仮面の慟哭と凶宴   作:咲野 皐月

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 皆様、おはこんばんにちは。咲野 皐月です。

 先日は1回お休みを告知無しで頂く形となってしまい、大変申し訳ございませんでした。以後この事案が無い様に務めて参りますので、何卒よろしくお願い致します。


 それでは前置きはこの位にして……。

 今宵も、開演でございます。最後までごゆっくりとお楽しみくださいませ。


Melodiam mortis scurris saltantibus canamus.


↓↓↓↓


ひび割れ行く道化たちに、

死の旋律を奏でましょう



#12 Melodiam mortis scurris saltantibus canamus.

「さぁ皆さまお待ちかね、最短でプロデビューを果たした今季最大のダークホース、【Ave Mujica】の出番です! 彼女達が取り巻く仮面舞踏会(マスカレード)は、どんな結末を見せてくれるのか、楽しみですね〜!」

「(余計なプレッシャーかけんじゃねぇよダァホ)」

 

 

 美優の来訪から数日後。

 

 この日は歌番組の収録が夜に予定されていたので、僕もメンバーたちと一緒にスタジオへ訪れていた。そしてAve Mujicaの出番はあっと言う間に間近に迫っていて、祥子オブリビオニス達はステージに立っていた。

 

 その際中にはなるのだが……オブリビオニス達がステージに上がる途中で司会者が言い放った余計な一言に、僕は内心キレそうだったのはここだけの話だ。

 

 

 余計なプレッシャーをかけるんじゃねぇよダァホ。

 

 今こっちはそれどころじゃないんだけどな……。ただでさえモーティスの事で対応が間に合ってないのに、そのうえでこれだ。狂気の沙汰でしか無い。

 

 

「(番組を盛り上げさせる為とは言えど、あれは少々やりすぎだねぇ……)」

「(そうですね、で済めばどれほど良かったか……。私たちには他にも問題があります)」

「(ああ、さっきから気づいてる。あのバカ共、公衆の面前だって事を、まさか無いと思うが忘れてる訳じゃないだろうな?)」

 

 

 ……そう。先に挙げた問題もそうだが、一番の大問題とも言うべき事態が今まさに起こっていて……。

 

 

「いい加減になさって。生放送中ですわよ」

「そっちこそ本当にいい加減にしてよ! マジでやらないつもりなの?! 今変更しなきゃ間に合わないから言ってんじゃん!」

「私たちは演奏をします。演奏をしないバンドが何処に存在しますの」

「パフォーマンスを見たい、と言う要望はどうするの!」

「アモーリス、クドいですわよ。内容については先日の会議で決まった事です……今更変更はありません」

 

 

 オブリビオニスとアモーリスが生放送中にも関わらず口論をしているのだ。口論の原因は先日に行われたライブでのモーティスのパフォーマンスで、オブリビオニスは反対したのに対して、アモーリスは賛成を唱えていた。

 

 彼女としては観客の期待に応えてこそ、と言う側面があったのかもしれないが……その一方でオブリビオニスが唱えた持論もまた然り。

 

 

 先程オブリビオニスが言った……演奏をしないバンドが何処に存在する、の言葉の通り、Ave Mujicaはあくまでもガールズバンドと言う括りとして存在している。その道理に倣うのであれば、観客が見たいのは楽器を用いての演奏を聴きたいのであって、パフォーマンスを見たいと言う訳では無い。

 

 ただ、モーティスの不調に因るあのパフォーマンスを行なった日からと言うものの、ご意見箱にはあの光景をもう一度見たいとリクエストが絶え間無く届いている始末だ。

 

 

 しかしプロデューサーである僕を中心に、緊急会議を開いてこの事について議論を重ねた結果……モーティスの体調を重要で且つ最優先とする事となり、最終的に行われた多数決を元に、パフォーマンスを行なうのは一部を除いて反対と決まった。

 

 ここまでで議論が終われれば良かったのだが、当の反対した張本人であるアモーリスは、その結論に対してかなり不服だった様で、是が非でもパフォーマンスをやろうと言い出したのだ。

 

 

 その光景を見た番組スタッフ達は、このままパフォーマンスをするかしないか、で困惑を露わにしていた。

 

 

「(ねぇ、何か喧嘩してない?)」

「(もうすぐ出番なのに、一体何やってるんだろう……)」

「(聞かされてる私たちの身にもなって欲しいよね……)」

 

 

 そして僕の抱いた思いは共演者にも伝わっていたのか、小声でAve Mujicaに対しての愚痴を言い合い始めた。幸いにもCMを挟んでいるおかげで今はこの程度で済んでいるが、もしCMが明けて今の光景が全国に晒される事が有れば……立ち所に彼女たちを取り巻く環境は一変するに違いない。

 

 そんな光景を見ている僕は、眉間を抑えてため息を着く他無かった。テレビに出て演奏をしよう、と言った矢先にこれなのだからもうお察しだ。

 

 

「(ん、そう言えばモーティスは何処に……。えっ、アイツ……震えてる?)」

 

 

ムジカが、壊れる。

 

 

「あたしはパフォーマンスをする! それが観客(ゲスト)の願いなら、叶えてあげるのが普通じゃない?!」

「何度言えば分かりますの、演奏をします! 第一にこの状況を作ったのは、元はと言えば貴女の所為ではありませんこと?!」

「そんなの今は関係ない、大事なのはライブをどうするかって事でしょ!」

「言い逃れなど見苦しいですわよ! 貴女が勝手な事をしたからこの様な運びになったと、まだ懲りていませんの?!」

 

 

私の所為で。

 

 

「ねぇ、なんか本当にマズくない……?」

「やめようよ、今からでもスタッフさんに直談判すれば、まだ取り合ってくれる……」

「こんなバンド、見たくなかったな〜」

 

 

また、傘を差し出せなかった。

 

 

「(モーティス……っ、なんだ……あれはっ?!)」

 

 

辛かったね。

 

 

 そんな言葉と共に睦の前に現れたのは……モーティスをデフォルメ状態にした様な、傍から見れば可愛らしい人形だった。その両手にはピンクの傘が添えられており、この傘を取ってと彼女を誘っている様だった。

 

 

苦しかったね。

私だけは、睦ちゃんの味方。

 

 

 人形が睦にそう慰めの言葉をかけた途端……周囲から赤だったり、青だったり、白だったりと……色とりどりの傘が空に舞い上がり、空は雲ひとつ無い晴天と化していた。

 

 

「(颯樹さん、アイツ……)」

「(ああ。僕らへの、罰だ)」

「(罰……。じゃあ、アレが……)」

 

 

モーティス……。

 

 

 睦が人形にそう声をかけて、その手にある傘を受け取ろうとした……その瞬間、それは起こった。

 

 人形に無いはずの口が三日月形に開くや否や、その可愛らしい人形サイズだった大きさが、一瞬で人間一人を覆える程に大きくなって行った。そして先程笑う様に開いた口は睦を呑み込まんと開け放たれて……。

 

 

ピンク色の傘を残して、

睦を、一瞬にして呑み込んだ。

 

 

「それでは、CM明けまーす! 本番5秒前〜、4、3」

 

 

 ……まずい、こうなった以上アイツらを力づくで何とかしてでも……と、思った……その時。

 

 

目が覚める度、生き返る。

 

 

「(?!)」

「(睦さん、一体何を……?!)」

「(……)」

 

 

目覚めないのは、永遠の"死"

 

 

「(睦、一体何を……!)」

「(むーこ?!)」

「(睦ちゃん?!)」

 

 

あなたの為に、揺り籠を編むよ

 

天鵞絨(ビロード)で仕立てた、棺みたいな子守唄

 

 

 CMが開けた途端、それに合わせた様にモーティスが寸劇をし始めた。この内容は当然会議中に決めた物では無いので、彼女自身が即興で行なっているアドリブになる。しかし、語りの調子から察するに……。

 

 

「(上手いな、ぶっつけ本番とは思えないぞ)」

「(颯樹、一体何を感心してるのですか?!)」

 

 

 ……あまりにも明朗で、上手い。

 

 その様子に僕を始めとしたスタッフは勿論、モーティス以外の全員は漏れなく驚いていた。そんな僕たちなど眼中に無いのか、彼女は更に語らい続けた。

 

 

(くる)んであげる

 

アナタが、眠りにすら気付かない程に

 

 

 そうしてモーティスは続けた後、ギターを床に置いてカーテシーをした。その際、左眼から涙が流れていたのだが……そんな事は気にならない様だった。

 

 

だから、もう大丈夫

 

 

 ……そして、一言。

 

 

おやすみなさい、良い夢を

 

 

 そうしてモーティスの演じた劇が終わると、司会者が拍手をしたと同時に割れんばかりの喝采が会場の空気を包み込んだ。当然それは今し方演奏をしようとしていた祥子たちでは無く、たった一人で一人芝居と言う寸劇を成功させた……モーティス、その人に向けた物だった。

 

 

 その後はプログラムも順調に進み、収録を終えた後にメンバー全員が一同に介して写真を撮ろうと言う話になった。その光景がどうだったのかと聞かれれば、まず……事情を知らぬ者大半はモーティスが真ん中でも違和感が無いと言うだろう。

 

 だが、それ以外の事情を知る者たちからすると……異様な光景でしか無かった、と伝えるのが精一杯だった。

 

 


 

 

「まさか、このタイミングになるとは」

「嗚呼。俺たちが想像していたよりも、睦にかかっていたストレスは大きな物だったって事か」

「はい。……事の発端を思い返せば、祐天寺さんの身勝手な振る舞いですが、私たちの与り知らない所でもそうなる要因があったのかもしれません」

 

 

 音楽番組への出演を終えた僕たちは、メンバー全員を各々帰宅させた後、三人揃って京介の自宅に訪れていた。なにせ夜分遅くに訪ねた挙句、揃いも揃って収録直後に向かっていたので……玄関先で対応していた桜雪からは、大層驚かれたものだ。

 

 そうして彼女の案内の元、僕たちは京介の先導を受けてリビングへと通され、来客用の緑茶とお茶菓子を受け取り、簡単な会議をしている所だ。

 

 

「本当なら、この場には少年や祥子も同席するのが常だったんだろうが……」

「やめてやれ。獅音は兎も角……祥子は睦があんな豹変の仕方をしたもんだから、未だに精神状態が不安定なんだ。何の拍子に暴れ出すか、分かったもんじゃない」

「……そうですね」

 

 

 この場には当初、獅音や祥子も同席させて話し合いをする手筈でいたのだが……睦の劇的な豹変を目の当たりにした事で、祥子の精神状態はいつ壊れてもおかしくない状況になってしまった。それを見た獅音が駆け寄ろうとしたのだが、それは僕が直前で制止をした事で叶わぬ事となった。

 

 

「……まさか、あの場で咄嗟にあの発言が出るとはねぇ。さすがはプロデューサー、と言った所か?」

「褒めてんの、貶してんの」

「前者だよ」

「なら良か」

 

 

 そんな皮肉を叩かれた後、お茶を入れ終わって一息ついた桜雪に……僕はこれまでの経緯を説明し始めた。兄である京介から説明させても良かったが、ここは立場上自分の方が上に居るので、その状況を利用しようと言う運びになった。

 

 

 そうして少し話した後、次なる議題は今後についてとなったのだが……。

 

 

「桜雪、お前確か今年度の生徒会長だろ?」

「はい、月ノ森の生徒会長は私ですが」

「ちょうど良い……お前に頼みがある。若葉(わかば) (むつみ)……この生徒に注意を払ってくれ」

「……たしかに、高等部にその様な生徒は居りますが……理由をお聞きしても?」

 

 

少年説明中……。

 

 

「……なるほど、理解できましたわ。他でも無いキョウ兄様の頼みですし、それだけ証拠が揃っていて、それを裏付ける理由まであるのなら……私で良ければ、お引き受け致します」

「世話になる、桜雪」

「ありがとう、桜雪」

 

 

 ……ほんと、頼りになるのは友人だね……。

 

 

「っと、そうだ。京介、これは沙綾から聞いたんだけど、ポピパはどうやら Morfonicaとツーマンライブをするらしいな」

「……ああ、そうだ。ウチのリーダーの所にも同じ内容で通達が来てる。あの猫耳ギタリストが言い出しっぺだと」

「香澄か……。アイツ……本っ当に余計な手間をかけさせやがってからに」

「全くだ。ましろが嬉々としてその提案を呑んでいたから良かったものの……そうじゃ無かったら怪しさ満点だ。しかも生放送の行なわれる前に言いやがった」

 

 

 ……ほぅ?

 

 

「すまない、少し出る」

「わかりました」

「?」

 

 

 一人取り残されている桜雪を横目に、僕は一度リビングから退出した。そしてその後に何があったのかは……読者の想像に委ねるとしよう(たぶん概ね予想通りだけど)。そしてその後、福岡公演に向けての話になり。

 

 

「となると、日程なども考えないと行けませんが……そのライブはいつ行なわれるんですか?」

「それが……福岡公演の日と被ってしまった」

「わかりました。では、颯樹に就いて頂きましょう。祐天寺さんや若葉さんが何か粗相をしたなら、即座に対応ができます。それにsumimiの方はスケジュール的に問題無いと思いますので」

「了解した。すまない、こんな大事な時に」

 

 

 いやいや、京介は元から本業優先と言う契約だったし、其方にかかりきりになるなら仕方ないよ。

 

 

「聞いての通りだ、颯樹さん」

「わかってる、福岡公演には僕が就くよ。ここ直近で別のお仕事の予定は入ってないし、あんな事があって直ぐだ……充分に警戒しておかないと」

「その意気です。……っと、そろそろ時間も良い頃ですのでお暇しましょうか」

 

 

 僕と千歌は、急遽自宅に招き入れてくれた流川兄妹にお礼をした後……二人揃って流川邸を後にした。その道中では睦に起こっている症状の再理解などが主となり、帰宅までの道のりはそこまで退屈になる事は無かった。

 

 

 ……そして、家に帰り着いた頃……。

 

 僕のスマホに一本の着信が来たので、僕はリビングの灯りを点けてそこで話し始めた。相手は……獅音からだ。

 

 

『颯樹さん、夜分遅くにすみません』

「どうした」

『……祥子ちゃんの件なんですが、大丈夫ですか。また明日からお仕事もあるのに、帰って来て直ぐに自分の部屋に籠っちゃったんです。まだ晩ご飯も食べてないので、少し心配になって』

 

 

 ……そうか。まあ、酷く落ち込んでいるのは傍から見てもわかっていたし、何よりあの状態の彼女に触れれば、間違い無く何らかのしっぺ返しを食らう危険性があった。だからこそ獅音には制止の言葉をかけたが、自宅に戻ってもこれでは、先が思いやられる。

 

 

「……そこはお前で何とかするしか無い。今そっちに行っても良いが、どうする」

『……そうですよね、わかりました。僕の方でも何とか最善を尽くしてみます』

「気をつけろ、と言うのは簡単だが、そうなってしまった時の保証ができない……だから今は代わりにこの言葉を伝える」

 

 

用心しろ

何かあれば直ぐに報告だ

 

 

『仰せのままに、プロデューサー』

「……それじゃあ今日はお疲れ様、ゆっくり休め」

『はい、お疲れ様でした。おやすみなさい』

 

 

 そんな言葉を最後に、獅音との通話は終わった。

 

 そして僕は軽く夜食を作って食べた後、お風呂に浸かりながら今後自分がどうするべきかを考える事となったのだった。




 以上を持ちまして、今夜はこれにて閉幕です。

 貴重なお時間を使い、最後までご観覧頂きました事……誠にありがとうございます。制作陣一同、心より感謝を申し上げます。


 次回の本小説の投稿予定日なのですが……早くても2週間後の、6月20日を予定しております。また投稿日が前後する場合はその都度お知らせしようと思っておりますので、更新をお待ちいただけると幸いです。


 それでは、また次回の仮面舞踏会(マスカレード)にて。


どうか皆様、良い夢を。
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