理由のない悪意、その刃が向かう先。

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この物語はフィクションです。
犯罪教唆の意図はございません。
一部に不快な表現を含む描写があります、苦手な方はブラウザバックをお願いします。


第1話

闇バイト

あの日、「闇バイトをする度胸もないのかよ」と教室で笑いながら口にしていたバスケ部の彼。俺たちの間では、あのセリフが妙に刺さり、静かに胸に残った。金が欲しい、簡単に手に入れば尚更いい。俺たちを焚きつけたのはその一言だったかもしれない。

 

少し前、SNSに別の学校の男子生徒が高級ブランド品を並べて豪遊する写真が投稿されていた。噂によると、そいつは「闇バイト」で稼いでいたらしい。写真を見たとき、俺たちは「上の世界」に行く扉がそこにある気がした。

 

ほどなくして、俺のクラスでも「闇バイト」の話が密かに囁かれるようになった。最初に始めたのはクラスメートのAだった。「簡単だったぜ」と笑いながら見せてきたスマホの通知には、確かに報酬の振込が記されていた。金を手にしたAは高価なスニーカーを履き、昼食に豪華な弁当を広げ、次第に派手な雰囲気を纏うようになった。

 

それを見て、他の生徒たちも次々とその「扉」を開けた。そして、気付けば俺も友人たちと共に、その流れに乗ってしまった。

 

墜落

初めて手を染めた闇バイトは、無害に思える配送作業だった。顔を出さないように指示され、薄暗い駐車場で荷物を運び、報酬を受け取る。それだけの仕事だった。でも次第に、リスクが高まる仕事を求められ、後戻りできなくなっていった。

 

ある日、見知らぬ車に乗り込み、次の指示を待っていると、突然警察に包囲され、手錠を掛けられた。「未成年者による犯罪組織関与」。俺たちの「豪遊」は、これで終わった。

 

法廷で、「深く反省しています」と頭を下げながらも、頭の片隅ではあの日のバスケ部の彼の顔が浮かんだ。「度胸もないのかよ」と焚き付けてきたあいつだ。俺を、いや、俺たちを破滅させたのは結局あの一言だったんじゃないのか?

 

出所後

7ヶ月の刑期を終えた俺は、灰色の世界に戻ってきた。表向きには更生した少年。しかし胸の内では怒りと復讐心がくすぶり続けていた。

 

バスケ部の彼を探したが、彼は既にどこかに引っ越し、行方知れずだった。他の元クラスメートに話を聞いても、誰も彼のその後を知らなかった。

 

崩れる日常

出所後、俺は食堂の皿洗いのバイトを始めた。だが、そこで待っていたのは厳しい職場環境だった。ある日、先輩が「洗剤の量が多い」と難癖をつけて何時間も説教してきた。それを耐えながら、「洗剤のコストなんて知れてるのに、なぜこんな小言を延々と?」と思っていた俺はついにキレた。

「先輩、それ残業手当目当てじゃないですか?」

正論で反論したことで職場はさらに気まずくなり、俺は数日後に辞めた。そして、その先輩が後から残業代を得るために過剰な指摘をしていたと耳にして、失望した。

 

偶然の再会

退職後、たまたま食堂の近くを通りかかった俺は、かつての仲間だったBがそこで働いているのを見つけた。懐かしさと共に、俺はBに愚痴を零した。

 

するとBは思いも寄らない話をした。

「あのバスケ部の彼さ、この前店に来たんだよ」

 

突然心臓が大きく跳ねた。Bの言葉に、怒りと焦りが混ざった奇妙な感情が湧き上がる。俺の復讐心が再び燃え上がろうとしていた。

 

 

 

復讐

隣町だった。たったそれだけの距離で、あいつは新しい舞台を見つけ、そこで同じように君臨していた。自信に満ちた笑みも変わらない。その顔を見た瞬間、頭の中で過去がフラッシュバックする。あの一言、一瞬で変わってしまった人生、そして虚無の7ヶ月。

 

「俺たちを壊した奴が、何もなかったかのように笑ってるのかよ...」

 

憤りが胸の奥を沸騰させる。かつての仲間たちも似たような気持ちだったのか、復讐を決意するのに時間はかからなかった。

 

狡猾な誘導

調査を続けるうちに、あいつがまた同じことを繰り返していると分かった。ただ、以前より慎重だった。相談に乗るふりをしながら、相手の「欲望」を焚きつけていたのだ。

「金があれば解決するだろ?」

「もっと良い暮らしをしたいなら、簡単な方法があるよ」

 

まるで紐で操られるかのように、相手が気づかないうちに選択肢が狭まっていく。そしてその結果、自分の意志で闇バイトへと手を染める。それがあいつのやり方だった。あの狡猾さに背筋が寒くなる一方で、怒りがその寒さを燃やし尽くしていく。

 

「何が目的なんだよ、あいつは...」

「金?楽しんでるだけ?それとも俺たちみたいな奴を壊すのが生きがいなのか...」

 

そんな疑問さえ、今ではどうでもよかった。あいつを叩き潰す。それだけが俺たちを繋ぎ止めるものだった。

 

尾行

放課後の教室、体育館、塾帰りの喫茶店。俺たちはあいつの足取りを追った。顔を知られる危険を避け、遠くから影のように付いていく。時々、口元を歪ませるあいつの表情を見るたびに、拳を握るのを抑えきれない。

 

「こいつ、マジで楽しんでる...」

あいつはまた誰かの欲望を見透かし、それに火をつけようとしていた。俺たちの背後に残る無数の傷跡を知らず、いや、もしかすると知りながら笑っているようにも思えた。

 

ある夜、ついにあいつの家を突き止めた。洒落たアパートの一室。表札の名前を見て確信する。間違いない。

 

「これで終わらせるんだな...」

誰かが呟いた。言葉に出してはいなかったが、全員が同じ思いだった。

 

憎悪の沸点

夜が更け、計画を詰めた後、俺たちは静かに家路を歩いていた。その時、俺の胸の奥から言葉にならない何かが溢れ出した。

 

「あいつを潰したところで、何も変わらないんだろうか」

声に出すつもりはなかったが、漏れてしまった言葉を誰かが聞き取った。

 

「おい、そんなこと言うなよ。俺たちをこんな目に遭わせたんだぞ!」

 

その返答も、俺自身が自分に言いたい言葉だった。あの7ヶ月、失った時間。もともと期待していた未来だってあったんだ。学校に通い、部活に励み、友達と笑い合うような、普通の青春。あいつが全て壊したのに、のうのうと同じことを繰り返している。許せるはずがなかった。

 

沸点に達した感情が、誰かを傷つけるかもしれないという一抹の迷いを超えていった。

 

対峙

次の日の深夜、俺たちは再びあいつの家に集まった。インターホンも鳴らさず、音を立てずに待つ。やがて、帰宅するあいつの姿を捉えた。鍵を開ける音が聞こえた瞬間、俺たちは立ち上がった。

 

「待てよ」

 

振り返るあいつの目には驚きが広がり、それが嘲笑へと変わった。

 

「お前らか。何しに来たんだ?」

「まだ分かんねぇのかよ。俺たちをこんな目に遭わせといて、何もないと思ったのか?」

 

俺たちの怒りが頂点に達した瞬間、あいつが一歩引き、薄笑いを浮かべた。その態度に、すべての理性が飛んだ。

 

「止まれ」

ニヤつきながらナイフを取り出したあいつに、俺たちは二の足を踏んだ。

「ほら、ほら、危ないぞ」

突くふりをして、幼稚にナイフをひけらかす。

「馬鹿にするな!どうせはったりだ!」

「どうかな?」

何のつもりか奴は自分の腕の外側を何度も切りつけた。

「狂ってる…」

そんな様子に怖じ気づく仲間達だったが、一人が意を決して前へ出る。

「…おまえにされたことは忘れてないぞ!」

仲間の一人が果敢に突っ込んだ!

たが、あいつは躊躇わなかった。

 

 

仲間の腹からは、ナイフの柄が生えていた。

あいつは仲間を躊躇無く刺したのだ!

「この…!」

声を上げる暇すらなかった。

あいつはナイフを手放すとすぐに、隣の仲間を蹴り飛ばした。

その間、俺は見ていることしか出来なかった。

一瞬のことだったし、道が狭く並んだ二人を盾として後ろにいる俺たちの動きを縛り付けたせいだ。

道ばたに横たわり、ナイフで痛がる仲間から、とにかく痛みの元を取り除くつもりで引き抜こうとした瞬間、ナイフを握った手の上に足を置かれた。反射的に顔を上げた俺の顎を膝で突き上げた。

なんて奴だ!

腹に刺さったナイフに全体重を掛けて乗り、俺を蹴ったのだ!

狂ってるとしかおもえなかった。

目の前が回転する。

そして俺はたおれた。

 

 

それから、すぐに警察が駆けつけ、騒動は終わりを告げた。

気付いたとき、二度目の逮捕だった。

容疑は殺人と殺人未遂。

殺人は腹を刺された仲間の件。

殺人未遂はあいつ。

腕の防御痣と、ナイフにべったりついた指紋が証拠だった。

 

あいつの暴行は正当防衛とされた。集団での悪質性の高いストーカー行為に、家の前で集団で待ち合わせて恫喝。あのときの俺は知らなかったが、仲間の中にはナイフや、凶器、催涙スプレーなどを持ってきていた者も居たらしい。

俺が見たナイフの上に乗っての膝蹴りは、信じてもらえなかった。今思えばあれも心証を悪くしたのだろう。

 

これが、闇バイトから始まった騒動の顛末だ。

 

たが、まだ終わらせない…。

あと12年…。


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