時は甲龍歴450年代初頭――
短い夏の終わり頃。
ルーデウス家の飼いアルマジロ、ジローが子供を産んだ。
この物語は、ジローと、ルーデウスとロキシーの想い出の物語。
※この作品は、無職転生の二次創作小説です
・二次作品が苦手な方、web原作をすべて読み切っていない方などは閲覧注意です。
・作中の表現、設定などは、私(店`ω´)@てんちょっぷの妄想半分です。
・この物語はツイッターで発表した内容を加筆修正したものになります。
・以上を踏まえて、閲覧して頂ければ幸いです。
2021/0515 ツイッターうp
2021/1118 ブログにて加筆修正版掲載
2024/1225 ハーメルンにて再加筆修正版掲載
作:(店`ω´)@てんちょっぷ
ジローが子供を産んだ。
あぁ、ジローってのはアレだ、アレ。アルマジロ。
違う、そうじゃない。
俺がベガリット大陸に行った時に連れて帰ってきた魔獣だ。
アルマジロに似ていたんで、ジロー。適当だろ?
ジローは、体力が無いであろうゼニスの為に購入した、荷車用の小型魔獣の事だ。
従順で大人しかったんで、なし崩し的に連れてきて、うちで飼うことになったのよね。
使い捨てにするのも勿体なかったし、放置するのも可哀想だしさ。
大きさは大型犬くらい。
案外体力があるので、主にロキシーが大学まで乗っていくのに使っている。
子供たちが小さい頃は、よく馬代わりにして遊んでいたっけ。
レオが悔しそうに睨んでいたのを思い出す。
……聖獣の誇りとは。
まぁ、なんだかんだと長い付き合いの奴だよな。
そんなジローが子供を産んだのだ。
こいつはちょっとしたニュースである。
それにしても……と俺は思った。
子供を産むってことは、こいつ、雌だったのか。
雄と思ってジローなんて付けたけど、悪い事をした。正直すまんかった。
そんでもってジローは今、小屋の中でひっくり返りっている。
いや、気絶してひっくり返ってる訳じゃない。赤ん坊におっぱいを吸わせているのだ。
ジローそっくりの赤ん坊は、一心不乱におっぱいにむしゃぶりついている。
魔獣とはいえ、こうしてみると可愛いもんだ。
「産んだのは卵じゃないし、母乳だったり、おまえ哺乳類だったのか」
俺は小屋を覗き込んでそう言った。
隣にはロキシー。大学に行く前に、一緒にジローの様子を見ていたのだ。
ジローはパッと見、リザード系に見える。
でも腹毛はモフモフで柔らかいし手触りも最高だし、香ばしいお日様の匂いもする。
なんというか、生物の不思議って奴だ。
「砂漠の気候に対応する為に背中側の毛皮が進化して、うろこ状になったんでしょうね」
「なるほど。というか、相方もいないのに子供なんて産めたんですね」
何気ない俺の返答に、ロキシーが一瞬押し黙った。
少し間をおいて、ジローの顔を優しく撫でながら説明を続けた。
「この種族は厳しい環境で進化したせいか、番を作らずとも単為生殖も可能なんです」
「へぇ、変わった生態なんですね」
でも、相方がいないんじゃ寂しいですよね――俺がそう呟いたその時だった。
「……そしてその場合、寿命が近くなった事を意味します」
とても寂しそうに、彼女はジローの出産をそう説明した。
ーーーーーーーー
産まれた子供はサブローと名付けた。
すっかり乳離れもして今は普通の餌を食べるまで成長した。
ちょこちょこと庭を歩いては転がり、丸くなっている。めんこい奴め。
成長が早いのか、もう母親のジローの半分くらいまで大きくなっている。
これなら来年くらいにはロキシーを乗っけて歩けるかもしれないな。
俺がそう言うと、ロキシーも楽しみだと笑ってくれた。
そんなある日のことである。
ジローが突然、のこのこと家に入ってきた。
そして、俺や他の家族一人一人の顔をじっと見つめて、それから出て行った。
今までこんな事は無かったのに。
みんなで首を傾げたが、そんな疑問はすぐに日常に消えていった。
この行動の意味は、ジローが姿を見せなくなった事に気が付く三日後に知ることになる。
ーーーーーーーー
「ジローがいません」
ロキシーが青い顔で俺にそう言った。
その日の朝、彼女は出勤する為に、いつものように犬小屋を覗いた。
サブローはいた。しかしジローの姿はどこにもなかったという。
昨日まで学校は休みだったので、ジローがいついなくなったか誰も気が付かなかったのだ。
庭をくまなく探し、家の中も探した。愛の巣も見たし、トイレの中まで見た。
どこにもいない。どこを探してもいなかった。
果ては傭兵団を使って街の中も探してもらった。
こんな時に頼りになる番犬は、ご主人様と一緒に絶賛家出中なので、頼りようも無かった。
犬小屋の前で落ち着かない俺に、恐らくですが、とロキシーが言う。
「……あれは、きっとジローなりのお別れの挨拶だったのでしょう。
どこか遠くで穴を深く掘って、その中で寿命を迎えるのだと思います」
なんだよそれ。飼いアルマジロの癖に水臭い奴だ。
ロキシーがいつしか、声も無く泣き出した。
何も言えない俺は、彼女を力無く抱き寄せるしか出来ない。
彼女の大粒の涙が俺のローブに染み込んでいく。
同時に、曇り空からあわあわと、白い雪の華が舞い降りてきた。
そういえば、あいつを連れてきた日も、雪が降っていたっけ。
空を見上げる俺の視界がぐにゃりと歪む。
なんだよ。まるで”泣かないで”とジローが言ってるみたいじゃないか。
雪だ、との俺の呟きに空を見上げるロキシー。
「……これで、本当のお別れですね、ジロー」
彼女も、俺と同じ事を思い出したのだろう。
涙を流しながらはにかむように微笑むロキシー。
雪は、彼女の嗚咽を隠すように優しく降り続いた。
ーーーーーーーー
ジローが居なくなって暫くが経つ。
今では大きく育ったサブローが、ロキシーを乗せて大学まで運んでくれている。
最初は寂しそうだった彼女も、今では遠慮なくサブローに乗っている。
少し先の未来、サブローの子も同じように乗せてくれるのだろう。
ちょっと寂しいが楽しみでもある。
そして今日も、シャリーアの街に雪が降る。
あわあわと降りゆく雪の華。
ジローとの思い出の華。
雪が降る度に、俺はふと思う。
ジローはのこのこと、どこまで一匹で歩いて行ったのだろうか、と――。
~ 完 ~
※この物語は、ツイッターでうpした話を再構成加筆しました。
※家族の顔をじっと見て、どこかに消えるというのは、実家で大昔飼っていた犬がそういう行動をしたそうです。近所のボス犬だった我が家の犬は、いつも店(当時実家は酒屋でした)の前で番をして、絶対に店内に入って来なかったのに、ある日突然ふらりと入ってきて、両親や祖母や伯母らの顔をじ~っと見てふらりと出て行って、それっきりどこを探しても見つからなかったそうです。頭が良く、誇り高いボス犬だったので、家族に自分の最後を見せたくなかったのでしょう。その逸話を思い出して、大好きなキャラクターのジローに当てはめてみました。
如何だったでしょうか。
この作品を読んで、何か感じて頂けると嬉しいです。
閲覧ありがとうございました。(店`ω´)@てんちょっぷ