邪な望みを持つ者達がそれを使い、いたずらに世界の全てを理解しようとした際、世界は滅亡手前になり、余裕のある者達は仮想現実世界へ、そうでない者達は地上に残らざるを得なくなった。
そして、現在。
仮想現実世界に移ってから何代目かの家で、妹と暮らしているカシワはその碑文の研究者であるルルスと共に仕事をしていたが、ある事に反発した事がきっかけとなり、地上に落とされる事になる。
「──それでも、やれる事は…!」
※こちらは読み切りです。連載版とは多少変動がある事をご了承下さい。
ある発掘者が、ヘレニズムに関連すると言われていた物を発見した。
名をエメラルド
ギリシャ神話に登場する伝令神、ヘルメスが持っていたとされるアイテムであった。
人々はそれに注目し、記されている事を解明しようとした。
……世界の全てを理解しようとした。
それが間違いだった。
好奇心は猫をも殺すというが、そんなレベルではない。
邪な考えを持つ者、歪な欲望を持つ者、肥大した虚栄を持つ者──そういった者達が
それが出来る精一杯だったからだ。
だが、その余裕もない人々はそれに乗る時間も、コネクションも無く、動植物が減り、資源も屑芥となり、暮らせる土地の減った地上に取り残され、身を寄せ合う事になった。
結果、かつて以上に人々の分断は進んでいった。
いつしか、地上にはある時
地上の人々はそれを恐れた。
VR世界の人々はそれを暫しの
──そして現在
─
その中にある一軒家で暮らす兄妹も、かつて
青い髪を肩近くで結んだ赤い目に洋装の青年、空色のロングヘアに赤色のリボンカチューシャをつけた薄赤の目の少女。
「お
「父さん達も行方不明になって随分経ってるから、僕が頑張らないと。…テュアナも、気をつけてね?」
「言われなくても分かってるよ、お兄!」
青い髪を肩近くで結んだ赤い目に洋装の青年の左胸元には「カシワ」というネームタグが見え、彼に名前を呼ばれた空色のロングヘアに赤色のリボンカチューシャをつけた薄赤の目の少女──テュアナはカシワの言葉に大きく頷く。
幾ら
「…今日も、ルルスさんのところ?」
「僕の面倒見てくれてるのはあの人だし。テュアナもお世話になってるでしょ?」
「それは…そう、なんだけど」
少し言い淀むテュアナの頭をカシワは撫でつつ、優しく笑う。
ルルス。
両親と生き別れになり、2人ぼっちになった
最も、まだ精神的に幼い彼女からすれば警戒してしまうのかもしれないが。
「…ん、テュアナ。仕事行く前に
「!うん!」
彼女の返答を聞いて、カシワは行く前の
互いに抱きしめあってから、先にカシワがテュアナの額にキスをし、その後テュアナがカシワの額に同じようにキスをする。
そして、カシワはそっとテュアナから離れる。
「じゃ、行ってくる」
「気をつけてね、お兄!」
手を振って見送る
*
─地上
白い髪を結んだ紫色の目にラフな服と上着を着た女性をした女性がそれを追いかける。
女性の耳にはインカムのような物がついており、そこから会話をしつつ、指示を受けているようだった。
「ダヴィンチ、この暴走野郎はなんのパトスだ?!」
『今回の
「このご時世でガラクタになってねえ方が珍しいだろ!…くそっ、流石に走って追いつけるほど、柔な性能してねえか」
白い髪を結んだ紫色の目にラフな服と上着を着た女性──クリスはインカムの向こうの話し相手であるダヴィンチと話しつつ、
「走って追いつかねえなら、
クリスはそう言うと、2つのアイテムを装填出来るスロットのような物が見える真鍮色のドライバーを取り出し、懐から赤色の火の玉のような形状をしたガラス材質のアイテムと濃青色の火の玉のような形状をしたガラス材質のアイテムを取り出す。
そして、走りながら真鍮色のドライバーを腰に装着し自動的に帯が装着。
《トランスドライバー》
トランスドライバーに赤色の火の玉のような形状をしたガラス材質のアイテムと濃青色の火の玉のような形状をしたガラス材質のアイテムをセット。
《
そして、その言葉を告げた。
「変身」
《
炎がクリスの体を一瞬包みこみ、それが消えると赤いアンダースーツを装着。
水流が両腕・両腕にリボンのように絡まり、弾けると濃青色の装甲が形成・装着。
脚の装甲が一瞬展開され、「RS-r03 Code:Hypatia」の表示が見えると閉じられる。
胴体にも同色の装甲を形成し、心臓部分に炉心のようなものが現れる。
その上にキトンのような濃青のマントが重なると、右肩部分に1枚の羽がレリーフされた銀色のボタンが付き、固定。
鷲を模した仮面が顔部分に展開されると、少し鋭さを帯びた横長の複眼が紫色に光る。
耳元に保護部分を兼ねた通信機器が展開。
『System All Green』
『Normal Mode Operation』
それが閉じられると共に空間がフェードアウトするように消えていき、着地。
最後に胸元近くにある炉心の中の炎が赤く燃え盛る。
《
クリス──否、ヒュパティアは足底にエネルギーを転化し
追跡しながら速度を上げつつ、片腕にウォーターカッターを生成。
「らぁっ!!」
しかしパトスはそれを回避し、乾いた地面が水で濡れる。
その一瞬を突き、ヒュパティアは炎を纏った拳で殴りかかる。
それをパトスは食らいかけるが、体勢を立て直して逃走した。
ヒュパティアは変身解除し、元の姿に戻る。
「……決定打にはならなかったか」
『アイシードライは機動力が低いから。攻撃力と防御力はバランスいいんだけどね。…この後はどうする?』
「とりあえず1回戻る。マイエルとコクトーは?」
『まだかかるって』
「了解。…気をつけてな」
クリスは軽く溜め息を吐き、来た道を戻る事にした。
*
─VR世界 ある研究所
「すいません、遅れました!」
「いいんだよ。そんな焦らずに」
「は、はい」
急ぎ足で研究所に入ってきたカシワを、明るい茶髪に紫色の目をした男性──ルルスが迎えた。
ルルスの片耳にはダイヤ型の青い耳飾りが揺れている。
カシワは軽く会釈してから中に入る。
「今日も、いつも通りですか?」
「あぁ、よろしく頼むよ」
「分かりました」
カシワが彼の下で行っている内容は彼が管理下に置いているエメラルドタブレットを研究する事、管理状況を定期的に確認する事、そしてエメラルドタブレットを安全に使用した応用技術を見つけ出す事。
この3つが主な物である。
ふと、カシワは今まで表に出ていなかったと思われる物に目を向けていた。
「ルルスさん。なんですか、これ?」
「流石に気づくか」
カシワが目を向けていたのは2つのアイテムを装填出来るスロットのような物が見える真鍮色のドライバー。
それも複数機。
「まあ、これは
「往復……」
「…君は
「えっ?」
ルルスの問いにカシワは少し考える。
数分の間を置いてから、彼は答えた。
「強いて言うなら、
「…そう、なるほどね」
カシワは小さく頷き、再び仕事に戻ろうとする。
が、そんな彼にルルスは続けた。
「帰る前に時間を設けて、私について来てくれるかな?」
「?…分かり、ました」
「あぁ。それじゃ、私は少し席を外すから」
「は、はい」
研究所の扉を開けて何処かへと向かうルルスを、カシワは見送った。
*
─地上 拠点
「戻ったぞ」
「クリス、おかえり〜」
赤いサイドテールに青い目の女性、薄金の髪に青い目の男性、白銀の髪を結んだ薄緑の三白眼をした男性、橙の髪を上で結んだ紫色の目をした男性、薄桃の髪を結んだエメラルドグリーンの目をした女性がクリスを迎える。
クリスは赤いサイドテールに青い目の女性──ダヴィンチに慣れた様子で聞く。
「ダヴィンチ、パトスの追跡は?」
「変わらずやってる。でも、もう遠くに行ってると思う」
そのまま、クリスは薄金の髪に青い目の男性──ローゼンクロイツに続けて保護している者達の現状を聞く。
「了解。ローゼン、一般所属者達の様子は?」
「変わりないよ〜。前世界での遊びがちょっと流行ってるくらいかな」
更にクリスは橙の髪を上で結んだ紫色の目をした男性──ユゴーに
「分かった。ユゴー、イリュージョンソウルの解析の類は?」
「まちまちだけど、粗方の分類は済んでる」
最後にクリスは薄桃の髪を結んだエメラルドグリーンの目をした女性──アシュモールに進捗を聞く。
「了解。…アシュモール、ドライバーに関して何か分かった事は?」
「あのドライバー…まだちゃんと使える機能ではないけど、
アシュモールの言葉にその場にいた全員が驚いたように反応する。
無理もない。
クリスとローゼンクロイツがリーダーと副リーダーを務める
それを聞いた白銀の髪を結んだ薄緑の三白眼をした男性──フラメルは食い気味にアシュモールとクリスを見る。
「っ、だったら!」
「フラー、いきなり出っ張ってくるな。落ち着け」
「
「フラメル、昂ってるとこ悪いけど…多分一朝一夜で解放出来るような機能じゃないと思う」
フラメルの言葉をアシュモールが咎め、フラメルはばつの悪そうな顔をした後、奥へと戻ってしまう。
「…フラーは相変わらずか」
「ここのメンバーや一般所属者は
ダヴィンチの言葉にクリスとローゼンクロイツは溜め息を漏らすが、アシュモールの方に再び目線を移す。
「それで?詳しく聞いてもいいか?」
「見た感じ、ドライバー自体のレベリングみたいなのが必要なんだと思う。具体的な方法は分かんないけど」
「…分かった。コクトー、マイエル、フラッドは?」
「夜までに帰ってくると連絡が来てる。無廻のところに寄るかもって一応言われたよ」
「了解。…んじゃ、一般所属者達の様子見に行くとするか」
*
カシワが仕事を終えて、少しした頃。
ルルスは彼に声をかけ、ある場所へと案内した。
そこにあったのは。
「モニター…?」
「あぁ、まだ起動していなかったからね」
ルルスがおもむろに画面を操作すると、モニターに映像が現れる。
そのままルルスは近くにある幾つかのセラーを見ながら、酒を吟味していた。
「お酒は飲めるかい?」
「一応は。妹はまだ前世界での成人年齢にはなってないので、飲めないですけど」
「そうか、分かった」
ルルスがセラーから取り出したのは年代物のシャンパン。
それの封を開け、ワイングラスに少し注いでいく。
細長いフルート型のグラスにワインが注がれ、グラスの中でゆっくりと下から泡が立ち上る。
そして、片方のグラスをそっとカシワの近くへ。
「あ、ありがとうございます」
「では観るか」
「あの、この映像って一体…?」
「
「?」
モニターに映し出されたのは少し前に発生したバイクのような怪物と、それを倒そうとする鷲のような仮面を着け赤と濃青の装甲を纏った女性のようにも見える戦士の戦闘だった。
「…っ?!?」
「君も此方に長くいたいと考えているのなら、
口にしたシャンパンのせいなのか、別の要因か。
喉が焼けるような感覚と共に、頭がクラクラする。
倒れかけた彼を、近くのテーブルにグラスを置いたルルスが咄嗟に抱き止める。
「ぅ、あ…」
「まだ成人してから日の経っていない君には、2つの意味で刺激が強かったかな?」
ルルスの声がどこか遠くに聞こえ、同時に彼が自分の顔の輪郭を指でなぞっているのだけは分かった。
そのままルルスはカシワを更に自分の元に抱き寄せる。
「──……──」
何か言っているのは分かったが、完全には聞き取れない。
力が抜けて意識が遠のくギリギリのラインで、辛うじて意識を保っているが、時間の問題だった。
ルルスの拘束が外れ、椅子に座らされると共に少し意識が戻りつつある事に気づく。
「やはり──…的な……──が……るか?」
「っ、っ…!」
「それとも…──
完全に意識が戻ったカシワは咄嗟に立ち上がる。
が。
「っ!?」
大きな音と共に背後にあったエメラルドタブレットの
それには僅かにヒビが入り、ぶつかった箇所には多少の傷と衝撃によって壊れた痕が見えた。
「ぃ、っ…」
「…全く、君らしくもない」
「あっ…。す、すいません!
「酔いもあっただろうし、無理もないさ。処遇は追って話すから、今日のところは帰りなさい」
「…分かり、ました」
カシワは自分の近くの僅かに量が減っているワイングラスに少し目を移し、その後ルルスの見ているモニターを見てから、ルルスに向けて強い眼差しで言った。
「でも、少なくとも俺は
一礼して荷物を持ってから出て行ったカシワをルルスは暫し無言で見つめていたが、モニターを消して再びワイングラスに口をつけながら呟いた。
「彼があんな目で反抗してくるのは
その口元には歪な笑みが浮かんでいる。
「まあ、いい。あのゲーム的にも、
「──
*
─中位層区画 カシワとテュアナの家
家に着いたカシワは多少疲れた様子でテュアナに迎えられた。
「…ただいま、テュアナ」
「おかえり、お兄!…元気、ない?」
「あはは…。その、仕事終わりにルルスさんに誘われて寄り道してたんだけどね。…変な感じがしたから、急いで帰ってきた」
「そっか…。…ん、お兄!ちょっとお酒の匂いする!!」
「えっ?!ごめん、お水飲むから…」
「それならいいけど」
家に入り、軽く水を何杯か飲む。
深呼吸してから席に座って軽く考える。
今日のルルスはどこか様子がおかしいように思えた。
今はそれを頭の片隅に置いておくとして、先に考えるべきは。
「…新しい仕事先、見つけないとなぁ」
「お兄、今日そんなに大変だったの?」
「いや、複製品とはいえエメラルドタブレットに傷つけちゃったから。…最悪解雇される可能性も考えとかないかなって」
「お兄に何があっても、私はお兄のそばにいるよ」
「ありがとう、テュアナ」
優しく自分の手を握るテュアナの頭をカシワは撫でる。
「でも、あの人が実力行使に出ないとも限らないし…念の為に軽い武装くらいは携帯しておこうかな」
「えぇ…っ?!?」
「だって、あの人
「それはそう…かも?」
「お世話になってる人だから、あんまり考えたくない可能性ではあるけど…」
「うーん…」
「ともかく、万一の為に用意はしとかないと」
カシワは立ち上がってテュアナからそっと離れると家の奥にある部屋に向かう。
その部屋にあるのは両親が使っていたらしい、
こちらにいる人間は大半が意識だけを仮想世界に存在する肉体のデータに入れたアバターのようなものである為、
その為、その肉体データに
といっても、大抵出回っている物はバックアップでなんとかなるほどのダメージしか与えない代物であり、
カシワは部屋の中を軽く調べつつ、良さげな武器を探す。
「…うん、これくらいでいいかな」
カシワが選んだのは2丁拳銃のような形状の物と、刀身のない剣の持ち柄。
剣は任意の使用者認証によって特殊な刀身が現れるタイプであり、テュアナと共に共有している物。
2丁拳銃は自身の感情エネルギーを一部変換し、弾丸として撃てる物。
最も2丁拳銃の方が使用エネルギーは多い為、こちらはなるべく使用は避けたい節もある。
「お兄〜ご飯出来たよ〜」
「分かった。今行く」
キッチンの方から聞こえてきたテュアナの声に返事を返しつつ、部屋の中にある適当な大きさのバッグも手に取り、その中に剣と2丁拳銃を入れる。
「…よし」
いつルルスから仕掛けられるかは分からない。
それでも用心しておくべきだろうと頭の片隅で考え、ダイニングルームへと向かった。
*
──数日後
いつものようにカシワはルルスのいる研究所へと向かっていた。
といっても2丁拳銃と剣を入れたバッグは持ってきているのもあり、万一の保険はあるのだが。
着いたものの、他の研究員の気配はしない。
「…失礼しまーす……」
鍵は開いていた為、恐る恐る扉を開ける。
珍しく研究所は暗い。
「…っ」
バッグの中から2丁拳銃を取り出し、左右の腰元近くのホルスターにそれぞれ入れ、利き手側の銃に手をかけたまま、慎重に進む。
そして、以前ルルスの言っていたシステムの区画にまで来た後、一瞬僅かにカシワの頰を何かが掠めた。
「っ!!…幾らなんでもじゃないかなあ?!?」
掠めた部分が電子的なエフェクトと共に
が、背後に気配がある事に気づき、バッグから剣を取り出して応戦。
銃を再びホルスターに戻したと共に持ち柄から紺色のエネルギーオーラの刀身が現れ、背後を取ろうとしていた傭兵紛いを斬り、そこから蹴りを食らわせて壁にぶつける。
次に来た同じような存在と鍔迫り合いになるも、隙をついて刺突し、床に転げさせる。
剣をしまうが、別の存在がカシワにパンチを食らわせ、システムの複製機があるケースの幾つかのガラスが余波で壊れ、カシワは倒れてしまう。
肩から落ちたバッグはギリギリ取れる距離に届かない位置にあった。
「ただの、雇われってわけじゃ…なさそうだ…っ…!」
ふと偶々近くに落ちた、複製機の1つである2つのアイテムを装填出来るスロットのような物が見える真鍮色のドライバーが目につく。
「…テュアナの元には…帰れるか、分かんない…けど…」
一か八か。
この状況を打開できるのなら、なりふり構ってはいられない。
なら。
「君に
なんとか
《KASHIWA:
それと同時にドライバーから音声が鳴り、倒れているカシワを起点として紺色の
魔法陣が光った瞬間、カシワはどこかに引っ張られるような感覚と共に意識が薄れるような気がした。
転送される前、彼が僅かに呟いたのは
「テュアナ、帰れなくてごめん──」
*
魔法陣から転送されたカシワが
「いたっ?!……
あちらにいた時は考えもせず、知りもしなかった違和感に理解よりも困惑が勝る。
それと同時に。
「…なんか、体重い…かも…」
そのまま意識を失ったカシワに声をかける誰かがいたが、彼はそれに気づかなかった。
そして、一緒に持ってきてしまったドライバーがその近くに転がっている事にも。
*
─クロスローズ拠点
「…ん、んぅ…?」
目を覚ますと薄手の毛布がかけられている事に気づく。
確かドライバーを手に取ったと同時に魔法陣が現れ、その前後で地上に来てしまったのは分かっている。
なら、
そんな事を考えていると近くで自分の様子を見ていたらしい、薄紫の髪に水色の目をした男性がいた。
「…!」
「お、起きたか。…リーダー呼んでくるから、ちょっと待ってろ」
「は、はい」
男性が部屋を出てから少しすると、男性と共に白い髪を結んだ紫色の目にラフな服と上着を着た女性が現れる。
「…自己紹介が先か。あたしはクリス、クロスローズのリーダーやってる」
「フラッドだ、よろしく」
「あ、えと──」
薄紫の髪に水色の目をした男性──フラッドと白い髪を結んだ紫色の目にラフな服と上着を着た女性──クリスに自己紹介をしようとして少し口を噤む。
素直に事を伝えると却って面倒ごとを呼ぶ可能性がある。
「…
「よろしく。…ところで、これはお前のか?」
そう言ってクリスが取り出したのは例の複製機の1つであるドライバー。
「あっ…!」
「やっぱりそうか。他のメンバーが使おうとしたんだが、既に認証がされてたみたいでな」
「俺が君を拾った時に近くに落ちてたから、君のかと思ってローゼとクリスに話通しておいたんだ」
「すいません…」
「もう暗いし、細かい話は明日する。…フラッドは拠点近くの見回り頼む」
「その子の事は頼みましたよ〜」
言いつつ外へ出るフラッドを2人で見送った後、クリスはカシワの近くに座るとドライバーを渡してから、少し彼の肩を寄せて耳元で囁く。
「お前、さっきの名前は偽名だろ?」
「いや、なんで分かって…!?」
「もう少し声抑えろ、もう寝てる連中もいるから。…まあ、割と分かりやすく目が泳いでたしな」
「そ、それでどうするんです?変な事しませんよね?」
「それは明日、他の主だったメンバーと話し合ってからだ。…あと、こいつも」
「…へ?」
クリスからカシワに渡されたのは薄水色の火の玉のような形状をしたガラス材質のアイテムと、虹色のように見える透明な火の玉のような形状をしたガラス材質のアイテム。
「あの、これって…?」
「お前が倒れてたとこの近くにあったらしい。……多分お前から勝手に作られたんだろ」
「作られた…?」
「…あたしも、同じようなの使ってるからよ」
「!」
カシワの脳内で、クリスに関してある可能性が過ぎる。
が、それを口にするのは今は避けておく事にした。
「ま、今はゆっくり休むんだな」
「そうします。…俺の本当の名前、教えた方がいいですか?」
「無駄に礼儀が出来てる奴だ。そこは自分で決めろ」
「…はい」
「んじゃ、また明日」
クリスがいなくなった後、横になったカシワだったがテュアナの事が気掛かりであまり寝つけなかった。
*
─翌日
起きて早々にクリスに呼び出されたカシワはフラッドに拠点内の最奥へと案内された。
そこにいたのは赤いサイドテールに青い目の女性、薄金の髪に青い目の男性、白銀の髪を結んだ薄緑の三白眼をした男性、橙の髪を上で結んだ紫色の目をした男性、薄桃の髪を結んだエメラルドグリーンの目をした女性、茶髪のショートヘアに片目が隠れた桃色の目をした女性、緑色の髪に黒い目の男性、そしてクリス。
カシワが席に着くと最初にクリスが口を開く。
「朝早くから悪いな」
「いえ…俺の事、ですよね」
「そうだ。…フラッドに名乗った名前は偽名らしいとクリスから聞いたが?」
「ローゼン、初手から詰めるなよ」
薄金の髪に青い目の男性──ローゼンクロイツの最初の問いにフラッドがなんとも言えない顔をしながらツッコむ。
「まあ、はい。本名はカシワ、です」
「なるほど。……何かしらの事情があって此方に来たのか?」
「確かにあんまり見ない服装ではあるけどさ。…もしかして富裕層?」
「ダヴィンチ、あまり推測で物を測るな」
ローゼンクロイツの言葉に目を逸らす、赤いサイドテールに青い目の女性──ダヴィンチ。
「でも仮にそうなら…」
「……っ!!」
「わっ?!」
「フラー、その手は下ろせ。事情は察するが」
ダヴィンチが何か言おうとしたが、先に白銀の髪を結んだ薄緑の三白眼をした男性──フラメルがローゼンクロイツの言葉を聞いてカシワに上げかけた手を止める。
「…くそっ」
「でも君、ドライバーの認証されてるんでしょ?なら、戦力としての保護はありじゃない?」
「同じく。困っている相手がいるなら、なるべく助けるのが
「マイエル、アシュモール…。そうは言ってもなあ、元が富裕層の出の可能性がある以上こっちを調べる為にこっちに来たケースもあり得るんだぞ?」
薄桃の髪を結んだエメラルドグリーンの目をした女性──アシュモールと茶髪のショートヘアに片目が隠れた桃色の目をした女性──マイエルの言葉に万一の可能性を出すフラッド。
そんな中、カシワの腹が鳴る。
「…あっ」
「まあ、朝早く起きてご飯も食べてないんじゃ無理もないか。…はい」
「すいません、大事な時なのに。…えと」
「コクトーだよ、よろしく」
「コクトーさん…」
緑色の髪に黒い目の男性──コクトーがカシワに軽食を渡し、カシワはそれを受け取って食べる。
「……相当お腹空いてたみたいだね。まあ、昨日の夜から何も食べてないなら無理ないか」
「おい
「
「イリュージョンソウル?」
「あたしがお前に昨日渡した火の玉みたいな形したアイテム。あたし達はそう呼んでる」
クリスと橙の髪を上で結んだ紫色の目をした男性──ユゴーの会話に疑問を出しつつ、軽食を食べるカシワ。
「彼女から聞いてると思うけど、クリスもドライバー認証者だからイリュージョンソウルが使えるんだ。で、最初に出てきた物は本人を由来とする物らしいから」
「妙…って?」
「両方とも空気属性系。しかも色が無色寄り」
「…これ?」
「そうそう、それ」
食べる手を止めたカシワが取り出した薄水色の火の玉のような形状をしたガラス材質のアイテムと、虹色のように見える透明な火の玉のような形状をしたガラス材質のアイテムを見て、ユゴーは肯定の反応を示す。
「……ともかく、フラー達の意見もある程度分かった。彼の処遇に関しては私とクリスで最終決定する」
「つっても
「そう、ですか」
ローゼンクロイツとクリスの言葉に少し俯くカシワ。
それを見たフラメルが納得のいかない顔をする。
「…んだよ」
「向こうに妹を、その…結果的にとはいえ置いてきてしまって」
「心配なんですね」
「…はい」
ローゼンクロイツの言葉に小さく頷くカシワ。
テュアナは両親と生き別れてから、雛鳥のように自分から離れようとしなかった。
だからこそ、心配なのだ。
突然、ダヴィンチの持つ端末が大きな音を発する。
「な、なんですか?!」
「…パトスが近くまで来てるみたいだな。前取り逃がした奴だろうし、行ってくる」
「ちょ、クリスさん…!?」
部屋から外へと駆け出していったクリスを見て、立ち上がるカシワ。
それを見たローゼンクロイツはカシワの考えを察したのか、笑顔で言った。
「気になるなら、後を追うといい」
「…いい、んですか?」
「確かに私達にとって、今の君に対する心証は安定しきっていない。だからこそだ」
「っ、行ってきます!」
後を追ったカシワを見送るローゼンクロイツにフラメルが口を挟む。
その目は不満げのように見える。
「……おい、ローゼン」
「なんだい、フラー」
「後でクリスに詰められても知らねえからな」
「流石に彼女もそこまで頑固じゃないと思うけどね」
*
─クロスローズ拠点から少し離れたある地点
「ちっ、相変わらずちょこまかしやがって」
ヒュパティアは以前取り逃がしたバイクパトスを相手取っていた。
最も飛行能力と高速移動の事もあり、未だに先手は取れていない。
ここはいっそ、使い慣れていないが
そう考えつつ、パトスを水の鎖で拘束する。
「──クリスさん!!」
「っ!…お前、来たのか…?!?」
声の主は遅れてクリスを追ってきたカシワだった。
利き手には2つのアイテムを装填出来るスロットのような物が見える真鍮色のドライバーが。
「俺も手伝います!」
「無茶言うな、お前こっちに来てまだ慣れてねえだろ!」
「それでも、やれる事は…!」
カシワはそう言い、ドライバーを装着。
同時に腰に同色の帯が装着される。
《トランスドライバー》
そのままつのアイテムを装填出来るスロットのような物が見える真鍮色のドライバー──トランスドライバーに薄水色の火の玉のような形状をしたガラス材質のアイテムと、虹色のように見える透明な火の玉のような形状をしたガラス材質のアイテムをセット。
《
そして躊躇いなく、その言葉を言った。
「変身!」
《
同時に宮殿のようなVR空間が展開。
薄水色のノイズが一瞬カシワを包み、それが晴れると薄水色のアンダースーツを装着。
空間内に白い羽が舞い、それが両腕に落ちると固形化し、僅かにヒビが入って虹のように煌めく光沢のある白い装甲を形成し、装着。
両脚にも同じように羽が集まると固形化し、僅かにヒビが入って虹のように煌めく光沢のある白い装甲を形成し、装着。
胴体にも虹のように煌めく光沢のある白い装甲を形成し、心臓部分に炉心のようなものが現れる。
その上にヒマティオンのような濃紫のマントが重なると、両肩・右腰部分に1枚の羽がレリーフされた金色のボタンが付き、固定。
背中部分に鶏の羽のような装甲が展開され、一瞬「RS-xx00 Code:Hermes」の表示が見えると閉じられ、収納。
雄鶏を模した仮面が顔部分に展開されると、鶏冠のような赤いアンテナが仮面上部に形成。
少し丸みを帯びているものの、尖った複眼が青く光る。
耳元に保護部分を兼ねた通信機器が展開。
『System All Green』
『Normal Mode Operation』
それが閉じられると共に空間がフェードアウトするように消えていき、着地。
最後に胸元近くにある炉心の中の炎が青く燃え盛る。
《
*
「ヘルメス…?」
カシワが変身した存在──ヘルメスは驚愕しているヒュパティアを横目にパトスに攻撃を仕掛ける。
風を纏った打撃がパトスに直撃し、パトスは大きく横転する。
「クリスさん、大丈夫ですか?!」
「あぁ、言われるまでもねえ。…後は彼奴をどうするか」
「…アレ、飛べるんですよね?」
「らしいな」
「なら、上から俺が捕捉します!クリスさんは地上で攻撃を」
「…考えがなくはないみたいだな。分かった、ノってやる」
ヘルメスは小さく頷き、羽のような装甲を展開して上空へ。
パトスもヘルメスに狙いを定めたのか、翼をはためかせて突撃する。
が、それをヘルメスは空中サーカスのように回避し、そこから真空刃を複数生成。
それをパトスの翼に向けて連続で食らわせ、幾つか当たったのか、パトスは悶えながら落下する。
「…っ!」
「空気、つか風を操作してやがる…?!…言ってる場合じゃねえか」
落下してきたパトスに向けてヒュパティアが火による蹴り、水を纏ったパンチを食らわせ、パトスの翼が完全に切り離される。
が、パトスはまだ諦めていなかったようで車輪を勢いよく回しながら人型に近い状態に変化。
「変わったぁ!?」
「安心しろ、これになったって事はそろそろ倒せる」
パトスは車輪を使い攻撃してくるが、2人とも別方向に避ける。
炎の球を小さな竜巻が包み、それがパトスに向かっていく。
竜巻によって大きくなった炎の球がパトスに直撃し、車輪に引火する。
パトスは動揺したらしく、走り回って火を止めようと必死になっている。
「走り回ってる間に決めるか」
「は、はい!」
2人ともドライバーを操作する。
ヘルメスには薄虹色のオーラが、ヒュパティアには赤と濃青のグラデーションのオーラが発生。
そして2人に向かってきたパトスに向け、薄虹のオーラを纏った右回し蹴りと赤と濃青のグラデーションのオーラを纏った片足蹴りが突き刺さる。
《AETHERHEAVEN:
《ICYDRY:
僅かな間の後、パトスは爆発した。
《バイク!》
《ペガサス!》
バイクのイリュージョンソウルはクリスの元へ、ペガサスのイリュージョンソウルはカシワの元へ。
「戻るか。…蓬」
「…はい?」
「……まだ本名呼び慣れてねえんだよ」
「そういう事にしときます」
「…そうだ」
「なんです?」
「お前と会わせておきたい奴がいる。ついてこい」
「わ、分かりました」
クリスがインカムで何か連絡しているのを確認した後、クリスはカシワをどこかへと案内する。
*
─ある小さな研究所
「来たぞ、
「クリス、いらっしゃ〜い。…そっちは誰?友達?」
「阿呆。昨日メンバーが拾ってきたんだよ」
「え、えーっと…?」
クリスがカシワを連れてきた場所にいたのは、左半分が青、右半分が白く、後ろ髪の一部に緑色のインナーカラーの入った髪を1つ編み込みにした紫と赤のオッドアイの男性。
「そっか〜。…あ、オレは
左半分が青、右半分が白く、後ろ髪の一部に緑色のインナーカラーの入った髪を1つ編み込みにした紫と赤のオッドアイの男性──蛇道無廻とクリスを交互に見つつ、カシワは考えついた疑問を口に出す。
「たった1人で?」
「逆だ。
「な、なるほど…。…カシワです。よろしくお願いします、無廻さん」
「……別に敬語じゃなくてもいいと思うが。これから蓬が世話になる事も多いだろうし」
「じゃ、じゃあ…そうする」
「そうしとけ。無廻、コイツの分の地図頼む」
「はーい。ちょっと待っててね〜」
無廻は散らかった机の周囲から暫く探しているようだが、クリスはそんな無廻を見つつ小さく溢した。
「あたしの使ってるドライバーは彼奴から渡されたんだよ」
「えっ?!」
「…随分昔、
「っ…」
「……正直、父さんの事は…親父の事は今でも許してねえよ」
「…そっ、か」
「あれ?取り込み中?…はい、蓬君の分の地図」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、あたしは先に戻ってる。何か気になる事あったら其奴に聞け」
「分かった」
先に拠点へと戻ったクリスを見送りつつ、ふとポケットに薄らと重さを感じる事に気づく。
「?」
ポケットに入っていたのは本当に小さなエメラルドグリーンの欠片。
「こんなの、いつの間に…?」
少し考えたものの、拠点に戻るのが先と思い、無廻に礼をしてから、クリスの後を遅れて追った。
*
──VR世界 カシワとテュアナの家
「…お兄、遅いなあ」
テュアナは家の掃除をしながら、小さく呟く。
『お兄に何があっても、私はお兄のそばにいるよ』
『ありがとう、テュアナ』
「……約束、したんだもん」
そう言う彼女の目は不安で揺れていた。
*
──VR世界 ある観戦場所
複数のモニターに映し出されている、
それを見ながら、ワインを飲む者が1人。
「…やはり、面白い事になりそうだな」
カシワの上司だったルルスその人だった。
「あら、1人で飲んでるなんて珍しいわね」
「ジェシーか」
薄茶の三つ編みに青緑の目をした女性──ジェシー・エドワードがくすくすと笑いながらルルスに近づく。
「それで、やろうと思ってた事は出来たの?」
「あぁ。…彼の妹には少々悪い事をしたがね」
「…そういえば、フランソワとロバート、ラルフは?」
「あの子達なら別の階で観てるだろう。清や和寿、薫は来ていなかった覚えがあるが」
「理恵なら、今日も来てたわ。…ねえ、ルルス」
「なんだ?」
「今日地上に
「あぁ、安心してくれていい」
ジェシーの言葉にルルスは再びワインを飲みながら嗤った。
「彼は
「──なにせ私が妹共々、文字通り
DATA.0 パトス
地上に残っているかつての人間の情念や欲望等が、同じように僅かに残った無機物に結びついて生まれた存在。
幻獣と組み合わさっている事が殆どであり、撃破すると各種イリュージョンソウルをドロップする。