたスマートフォンから手を離し、地面に落とした。まるで、この落ちていくスマートフォンが未来の(ルビー)の姿だと言わんばかりのそぶりを見せた。

 

「枯れていくだけの未来だろ。永遠の存在じゃあない」

 

「それはお前にとっての永遠だ。ルビーの未来はお前の物じゃない!」

 

 ナイフを突き出すアクアに、そのナイフで本当に自分を殺すのかと、本当にそれで良いのかと、カミキヒカルは尋ねる。

 

「人を殺した君の妹という『記号』は世間にとって絶好のおもちゃになるだろうね。殺人者の家族がのうのうとアイドルをしているのは間違っていると。嫌悪感を正義だと偽る偽善者たちの手によって尊厳と仕事を奪われるだろう」

 

メディアと世間は真実を求めない

 

 もしも本当に自分を殺せば、その後は人殺しの妹として生きていく事になるのだと。そんな状態でアイドルとしての高みを目指すことができるのかと、揺さぶりをかけてくる。

 

「そのナイフで僕を刺しても何の解決にもならない。賢い君なら分かるだろ」

 

 やるだけ無駄なのだと言外ににじませる。

 

「君はもう生きたい理由がたくさんある筈だ。夢を叶え、恋愛をして、友人と遊び、大切な人に恩を返し、妹がアイドルの道を突き進む姿を最後まで見届けたい。違うかな?」

 

 少しの間をおいてからアクアはその通りだと答えた。

 自分には夢があるのだと。

 

──外科医になって有馬の気持ちに応えるのも良いかもしれない

 

──姫川とまた海に行く

 

──ミヤコさんを母と呼んで

 

──あかねに受けた恩をすべて返して対等な関係を築きたい

 

 そして、何よりもいちばん叶えたい夢は……。

 

「ルビーがドームに立つ姿を絶対に見届けたい」

 

 アクアが自分の夢を語るたび、少しずつナイフを持った左手が下がり始め、最後のドームで歌うルビーの姿を絶対見たいと言ったときには、先ほどまでのような勢いはなくなっていた。そんなアクアの姿を見たカミキヒカルは確信の笑みを浮かべた。

 

「だけど、それら全てを捨ててでも、妹の未来は俺が守る」

 

妹の未来を蝕むお前はここで死ぬ(・・・・・・・・・・・・・・・)もうお前の思い通りにはいかない(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 自身の夢を、生きる理由を捨ててでも自分が妹の未来を守るのだと、下がっていた左腕をあげて、再びナイフを突き出しながらアクアは宣言をした。

 

 そんな姿を見たカミキヒカルは動揺を隠すことなく、アクアを説得しようとする。

 

「正気なのか? そんな事したら君の妹は──

 

 だが、そんな行為も無駄に終わる。決意を新たに固めたアクアの前には無意味だったのだ。

 

「お前は俺が殺す。そして妹を人殺しの妹として報道はさせない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)その為の方法が(・・・・・・・)たった一つだけある(・・・・・・・・・)。それが──」

 

 アクアは左手に握ったナイフの刃先を自分に向けると、そのまま自身の体に突き立てた。

 

 アクアが描いた脚本(シナリオ)はこうだ。映画で告発されたカミキヒカルは逆上し、脚本担当とトラブルになった。そして、刀傷沙汰の末(・・・・・・)共に崖から転落死(・・・・・・・・)したと。

 

メディアと世間は真実を求めない

 

 先ほど、カミキヒカルがアクアに対していった言葉を意趣返しとして、アクアが使ったのだ。

 

 そのまま、アクアはカミキヒカルにもたれかかるようにしてしがみ付くと、海がある崖へ落とそうとする。

 カミキヒカルは抵抗しようと暴れるも、アクアが必死に掴んで離さない。

 

「この嘘は暴かせない。騙しきってやるさ……」

 

 こうして抵抗むなしくカミキヒカルとアクアの二人は崖下の海の中に沈んでいくのだった──。

 

 

 

 

 

 

ああああ

 

苦しい

 

痛い 寒い 寒い

 

暗い 息をしたい

 

心が 体が 生きたいと 叫んでいる

 

にがい

 

早く 苦しい 暗い

 

死 苦しい 後悔が

 

寒い 寒い くるしい

 

うたが…きこえる……

 

そんな……気がした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────アクア

 

 

 

 

 

あ……い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 体が沈んでいく

 

 視界が揺れる

 

 岩場に頭を……

 

 力が…

 

 こんな所で僕は…

 

カミキヒカルは足掻こうとして、アクアの首に手を伸ばす。

 

 僕はまだ……!!!

 

そして首を絞めようと力を入れた瞬間、肩を誰かに掴まれた。

 

 一体誰だ…? こんな海の中で自分たち以外の人なんているはずが……。

 

後ろを振り向くと、そこには光る眼鏡をかけた亡霊がいた。

 

 いったい…何っ……!?

 

すると、海の底からひとつ、またひとつと手が自分に向かって伸びてきた。

その無数の手を見て、カミキヒカルは驚愕の表情を浮かべた。

そして、亡霊たちの手によって海の底へと引きずられるようにゆっくりと沈んでいく。

 

 僕はね。アイと一緒に居るときだけ、生きている気がしたんだ。

 

 だけど、君が僕の前からいなくなってから時間が経つたびに、僕の中にある君の存在が徐々に希薄になっていったんだ。

 

 僕は…君を永遠に感じていたかった。

 

 たとえそれが罪の重さだとしても……。

 

 ああ、残念だよ。君に似たルビーを殺せていたら、もっと君を感じることができたのに………。

 

カミキヒカルは無数の手に掴まれながら、海の底へと沈んでいくのだった。

 

 

 

 

ここは……いったい。

 

俺は死んだのか?

 

それなら、ここは天国なのか?

 

だれか……だれかいないのか………。

 

だれもいないのか……。

 

それなら…それで別に。……そうだ。カミキは……一体どうなったんだ?

 

あの状況で助かるとは思えないから、おそらく大丈夫なはずだ。

 

ルビーは無事にライブツアーを成功させたのか?

 

………………わからない。

 

今頃、俺が死んだと知って、悲しんでいるかもしれないな……。

 

結局、今回も外科医になることができなかったな……。

 

有馬の気持ちに応えることも……。

 

ミヤコさんを最後まで母と呼ぶことがなかったな……。

 

それにまた、あかねに迷惑をかけてしまったな。俺がいない間にルビーを守ってくれだなんて。もう恩を返すこともできなくなったのにな……。

 

あかねの事だから、ルビーに変装して代わりに刺されていたりして……。

 

いや、さすがにそれはないか。

 

 

 

…………。

………………。

……………………。

 

………………………………………。

 

────アクア

 

…………ああ、まだ俺の中に。

 

アクア

 

こんなにも未練が残っていたのか……。

 

ア~クア

 

………いや、もういいんだ。

 

ア~ク~ア。

 

ぜんぶ…もう終わったことだ。

 

お~い。アクアさ~ん。

 

このまま目を閉じて、眠るのも悪くないな……。

 

あれれ。きこえてないな。

 

このまま……、目を………。

 

こら! アクア!

 

 

後ろから強い口調で名前を呼ばれた。

誰もいないと思っていた場所で、自分以外に人がいるとは思わなかった。

声の主を確認するために後ろを振り向こうとして……やめた。

 

 これは…振り向いても大丈夫なのだろうか?

 

 某映画のように最後まで振り向いてはいけない類いのものなのではと考えてしまう。だが、自分を呼ぶその声にどこか懐かしさを覚える。

 

そんなはずがない。これは幻聴なんだと自分自身にそう言い聞かせる。

 

何度も思った。何度も願った。

 

もう一度、その声が聞きたいと。会いたいと。そう思って仕方がなかった。

 

もう聞くことがないと思っていた声だ。

 

ゆっくりと後ろへと視線を動かす。

 

心臓の鼓動がうるさい…。

 

自分はもう既に死んでいて、心臓はとっくの昔に止まっているはずなのに。耳障りに思えてくるくらい胸が高鳴っている。

 

そして振り返ると、そこにはもう会えないと思っていた人が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………アイ」

 

 

 

 

「久しぶりだね。アクア!」

 

 そこに居たのは、自分の推しであり、自身とルビーの母親でもある『アイ』だった。

 

「どう…して…」

 

 驚きと困惑の表情を浮かべながら、疑問を口にする。

 そんなアクアとは対照的に明るい表情でアイは答える。

 

「う~ん。わかんない!」

 

「はぁ?」

 

 一体何を言っているんだと言わんばかりに大きく返すも、分からないものはわからないのだと言葉が返ってくるばかり。

 

 このままでは埒が明かないと、アクアは早々に話を切り上げて、次へと進めていく。

 

「……アイ…で、あっているんだよな?」

 

「うん。そうだよ! むしろアクアは私以外に見えるの?」

 

「いや、アイに見えている」

 

 何気ない仕草や表情。どれも自分が知るアイのものだ。

 

 今見ているのは、自分の妄想なのだろうか? それとも本当に…?

 

 そんな風に悩んでいるアクアを置いて、アイはアクアに尋ねるのだった。

 

「ねぇ、アクア。私が死んでから今まであったこと。私に話してくれる?」

 

 自分やルビーが一体どんな風に過ごしたのかを知りたいと言われ、少し迷うそぶりを見せながらも答える。

 

「少し長くなるけどいいか……?」

 

 アクアはこれまでにあったことをアイに話すのだった。

 

 

 

 

 

 

…………。

………………。

……………………。

 

 

 

 

長い、長い話が終わり、すべてを聞いたアイはゆっくりと口を開いた。

 

「そっか…結局、彼はもう手遅れだったんだね」

 

アイは悲しい表情を浮かべ、目線を下に落とした。

 

アイにこれまでの事を話した。

 

 アイが亡くなって、すぐに社長が失踪したこと。

 

 ミヤコさんが社長を引き継いで会社を切り盛りし、さらには自分たちを引き取って、これまで育ててくれたこと。

 

 アイが亡くなってから、これまで復讐のために生きてきたこと。

 

 アイを殺した犯人である自分たちの父親を探すために自分も芸能界に入ったこと。

 

 ルビーが新生『B小町』を作ってアイドルになったこと。

 

 そして、『15年の嘘』という映画を制作したこと。

 

 たくさん、たくさん話をした。

 

 そして最後にルビーの未来を守るために自分がカミキヒカルを殺し、共に崖に落ちたのだと包み隠さずに話した。

 

 

「すまない。アイの願いを叶えることはできなかった」

 

 「彼」であるカミキヒカルを救ってほしいというアイの願いを叶える事ができなかったことを謝罪する。

 

「ううん。それは仕方ないかな。だって、ルビーを守るためにやった事でしょ?」

 

 アイはもう既に壊れていた「彼」を救うためには終わらせるしかなかったのだと言う。

 

「けど、だからと言ってアクアまで一緒に落ちる必要は別になかったと思うけどな」

 

「いや、それだと確実にカミキを殺すことはできなかった。それに後の取り調べなんかで疑われる可能性を考えるとこの方法が一番確実だったんだ」

 

 刀傷沙汰の末、共に崖から転落死したという事にするためには、自分も一緒に崖から落ちる必要があったのだという。

 

「う~ん。でも、さすがに死ぬのには、まだ早すぎると思うな」

 

 確かに前世と比べると、かなり早いとは思うがそれでも……。

 

「だって、アクアにはまだやりたいことが残っているんでしょ?」

 

「やり残したこと……。確かにまだある。だが、俺はもう既に死んだんだ。もうすべて終わった事なんだ。もうどうしようもない。どうすることもできないんだ……」

 

 アクアの中に少しずつ後悔という名の感情がにじみ出てくる。

 

「そっか。そっか! アクアはちゃんと後悔しているんだね!」

 

 そう言うと、アイはアクアの肩をそっと押すのだった。

 すると、アクアの体はまるで重力に引っ張られるかのように後ろへと倒れ始めた。

 

「……なっ、アイ! 何を……」

 

 アイへと手を伸ばすもその手は届かない。それどころか少しずつ離れていく。

 

「実はね。アクアはまだ死んでないんだよ」

 

 アイから自分はまだ死んでいないのだと告げられる。

 

「う~ん。なんて言ったらいいのかな? ここはね。生と死の狭間……要するに死の一歩手前の場所になるの」

 

 目が覚めることができれば、みんなの元へと戻ることができるのだという。

 

「けどね、そのためにはアクア自身が生きたいと思わないとダメなんだ……」

 

「だからね、アクアがちゃんと後悔をしていてよかったよ」

 

「それじゃあ、元気でね。また会えて嬉しかったよ!」

 

「待ってくれ! アイ! まだ話したいことがたくさんあるんだ!!」

 

 必死に手を伸ばしながら、叫ぶアクア。だが、それでも落ちるのは止まらない。

 

「その話したい事は今じゃないよ。それはね…アクアが今よりも大きくなって、おじいちゃんになって、それから…またここに来たときに話してね」

 

「だから、ルビーのことお願いね。アクアはお兄ちゃんなんだから」

 

…………………………。

 

 アイからルビーの事を頼まれたアクアは少しの間を置いてから答えた。

 

「………ああ、ルビーのことは任せてくれ」

 

 アクアの言葉を聞き、アイは満足そうに笑みを浮かべ頷いた。

 

「それじゃあね、アクア。また少しの間会えなくなるけど…またね」

 

 

「ああ、ほんの少しのサヨナラだ。またな…アイ………いや」

 

 

 

 

 

 

 

「────アイ母さん」

 

 そう言うと、アクアの姿は見えなくなったのだった。

 

 残されたアイはというと……。

 

 とてもテンションが高かった。

 

 

 

 

「あ~あ。行っちゃった」

 

「でもまあ、元気な姿を見れたから、よし!」

 

「それにしても、まさかアクアに『母さん』と呼ばれる日が来るなんて思わなかったよ」

 

「アクアに会わせてくれて、ありがとね。ツクヨミちゃん!」

 

 アイが振り向くと、そこには黒い服に白い髪をした少女が立っていた。

 

「なに…ただの気まぐれだよ」

 

「もう! ツクヨミちゃんは本当に素直じゃないんだから」

 

 とても仲が良さそうに話をする二人……というよりは、アイがツクヨミに対して一方的に話しかけているだけなのだが、ツクヨミも話しかけられる事に満更でもない様子。

 

「それじゃあ、アクアとルビーのことお願いね」

 

「ああ、君に言われなくても分かっているさ」

 

「なんせ、彼らは私にとっての命の恩人でもあるのだからね……」

 

 そう言うと、ツクヨミは姿を消した。そして、それに続くかのようにアイもまたどこかへと消えたのだった。

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

 目を覚ますと見知らぬ白い天井があった。

 

 アルコールのニオイ……自分の腕についた点滴。

 そうか…ここは病院か。

 

 長い間、眠っていたのか身体が思い通りに動かない。

 頭は何とか動かすことができるようなので、辺りを見渡していると、病室のドアが開いた。

 

「……お兄ちゃん?」

 

「……アクア?」

 

「……アクア君」

 

「ルビー、有馬…あかね…」

 

 病室の入り口で固まった氷のように一歩も動かない3人。

 そんな3人の様子を見て、アクアは……。

 

「心配をすまなかった」

 

 謝罪の言葉を口にした。そして、その言葉を聞いて、まず最初に反応したのは……。

 

パァン!

 

………重曹ちゃんだった。

 

「本当にそうよ! アンタ一体どれだけあたしたちが心配したと思ってんのよ!」

 

「まぁまぁ、カナちゃん。落ち着いて。アクアくんもまだ目を覚めたばかりだから」

 

 頭に角を生やしながら烈火の如く怒る重曹ちゃんを宥めるあかね。

 

「でもね…私たち本当に心配したんだよ? ……もう二度とこんな事はしないでね?」

 

 なんだか色々とバレている気がしないでもないが、とりあえず分かったとだけ返しておく。

 

 そして、未だに動かないでいるルビーはというと……。

 

「お兄ちゃん……私ね。また私の大切な人が居なくなっちゃう……。そう思ったの」

 

「けど……お兄ちゃんが目を覚まして………本当によかったよ!」

 

 涙を流しながら、アクアに抱きつくルビー。

 感動的な場面だが、アクアの顔色は少しずつ悪くなっていった。

 

「ル…ルビー。傷口に触っている……」

 

 ルビーの肩を軽く叩くも気が付かないのか、自分から一向に離れようとしない。

 

「あっ…ヤバい。傷口がまた開いたかも……」

 

「…あっ、ええっ!? お兄ちゃん!!? ど…どうしよう。お兄ちゃーーん!!!!!」

 

 病室の中が徐々に騒がしくなり始めていると、病室のドアが開いてまた誰かが入ってきた。

 

「やぁ、無事そうで何よりだよ」

 

 病室の扉を開けて、中に入ってきたのは黄色い被り物をした服の上からでもわかるマッチョだった。

 

「「「ぴ、ぴえヨンだぁぁあああ!!!!」」」

 

 TPOをわきまえてちゃんと服を着ているぴえヨンの登場に沸き立つ病室。

 

「病院ではお静かに! 他の患者さんに迷惑です!!」

 

 だが、さすがに騒ぎすぎたのか看護師さんが病室に入って注意をしてきた。

 

「「「す…すみません……」」」

 

 看護師さんに怒られて謝る3人娘。

 

 そんなやり取りをしているとミヤコさんにバイトの壱護、五反田カントク、姫川さんが息を切らせながら病室に入ってきた。

 

「アクアが目を覚ましたって!?」

 

「ですから、病院ではお静かに!」

 

「「「「「す…すみません……」」」」」

 

 看護師さんは再度、静かにするように注意をすると担当の看護師と先生を呼んで来るといって病室を出て行った。

 すると、みんなから本当に無事でよかったと言われ、心配をかけたとアクアは謝る。

 

「いや、悪いのはカミキのヤローなんだ。むしろお前は被害者なんだから謝ることはない」

 

「…………」

 

 壱護元社長の言葉に表情こそ出さないものの内心複雑な気持ちになる。

 カミキヒカルと心中しようとしたからだ。

 

 そんな心の内を隠すかのように話を変えようと、アクアは現状の確認するために尋ねると、ミヤコさんがアクアの知りたい事について話すのだった。

 

 

 あれから自分は1週間近く眠っていたこと。

 

 刀傷沙汰の末、共に崖から転落したこと。

 

 カミキヒカルの遺体はまだ見つかっていないこと。

 

 映画を予定通りに上映するか揉めたものの無事に上映されたこと

 

 それから自分を助けたのはぴえヨンだということ。

 

「ありがとうございます。ぴえヨンさん」

 

「なに、たまたまだよ」

 

「偶然近くを歩いていたらカラスに持ち物を盗られてね。それを取り返そうと追いかけたら、崖の近くで揉めている2人の人が居てね。様子を見ていたら、そのまま崖の下に落ちたんだ」

 

「それを見て助けようと、慌てて自分も飛び込んだよ」

 

「それで海面の近くにいた人を抱えて、陸に上がったんだ」

 

「しかも顔を確認するとそれがアクアくんだったからね。そのときの僕の気持ちが分かるかい?」

 

「幾分か寿命が縮みかけたからね」

 

「…す、すみません」

 

 ぴえヨンの説明が終わった。

 どうやらたまたまぴえヨンが近くに居て、それから偶然カラスが持ち物を盗んだことで、自分は助かったらしい。

 

 それにしても…カラスか……。どうやら自分はアイツにも助けられたようだ。また、会った時には礼を言わないとな。……しゃくだけどな。

 

 そのままみんなと話をしていると、病室に先生と看護師さんが入ってきた。

 どうやらここまでのようだ。まだまだ話し足りないが仕方ない。

 

「それじゃあね。お兄ちゃん」

 

「ああ、身体には気を付けるんだぞ」

 

「それはこっちのセリフだよ。もう!」

 

 それから、病室にはミヤコさんとパシリになった壱護の2人が残り、先生と俺の身体の状態と今後の事について話すのだった。

 

 これから大変だが、自分で決めたことだ。最後まで騙しきると再び自分の心にそう誓うのだった。

 

 

 

 

 さてと、ようやくまとまった時間がとれたな。

 とりあえず、内容をまとめると。

 

 その後、色々な取り調べがあったが、まぁそれらについては割愛する。

 ただ、一つ言うとすれば、またあかねに恩ができてしまったということだ。

 

 目を覚ましてからの数日間は安静のために取り調べはなかったが、その間にあかねとバレないためにどのような受け答えをするのかを決めたりした。

 

 本当にあかねには頭が上がらないな……。

 

 それで取り調べがあったものの、内容としては状況確認で、いつどこで何があったのか、どうしてそのような状況になったのか、などといったことだ。

 

 あかねと2人で色々と考えていたが、そこまで深く聞かれることがなかった。

 

 そして、けがの状態も良くなり、もう退院しても問題がないということで、自宅に戻ることができるようになった。

 

 それで『15年の嘘』の制作に関わった関係者の人たちに迷惑をかけたことを謝罪しに行ったりもした。皆は別に気にしていないといって、むしろ逆に心配されたりした。

 

 それから────。

 

「お兄ちゃ~ん! もう行く時間だよ~!!」

 

「ああ、わかった。今降りる」

 

 そうか。もうこんな時間か…。今日はルビーにとって大事な日だというのに、うっかりしていたな。

 

 今日はルビーが『B小町』が東京ドームでライブをする日だ。

 みんなが夢を見ていた念願のドームライブだ。

 

 アイも空の上から見ているだろうか。

 

「お兄ちゃ~ん! まだ~!」

 

「ああ、今行くよ」

 

 今日もまた嘘に嘘を重ねて生きていく。どんなに辛いことがあっても、それを悟られないように楽しそうに笑顔でお仕事をしていく。

 

 そして、ルビーは人々に夢や希望を与えるのだろう。

 

 玄関にたどり着くと、ルビーは飾られた写真の中のアイに声をかけていた。

 

「それじゃあね、ママ。行ってきます!」

 

 今日もまた元気に、人々へ夢を与えるために仕事に行く。

 そんな希望の光を宿すルビーに対して、俺はこれからもこの罪を…、嘘を背負って生きていくんだ。

 

 時には、嘘に嘘を重ねることに苦しみ。そのあまりの辛さに耐えられなくなる日が来るかもしれない。

 

 だけど───。

 

 

「この嘘は絶対に暴かせない。最後まで騙しきってやるさ」

 

 写真の中のアイを見ながら言葉にする。

 

「なんせ俺は…アイの

 

 

 

 

 

 

  推しの子だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【推しの子】完

 

 

 

 

 

 





 本作品はこれにて終わりとなります。その後がどうなるのかは皆さんのご想像にお任せします。

 ちなみにですが、本作品のツクヨミがアイに話しかけられた際に満更でもない反応をしたのは、前世のカラスであった時にゴロー先生とさりなちゃんと一緒になって「アイ」のライブ映像を見ていたからです。
 
 要するにただのファン。

アクアとのカップリングで、皆はどの組み合わせが一番好きですか?

  • 重曹ちゃん
  • 名探偵あかね
  • 妹のルビー
  • ぴえヨン
  • 回答を見たい人向け

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