並行時空のフロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに初日突貫す〜 作:栗実成
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「辻斬・狂想曲:オンライン」というゲームがある。
通称「幕末」「エリートぼっち専用ゲーム」とも言われるこのゲームはたった一つのルールで成り立ってると言っていい。
「一方的に斬られるか、多少足掻いて斬られるか。」
右も左も上も下も前も後ろも・・・・・・四方八方三百六十五日二十四時間六十分六十秒いつでもどこでも首が飛ぶ。その大抵はゲームを始めたばかりの新規であり・・・・・・その新規を狩ろうとした者の首である。
このゲームに安らぎなどない。もしあるとするのなら、それは己の首が宙を舞って新たな生を迎えるまでの間だけだろう・・・・・・とまあそれだけ殺伐としたゲームであり、一度このゲームに染まってしまったら最後、どうあがいても鉄砲玉気質になってしまうのが常だ。
「逃げるなぁ!サンラクゥ!!」
彼女、京極もその
確か最後に会った時は・・・・・・ランキング五位の火薬庫を爆破したという濡れ衣を着せて一週間首級花火玉の刑に処したんだっけな?濡れ衣が乾燥どころか焼き切れる勢いだったのは印象に残っていた。最後の最後で真犯人(俺)が明らかになって花火にされそうだったので別ゲーに逃げたわけだが・・・・・・なんの因果かこうして再び逃げ回る羽目になったわけだ。もしかしたらこれも天が・・・・・・いや何でもない。
「別ゲーに幕末のノリを持ち出すのは禁忌じゃなかったっけなぁ!!」
「当然知ってるよ!だから正々堂々とぶっ殺す!!」
駄目だこりゃ、話がまるで通じない。馬の耳に念仏、幕末志士に人の言葉とは良く言ったことだ・・・・・・・・・・・・俺か?俺は汚染度七割の健常者なので一切問題はない。
もしここが幕末であれば、あのバカを斬るなり煮るなり好きにできたのだが、いかんせん場所が、そしてゲームが悪い。
京極の頭上に表示されているプレイヤーネーム・・・・・・その左側に表示されている髑髏マークは、おそらくPK・・・・・・プレイヤーキルをした時についたものだろう。
幕末みたいなプレイヤー同士の戦闘が前提のゲームとは異なり、このシャンフロはどちらかと言うとプレイヤー対モンスターの構図がメインとなるゲームだ。そういったゲームにおけるプレイヤーキルはそれに横槍を刺す行為であり・・・・・・余程のことがない限りペナルティが課せられると考えていい。
ゲームによってはプレイヤーキラーをキルした際にはペナルティどころかむしろ報酬まで用意されているパターンもあるが、現状シャンフロがどちらに分類されるかは判別のしようがない。こんな時に後一人でもフレンドがいればそいつに殺させて確かめることもできるのだが・・・・・・森の奥に偶然いるだなんて可能性は薄い。だとするとこの場の最善手は殺さない程度の無力化に尽きる。
「周囲には誰もいない、仕掛けるなら今だな」
最悪のパターンはお互い疲弊し切ったところに第三者に漁夫の利されるパターン。次点で近くにいたプレイヤーが奴に協力するパターンだが、どちらを信用すればいいかは頭が示しているのでそう起こることはないだろう。
「よっしゃあ!!」
掛け声と共に切り返し、インベントリから取り出した斧を投げながら距離を詰める。当然京極はそれを掻い潜って剣を振るうが、牽制によって不完全な構えから繰り出された一撃を避けるのに造作はない。
幕末によって更に磨き上げられた京極のプレイスタイルは剣道を極めたもののそれに等しく、純粋な剣術勝負であれば幕末の最上位ランカー相手でも有利を取れるかも知れない。しかし、現状最上位一歩手前であるという奴のランクが示している通り、本来正々堂々の戦いで真価を発揮する彼女は搦手を含めた何でもありの戦いに弱い。従って、奴に対してはズルを使うことこそが正攻法なのだ。
「流石にそれは卑怯じゃないかな!?サンラク!」
「武器をどう使おうが俺の勝手だろうが!初っ端奇襲かました奴に言われる筋合いはねぇ!」
そう叫びながら俺が振るうのは剣ではない・・・・・・逃げながら皮の服と何本かの斧を分解して製作した・・・・・・何て形容すればいいんだろうか、便宜上「ストーンハンマー(仮)」と呼称する服の上下の穴を綴じて中に石を詰め込んだ奴を振り回して狙うのは京極ではなくその刃。
「くそっ・・・・・・戦いづらい」
俺の目的は奴の撃破ではなく武器破壊であり、故に俺は間合いを維持しながら武器をぶつけ合う。
短剣カテゴリである双刃や包丁はリーチの点で奴の片手剣に負けており、石の斧だと耐久力の関係上すぐに壊れてしまう。しかしストーハン(仮)ならリーチも長く、ただのオブジェクトであるが故に、武器としてではなく頑丈な石として剣に損傷を与えることができるはずだ。それにしても、武器を解体しても物質として暫く残り続けるとは流石のクオリティだ。
「どうした!そうやって受け身に回ってたら、どうぞ殺して下さいって言ってるようなもんだぜ!?」
「言ってくれるね・・・・・・!スクーピアス!!」
痺れを切らしたのか、京極は先程までの構えを崩し、ストハン(仮)の間を突いてスキルを発動する。スキルエフェクトを纏った奴の刃が俺の喉仏を貫こうとするが、すんでのところで身体を仰け反らして回避する。とは言えその際に片手をストン(仮)から離してしまい、その重さによってあっさりと俺の手から(仮)が抜け落ちる。当然その隙を見逃さずに彼女は突き出した刃をそのまま振り下ろす。
「もらったぁ!!」
回避は間に合わない。姿勢を完全に崩した俺に彼女の刃を受け止める術はなく、京極は勝利を確信して内心から溢れ出た笑みを隠そうともしない。故に・・・・・・
「スクーピアス!!」
曲芸じみた姿勢で取り出された致命の包丁に気づくことなく、突き上げられた蒼色の刺突が奴の右腕を切断する。
そして、制御を失った片手剣が服という守りを失った俺の腹に突き刺さる。
「これは・・・・・・!」
「・・・・・・」
方や己の半身と言っていい、利き腕と剣を失った少女。
方や腹に剣の突き刺さった、服と外聞を失った仰向けの変態。
「なぁ、上手い辞世の句を読んだ方の負けにしないか?」
「普通逆じゃないかなぁ・・・・・・サンラクから先にどうぞ」
「それ俺が言い終わった瞬間止め刺す奴だろ・・・・・・」
「何なら今すぐにでもその剣を押し込んでもいいんだよ?」
「俺がお前を切り刻む方が早いだろ」
「じゃあ試してみる?」
さてどうするか。正直この状態で勝ったとしても街に帰る前に野垂れ死ぬだろうし・・・・・・ん?俺ってリスポーンポイント更新してたっけ?
「・・・・・・やめだ。お互い傷がデカい以上、ここで争っても不毛だろ」
「まぁそうだね。起き上がっていいよサンラク」
何で上から目線なんだよと言いたいところだが、言った瞬間どちらかが死ぬことは目に見えている。大人しく起き上がり、腹から抜いた剣を京極に返す・・・・・・うわ、体力の最大値が減ってやがる。死んだら元に戻るだろうか・・・・・・
「サンラクは何割削れた?僕は二割」
「・・・・・・一割だな、体力の最大値が削れてやがる。そういうもんなのか?」
「偶々装備が良いプレイヤーを狩ることができてね・・・・・・この剣、『裁肉の剣』は破壊属性ってのを持っているらしいんだ。サンラクの剣もそうなんじゃない?」
うわホントだ、致命の包丁の説明欄を改めて見てみたら、端の方に「破壊」って書かれたマークがある。京極の口ぶりからして、俺が奴の腕を断ち切れたのはその効果によるものだろう。もしそれが武器にも適用されるとしたら、ストーンハンマー(仮)は殆ど意味をなさなかったことになる。
「うわ、もう使えないなこれ」
ふと気になってストーンハンマー(仮)の残骸を見てみるが、皮の服を再利用することはできないだろう。つまりまた上裸生活に逆戻りしてしまったわけだ。
「・・・・・・なにその鳥面」
「俺はシャイなんでな。」
「つっこむ気すら起きない」
うーん謎の安心感。気分は最悪だ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
なんだかんだで損害はでかく、かと言って死に戻るわけにはいかなかったので、俺は今京極とパーティを組んでセカンディルへと向かっていた。
「・・・・・・さて、次の街へ行くためにはコイツを倒さないといけないみたいだな」
跳梁跋扈の森には大きな渓谷があり、セカンディルへ向かうにはそこにかかる橋を渡らなければならない。そしてその橋の前に鎮座するのは俺の三倍以上・・・・・・否、全身を含めたら何十倍にもなりそうな大蛇。跳梁跋扈の森最後の関門にして、現状唯一にして最も多くのプレイヤーを屠ってきたであろうエリアボス、「貪食の大蛇」だ。
「サンラク、本当は僕一人で戦いたかったんだけど・・・・・・腕の分、しっかり働いてもらうよ」
推奨人数五人、推奨レベル十五というだけあって、放つ威圧感はとびっきりだ。最悪京極を盾にすることも視野に入れた方がいいかもしれない・・・・・・京極はきっとそうしているだろう。
何にせよセーブなしの一発勝負、負けたら五時間近くのプレイデータが水の泡だ。いやまぁこうなったのは俺自身のせいなのだが・・・・・・まぁいい。
「言われるまでもねぇ・・・・・・とっととクリアしてやろうぜ!京ティメット!!」
返事はない、だが意思がそこにある。剣士と傭兵は同時に駆け出した。
オチに困ったら取り敢えず走らせればそれっぽくなりますよね?