PERSONA-trinity heart-   作:善い思考

67 / 68
最近のタイトルとのシステム面での違いに苦戦しながら紅魔郷リメイクを遊んでます。名曲たちを聴きながら生で紅魔郷をプレイできることに軽く感動。

あと20000UAありがとうございます!


正か邪か

 鬼人正邪。

 種族は天邪鬼。とある異変を起こし、幻想郷の支配を企んだ大罪人である。

 針妙丸から警戒を促されていたが、魔法の森で青い異形とぶつかる直前、偶然にも声をかけた相手がこの妖怪だった。なるべくなら二度も関わり合いになりたくはなかったが、これも運命の悪戯か。

 

「気絶……してんのか」

 

 木にもたれかかり俯く姿を見ただけでは、負傷の程度は窺い知れない。しかしさすが妖怪と言うべきか、見る限り五体満足で目立った外傷もない。

 とはいえ、布都の指摘通り全身を強打して即死した恐れもある。

 

「どうしよう」

 

 何の因果か、彼は天邪鬼を前にして、再び生死を左右する選択を迫られる。

 

 瀕死の鬼人正邪を放置し見殺しにするか、回復させて命を救うか。

 

 死んでいなければ回復は可能。ただ、問題はその後だ。

 あの時、鬼人正邪は殺気を剥き出しにして言い放った。『次に会った時、その面を引き裂いてやる』と。

 つまり、傷が完治し目を覚ました鬼人正邪がとる行動、次なる展開は──即、戦闘である。

 

 安全のためを思うと、救けることが一概に正しいとは言えない。さらに言えば、一度異変を起こし、再起の機会を窺う彼女は、幻想郷にとって紛れもない“悪”である。

 仮に何もせず戻ったとして、誰もカンザトを責めないだろう。布都も、懸命な判断だと言うに違いない。

 

 己の保身へと思考が傾いた、その時。

 

「う……」

 

 鬼人正邪が呻いた。

 

 生きている。彼女の命は潰えていなかった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 ひとまず声をかける。

 しかし、返ってきたのは苦しげな呻き声だけだった。目を凝らして見れば、全身に痣や細かな傷があり、至る所に血の赤が見えている。自分たちが怪物に遭遇するよりも前に、かなり痛めつけられたのかもしれない。

 

「……」

 

 その傷だらけの姿を目の当たりにして、ひとつ決心がついた気がする。

 

 カンザトは正邪のすぐそばでしゃがみ、南方を司る四聖獣の一柱『スザク』を顕現させる。スザクは五色の尾羽根を震わせ、朱の両翼を悠然と広げた。

 

『完全回復(ディアラハン)』

 

 さながら、天より降り注ぐ大天使の慈悲。世に仇なす存在をも等しく救う、奇跡の魔法。

 倍速した逆再生映像でも観ているかのように、痛々しい傷が見る見るうちに消えていく。苦しげな呻き声も収まり、カンザトは傷の完治を確信した。

 

「よし、あとは……」

 

 背負っていたリュックサックを下ろし、中から小さな毛布を取り出して正邪へかける。妖怪の生態はよく知らないが、凍死を危惧するがゆえの行動だった。

 

「……戻ろう」

 

 怪物の注意を引き付けてくれた二人が心配だ。早々に戻らなければ──

 

 そう意気込み立ち上がった矢先、右手首がズキリと痛んだ。

 

「……!?」

 

 腕が下に引っ張られ、ガクンと体勢が崩れる。

 カンザトは反射的に右足を前へ踏み出して、どうにか堪えた。

 

 

「よお、いい夜だな」

 

 

 耳の先端から怖気が走り、四肢の先へ広がる。小さく掠れていたにも関わらず、その声は鋭い針のようで、刺々しい圧をもって鼓膜に突き刺さった。

 

「そう怯えるなよ。何も取って食おうってんじゃない」

 

「……っ、じゃあ、手離してくれませんか」

 

「悪いな。妖怪たるもの、縄張りに踏み込んだ獲物は逃がさないんだ」

 

「ずっと起きてたんですか? 俺が近づくのを待って」

 

 そう尋ねると、声の主──鬼人正邪はクククと低く笑った。

 

「嘘だよ。お前がすぐ逃げようとするから捕まえただけさ」

 

「別に逃げようとしたんじゃ……」

 

「礼ぐらいさせろよ」

 

 正邪はカンザトの手首を掴んだまま、ゆらりと立ち上がった。

 

「礼……?」

 

 それは本気で受け取っていいのだろうか、と耳を疑った。

 

「……いらないです。それより、手を離してほしい」

 

「最高に冷たいな。傷つくぞ」

 

 言葉とは裏腹に、口元は怪しげに歪んでいた。

 

「というかお前、どっかで……」

 

 不味い。だから長く留まりたくなかったのに。

 

「……いいや、なんでもない」

 

 ところが、暗くて顔が判別できないのか、それとも単に覚えていなかったのか、正邪はあの時の人間だと気づいていないようだった。

 

「しかしなんださっきの術は。満身創痍の私を完璧に復活させるなんて」

 

 正邪は自身の体をまじまじと見つめながら足首を振った。一見しただけでは気づかなかったが、足を捻っていたか、骨が折れていたのかもしれない。

 異形を召喚する人間だと勘づかれることを恐れて、カンザトは口を噤む。

 

「だんまりか」

 

 すると突然、正邪は耳元に近づいてきて──

 

「まったく奇矯な人間だ。秩序を乱し、追われる身である私を救けるとは」

 

「……!」

 

「その反応……やはり知っていたな?」

 

 獲物が狙い通り罠にかかったことを喜ぶように、目を細めた。

 

「そうだ、我が名は鬼人正邪。幻想郷転覆を企てた反逆者であり、弱きを救う革命者である」

 

 ますます耳を疑った。

 弱きを救う革命者? 

 悪人の戯言にしては、あまりに奇妙な発言だ。

 

「それを何故、人間であるお前が救けた? よもや現状に胡座をかく人間如きが、我が大望に共感したわけでもあるまい」

 

 そんなことが聞きたくて自分を引き止めのか、とカンザトは訝しむ。

 

「里の人間が妖怪に手を貸したとなれば、博麗の巫女あたりが黙っていないぞ。それともあれか? 善人気取りのつまらん憐れみか?」

 

 悪事の片棒を担いだとあれば、共犯者としてどう扱われるか分かったものではない。よくて里を追放、最悪は情状酌量の余地なく正邪もろとも“退治”されるか。

 そんな危険を冒してまで助けるのは、彼女の言う通り場違いな憐憫なのだろうか。

 

「俺もよく分からない」

 

 バフォメットの炎も失せ、光源が極端に少なくなった森の中では、正邪の表情がよく見えない。

 だが、その返答を聞いた彼女の困惑が、雰囲気で分かった。

 

「たしかに俺は、アンタが昔異変を起こした、幻想郷にとって悪い妖怪だって知ってる。でもそれは又聞きした情報で、俺自身はアンタのことを全然知らないんだ」

 

 針妙丸から聞いたのはプロフィールの大枠だけだ。罪状や経緯は曖昧で、判断材料に値しない。

 

「俺はアンタがどんな妖(ひと)なのか、何をしたのかもよく知らない」

 

「だから助けたと?」

 

 カンザトは頷く。

 

「邪悪な奴だと聞いているのにか。誰から聞いたか知らんが、随分信用されてないんだな、そいつは」

 

「信用してないわけじゃない。ただ、今の俺の判断でこのまま見殺しにするのは……なんとなく、納得できなかった」

 

 先刻、たしかに彼女の命運は自分に委ねられていた。

 そして、思った。

 彼女の所業を何も知らない自分が、彼女へ死という裁きを下すことはできないと。少なくとも、その決断をするのは、今の自分じゃない。

 

 だから、死なせなかった。

 

「危うい思考だな。家に転がり込んできた盗人を、犯行現場を見ていないという理由で匿うのと同義だぞ」

 

 その場合はまた話が変わってくる。

 が、カンザトは適切な反論が思いつかなかった。

 

「……アンタが、また悪さするっていうなら話は別ですよ」

 

「今は何もしてないから無実だって? 屁理屈だな」

 

「それは……」

 

「やはりつまらん。まあ、平和ボケした人里の住人らしいか」

 

 随分と棘のある物言いをする。ひょっとして、人間に命を救われたのが気に食わないのか。

 

「治さないでほしかったんですか?」

 

「ふふん、そいつは違うさ。これでも感謝してる」

 

 本音だろうか。これまでの態度を考えると、どうにも素直に受け取りづらい。

 

「ま、自らの目で世界を見ようとするその意思には、共感できないこともないかな」

 

 

 正邪が共感してくれている……気がする

 

 

「あと」

 

「あ?」

 

 もうひとつ、彼女を救けた理由がある。

 

「アンタを気にしてる人がいる。ここでアンタが死んだら、その人が困りそうなんだ」

 

「私を自らの手で罰したいってことか。ま、だろうな。私を憎んでるヤツなんてごまんといる」

 

 たしかに“彼女”は、正邪を恨んでいると言った。

 だが、あの時見せた表情と声には、ひとつの感情では括れないものがあった。

 

「多分、そうじゃない」

 

 だから否定する。もし見当はずれな想像だったら、あとで謝ろうと思いながら。

 

「真剣に話し合いたいって、願ってたと思う」

 

「……誰か知らんが、酔狂なヤツがいたもんだ。『勝手に気にしてろ』とでも言っとけ」

 

 そう吐き捨てる口元からは、笑みが消えていた。

 

「しっかし私の質問にとことんバカ正直に答えやがって……いい子ちゃんだなお前。ムカつくわ」

 

「えぇ……?」

 

「というか私を襲ったアレはなんなんだ。あんなの見たことないぞ」

 

「俺も分かりませんよ。どちらかと言うと俺の方が訊きたいんですけど。なんでアレに捕まってたんですか?」

 

「森で寝てたらいきなり襲われた。私はなんも知らない」

 

 その答えを素直に信じていいのか、カンザトは判断に迷った。襲われていたため、仲間ということはないだろうが……

 

「ったくあのクサレ泥田坊が……好き放題殴りやがって……流石に死ぬかと思ったわ」

 

 胃の中全部出たわ、と悪態をつく正邪を見つめながら、カンザトは鬼人正邪という妖怪を測りかねていた。

 

 案外と、理性的なのだ。

 口は悪いが、まともな会話ができている。粗暴な振る舞いはせず、初対面の際に剥き出しにしていた殺気も、今は鳴りを潜めている。

 

「そうだ、命を拾ったついでに私の願いを叶えてくれないか」

 

「無理です。時間ないんで」

 

「なに、簡単なことだ。あそこに落としてしまった私の手荷物を取ってきてほしい。なにぶん病み上がりなもんで、足が思うように動かなくてね」

 

 正邪は顎をくいとしゃくり、掴んでいた手首をやっと離した。

 カンザトはため息をつき、仕方なしに彼女が指し示した方向へ歩く。

 

「ここらへんですか?」

 

「ああそこそこ。もうちょい奥! そこの木の陰!」

 

 樹皮のざらついた手触りを感じながら、指示通りに根元を凝視した、次の瞬間──

 

「あぁ助かるよ……本当になぁ」

 

 紫炎が立ちのぼり、視界が奪われた。

 

「うわっ!?」

 

 足元にいる何かが、揺らめく紫炎の中でぐにゃぐにゃと踊っている。心を落ち着けつつ目をやれば、手のひらサイズの赤い着物の日本人形が立っていた。

 

「そいつはお前にやるよ!」

 

 異変に気づき、振り向いた時にはもう遅かった。

 

「!?」

 

 鬼人正邪が……いない。

 

「礼はいらないぞ! 代わりにこいつを貰っていくからなぁ!!!」

 

 慌てて戻ったカンザトの目に、走り去ってゆく正邪の背中が映る。

 手には──直前まで自分が背負っていたリュックサックが握られていた。

 

「バーカ! まんまと騙されやがって! これだから人間は騙しやすくて助かるなぁ!」

 

 逃げ足がとんでもなく速い。闇の中へ遠ざかってゆく笑い声を呆然と耳にしながら、カンザトは怒りに拳を握った。

 

「ま、マジか……騙された……」

 

 見事に恩を仇で返された。少しでも印象を改めようとした数秒前の自分を殴りたい。

 

 いや──今回ばかりは、馬鹿正直に正邪の言う通りに従った自分が悪いのだろう。

 

 だが、これで分かった。

 奴は正真正銘、権謀術数に長けた大悪党だ。





●コミュランクup
『悪魔』鬼人正邪:ランク1→2

ペルソナ〜トリニティ・ソウル〜は

  • 全話視聴済
  • 途中まで視聴
  • 未視聴
  • 存在を知らない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。