『ブ、コロ……』
バチバチと音を立ててながら悪態をついているロボットは、次の瞬間には顔に当たる部位に拳が突き刺さってひしゃげた。バチリ、と大きな電気音が響き、そしてそのまま息を引き取ったかのように起動音が消える。
「……ずいぶんと、便利な世の中になったものだ」
呆れたような感心したような、そんな複雑な感情を抱きながらロボットを壊した少年は自身の周辺を見渡す。そこには先ほど壊した同じロボットが何体も倒れており、同じように死体のごとく動く気配がない。人型から離れていることから無惨さは感じられないが、しかしあまりにも破壊しつくされている悲惨さは存在していた。
その少年には
はぁ、と軽くため息を吐く。チラリとロボットから
「これが時代というものなのか……。いや、文字通り世界が違うんだったか」
ブッコロス!と自身に襲い掛かってきていたロボットを顔を向けることなく回し後ろ蹴りで胴を蹴りぬく。激しい衝突音と鉄がひしゃげる音が響き、蹴られた勢いが消えることなくそのまま他のロボットへ飛んでいき衝突して破壊される。
「もしあいつらがいたとしたら、この世界は退屈なものだと『闇』は滅ぼそうとするんだろうな」
少年の脳裏に狂気に染まった純粋な思想を掲げていた狂人たちを思い出す。同時に自身と大して変わらない年齢の少年少女も似た狂気の光を目に宿していたことも思い出し、世界を滅ぼそうと動いている様子が簡単に思い起こせることに思わずため息が出る。
技術も何もなく、純粋な力を喜々と振るうその姿に、かつて世界を闘争で満たそうとした師の所属組織を思い出す。闘争の世界、と聞けばこの状況を喜ぶのではと思われるかもしれないが、師の組織が望んでいたのは闘争の世界による武の昇華だ。自身の武を高めるための舞台を、争いを否定する世界では窮屈となった己の命を輝かせる世界を望んだ師たちは、世界の平和を望む同じく武の頂点によって食い止められた。
「……俺も同じ穴の狢なんだろうな」
その姿を見て、俺よりも年下だったのにそれを体現するかのような少年を見てその心の強さに憧れた身としてはそれに同調して止めなければならないはずだ。しかし、死ぬのが嫌だったからということで修めた武がいつの間にか昇華することに悦びを感じていたことを自覚した身として、何の技術も見えない力を喜々として振るうその姿に苦虫を噛み潰した表情を浮かべそうになる。
もはや自身と同じぐらいの大きさだけではなく戦車の形をしたロボットにも物足りなさを感じながら破壊を繰り返していくなか、地響きと軽い振動を地面から感じる。感じたほうを見ると、そこにはビルと見紛う大きさのロボットがこちらに向かってきているのが見えた。
「ちょうどいい。多少の手慰みにはなるか」
ロボットを破壊するだけでは満たされなかった武が自分の中に存在していることを自覚しながらも、自然と出てくる笑みによって口角が吊り上がっていくのを止められそうになかった。
「……凄まじいな」
モニターに映されているその少年を見て誰かがポツリと呟いたのを聞き落としはしなかった。同時にそう思うのも仕方ないかとすら思える惨状が、そのモニターには映されていた。
「ほとんどの目標をたった一撃で破壊している。それが個性によるものなら特段何か思うこともないが、あの子は個性も何も使わず素手で破壊している」
個性。人並外れた力を宿しているその力を”個性”と称しているこの世界においてそれは一種の性能のパロメーターに近いものとして機能している。実際個性によって起こされる犯罪は減ることはなく、個性を利用した犯罪を咎めるための組織としてヒーローという職業が存在している。
そしてそのヒーローを目指している子供たちがその第一歩として受験する高校、雄英高校の実技受験が今行われている。個性による凶悪犯罪が増加傾向にある今、ヒーローとして求められているものの1つに戦闘能力がある。この実技試験はそれも見るためのものなのだが、今1つのモニターに映し出されているその少年はこの場にいる試験管たちにとっていささか常識から離れているように感じていた。
「いくら学生を相手にするために作られたとはいえ、そんな簡単に壊せるものじゃないんだぞ。なのに胴体を貫通させたとは、本当に個性を使っていないのか?」
個性を利用した攻撃なら納得も理解もできた。現に1人の生徒の腹部から放たれた光線は複数のロボットを貫いており、自動車にも迫る速度で動いている生徒の蹴りで破壊されているロボットもある。そういう意味ではロボットが破壊されることに問題はないが、ことこの少年にとっては疑問が浮かび上がってくるのだ。
「あぁ。見てわかる通り、あの子の個性は尻尾だ。それ以外にあると言う情報はない」
個性『尻尾』。文字通り尻尾を持っていること以外に特筆できるものがない、没個性的な個性だった。もちろん筋力的な話になれば尻尾のない生徒に比べれば鍛えられているであろうことは簡単に想像がつくが、それでもただ筋トレをした程度で簡単にロボットを破壊できるほどに軟に作られているわけではない。
「複合個性ではないのか?」
「本人や周辺が気づいていないだけでその可能性がないわけではないが、あそこまでの実力を持っていながら気づいていません、ということはまずないだろう」
「わかっていて隠していると?」
「そこまではわからん。心が読めるわけではないからな」
少年が最初に破壊したロボットは腕が胴体を貫いていた。まるで障子紙を破ったかのように壊されたのだ。それ以降は2回の攻撃で破壊できたこともあったが、それもすぐに修正したかのようにロボットたちは1発の攻撃ですべて破壊されていった。
「相澤先生、どうしました?」
「……いや。大丈夫です」
相澤と呼ばれた男性は少年の動きにわずかな違和感を覚える。自分も個性の関係上武をたしなんではいるのだが、その経験が少年の動きがどこかぎこちなく感じたのだ。手加減などできるわけがないはずなのに、どうしてか動きにくそうにしていると感じたのだ。
「さて。0Pの敵に対してどう動く?」
街を破壊して現れた巨大なロボット、倒したところでポイントにもならない文字通りの邪魔モノなのだが、教師として自分では到底太刀打ちできないであろう敵が現れた時にどう動くのかを見るために作られたものだ。誰も救おうとせず身勝手に逃げるのか、それとも自分の身を挺してでも救おうと動くのか。ここにいる子供たちは将来
だが、その思惑から大きく外れた動きをする生徒が1人いた。大きな尾を動けないように体に縛っている男子生徒が巨大ロボットの方に顔を向けると常人離れした速さで向かっていくのがモニターに映し出されていたのだ。
「お、おい。あの子近づいていないか?」
「誰か動けない子がいるのか?」
「近くに女の子が倒れているが、そっちの方に行ってないぞ」
「まさか、あれを相手にするのか?」
「無茶だ!いくら何でも無理がある!」
己の個性を過信した愚行かとにわかに騒めく観戦室。試験を中止してでも止めに入るべきかを口にする教師も出てくる中、何が起きても大丈夫なように待機するように現場に指示を飛ばした瞬間、観戦室の中に轟音が響いた。
「……は?」
ロボットの足は真ん中からへし折られていた。人間の形をとっていた巨大ロボットは関節が逆につけられたかのように折れ、その体勢を大きく崩していた。その下ではロボットを蹴り飛ばしたであろう、いや、事実数tもの自重を支え切れるほどの堅さを誇るロボットの足を蹴り飛ばした少年が着地していた。
「バカな!?たった一撃で足をへし折っただと!?」
「いくら軽量に作られているとはいえ、数トンの重量を支えるために堅牢に作られているんだぞ!」
「どうやってあれを破壊したんだ!?」
観戦室が先ほどとは違うざわめきで埋め尽くされた。個性で破壊されたのならまだ理解できた。世の中拳で鉄を破壊できる存在は、それこそ新しく教師となるオールマイトは簡単に行える存在だが、そういう個性だからこそできるのであって尻尾を持っているだけの個性で成せることではない。
「……あいつ……」
足を破壊されて上半身が倒れようとしたところを、1ポイントも取得できていなかった生徒によって誰もいない方向へ殴り飛ばされて安堵と興奮で再び騒めいた観戦室の中、相澤は足を破壊した少年、尾白猿夫を見ていた。まるでつまらないものでも見るかのようにロボットを見ている少年を。