謎の商人ロールプレイ   作:誰かさん

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TEAMS

 常識的な話として。冒険者はパーティー単位で探索をする。

 新人冒険者でも、三度もダンジョンへ潜れば当たり前の事実に気が付くのだ。つまり、単独で潜るのはあまりにも効率が悪い。一人では抱えられる程度しか戦利品を持ち帰れない。まさか一度でも生きて帰れた者が、馬鹿でかい鞄を担ぎ単独で復路を歩く危険が分からない訳もあるまいし。

 ダンジョン探索は、最低でも二人以上。帰るときは一人が荷物を持ち、もう一人が戦闘を担当するという形が望ましい。もっと言うなら、一般的にパーティーという単位で数えられるのは、四人以上からだ。これがだいたい十人以上になると、『団』という呼称になったりするが、まあそこら辺の定義はどうでもいい。割と大雑把だし、あえて細かく制定しようとする者もいない。

 基本的に、チームに名前はつけない。これは、特に意義を見いだせないというのもあるが。チーム名をつけておきながらパーティー分裂が起きた場合、どちらが名前を引き続き利用するかで、目も当てられない争いが起こる可能性があるからだ。

 馬鹿馬鹿しいように見えて、割と切実な問題である。もしかしたら、先代の信頼を全て引き継げるのだから。この手の問題は小さなファミリアであればあるほど致命的であり、ともすればファミリアの分裂を招く。

 チーム名をつけたところでどれほどメリットがあるわけでもなく、もしもの時に被るデメリットはあまりにも大きい。しかも、大抵の場合は、チーム名よりもファミリアで判断される。そのため、とっくの昔に廃れた風習だ。

 既に、チーム名の文化があったことを知る人間は少ない。知っているごく少数も、あくまで知識だけであり、実感はなかった。

 そんなものがなぜ現代になって復活したかと言うとだ。つまるところ、過去の例を踏襲した訳ではなく、意味合いが全く別のものにかわってしまったからだった。

 

 

 

「よし、全員揃ったな」

 

 アストレア・ファミリアが誇る精鋭。ゴジョウノ・輝夜は、その中でも頂点に数えられる一人だ。流麗で圧倒的な剣技を持ち、大和竜胆の二つ名で知られている。

 彼女の正面に並ぶは、アストレア・ファミリアの戦士達。普通に考えて、ダンジョンの中で並んでいるのだから、そういうパーティーなのだが。はっきり言って、あまりにも異質だった。

 なにせ、全員が剣を持っているというアンバランスさ。他に装備がないわけではないのだが、全て小物。つまり、例外なく剣がメインウェポンという事である。

 真面目にダンジョン探索している者からすれば、舐めるなと言いたくなる編成だ。ダンジョンとは前衛後衛バランスよく揃えるのが当然であり、そこを怠るのは死を意味する。理想を言えば、魔導士と回復役(ヒーラー)、サポーターも用意したい。

 ではなぜ剣士縛りなどというバランスも頭も悪い真似をしているかと言うと……。

 

「鬼殺隊、出撃っ!」

 

 などという事をやりたかったからである。

 前々から、漫画に存在する組織を勝手にチーム名として名乗る文化はあった。ただし、漫画が『ONE PIECE』のみだった頃は、その数も少ない。なんとなく、該当の能力を持った者がいるチームだけが名乗れるといった不文律があったからだ。

 が、それも能力が現実に登場しない漫画が多数現れた事で話が変わる。誰もが好き勝手にあれやこれやと名乗り始めた。輝夜の剣士限定パーティーもその一つで、剣を使う事以外、統一性があるわけではない。

 他にも長文詠唱を持つ魔法使いだけを集めた『ダーク・シュナイダー』があったり、黒装束だけで集まった『護廷十三隊○○番隊』などがあったり。ファミリア内の同好の士を集めて、かなり好き勝手に活動している。いや、そうでもないか。漫画の好みに合わせて、時には派閥の垣根を越えてチームを組む事もあった。

 基本、原作に準じる事が重要なので、近接戦闘ができない魔導士のみで固めたチームなんかもあった。当然、こんなもの危惧されない訳がなく。ギルドは大ファミリアと協力の元、原作名をつけたパーティーは申請制、どれだけ平均ランクが高くとも24階層(あまり低く設定するとルールを無視する者が出てくるため、泣く泣くこの階層にしている)までしか潜ってはいけないというルールを制定している。反対意見はなかった。ガチのマジで危ないから。

 この手の文化が広まってくると、中には組織名でも何でもないチーム名を申請してくる奴も出てくるようになった。ヘグニが『スリラーバーク』などと、組織ではなく海賊船の名前を出してきたのはまだいい方であり。『誠凛高校バスケットボール部』だとか『我らこそ真の火影』だとか、意味不明なものまで出てくる始末だ。ちなみに本当のとか真のとかつけると、周囲から大ひんしゅくを買う。

 一部の愚か者を除き、大抵は理解している。あまり無茶をしてはいけないと。

 しかし、逆に真剣なダンジョンアタックではないからこそ、可能な事もあった。手慣れた武器を使わず、好きな武器で好きなキャラの真似をする事である。

 

「輝夜さん」

「……」

「あっ、鳴柱」

「なんだ?」

 

 普段は頼りになる副団長様も、この時ばかりは役になりきっている。彼女は根が真面目な反動か、非常に面倒くさいタイプのファンだった。

 

「あっちにモンスター()の集団が」

「よし、始末しに行くぞ」

 

 一斉に走り始める。

 なんのかんのと言っても、それっぽい仕草でダンジョン内を練り歩くだけでは物足りない。鬼を討滅してこその鬼殺隊だ。モンスター()退治は真剣に行っている。

 輝夜の理想を言うなら、原作に倣って何も回収したくなかった。が、さすがに放置は避けている。魔石を無闇に残すのは、強化種を生み出す要因に他ならない。

 しかしいざ現場にたどり着くと、モンスターの小集団は既に殲滅されていた。

 これ自体は別にいい。モンスター討伐は早い者勝ちであるのだから、遅れた輝夜達がいけないのだ。問題は、誰が倒したかである。

 

「タケミカヅチ・ファミリア」

「む、アストレア・ファミリア? いや……そうか、お前達は……」

 

 一瞬で空気が剣呑になり、相手のリーダーであるカシマ・桜花と輝夜がにらみ合う。特に促されたわけでもないのに、互いのチーム同士もそれにつられていた。

 

「おやおや、誰かと思えば……偽鬼殺隊ではないか」

「今日も精力的に動いているみたいじゃないか。感心だな、なりきり鬼殺隊殿。我々鬼殺隊のように、しっかり働いてくれ」

 

 軽いジャブを打ち合った後、両者が同時に凶暴な笑みを浮かべる。

 こういった様子は、彼らに限った話ではない。チーム名がかぶっている者同士が遭遇すると、だいたい起こるいざこざだった。

 ちなみに、ファミリア同士も、輝夜と桜花個人としても、別に仲が悪い訳ではない。通常時であれば普通に話す程度の関係だ。ただ、それはそれとして、譲れないものがあるというだけで。

 

「ふんっ! 剣士で揃えられていないくせに、何が鬼殺隊だ」

「うっ……そっちこそ、メンバーを呼吸の使い手で揃えていないくせに、大口を!」

「ぐぅ……っ!」

 

 この手の揚げ足取りも、非常によく見られる光景である。

 まさか本当に殴り合う訳にもいかない。なんだかんだ、下らないことでファミリア同士の争いを起こすまいと考える冒険者が大半だ。となれば、後は口げんか。お前達はこれだけ原作と違うのだ、というあらの探しあいになる。

 まあまあ下らない事だし、当人にもその自覚はある。ただ、いざその時になると、頭に血が上ってしまうだけで。

 

「だいたい、原作には鳴柱なんぞいないだろーが!」

「はいバカー。名前出てますぅー作中の時代にいないだけですぅー。そもそも主人公の一人が雷の呼吸なんですぅー。宇髄天元こそ最弱の上弦の鬼と相打ちになった下っ端だろうが」

「なんだと!? 宇髄さんは百年以上倒せなかった上弦の鬼を殺した傑物なんだぞ! 安く見るにも程がある!」

「ふん! いずれ雷の呼吸の使い手だって上弦の鬼を倒してくれるさ! 何しろ、善逸より強い獪岳という切り札がいるんだからな! 作中で存在が示唆されているのだ、これはもう善逸と仲直りして大活躍間違いなしだ!」

「はっ。そういう事は柱になってから言うんだな」

「貴様っ……! 今鼻で笑ったな!? そもそも貴様自身はどうなんだ! 私は雷のエフェクトを出せる程まで呼吸を高めたのだぞ!」

「おっ……音は見えないから仕方がないんだよ!」

「ふん、己の未熟を漫画で慰めるな。大きな事はひとかどの人間になってからほざけ」

「お前こそ、漫画で活躍できていない鬱憤を現実で八つ当たりしてるだけだろうが!」

「なにおう!」

「やるかあ!」

 

 

 

 そんな風に、妥協できるようなできないような、微妙な関係な事もあれば。絶対にわかり合えない関係というのも、またある。例えば、『白ひげ海賊団』と『海軍』のように。

 ここでもまた、二つのチームがにらみ合っていた。

 一人は、今やオラリオでも有数のやべーやつと有名になってしまたアイズ・ヴァレンシュタイン。もう一人は、ガネーシャ・ファミリアの賑やかし担当ことイブリ・アチャーだ。

 片やLv.7でも既に中ば、順調に成長し続けており近々Lv.8になるのではと噂されている者。片やLv.2でも中堅どころ。本来なら、言い合いすら成立しない能力差だ。

 しかし、漫画に絡めた場合、どちらが強いかなど関係ない。重要なのは、原作に対する愛とリスペクトなのだから。むしろある意味において、格上に噛みつけてこそ真の愛読者という風潮すらある。

 手を出すのは御法度。故に、ランクの高低を語るのは無粋。持つべきはただ、読者としての矜持。だから何もかもが違う二人は、ダンジョンという力だけがものを言う場でありながら、ある意味対等な関係を築いている。もっとも、対等と真っ当は別の話だが。

 アイズはグラグラの実を持ち、イブリもガネーシャ・ファミリアというある意味正義の軍隊に所属している。そのため、どちらも『白ひげ海賊団』と『海軍』の名を、ほとんど特権的に利用していた。

 この二つは乱立する『鬼殺隊』よりも、遙かに歴史が長い。それだけに、ある意味どちらも洗練されており、年季の入った碌でもなさがあると言える。

 厄介なのは、原作からして敵対勢力だという事だ。それも、他の四皇とは違い、実際に戦争をした描写がある間柄だという事。それに引っ張られているためか、どちらからも容赦の雰囲気がない。実際、だいたいややこしい問題を持ち帰るのは、こういったタイプのチームである。

 パーティーメンバーも二人に準ずるような状態で、レフィーヤなど、アイズの背後でシャドーボクシングをしていた。彼女の様子が、端的に両者の関係を表していた。

 ちなみに側近面しているレフィーヤだが、アイズには認められていない。だってトリトリの実幻獣種モデル不死鳥ではないから。

 

「道を譲って……」

「そーですそーです!」

「いいや、譲るのはそっちだぜ」

 

 輝夜と桜花(自称鬼殺隊同士)も険悪だったが、彼らは輪を掛けてである。こちらも当然、チームとして活動していない時は、特にそういった雰囲気はない。その反動でと言うべきか、チームで動いているときは殴り合いでも起きかねないほど、危険な関係であった。

 これは、原作の関係が影響しているというのもあるが。それ以上に、『海軍』のスタンスが問題であった。

 

「『サカズキ派海軍』には絶対に道を譲れない」

「何であんなに危険な大将の主義を掲げているんですか! 他だったらまだ妥協できたのに!」

「確かにあそこまでとは言わないけどな、変えるつもりはないぜ。これは俺たちの総意だ」

 

 実のところ、ガネーシャ・ファミリアではサカズキの評価が高い。いや、ガネーシャ・ファミリアのみならず、オラリオでは一定の評価を得ていた。

 『ONE PIECE』作中において、何かとやり過ぎと評価されるサカズキではある。未来の不穏分子として民間人を虐殺する所は、さすがにオラリオでもやり過ぎだと言われているが。実のところ、他の面はオラリオだとさほど問題視されていない。

 敵前逃亡は、懲罰を行うのも致し方なし。犯罪者に対して断固とした姿勢を見せるリーダーは、むしろ好感を持たれていた。ボルサリーノとクザンでは、弱腰に過ぎるように映る。多少過激な思想でも、弱い正義よりは遙かにいい。そんな評価だ。

 これは、オラリオが暴力慣れした土地というのもあるが。それ以上に、一定の世代より上に支持層が多い。そう、『暗黒期』を経験しているか否かだ。

 闇派閥(イヴィルス)の台頭を許すくらいなら、断固とした姿勢を取るべき。もしサカズキのようは者がオラリオにいたら、闇派閥(イヴィルス)がのさばるような事はなかったのではないか。そう思っているのだ。

 この思想に、なんだかんだ甘いところがあるアイズと、そもそも暗黒期を知らないレフィーヤが反対するのは当然のことであり。ある意味、原作以上の対立が発生した経緯となる。

 

「海軍は敵」

「そーですよ、信用なりません! 大体、誰の為に戦ってるか分かったもんじゃないんですから! 人のためですか!? それとも組織を維持するためですか!?」

「社会って言う機能を維持してこそ、人が安らかに過ごせる事もわからないんだな、アホ共が。だいたいお前らなんて、どう言いつくろったところで所詮は『賊』だろうが」

 

 ちなみに、リアルに絡ませた言い合いは一切ない。特にこの両者の場合、相手の非難に格好つけた漫画の語りになる。

 言い換えされて、アイズ達はうぐっと口を詰まらせた。いつものことである。言葉の上手くない二人は、口が回り社会経験も遙かに豊富なイブリに及ぶべくもない。こと口喧嘩において、二対一という構図は何ら有利に働かなかった。

 しかし、それで毎回趨勢が決まるという訳でもなく。

 

「そんな言い訳をしても、海軍は所詮世界政府の犬……! 七武海がいなければ四皇(私達)に対抗できない『弱い正義』」

「ぐ……っ!」

「弱いくせに苛烈なばかりで、いいとこ一つもないじゃないですかぁ! 一般人をいびるのがあなた達の仕事ですかぁ!」

 

 アイズの言葉に、やいのやいのと合わせるレフィーヤ。その場のほぼ全員から、なんだこいつ……と思われていた。追従じゃなくて独自の意見も言え。

 

「海軍に負けたくせに!」

「……!」

 

 それは、ある種の禁句である。アイズが握った拳を振り上げなかったのは、自制心が働いたからではない。白ひげなら、そんなダサい真似はしないからだ。

 

「ま、負けてない……! 白ひげ海賊団(私達)は、負けてないもん!」

「いいや負けたね! エースを無様に殺されて! 白ひげ(お前)は時代の敗北者だ!」

「な、なんてこと言うんですか! あれはエースが勝手にやった事で、白ひげ(アイズさん)が存命だった時点では、目的を達成してるんですよ!?」

 

 正直ここら辺は、オラリオで賛否両論となっている。心情的には理解できるものの、エースは無駄死にだという意見も一定数いたから。

 後にエースの過去が明らかになって、さらに『ONE PIECE episode A』も発表され、ある程度理解が進んだとはいえ。でもやっぱりエースが悪いよね、というのが主流である。特に冒険者は生死観にシビアで、生きるチャンスがありながらふいにする者には厳しい。

 この話題は、ある意味アイズに対する黄金の剣である。言い返すのが難しい。

 ちなみに、一番弄られているのはもちろんアリーゼである。彼女をからかう時、「真の敗北者」や「白ひげを敗北者にした男」というのは定番だった。まあ、殴られる覚悟がある者限定だが。

 

「あれはアリーゼ(エース)が悪いんであって、白ひげ()は勝ってるから……」

「白ひげならそんなこと言わないだろ」

「んぐっ……!」

 

 ざっくり切り捨てられて、アイズは言葉を詰まらせた。

 言い返したい。でも言い返すのは難しい。頭の中をぐるぐると、いろいろな反論が浮かんでは消えた。どれ一つとして決定的なものではなく、そもそもこの問答は、何度も繰り返した類いのものなのだ。

 最終的にアイズがたどり着いたのは、禁句だった。先に出してきたのは相手なのだから、自分だってこれくらい言ってもいいではないか、と。

 

「海軍だって……()()を守ってるだけのくせに……!」

「おまっ!」

「ちょっ、アイズさん! それはまずいですよ!」

 

 その単語は、オラリオでは言葉にするのも憚られるものだった。つまり――『天竜人』。

 『ONE PIECE』には、弁明の余地がない者などほとんどいない。許せるかはともかく、そうなるに納得できる過去があったり、悪には悪の魅力があったり。あの超絶小物のちょい役でしかなかったベラミーですら、後から男を無茶苦茶上げているのだ。

 その少ない例外が天竜人だ。情けなく、みっともなく、愚かで……救えない。ともすれば、闇派閥(イヴィルス)より駄目な奴らという評価をされていた。いや、『ONE PIECE』だから多分後から何かはあるのだろう。それでもさすがに……となってしまうのは仕方なかった。

 さすがにそこを指摘されるのは痛いし、同時にイブリも黙っていられない。

 

「海軍を()()の犬扱いは酷い侮辱だ! それに、あくまで海軍は世界政府の下部組織だから従わなきゃならないだけなんだよ!」

「でも守ってる」

「サカズキは、心情的に反()()だ! 好き好んで従ってる訳じゃないし、許されるならとっくに排除してるぜ!」

「でも従ってる……!」

「こいつ……!」

 

 ぎりぎりと歯ぎしりするイブリに、口をへの字に結んでにらみ返すアイズ。その様子を、レフィーヤははらはらと見ていた。

 さすがにこれは言葉が過ぎる。言葉狩りのような状態で、単語すら忌避されている理由が分からない訳でもあるまいに。今や「お前って天竜人みたいだよな」というのは、全くの本気で「殺す」というよりも危険な言葉なのである。宣戦布告を通り越して、殺してくれと言っているようなものだ。

 そして、天竜人という言葉にはもう一つの致命的な欠点があり。それをイブリが突いた。

 

()()がどうのを言ってしまえば、そもそも俺たち冒険者はどうなる! ポジション的に神がそうなんだぞ!」

「ぐうぅ……!」

 

 今度はアイズが、ダメージを受けたようにのけぞった。

 そう、天竜人という単語が使われなくなった理由の一つに、『神』が似たような立ち位置にいるという事があった。

 神とはあまりにも性質が似ているし、なんなら性格までそっくりな奴すらいる。このことを指摘され(あるいは自力で気付き)、無茶苦茶へこんだ神が多数出てきたのだ。泣いちゃった神までいるくらいだし、そこまでいかなくとも、行動を自重しようとする神が大量発生。眷属も眷属で、あまりにかわいそうなため、言葉に出さなくなったくらいだ。

 どちらかというと神と人の思いやりの結果だが。ともあれ、そういった経緯があって禁句となっている。

 ちなみに、最初からまともだった神はドンキホーテ・ホーミングと言われ、後からまともになった神をドンキホーテ・ミョスガルドなどと言ったりする。他の○○聖は基本的に侮辱扱いだが、シャンクスの天竜人疑惑もあって、最近は見直されつつある。本当にちょっとだけだが。

 

「ぐぐぐ」

「ぬぬぬ……」

 

 言い合いは均衡した状態へと戻り、同時に双方とも何も言えなくなった。お互い一番大きな弾は既に放っており、これ以上はない。細々とあげつらう事はできるが、禁句を言い合った後ではさざ波にもならないだろう。

 しかし、その沈黙は短時間で終わった。彼らの近くを、関係がないようで全く関係がない、双方だけが関係者だと思っている者が偶然通りかかったから。

 何も知らないオッタルは、いきなり無数の視線に縫い止められてぎょっとした。

 

カイドウ(オッタル)は百獣海賊団なんだから、私に同意するはず」

「いいや違うね! こいつは四皇の中でも特別過激なんだ! んなもん全部関係ないって言うはずだぜ!」

「……何の話だ」

 

 微妙に引きながら、オッタル。

 単語を拾う限り、『ONE PIECE』の何かなのだろうというまでは察せられた。が、それ以上は分からないし、そもそも関わらない方がいい空気を出していた。

 彼からしてみれば、どちらも等しく格下。アイズは自分に通る攻撃力を持っているものの、総合的には未だ遙か及ばない。オッタルを脅かせるようになるには、今暫く時間が必要だろう。もっとも、それは彼が停滞し続ければの話だが。

 殴って解決するのも、完全な悪という訳ではなかった。面倒くさい奴はぶっ飛ばしておとなしくさせろというのが、フレイヤ・ファミリア流だ。

 だが。だが……。

 曲がりなりにも、オッタルはカイドウである。世界最強の生物だ。鷹揚に構えているべきだし、話を聞いてやるくらい懐も大きくあるべき。

 なんだかんだ、彼も原作に脳を焼かれている者の一人だった。理屈よりも、それっぽさで動きがちになっている。

 

「とりあえず説明をしろ。話はそれからだ」

 

 それが、地雷を自ら踏み抜く行為だとも知らずに。

 

 

 

 主義主張が会わずに対立が起きることは多い。しかしそれと同じくらいに、和気藹々とする例もあった。

 

「――であるからな、これは大発見だ! まさか柄や鞘を厳選して、性能を向上させられるとは!」

「うん、興味深いね。もっといろいろと見てみないと……」

 

 並んで和気藹々と話すのは、『最上大業物日輪刀斬魄刀呪具とにかく何でも作り隊』の椿・コルブランドと、『金色の夜明け』のナァーザ・エリスイス。

 この二人の付き合いが始まったのは、仕事関係だった。植物由来のあらゆる稀少素材を、ナァーザがヘファイストス・ファミリアへ持ち込んだのが最初である。

 それ以来、彼女らはかなり親密になった。石の粉末より優れた土塗りの素材や、水や油より適した焼き入れ液(樹液)探しなど。かなり込み入った話しをしているうちに、今では親友と言っても差し支えないほどの関係になっている。ナァーザにとってはそれを抜いてもお得意様であり、上手く付き合わない理由がなかった。

 現在では、オーダーメイドの武器に特装するための植物まで卸している。逆に言うと、それくらいやってみようと思えるほど、ナァーザがお安く大量に売っているという事でもあった。いかに彼女が椿との縁を大切にしているかが分かる。

 

「最近はヴェル坊……ああいや、もう坊主とは言えんな。ヴェル吉に、発想と実現力で上をいかれてしまっている。ここで一つ、手前は斬魄刀を実現しようと考えている訳だ」

「いいな。実現できたら、私も欲しいかも」

「その時は、手前が打ったものを渡そうではないか。何がいい? 弓にするか、それともナイフあたりにしておくか?」

「ナイフがいいかも……今の弓は気に入ってるし」

 

 ナァーザは正直、武器は何でもいいとすら思っていた。というか能力を得てからは、半ば埃をかぶっている状態である。そもそも現在の攻撃手段はほぼモリモリで、武器を使う事がほとんどない。それこそ、チームで活動している時くらいだ。

 チーム同士の諍いは、原作に起因する場合がほとんど。ということは、原作における対立がなければ、大抵の場合は対立そのものが発生しない。まあ、その上でいざこざを起こす者もいるにはいたが。まあ、そういう奴はチームとか関係なしに諍いを起こすもの。関係ないと言えば関係ない。

 また、チーム名も、別に作中存在しなければつけてはいけないというルールはない。あくまで命名は自由で、そこに作中存在する組織をつける者が大多数というだけだ。椿みたく、己の欲望100パーセントな事もある。

 ナァーザみたく、能力と原作が乖離する例も少数ながら存在した。

 彼女としては、別に原作に登場している能力じゃないし、そもそも一番好きな作品は違うし、といった感じである。ただこういう場合、たまに裏切り者扱いされるから注意は必要だった。

 つまり、彼女達は比較的カジュアルな活動であり。自分をマジに、チーム名を介して原作のキャラクターと同等と考えているやべーやつとは違う。

 なお、比較的派あくまで比較的でしかなく。彼女達がやばくないとは言っていない。

 

「ハァァァァ……ホワチャァ!」

「セコンズ! セコンズゥ! セコンズ出ろおお!」

「うーむ、あちらは元気だな」

 

 いろいろな所から、絶叫やら悲鳴やらが聞こえる。ただし、危機を感じているようなものではない。

 最近の上層は、こう言ってはなんだが『遊び場』となっていた。低ランク冒険者のみならず、場合によっては第一級冒険者にとっても。冒険者の平均能力上昇で、だいたい10階層くらいまでは新人以外いなくなってしまったため、ともすれば迷惑になるような行為も見逃されていた。いくら言っても聞かないので諦められた、とも言う。

 漫画には、いろいろな武術が出てくる。指を弾丸みたくするもの、手足を刃みたくするもの、『ドラゴンボール』とは異なる不思議パワー気を対象に叩き付けるものなどなど。上層は、そうったものの訓練場になっていた。

 漫画の格闘技術は、現実味のあるものから、そんなん無理だろというものまで様々だ。しかし、訓練を続ければ意外な結果を残すこともあった。そう、スキルとして発現するのだ。そうやって漫画にちなんだ新しいスキルを生やした(頭のおかしい)者は、それこそ能力者より遙かに少ないながら、確かに存在する。

 有名どころは、やはりハトホル・ファミリアのネルナッティだろう。彼女は『北斗神拳伝承者』という規格外に過ぎるスキルを発現し、本当に指先一つで人もモンスターも倒すという真似をするようになっていた。リアルケンシロウとかリアルトキとか言われている。ジャギやらアミバやら扱いすると、半日くらい悶絶する経絡秘孔を突かれるから注意が必要だ。

 ちなみに、ネルナッティは魔導士である。『北斗の拳』に準ずるためわざわざ体を鍛え治し、実践で技を高めてスキルに至ったという、気合いの入った御仁だ。

 

「はっはっはっ。元気で何よりだ!」

「私達も、人のことは言えないけどね」

 

 彼女達のチームも、なんだかんだごっこ遊びをしたい。あわよくばスキルが生えてきて欲しいと思って探索している。問題かそうでないかと問われれば、まあまあ問題な行動だった。飛び抜けた問題児が多いから、大きく取り沙汰にされないだけで。

 かといって、利益が個人にしかないわけではなく。なんだかんだ、ギルドも活動自体は推奨しているのだ。

 結果的に上層のモンスター討伐件数が増えたことで、怪物の宴(モンスターパーティ)の発生率は下がっていた。その上、人の目が多くなったことで、怪物進呈(パス・パレード)被害も目に見えて減っている。これで喧嘩さえ起こさなければなあ……とはギルド職員のぼやきだ。

 

「ところで、今まで聞いたことがなかったのだが。どれを求めてチームを組んでいるのだ?」

 

 何をを、ではない。ごっこ遊びでないとすれば、チーム編成をするのは、スキルか魔法意外にないためだ。故にこの場合の質問は、どんな漫画のどういったスキルを求めて、という意味になる。

 

「ん……名前の通り、『ブラッククローバー』系の魔法を獲得したいなって集まったチームだよ」

「魔法をか。それはまた難儀な……」

 

 スキルに比べて、魔法の発生率は低い。正確に言えば、求めるレベルの威力と応用力を得られる事が稀だった。

 そもそも、魔法は使い勝手が悪い事が多い。とりわけ自然発生した魔法は、詠唱が長い割に効果がしょぼい、なんて事はよくある。

 ついでに言えば、Lv.5の時に有用な魔法を覚えたところで、どれほども扱えないのだ。それまで全く魔力ステイタスが成長していないのだから。高ランクで魔法を覚えたが、威力はLv.2そこそこ、などという事例はよくある。

 だから謎のファミリアが配る「確実に有用で」「魔力ステイタスに依存しない」魔法がありがたがられているのだ。

 今の所、漫画に関連しながら謎のファミリアの魔法ほど有用な魔法は存在しない。いや、長くとも速攻魔法程度の詠唱しかない魔法と比べるのが間違いではあるのだが。

 

「そっちはどうなの?」

「あ、いや、手前は……」

 

 なぜだか、椿はもじもじとし始めた。ちらりとナァーザを見た後、指遊びまで始めた。

 言いたくない、といった様子ではない。しかし、普段豪快な彼女がこんな様子を見せるのだから、よほど恥ずかしいのだろう。

 

「うむぅ……実は白打を覚えたくてな」

「白打……『BLEACH』の?」

「そうだ。いや、分かっているのだぞ? 最上級鍛冶師(マスター・スミス)たるもの、武器に精通すべしとな。だがあれを見て、素手での格闘格好いいなー、と。曲がりなりにも最上級鍛冶師(マスター・スミス)がすべきではないと分かっているのだが、憧れはどうにもな……」

「別にいいんじゃない?」

 

 ナァーザには、ごく普通で健全な理由に思えた。どこに語るのを憚った部分があるのか分からない。ひっかかりがあるのは鍛冶師(スミス)としてか、それとも椿の感性なのか。

 と、近くを爆走する音が聞こえた。鈍い打撃音が連続しているから、モンスターをなぎ倒しながらなのは確実だ。そして、絶叫までしている。

 

「うおおおお! 波紋疾走(オーバードライブ)生えろ瞬閧生えろ亀仙流生えろ逕庭拳生えろ! 正直もう何でもいいからとにかく何か生えろ! 俺に何もかもを粉砕する拳を与えてくれ!」

 

 非常に馬鹿っぽい様子を店いてるのは、確かハシャーナ・ドルリアと言ったか。武器どころか甲手すらもつけておらず、ぱっと見は丸腰だ。

 漫画が現れて以降、彼のようなスタイルは爆発的に増えた。何というか、格闘をするなら裸拳の方が格好いい、という風潮が出てきたのだ。孫悟空、虎杖悠仁、ルフィ、マッシュ。格闘が主体のキャラクターは、バンデージすら巻かない。そこに影響された者は多かった。

 無論、真面目に戦うときまで裸拳にはしない。ただ、趣味兼スキル習得の時は自重しないだけで。後は、ほんの僅かではあるものの、そういった細かい部分まで原作に寄せた方がスキル発生率が高いという研究がある。

 ナァーザは彼を横目で見ながら指を差し、椿に言った。

 

「ああいう風でさえなければ」

「いやまあ……さすがにあそこまで酷くはならん」

 

 ハシャーナの形相に引いて、ちょっと正気を取り戻した椿だった。

 さておきと、彼女らは探索を続ける。この辺はまだ人が多いので、無理にモンスター狩りはしない。彼女らは基本的にまったり勢なのだ。

 

「ところで、遠征の話は聞いているか?」

「ううん、初耳」

「では、そのうち打診があるだろう」

 

 ナァーザは大規模な遠征があると、結構な確率で誘われる。理由は二つあった。一つは、同行させられれば回復薬(ポーション)をかき集める必要がないから。もう一つは、彼女に深い層の植物を覚えさせるというもの。

 どんな植物でも生み出せるモリモリの能力と言えど、限度はある。具体的に言えば、まるっきり新種の植物だと、知識と想像力が追いつかないのだ。品種改良だけだとしても、かなりの時間が掛かる。決してランクが高いとは言えない彼女。遠征に同行させてダンジョンの新しい植物を覚えさせるのは、多方面に利益をもたらすものだった。深層の植物を収集するのは、実はドロップアイテムを集めるより難しいのである。

 

「多分行けると思う」

「それはよかった! 実は最近、『ガオケレナの朝露』という名称が付いたアイテムが見つかってな! かなり有用そうなのだが、如何せん入手が難しく、いろいろと試せるだけの量を用意できないのだ。量産して貰えるようになるならありがたい」

「試してみる」

 

 植物由来だからといって、絶対に複製できるわけではない。別の要素が絡むと、上手くいかない事もあった。

 

「その時はだな、ふふふ……」

「むふふふ……」

 

 思う存分語らう事ができる。

 漫画はどの作品について話すかは重要であるが、それと同じくらい、波長の合う相手と話すのも大事だと思っている。鉄と薬。ジャンルは違えど、どちらも物作りを生業としている。話が合うのも当然の事だった。

 

「実はな、リボルバー拳銃を試作しているのだ。だがこれだと、どうしても射程距離が短い上に、黒色火薬では威力が足りないようでな。かといって火炎石だと、燃焼後の不純物が多すぎて銃口を詰まらせる。腹が立って、いっそ超小型魔剣の弾丸を作ってやろうかと思ったが……試算ではコストが1000倍以上になってしまった。さすがに馬鹿馬鹿しい。ここで一発、なんかいい具合の火薬を作れないものかと考えている。いや、銃身を延長するのが先か……」

「いいよね、ロマン溢れる」

「腰抜け共は、いっそ大型化したらどうかなどと言ってくる。技術の高度化に試作はよくても妥協はいかんと、口を酸っぱくして言っているつもりだったのだがなあ……」

「気持ちは分からないでもないけど……クイックドロウ、してみたい」

「うむ、そうなのだ! 腰からすぱっと抜いて華麗に連射、そこが重要だと言うのに! ただぶっ放すだけなら魔剣でもいいとなるのだ、馬鹿め!」

「マシンガンは? 狙撃銃は? スタンリー・スナイダーごっこできる?」

「まだ難しい。自動連射機構の構造が分からんし、狙撃銃に関しても命中精度を再現できん。あれは、本当にどうやっているのだろうか……。ああ、知りたい! 作りたい!」

 

 ナァーザは腕を組み、むちゃくちゃ頷いた。

 漫画に薬師はほとんど出てこないが、もし活躍する薬師がいたら、意地でも真似しようと考えただろう。だいたいみんな考えることは同じで、再現の先駆者たろうと努力している。実はナァーザだって、ランブルボールを開発中だ。使う相手はいないが。

 漫画は次々と新しい作品が出ている。それだけ可能性があり、機会があるという意味もであった。

 今度こそ、自分が一番に。多くの制作系冒険者と同じく、二人もそんな野望を抱えて、今日を生きていた。

 

 

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