要望があったのでまさかの続き。

黄金のサーヴァントこと金ぴかさんとの戦い+α

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【まさかの続き】オーラントが聖杯戦争に呼ばれたらしいですよ2【デモンズソウル×フェイト】

 意識無く地面に倒れ伏した男を――間桐雁夜を見下ろしながら、白きサーヴァントは思考の海にその手を伸ばしていた。

 

 白きサーヴァントは、己の現状を正しく認識できている。

 彼が腰掛けたのは北の大国にある崩れた玉座ではなく、聖杯戦争と呼ばれる戦いの“狂戦士”(バーサーカー)の枠であると言う事。

 

 七人のマスターと七騎のサーヴァントが万能の願望器と呼ばれる“聖杯”を求めて殺しあう“聖杯戦争”

 白きサーヴァントは、どの様な因果の元かその戦いに巻き込まれた。

 

 ……とは言えそのような“些事”、白きサーヴァントからすれば果てしなくどうでも良い事であった。

 

 

 彼にとっての存在意義とは、己のマスター()の真の願いとでも言うやつを叶えると、これに尽きる。

 

 かつての彼の主の願いは、彼の世界でソウルと呼ばれたモノを集める事であった。

 

 ――ならば、今は?

 

 白きサーヴァントがそう思考した瞬間、マスター()思考の海(心の中)から見出したのは、紫の髪と死人のような表情と目を持った人形のような少女であった。

 次いで浮かび上がるのは、優しそうな笑顔を浮かべた黒髪の女性。

 ……そして最後に、貴族然とした立ち振る舞いの黒髪の男が浮かび上がる。

 

 少女と女性に対する感情は、とても温かいものだ。

 その感情は、陽だまりに憧れる日陰者のそれに似ている。求めて求めて求め続けて……それでも届かないが、なおも求め続けてしまう。

 対して男に対する感情は、怒りだけ。

 多くを語る必要は無い。あえて言い表すのであれば、その感情は身を焦がすような憎悪のみ。

 

 ――何故、どうして?

 何故魔術師(あのくそったれ)どもは“普通に生きる”事すら出来ないのだ。

 

 ――許せるわけがない。

 俺がどれだけ望んでも届かない彼女からの愛(モノ)を持ちながら、何故その結晶である(桜ちゃん)を容易く捨てる。それも、よりにもよってどうしようもないゴミ溜めに。魂の底から腐った蛆蟲が治める、糞蟲が湧いた糞の掃き溜め、その様な場所に、俺が何よりも望んだ宝石を……

 

 

 それ以上の言葉は不要。

 

 男の望みを知った白きサーヴァントは男の望みを叶えるため――間桐臓硯に対して使用した、白き輝きを放つ己の左手を添えた。

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 ――強さとは何か?

 

 それは人によって様々だろう。

 それが腕力だと答える者も居るはずだ。魔力の大きさだと答える者も、何かしらの技量だとも、何かを記憶する能力だとも、何かを信じる信仰心だとも、尽きぬ体力だとも……或いは、生まれ持った運だと答える者も居るかもしれない。

 

 しかしそう言った外見的な強さ(モノ)は当然として、人によってはそれらを得るために苦労したと言う“事実”をこそ『強さ』だとも言えるのではないだろうか?

 

 例えば、腕力を得るために筋力トレーニングをした。

 その苦労、労力、時間……何でも良い。つまりは、それを得るために支払った「対価」の大きさこそが魂に刻まれる『強さ』ではないだろうか?

 

 ……

 

 ここまで語れば、おそらく予想がついただろう。

 つまり白きサーヴァントが喰らう『強さ』とは、外見的(目に見える)な強さではなく、魂に刻まれた『強さ』なのだ。

 

 白きサーヴァントが振るう秘奥は魂に刻まれた『強さ』を奪い取り、“結果として”肉体の面が弱体化する。

 

 先ほどの例を出すのであれば、筋力トレーニングを行った“過程”を奪われる故に、“結果”として筋力が弱くなるとでも言えば良いだろうか。

 苦痛も苦労も、それにかけた時間も巻き戻りはしない。

 自身の苦労を……支払った「対価」を、奪われた側は覚えている。

 しかし奪った側はそんな物を知らない。

 だがそれでも、奪う側は筋力トレーニングを行った“過程”を得る故に、“結果”として筋力が強くなるのだ。苦労も苦痛も、時間すらも必要ない。何故ならそれ(強さ)を得るための「対価」は、己ではない誰かが既に支払っているのだから。

 

 しかし……誰もが望んで「対価」を支払って強さを手に入れたのかと問われると……本当に極少数に限られるだろうが、答えは否だ。

 

 

 ――かつてここではない世界で白きサーヴァントを打ち破った怪物(英雄)が、望まぬままに世界を繋ぎ留める為の楔へと変えられた様に。

 

 ――優秀だからと言う理由だけでその身を蟲に蝕まれ……言葉にする事もおぞましい“過程”の元、誰よりも優秀な黒き器となってしまった哀れな少女のように。

 

 ――そんな少女を救い出すと誓ったが故に救いの無い破滅へと身を投げた、落第者の烙印を押された男のように。

 

 

 ――こんな物はいらない。

 ――こんな物さえなければ。

 

 ――優秀でありたい訳じゃない。

 ――望んで強くなりたかったわけじゃない。

 

 普通でいい。“普通”が良いのだ。だから……ああ、だから――――

 

 ――()は、こんな(強さ)はいらない。

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

「……こ……こは……」

 

 雁夜が目を覚ましたのは、薄暗い地下室ではなく明かりのついたリビングであった。

 

 ――何故ここに? 俺は確か――

 

「――――っそうだ、桜ちゃんは――」

 

 一瞬の思考、そして覚醒。

 唐突に電源を落とされた機械が、ブレーカーを上げる事で再起動するかのように、靄のかかった思考が通常のものへと変化していく。

 そして雁夜は、己の身に起きている変化を理解する。

 

「目が、見える……?」

 

 まともに動かなくなっているはずの左手で、視力を失ったはずの左目付近を押さえる。

 左顔には血走った血管のような歪な肉の歪みこそ存在しているが、もう見ることは無いと思っていた左手の手の平を視界に治める事ができていた。

 肉の内側をナニカが動き回る不快感は消滅しており、慢性的に感じていた痛みも感じない。……代わりに、全身によくわからない活力のようなものが張っている。失った蟲の部分を補うように、力強い何かが全身から感じられた。

 

 

 ――その力が彼の肉体に巣食う蟲を純粋な力へと変換した結果である事を、彼は知らない。全身のいたる部分に魔力タンクとでも言うべき物を備えた雁夜は、彼自身も知らないまま凄まじく優秀な人造魔術師へと変じていた。

 

 

「っ違う、そうじゃないだろ」

 

 そう、己の事など捨て置いて良い。

 

「桜ちゃんっ」

 

 肉体が健全であった時のように――一年前のあの日までのように――極度の疲労を除けば明らかに軽くなっている体を引きずりながら、雁夜は桜の元へと歩みを進めた。

 ――己の片目があの白きサーヴァントのように、鮮血のような深紅に染まっている事に気付かぬままに。

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 結果から言えば、桜()助かった。

 雁夜()そうであったように、“強さ”を奪われた桜はその身に宿した“強さの原因”を余す所なく吸い取られ、一年前養子に出される前と同じ“普通”と呼んで差し支えの無い肉体へと“劣化”したからだ。

 髪の色や雁夜と同じ過程を経てどうしようもなく優秀となった肉体が普通に戻ることはなかったが、それでも一般的に見れば普通である。魔力を摂取するために肉体が疼く事はなく、望まぬことを強制される事もない。

 故に桜はおぞましい地獄から救い出され、()()()()が唾棄すべき邪悪は()()白きサーヴァントが駆逐した言って良いだろう。

 

 当然、雁夜は喜んだ。

 桜も、絶望に沈んでいた心なりに喜んだといって良かった。彼女はこれから、その喜びを“普通”に表現できる“普通”の少女となっていく事だろう。……その目に宿る怪しい輝きが、白き王を捉えない限り。

 

 

 後顧の憂いが無くなった雁夜は、愛している女への情と女の夫への復讐心で“間桐”の()()として聖杯戦争に参加することとなる。

 

 ――少女を絶望から救い上げた英雄は嫉妬と憤怒に塗れ、物語は加速する。

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 倉庫街に立ち並ぶ無数の倉庫、コンテナ、クレーン――人々の視線を遮る障害物の中、二騎のサーヴァントが刃を交えていた。

 

 一騎は、清らかな湖のような青い服と輝く黄金の髪を持つ未だ幼さ残した少女。

 一騎は、二本の槍が特徴的な鍛え込まれた細身を持つ長身の男。

 

 一瞬で生死を分ける剣戟からどちらの技量は疑いようが無く、駆け引き、気勢、闘志その全てが英霊と呼ぶに相応しい。

 しかしその様な事、雁夜にとってはどうでも良かった。彼が狙う得物は唯一つ。それがこの場に居ないのであれば、どれほど鮮烈な剣戟だろうが雁夜の魂を揺さぶる事はない。

 

 

 征服王イスカンダルと名乗ったライダーが声を大にしてその主義を語る。

 そしてその声に応えるよう黄金の鎧を身に纏った金髪の男が現れ、やつと重なる手前勝手な理屈を語り始めた。しかし、それをこそ待っていた。故に――

 

「殺せ」

 

 ――雁夜は何の躊躇いもなく、最強と信じる手札を切った。

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 それは唐突だった。

 白い霧と共に唐突に現れたそれは、魂を押し潰すかの如き莫大な力の奔流を従え、知らず膝を付きそうになる圧倒的な王気を纏った白き男であった。

 暴君の如き力を見せつけながら、しかしその瞳には人間の魂さえ覗き込む知性が垣間見える。長身ながら服の上からでも理解できるほどに鍛え込まれた肉体は、頼りないといった類の印象を欠片も抱かせる事はない。

 老いによって一本残らず白く変化しているオールバックの髪は、老いよりも神秘さを醸しだしてこの男を触れ難い天上人のように彩っていた。

 

 外見から感じられる印象で語るのであれば、歴戦の戦士。

 瞳から感じる印象であれば、熟練の魔術師。

 そして、雰囲気から感じられる印象であれば――この白きサーヴァントは、誰もが名を知っているであろう偉大な王であった。

 

 

 唐突に現れ、この場を見ていた全ての存在の視線を一身に集めている白きサーヴァントは、しかしそんな者たちの視線など意に介する事無く天空を仰ぎ見ている。

 鮮血を思わせる深紅の瞳はどうしようもないほど敵意と殺意に濡れており、“敵”を見る目で天空を背負った黄金のサーヴァントを見上げていた。

 

「誰の許しを得て我を見ている」

 

 しかし、それを許さないのが黄金のサーヴァントであった。

 己の顔さえ知らぬ無礼者を態々手打ちにしようとした瞬間に水を差されたのだ。既に黄金のサーヴァントの苛立ちは限界に達しており、彼自身それを我慢するといった感情自体が存在しない。

 

 王を名乗る有象無象に加え、誰の許しもなく己を見る無礼者のバーサーカー(狂犬)

 故に、この後に起こる現象は必然であった。

 

 

 黄金のサーヴァントの言葉が終わると同時に、空間を歪ませる天空から二種類の宝具が黄金の輝きを纏ってバーサーカー目掛けて射出される。しかし――

 

「なッ!?」

 

 次の瞬間に驚愕の声を発したのは、一体誰であったのだろうか。

 

 白きサーヴァント――バーサーカーであるはずのこの男は黄金の輝きを纏った二種類の宝具を、何時の間にか手にしていた大型の方刃直剣で弾いていた。

 それ自体は、さして問題ではない。

 バーサーカーと言えどもサーヴァント。仮にも英霊と呼ばれる存在であれば、どれほど驚異的な一撃であろうがジャブに等しいそれで命を落とすなど恥でしかない。

 故に驚愕はそれ以外。

 白きサーヴァントが、思わず目を見張ってしまうような流麗な()()でもって、黄金のサーヴァントの()()()()で打ち払った事にこそ驚愕したのだ。

 

 素早く振るわれた剣戟は力強く、黄金のサーヴァントの一撃目を難なく防いだ。

 問題なのは、黄金のサーヴァントの二撃目を防いだ正体不明の技であった。

 剣先から斬撃が伸びたかのように、空気を切り裂いた衝撃派のような半透明の三日月が空を裂き黄金のサーヴァントの二撃目を打ち払ったのだ。

 黄金のサーヴァントの宝具を弾いた事実がある以上、白きサーヴァントが用いた正体不明の技が力技でない事は間違いない。

 ならば魔術なのかと問われるとそれも違う。宝具と魔術ではその身に秘める神秘の密度が違いすぎる。宝具で魔術を弾く事は可能であるが、その逆はありえない。用いた魔術が宝具に近いレベルのそれであれば可能であるかもしれないが、何の溜めもモーションも、詠唱すら存在しない魔術がそれを行う事は不可能としか思えない。

 加えて、それを行ったのがバーサーカーである事が彼ら彼女らの驚愕を大きくする。

 

 バーサーカーと語られる名が表すように、この男は狂戦士。

 理性や知性はもちろんの事、意味のある言葉ですら発する事は出来ないはずなのだ。

 本来自身が持っていた宝具の真名を開放する事すら出来ない存在が、宝具すら弾く魔術の詠唱を可能とするのだろうか?

 どう考えても答えは否。そもそも、この男は現れてからこの瞬間まで一言ですら発していない事はこの場全ての存在が理解している。

 状況的にも理屈的にも、白きサーヴァントが何を行ったのかを理解できる者は存在しない。

 

 ――しかし、()()()()の事で黄金のサーヴァントは己の判決を翻すような男ではない。

 

「我が宝物を砕くとは……そこまで死に急ぐか、狗ッ」

 

 黄金のサーヴァントの怒勢に応えるように、先ほどとは比較できない規模で天空が歪む。

 夜の空を覆いつくすように黄金の揺らめきによって空間が歪み、そこから無数の宝剣が顔を覗かせる。

 その数、実に十六。

 先ほど打ち出した二本と合わせれば二十に近い数である。その全てが宝具など、宝具という存在を知る者であれば冗談か悪夢でしかない光景だ。

 

「何処まで防ぎきれる?」

 

 余裕さえ滲ませて、黄金のサーヴァントが金に輝く魔弾を発射する。

 その偉容はあらゆるものを打ち砕く黄金の奔流そのもの。彼にとっては通常攻撃とさえ言える気軽さで放ったそれですら、一般には神話で語られるべき必殺だ。

 黄金のサーヴァントがそう言ったように、普通であれば何処まで防ぎきれるのかを楽しむだけであっただろう。

 そう、普通であれば、だ。

 

 

 白きサーヴァントは、水の上を滑る様に、足を動かす事無く高速で移動を開始した。

 人間の目では消えたようにしか見えず、サーヴァントの動体視力で見ているからこそ理解できる、そのスピード。

 足を動かしていないが故に踏み込みのタイミングなど存在せず、白きサーヴァントの体捌きがそうさせるのか体がぶれる事すらない。

 それは距離感を惑わせる技となり、正面からバーサーカーを見ている者であれば一瞬で目の前に現れたように感じられただろう。

 

 大型直剣を腰に構え、常に一撃必殺を放てるという状態のまま、白きサーヴァントは目で追う事がやっとの速度で黄金の奔流を乗りこなす。

 

「イ゛ァッ! ゼァ゛!!」

 

 かわす事が出来ぬのではなく、そうした方が早く敵の下まで辿り着ける。

 そんな理屈の元、バーサーカーが素早く二連撃を放つ。

 

 切り払い、切り下ろす。

 たった二度の動作で己に迫る三つの黄金を打ち落とし、アーチャーの立っている外灯を切り飛ばす。

 そして強引に同じ大地に立たされたアーチャーは、肩を震わせて怒りを露にする。アーチャーの怒りに引き摺られる様に空間の歪みがさらに増加し、黄金が天を覆うという言葉を体現するに至る。

 歪みの中から大量の宝物が頭を覗かせ、主の怒りを解消しようとバーサーカーに照準を合わせようとしたが――

 

 ――が、既に遅い。

 

 

 アーチャーが放った黄金の魔弾にも近い速度で距離を詰めたバーサーカーは、既に自身の間合いにアーチャーを捕らえていた。

 

「ヌゥゥウンッッ!!」

 

 裂帛の気合いと共に、初めてバーサーカーは踏み込みの姿勢を見せる。

 大地を踏み抜かんばかりに力強く踏み込み、巨人と見紛う程に巨大な肉体の頂点から力強く剣を振り下ろす。

 

 ――受ければ死ぬ。

 

 そう思わせる何かが乗せられた一撃は、単純な力の暴力さえ伴いながらアーチャーの肉体に直撃した。

 

「ぐっ」

 

 アーチャーの呻き声と共に轟音が響く。

 地面を削りながら大きく吹き飛ばされ、強制的に距離を取らされる事でこの攻防に決着がつく。

 

 しかし、死んでいない。

 両腕を交差させてバーサーカーの一撃を防いだアーチャーの反応速度は良く防いだと言われるべきであり、彼が身に纏った黄金の鎧も持ち主に刃を届かせぬ素晴らしい耐久力である。その二つがあったからこそ、アーチャーは戦闘不能に陥らずに大地を二本の足で踏みしめる事ができている。

 

 この場の誰もが知らぬことではあるが、バーサーカーの持つ剣は魂さえ切り裂く。そんな物を大地を粉砕する力と共に振り下ろすこの技は、名前こそ存在しないがかつて数多の英雄と名の知れた鎧を共に葬り去ってきた絶技の一つである。

 それを無傷で防いだアーチャーの反射神経と鎧は驚異的としか言えないものなのだ。だが――

 

「この我を同じ大地に立たせるどころか、斬りつけるか。貴様……肉片一つ残せると思うなよッ!!!」

 

 ――生きているのだから良かっただろうと。そんな事を考えるほど、黄金のサーヴァントは謙虚ではない。

 天に仰ぎ見るべき己を同じ大地に立たせたどころか、あろう事か切りつける。無礼としか言えないこのバーサーカー(狂犬)の所業を許す事ができるほど彼は我慢強くない。

 

 アーチャーの怒りに呼応し黄金から彼の怒りが放たれようとした、その瞬間――

 

「……時臣、貴様如きの言でこの我に引けと?」

 

 ――まるで興醒めとでも言わんばかりに、アーチャーの怒気が霧散した。

 先ほどまで隠す事のなかった、天を覆う巨大な怒気は黄金の歪みと共にその質と量を減らしていく。気に食わないとばかりに舌打ちしたアーチャーであったが、その舌打ちが合図となって最後の歪みが消滅した。

 

「……ふん、興醒めもいいところだ。命拾いしたな、雑種」

 

 そう言い、アーチャーはバーサーカーに背を向け空気に溶けるように霊体化を始める。

 声と存在感だけを残していたが、やがてそれさえ消滅する。

 後に残ったのは天を見上げるバーサーカーと驚愕の表情を浮かべたマスターたち、そして油断なくバーサーカーを警戒しているサーヴァントたちであった。

 

 誰も言葉を発する事はないが、このバーサーカーが難敵である事はみなの共通認識であった。大量の宝具を有するアーチャーを撃退したその力は疑いようがなく、正体不明の技も含めて技量に速力、膂力の全てが高レベルで纏まっている。

 加えて先ほど見せた高速移動でマスターを狙われたのならば、逃走はおろか防御でさえ困難を極める事が分かりきっている。気を抜く事などできるわけがない。

 

 それを理解しているからこそ、セイバーとランサーは油断しない。

 だがライダーはそんな常識には囚われず、気軽な感じで声をかける。

 

「白いの、お前さんやるのぉ。理性があるのであれば我が軍門に下る事も許すが、どうだ?」

 

 ライダーの問いに、他の殆どの者たちは呆れていた。

 だがライダーの言葉の意味を理解しているセイバーのマスター――姿を隠している方――は、内心で都合が良いとも思っていた。

 

 この白いサーヴァントは、バーサーカーでありながら理性の影がチラついている。誰にでも噛み付く狂犬ではなく、狙った相手を確実に仕留める猟犬に見えるのだ。三騎のサーヴァントと二人のマスターが傍に控えながら、一直線にアーチャーを狙ったのがその証拠だ。

 バーサーカーの狙いがアーチャーであれば、難敵である両者が潰しあうまでは放置で問題ない。

 

 

 ライダーの言葉を聞き振り返ったバーサーカーは、ぐるりとサーヴァントとマスターを見回した。そうする事で己が狙うべき獲物が居ないと理解したのか、声をかけたライダーに背を向けると、現れた時と同じように白い霧と共にその姿を消す。

 

「こりゃぁ、振られたか」

 

 むなしく響くライダーの台詞が、第四次聖杯戦争初戦終結の合図であった。

 

 

 

 

 

 

 


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