日本でも有数の規模を持つ劇団「グランギニョル」の系列学校で演劇科2年生として学んでいる御子柴叶は幼馴染との約束を胸に、研鑽に励んでいた。
ある日、彼は入学してから気になっていたあるボタンを押し、謎の地下劇場に来てしまう。
それと前後して、ある者達が動き出していた。
「──緞帳が上がったなら、演じきらなきゃ」
※こちらは読み切り版です、連載版とは多少変動がある事をご了承下さい
──10年ほど前
郊外の大学病院の一室。
ドア近くには部屋番号と共に「
その中で、眼鏡をかけた桃色の目に明るい茶髪のミディアムカットに病衣を着た7歳ほどの少女と、薄橙に見える茶髪に金色の目をした同い年の少年が話していた。
「
「?いつもDVDとか持ってきてるよ?」
「そうじゃないの。…体が良くなったら、叶の舞台を生でちゃんと観たいなって思ってて」
「僕の
「だから、いつかねって事。…あっ、そうだ」
結は近くのミニテーブルのラックにあったノートを取り出し、叶に見せる。
ノートの内容を見た叶は少し驚いた顔をしつつ、結に視線を戻す。
「自分で書いたの?この戯曲」
「といってもまだまだだし…叶が演じてる、ちゃんとしたのには届かないかもだけど」
「それでも凄いよ。こんなにたくさん……」
叶はノートの内容──結が考えたオリジナルの戯曲を読む手を止めずに、話を続ける。
「えへへ、ありがと」
「…もしかして、
「うん。叶が持ってきてくれるDVD観たり、話聞いてたりしたらジッとしてられなくなっちゃって。お母さんに言って病院近くのコンビニで買ってきて貰ったのに書いてるんだ」
「…そっか」
叶は一度読む手を止め、ノートを近くに置くとペットボトルの水を飲む。
そんな彼を見つつ、結は恐る恐る口を開いた。
「……ねえ、叶」
「?」
「もし、私の体調が良くなって外でもたくさん動けるようになって、
「…私の書いた戯曲、どれでもいいから…
「…!」
叶は分かっている。
今の結は病弱で、横になっている事が多い事も。
長時間動くのが、難しい事も。
…それでも、幼馴染の頼みで願いだ。
「……分かった、約束する」
「!…本当?」
「本当だよ。…指切り、しよっか」
その言葉に結は力強く頷き、叶と結は指切りをする。
そして、結のベッドから少し離れて病室から出ようとした叶に結が声をかける。
「叶!」
「…?!……どうしたの?」
「──私は叶の一番のファンだし、叶が日本一の役者になっても世界一の役者になっても、ずっと叶の事忘れないし…叶の舞台はどんな形でも必ず観るから!」
「…ありがとう。それじゃ、また来るね」
その言葉に結は小さく頷くと、叶が病院の扉を閉めるまで見送っていた。
──それから10年程度経った頃
─グランギニョル藝術学校 中庭
中庭で昼食を食べながら、薄橙に見える茶髪に金色の目をした青年は教科書や台本を読んでいた。
前髪に白く細い三叉メッシュがある灰色の髪に青紫の目をした青年が丸めた本のような物で彼の頭を叩く。
「飯食いながら読むんじゃない、行儀悪いだろ。
「いだっ!…って、
「
「ん、大丈夫。…改稿したんだ?」
「あぁ。最初は改変されたのをリメイクして使う予定だったんだけどな」
昼食を食べる手を止め、周囲を片付ける薄橙に見える茶髪に金色の目をした青年──
「改変…。あー、僕らの学年の全体中間試験演目は『ロミオとジュリエット』だから……」
「そうそう。最初は世間一般で最近出回ってる、改変された比較的ハッピーエンド寄りのを採用しようかと思ったんだよ。…でも、
「敢えて現代風刺の戯曲や、古い戯曲をリメイクして上演したりね。…だからってこと?」
「あぁ」
昼食を広げた和仁は昼食に手をつける前に叶に改稿したという、ホチキスで留められた「ロミオとジュリエット」の
和仁は脚本科、叶は演劇科に属する
グランギニョル藝術学校は私立高校と同じ扱いをされている、演劇を主とする学校。
生徒達は
もちろん高卒認定の関係上、一般的な科目も学ぶ。
元々、同名の「劇団グランギニョル」の劇団員養成をする為に設立された学校という事もあり、卒業後の進路にグランギニョルへの入団を選ぶ卒業生もいれば、卒業後に事務所所属やフリーとして活動する卒業生もいる。
卒業後に更なる体系的な学びを求め、大学進学を選ぶ者もいる。
進路は演劇やそういった業界になる事が多いとはいえ、多種多様だ。
叶は昼食を食べ終え、デザートを食べながら改稿された台本を読む。
「…あっ、本当だ。どっちかというと
「同学年の他の
「授業中に寝たらダメだよ?」
「努力はする」
和仁はそう言いつつ、弁当に手をつける。
デザートを食べ終え、叶はふと思い出したように話題を出す。
「
「
「あー、そっか…」
同期の演出科に所属する生徒の1人であり、父がストリートミュージシャン、母が演出家という生まれである。
最も、叶も
「…そーいや御子柴」
「何?」
「お前、校外に彼女いんじゃねえのとか言われてるけど?」
「いやいや無い無い、それは
「食い気味だなオイ」
グランギニョル藝術学校は寮制である。
基本的に同じ科の同性と2人1組で生活する事が殆どだが。
許可さえ下りれば、校外のコンビニなどに買い出しに行く生徒も多い。
「…昔、幼馴染とした約束があるから」
「約束?」
「うん。…それは追々ね」
「分かったよ」
叶は昼食を片付け、台本をしまう。
「それじゃ」
「演劇科は次、何の授業だ?」
「声楽とボイスレッスンの複合。…喉枯らさないように気をつけないと…」
「そうしろ」
和仁に軽く会釈をしてから、叶は次の授業の教室へ向かった。
*
──街中
人気の少ない路地を、髪がボサボサの薄着の女性はふらふらと歩いている。
紫色の髪に赤い目の洋装を着た少年と、緑色の髪が内側に螺旋状になっているロールが後ろに2つある、水色の目に洋装を着た少女がそれを見ていた。
少年は音もなく女性の前に現れ、少女は少年の様子を見つめる。
「そこの人、どうしたの?こんな時期にそんな服着てたら、死んじゃうよ?」
「別にいいの…夫は逃げたし、子供も…もう…」
覇気のない声色で呟く女性に少女はそっと近づき、囁く。
「今の状況から、自由になりたいの?」
「…!」
「エアリアル、そんな急に言ったらダメでしょ?」
「ごめんね、キャリバン。でも、この人は奥で望んでるみたいに見えるよ?」
「自由…?私が…?」
女性の問いに、緑色の髪が内側に螺旋状になっているロールが後ろに2つある、水色の目に洋装を着た少女──エアリアルは頷く。
紫色の髪に赤い目の洋装を着た少年──キャリバンは言葉を続ける。
「…でも、この閉塞した状況がどうなるか分かんないから、動けないんだ」
「…それはそう…。だから…」
「──なら、私達が
「エアリアルは本当に自由なんだから…はい」
キャリバンはそう言ってエアリアルに1本の乾電池のような物を渡す。
エアリアルは受け取った乾電池のような物の横部分を押し、女性の体に突っ込む。
《
「ぅ、うぅ…っ?!が、っ…!」
女性は悶え苦しむものの、青い電流が迸り、一瞬の衝撃と共に姿が変化する。
青い鳥のような姿の異形。
少し違うのは脚や翼にコードのようなものが絡まっている事ぐらいだろうか。
「僕達が、糸で動かしてあげる」
「
「名前、どうする?」
「戯曲通りに、ブルーバード・マリオネットでいいよ」
「そうだね」
キャリバンが指を鳴らすと異形──ブルーバード・マリオネットは僅かに嘴を開き、言葉を紡ぐ。
まるで、糸で操られた人形のように。
『わタシが…みんなを詩アワセに…』
「それじゃ、頑張って。…エアリアル、行こう」
「うん」
キャリバンはエアリアルの手を取ると風に攫われてその場から消える。
それとほぼ同時にブルーバード・マリオネットはどこかへと飛び立っていった。
*
──放課後
叶は「ロミオとジュリエット」に関する本を幾つか借りたあと、担任に許可を貰って久々に校外に出る事にしていた。
偶には息抜きも必要だと思ったのも理由の1つだが、外に出るまでに道中で舞台技術科の準備の様子を見ておこうと思ったからだ。
本を寮に置いてから、舞台技術科の方に向かう。
「今どんな感じかな…っと」
舞台技術科の教室を見ると、大まかに
「…ちょっと、邪魔」
「うわあっ?!…ごめん、調さん」
「演劇科は授業終わってるでしょ?見に来たの?」
「そんな感じで…はい」
叶を見つめる、紫色のロングヘアに赤い目をした同学年の女性──
調を衣装グループにいる、緑の髪を1つ結びにし、黄色いリボンの髪飾りをつけた青い目の女性──
「調〜そういうとこ」
「真実は衣装グループ。手動かす」
「は〜い…」
「?鈴ちゃん、暁君と
叶の疑問に、小道具・大道具グループにいる黒髪のミディアムカットに黄色い目をした女性──
「その3人なら、承と一緒に会議中だよ〜」
「あーなるほどね。ありがと」
「叶は見に来ただけ?」
「うん。これから校外にちょっとね」
「下まで降りるならエレベーター使いなよ」
「そうする」
舞台技術科の面々と分かれたあと、叶は同じ階にあるエレベーターに向かう。
ふと、上下ボタンの下にある何の印もないボタンが目に止まる。
どの階にもある為、叶は1年の時から気になっていた。
「押して…みる?」
興味本位で恐る恐る押そうとしたその時。
「いや何してんだ…」
「わっ!?…って、承君か。会議終わったの?」
「あぁ、一応。…会議知ってるっつー事は舞台技術科寄ったのか?」
「うん、外出る前にって思って」
カーキに近い緑色の髪を少し結んだ黄色みの橙の目をした青年──
演出家養成をメインとする演出科所属の1人。
承は叶が押そうとしたボタンに目を向ける。
「お前がそれに興味示すなんて珍しい」
「気になっちゃって…」
「むやみに押すなよ」
「えー…」
「えーってなんだ」
「こういうのって気にならない?」
「カリギュラ効果だな…」
「…物は試し」
「ちょ、おい──」
「えっ?」
叶がボタンを押した瞬間、エレベーターも来ていないのにエレベーターのドアが開き、叶はそのまま気付かぬうちに奥へと落ちていく。
そして。
「……いたっ」
叶がどうにか立ち上がるとそこは辛うじて劇場と分かる場所だった。
カランコロンと小さく音が鳴り、彼の足元に何かが落ちる。
「なにこれ?」
叶は落ちてきたそれを拾う。
薄橙に見える茶色い乾電池をどうにかよく見ると、横の部分には「MIKOSIBA KANAE」と書かれている。
「なんで、僕の名前…?というか、落とし物か何か…?」
無線機か何かに入れる用の電池かと思い、周囲を見回す。
が、闇に目が慣れてきたとはいえ、それらしい物は見つからない。
一旦それをポケットにしまい、探索する。
「ん?」
ふと少し光る縦長の板のような物に気づく。
板に近づき、彫字を見る。
「地下劇場、
聞いた事もない。見た事もない。
1年の時の施設案内でも、案内に入っていなかった。
ともかく、ここから地上に戻る事が最優先と考える。
が。
「?ポケットの中がなんか重い…?」
急いでポケットの中を確認すると「
「……訳わかんなくなってきた」
ふと光のある方に気づき、それが地上に繋がる階段である可能性を考える。
「…ともかく、一回外に出よう」
*
ブルーバード・マリオネットは人々に近づいては攻撃もせず、人々に青い羽を刺す。
羽を刺された人々はどこか虚ろで幸せそうな表情になり、そのまま眠りにつく。
ブルーバード・マリオネットは幸せな幻覚や夢を見せながら、偽りの幸福を広げていく。
*
どうにか謎の地下劇場から出た後、校外に出た叶。
コンビニでスイーツを幾つか買い、公園のベンチで食べる。
少し遠くから、フルートの音色が聞こえてくる。
「…?」
今まで聞いた事のない、文字通り心を奪われるような音楽に意識が曖昧になる。
が、バチっと静電気のような衝撃が叶を襲う。
「っ?!」
衝撃に気づき、同時に意識が晴れる。
どうやら、ポケットの中にある4本の乾電池が防いだらしい。
「今のは…」
音のする方を見ると羽つきシルクハットを被り、緑色の服、首元にストールを巻いた金髪青目の男性がフルートを吹いていた。
男性は自分に目を向けている叶に気づき、演奏していた場所から叶の元へ。
「観客がいるとは珍しい。…お名前は?」
「えと、御子柴叶…です。…貴方は」
「私はしがない
「ストリートミュージックってそういうもの…?」
「場合によりますがね」
男性は言いつつ、フルートを持っていない方の手で叶の顔の輪郭をなぞり、軽く自分の方に寄せる。
「っ…!?」
「……悪くない感情をお持ちなようで」
「へ?」
「いえ、こちらの話です。…ではまた、会う事があれば」
「えっ…」
あっけに取られる叶を横目に男性は姿を消した。
男性のいなくなった場所を少し見ていた叶だったが、近くに青い鳥のような異形が飛んでいる事に気づく。
異形は叶に気づいたようで、青い羽を飛ばしてくる。
「うわっ!」
咄嗟に回避して異形を見つめる。
見たところは「青い鳥」に限りなく近い。
「どうしよう…」
ポケットの中の4本の乾電池に思い当たり、4本全てを取り出す。
異形が2体に分身し、同時に羽を飛ばしてくる。
が、4本の乾電池が突然宙に浮くとバリアのようなものを形成し、羽を弾く。
「…!」
そのまま乾電池は叶の手元に収まると、叶の腰元に向かって電流を発する。
やがて電流は形を成し、乾電池全てを装填出来る4つ分の装填部分と平面に嵌め込まれた歯車がついた回転盤のある銀色のドライバーとなり、自動的に帯が装着。
装着されると共に一瞬、叶の頭を電流のような衝撃が襲う。
《アーツドライバー!》
「…僕が役者だから、なんだね」
叶は2体の青い鳥の異形を見据え、4本の乾電池を縦向きに装填していく。
《
《
《
《
そして、平面に嵌め込まれた歯車がついた回転盤を1回転させながら、その言葉を発した。
「変身!」
《開演!》
同時に叶の周囲を黒・橙・緑の緞帳が円形に囲い、薄橙に見える茶色いアンダースーツを装着。
そこから、両脚にかけて灰銀の装甲を装着し、胴体・両腕にかけて萌黄色の装甲を装着。
更に胴体部分に黒い羽衣を思わせる追加装甲が重なり、首の後ろから繋がった丸く白い
顔部分に天狗のような赤みを薄ら帯びた仮面がつくと頭部頭上に兜巾が現れ、複眼部分が黒く光る。
そして、緞帳が右に引いていくと共にその姿が顕になる。
《
最後に錫杖のような武器がプレイの手元に現れ、それを掴む。
異形はそれに驚いて攻撃を仕掛けるも、プレイに躱されてしまう。
無意識のうちに体が動いていた事に気づいた叶は異形とほぼ防御状態のやり合いとはいえ、ある事を考えていた。
「勧進帳は確か弁慶が知恵を使って難を逃れる演目…。ならこの防御体勢にも、意味があるはず…!」
金剛杖で異形の攻撃を受け止め、着地。
一方、異形は何故プレイが防御体勢のままなのかを理解していないようで、僅かに首を傾げている。
「
「
「
そのセリフと同時に金剛杖の下部分を地面に一度当て、地面が波紋を立てて辺りの景色を変えていく。
それは「勧進帳」に登場する、関所越えの部分だった。
景色がその関所となり、動揺する異形。
「
「
刹那、蓮の花弁と蛙が異形を襲い、異形はそれを慌てて避けるが、目元に蛙がくっつきジタバタと暴れる。
「
「
『⁈』
「
プレイは異形に向けて駆け出し、金剛杖の形状が薙刀に変化。
そして、薙刀によって異形を斬りつけ、更に蹴りを食らわせ、異形は地面に転がる。
それを確認したプレイは再び金剛杖の下部分を地面に一度当て、景色が元に戻る。
「そろそろ決めようか」
ドライバーについている回転盤を一回転させ、勢いよく足を踏み鳴らして少し後退する。
再び金剛杖の形状が変化し、先ほどと同じ薙刀に。
「
そして、大きく飛び上がる。
「──はぁあああっ!!」
『?!?』
空中で構えを変え、薙刀の刃先が異形に刺さるような体勢になる。
異形が防御体勢を取ろうするが、再び蛙が目元にひっつく。
《演舞:勧進弁慶──
そして、薙刀の一閃が異形を貫く。
異形は僅かに暴れて叫んだ後、爆発。
青い鳥の異形は乾電池のようなものが排出されると元の女性に戻り、プレイは女性を抱えると近くのベンチに横たわらせ、変身解除する。
腰についていたドライバーは再び、電流となって消える。
「…なんだったんだろう、今のは」
叶はそう呟きつつ、女性が倒れた場所にある物を拾おうとした。
が、一瞬強い風が吹くとそれはいつの間にか無くなっていた。
「……色々起きすぎだよ、今日」
叶はそう言うと女性の服装を見て念の為救急に連絡してから、座っていた場所にある買っていたコンビニスイーツを袋に入れ、来た道を戻った。
*
─グランギニョル藝術学校 校内
寮に戻る前、叶は急ぎ足で校内にあるエレベーターに走った。
寮の門限はまだ時間があるとはいえ、校内が閉まるのはそれより早い。
「──あった…!」
1階の
そこに
「…よし」
上下ボタンの下にある、何の印もないボタンを今度は今度は躊躇いなく押した。
先ほどとは異なり、体も、意識も、バンジージャンプかスカイダイビングのように下へと落ちていく。
「っ…!!」
体が硬い地面にぶつかった感覚と共に、恐る恐る目を開く。
近くに見える「地下劇場 Deus Ex Machina」の看板が来れた事を証明していた。
「一応成功…?」
─漸く
─まあ、お前なら大丈夫か。御子柴
「…へ?」
聞き覚えのある声に、呼び方。
立ち上がって声のした方を見る。
先ほど来た時と同じように、暗かった空間内の照明が点く。
一瞬の強い光が収まり、覚えのある人物がいる事に気づく。
「…承君、和仁君」
「ん、昼間ぶりだな。…ともかく、適当に座れ」
「う、うん。…此処って、なんなの?」
和仁の言葉に、恐る恐る席に座って疑問を口にする叶。
それには承が答えた。
「ここはまぁ…オレ達
「が?」
「少なくとも、オレ達が
「当て書きの…役?」
「あぁ、俺は脚本家。三道は演出家…そして、御子柴。お前が演者だ」
「っ?!?」
「まー、なんてったって
「えっと、特殊空間って事は時間の流れとかは大丈夫なの?」
承が手渡した菓子を少し食べつつ、次の疑問を口にする。
その疑問には和仁が答える。
「それは当たらずとも遠からじってとこ。多少時間にズレがあるみたいで、ここで何時間過ごそうが元の場所に戻っても過ごした時点の時間と殆ど変わってない。…本当に妙な場所だよ」
「じゃあ、最後。2人も、それぞれ
叶が取り出したのは「MIKOSIBA KANAE」と書かれた、薄橙に見える茶色い乾電池。
名前が明記されている部分には、よく見ると巻かれる形で内臓されたフィルムが見える。
恐らくそれは叶が入手し、使った他の3本も同じだろう。
「あぁ、そりゃ勿論」
「んでもって、お前が今日使ったアイテムも俺達は持ってる」
そう言って、2人も似た物を叶に見せる。
和仁は「SUZUNARI KAZUHITO」と書かれた灰色の乾電池、承は「MIDOU TUKURU」と書かれたカーキに近い緑色の乾電池。
「…!!」
「ま、まだ此処は稽古場だ。よろしく頼む」
「もしかしたら、此処に来る奴が増えるかも知れねえけど」
「…うん、改めてよろしく。2人とも!」
*
──ある寂れた劇場
「回収間に合ってよかった。ね、キャリバン」
「でも、あっちにも役者は出てきたよ?エアリアル」
「おかえりなさい。エアリアル、キャリバン」
エアリアルとキャリバンを、少し大きめのダイヤモンドのピアスと首元近くに2連パールネックレスを着け、胸元のひらいた青いブラウスに黒いジャケットと同色のマーメイドスカートを着た黒いロングヘアの紫色の目の女性が迎える。
「女王様、ただいま!」
「エアリアル、
「キャリバン、そんなにカッカッしなくてもいいわ。…使った
「「はい/は〜い」」
同時に重なった声と共に、
それのエネルギー量を確認した女王は2人の頭を撫でる。
「2人の部屋にお菓子を置いておいたから、お腹が空いたら食べるのよ」
「はーい!」
「エアリアル!ちょっと!?」
風となって姿を消したエアリアルを、キャリバンが追いかける。
「相変わらずお転婆ですね、エアリアルは」
「それが彼女のいい部分でもあります。イライザ」
桃色の編み込みに赤い目をした、胸元地下と肩周りの生地が灰色のオーガンジーになっている膨らんだ袖と黒いシルク生地のプリーツドレスを着た女性──イライザは女王にそう言われて、少し肩をすくめるも、いない存在に気づく。
「そういえば、
「確か、演奏に
「ただいま戻りました。…ちょうど私の話題だったようで?」
羽つきシルクハットを被り、緑色の服、首元にストールを巻いた金髪青目の男性──
「…成果が、あったんですね?」
「ええ、ええ!
「それじゃあ意味ないで──っ、しょう…がぁっ……!」
「イライザ、昂らないで?落ち着きましょう?…それで?」
高揚したあまり、軽く咳き込みかけたイライザの背中を女王が優しくさする。
「頃合いを見て、その子に再度接触を図ろうかと。適性のあるバッテリーがどれかは暫く観察する必要がありそうです」
「分かったわ」
「では私は戻らせて…っとと、そうでしたそうでした。
「また楽屋で昂っているかと。次の会議までに宥めて頂けると助かります」
「承知致しました。それが
女王と笛吹き男が別れたあと、劇場の奥から
「──火傷があろうと私は美しい!!」
「……という事で、行ってきますよ」
「ええ。では」
劇場の奥へと姿を消した笛吹き男を見送り、女王はモニターに映されている
それはまるで、焼け爛れた女性の遺体のようにも見えた。
「…貴女の…自由を求めた心、閉塞を打開しようとした心、この世への身を焦がすほどの未練、楽しむ何かとそれを見つけたい心、誰かを強く想う感情、自分をよく見せたい見栄。それに」
「──他者を排撃するほどの愛」
「…有効活用、させていただきますわ。
呟く女王の目には憐憫と同情、そして親愛が見えた。
準備稿 劇団グランギニョル
日本でも有数の規模を持つ劇団。
フランスに存在した劇場「グランギニョル(グラン・ギニョール)」の名を冠しており、それに違わない古い戯曲/演目のリメイク・アレンジの演目や現代風刺が混じったオリジナル演目やミュージカルもある。
系列の藝術学校があり、そこから正式入団するケースや別の劇団に入団するケース、俳優/女優となるケースなど様々。
藝術学校所属者は最後の一年、グランギニョルの見学や実習などを行い、進路の参考にする。