今宵も恙無く、開演でございます。
最後の方にはお知らせもございますので、よろしければ其方も併せてご覧ください。それでは……最後まで、ごゆっくりとお楽しみくださいませ。
「……」
ある日の夜、私は寝間着のままでテレビを見ていた。
……と言うのも、普段なら音響代わりに聴いてるテレビの内容の中に、どうしても見過ごせない物があったからだ。
『すごかったよね、モーティスさんの演技!』
……そう、
私はその光景が起こった時、その場に居なかった立場だから詳細までは知らない……でも、こうして大々的に報道をされてしまうと、嫌でも情報が視界に入って来る。
そして今は司会者の人が、モーティス…と言う人に話を降っている所だった。姿形は同級生の
『最近話題になったパフォーマンスもそうだけど、どこまで緻密に台本を読んでるの?』
『あれ実は台本には無くて〜、私のアドリブなんです〜』
『えぇ〜っ?!あれ全部アドリブなの〜!?』
……少々態とらしいのが気になるけど、今彼女の口から聞こえた言葉には、私も少し驚いてしまった。睦ちゃんのご両親は芸能関係者だし……その上、母親が女優をしている。それもあってのその応用力の高さと、誰も寄せつけない程の演技が彼女にはできるのかもしれない。
と言うのは、この後の発言を聞かなければ……そこまで特に気にする事ではなかったかもしれない。
「……っ?!」
……今、確かにそう言った。
聞き間違いなんかじゃない、彼女は確かにムジカの曲を知らないと言った。もし彼女が睦ちゃんなら、そんな発言は絶対にしない。むしろ当事者なんだから、覚えていなかったり演奏できなかったら不自然に見えてしまう。
……でも、彼女はその発言をした。
絶対にバンドに携わる者……いいや、ひいては音楽に関わっている者であれば、絶対に有り得ない事だから。
『えっ、えぇ〜っ? そんな事無いでしょ〜』
『うふふっ♪』
司会者の人が慌てるも、その発言をした当の本人は軽く笑っているだけ。……何があったのか、聞いてみる必要がある。今の睦ちゃんに聞いても、あの司会者の様にあしらわれる可能性が高いから……。
Ave Mujicaの事を知っていて、尚且つ……私と関わりがあって情報提供に応じてくれそうな人と言えば。
「颯樹さん……あの人ならっ」
そう思った私は翌朝、颯樹さんに電話をして事情を聞いてみる事にした。朝早くから相談事に付き合わせるのは、私としては申し訳ない気持ちになったけど……でも、やっぱり私にだって看過できない所があるのもまた事実だ。
「(睦ちゃんに、そんな事が……)」
そして翌朝、いつもの様に学校へ登校していた私は……横目で教室の中を覗いた。そこには周りに集まった女の子たちと、表情豊かに話を続ける睦ちゃんの姿があった。彼女のそう言う顔を見られたのは、元々同じバンドで活動していたメンバーとしては嬉しい気持ちがありながらも……心のどこかでは、少し不自然に感じてしまった。
……と、言うのも。
学校に行く前に颯樹さんに電話をかけて、その時に聞いた話では……どうやら、睦ちゃんにはとある異常が見つかったらしく、彼の方でも対策を講じている真っ最中との事で。
「……」
その話を思い出した私は……睦ちゃんに視線を合わせ、もう一度よく観察してみる事にした。けど、その余計なひとつの行動が要らなかったのか、睦ちゃんには気付かれて……微笑みながら手を振られた。
咄嗟に私も手を振り返して、乾いた様な笑みを浮かべたのを最後に……睦ちゃんはまた談笑に戻ってしまった。
「(……颯樹さんに報告しなくちゃ)」
そう思った私は直ぐ様その場を離れて、校舎からそれほど離れていない距離にある東屋に移動した。あそこは倉田先輩たちがよく集まっていたりするし、多少その場を借りて調べ物をするくらいなら誰の眼にも留まらないはずだ。
しかも今は朝も早くて、始業開始の時間まではまだ少し時間も残されてる……なら、今のうちに。
そうして……スマホを取り出した、は良いものの。
「(あれ……そういえば確か、私……っ?!)」
……気付いた時には、もう手遅れ。
実は睦ちゃんの事を聞いた時間が、ちょうど寝間着から制服に着替えている時だったのだ。それも何かの因果かは分からないけど、上着を着ている時にそんな話を聞いたもんだから、余計に私は自分がやらかした事の重さを実感した。
その所為なのか、スマホを操作する手が小刻みに震えてしまう始末だし……挙句の果てには、どうやってメッセージを送ろうか思考が纏まらなくなってしまった。
「(うわぁ、絶対にひかれたよね……最悪……。私ってば、何て言う時に颯樹さんにあんな事を聞いたんだろう……)」
そんな事を言っても後の祭り。
私はあの時の自分を小一時間正座して問い詰めたい衝動に駆られながらも、懸命にスマホを操作しようとした。
……しかし。
「長崎さん」
「は、……はいっ!」
「こんな所で何をしているのかしら。この学内での携帯機器の使用は、時間を問わず校則で固く禁じられているのだけれど」
「え、えっと……それは……」
そこに運悪く、
八潮先輩は倉田先輩と同じくMorfonicaのメンバーで、バイオリンを担当していて……そのうえ、生徒会副会長をしている人だ。確かある人と恋仲関係にある、って話は月ノ森全体に広まってるから……その辺に疎い私でもよく知ってる事。
何なら、その人の前でだと、普段のキリッとした様子からは想像も出来ないくらいに柔らかくなるけど……今言いたいのはそんな事じゃない。
……どうしよう、この状況を生徒会の……しかも副会長に目撃されるなんて思ってもみなかった。このままだと良くて停学、最悪の場合だと退学処分すら有り得る……何とかしないと……。
「……っ、貴女。それは」
……大変だ、気付かれた。
もう私は何を言われても甘んじて受ける覚悟で、八潮先輩から次に言われる言葉を待っていた。……そう思っていた、次の瞬間だった。
「……なるほど、状況は概ね察したわ」
……えっ?
「長崎さん、貴女なのね。盛谷さんからの言伝を受けた、我が校の生徒って言うのは」
「貴女なのね……って、もしかしてご存知だったんですか?」
「ええ。と言っても、私は京介さんから情報提供を受けていただけよ。貴女が外を駆けて行く様子を見てた時は、まだ半信半疑ではあったのだけれど……東屋でのあの行動で、ほぼ確信に変わったのよ」
……っ、京介さんからの入れ知恵なら、確かに耳も早くて当然か。
「本来ならば、この場で違反者を取り締まるのだけど……今回は見逃してあげるわ。私も長崎さんが気にしている案件に、心当たりがあるから」
そう言って踵を返した後、私の方を再度振り返って……先輩はこう告げた。
「放課後、生徒指導室に来なさい。もし来なかったら違反者として貴女を裁くわ……そのつもりで居る様に」
私にそう釘を刺して、八潮先輩は再び校舎に向かって歩き始めた。そのタイミングを見計らったかの様に始業のチャイムが鳴り始めたので……私は駆け足で教室に戻り、授業を受ける事となった。
そしてその間にはなるけど、登校前に経験したあの出来事が頭を過り、所々で上の空状態になっていたのはまた別の話。
「……来ちゃった」
そうして一日の授業も終わって放課後。
私は午前中に八潮先輩から言われた通り、一人生徒指導室に来ていた。こんな場所に来るなんて、あまり想像した事は無かったのに……でも、今回ばかりは私に非がある。どんなお叱りを受けるか分からないけど、キチンと話を聞かないと。
そう思った私は、中に人が居るかを確認する意味合いでノックを2回した。一応呼ばれて来ている身なので、勝手に入る訳には行かないと思ったからだ。
……そして、少しの間隔を置いてもう一度ノックをしようと思った、その時だった。
「何か、御用でして?」
「生徒会長……居らしたんですね」
「先程まで教員に呼ばれていましたの。瑠唯さんから話は聞いておりますわ」
そんな事を言いながら、生徒会長である……
そうして中に入ると、私は桜雪先輩や八潮先輩と向かい合う形でソファに腰を下ろした(ちなみに入室は私が最後だったので、私が扉を閉めました)。
「さて、今回呼ばれた理由はもうご存知ですわね?」
「……はい」
「何か弁明はありますか?」
「私は、どんな厳罰をも甘んじて受ける所存です」
先ずは校則違反に関しての謝罪が先。
いくら八潮先輩が多少理解をしてくれたとは言え、桜雪先輩にも無言で察して欲しいなんて罷り通らないからだ。
「……はい、結構。顔を上げて下さいな」
そう言われて私は顔を上げると、目の前には神妙な面持ちのままな桜雪先輩がそこに居た。それも某ロボットアニメの司令官を思わせる姿だった。
「長崎さん。私は今回の一件を不問としようと思います」
……はい?
「何を言っているのか分からない、と言った顔ですが……要件を纏めてお話致しますわ。先ずは長崎さんが請け負っている件ですが、実は私も同様の相談を受けているのです」
「……えっ?」
「先日、兄が帰宅された際……颯樹さんと千歌さんがお見えになられた事があったのです。その時に相談されたのが、我が校に在籍している生徒についてでした」
……颯樹さん、私より先に手は打ってたんだ。
如何なる不測の事態があっても良い様に、二重にも三重にも対策を用意しておく……あの人らしいやり方だ。
「そこで。今回請け負った当該の件に関しては、私の管轄でもあります……なので、私と情報を共有致しませんこと?」
「情報を、共有……ですか?」
「はい。貴女は若葉さんとは同級生ですし、何らかの機会で関わる事もあるでしょう……私も注意を払いますが、ことこの件に関しては貴女が一番関係のある事。ですので、その都度機会を設けて対策を話し合いたいのですわ」
……確かにそうすれば、睦ちゃんの事をもっとよく知る事ができるし、何かあったら先輩たちに頼る事もできるし、二つの意味で私にとっては美味しい話だ。
「長崎さん、この一件は貴女が鍵よ。その事を
「……はい、わかりました。肝に銘じます」
「でしたら、現時点で互いに判明している情報を共有致しましょう。対策を打つには、偏った方面の情報だけでは不明瞭ですので」
「わかりました。今、私の方で掴んでいるのが……」
そう言って私は、二人に自分の持ち得ている情報(殆ど颯樹さんから聞いた事だけど)を共有した。二人も最初は驚いていたけど、そこは生徒会と言う学校中の期待を一手に背負う役割を担っている人たちだから、なのか……多少戸惑うも、直ぐに順応しているのにはびっくりする事となった。
そして定期的に情報共有をする事と、それを行なう次回の日程などを決めた後……私は今後行なわれるライブの話し合いをする為に、月ノ森の校舎を後にしてRiNGのカフェテリアに向かう事にした。
……で、その時。詳細を話し合ってはいたものの。
「……はぁ……」
「どうしたの、そよ。少し元気無いけど」
「あっ、ありがとう立希ちゃん。大丈夫だよ」
「わかった。じゃ、続けるよ」
立希ちゃん主導の元行なわれていた話し合いで、私は終始上の空になっていたのだ。こうなってる原因は既に判明済みとは言えど、今の現状ではどうする事も出来ないのが非常にもどかしい。そのくせ……隣に座ってる(と言うより座られた)愛音ちゃんからは、イラッとするくらいにニヤつかれてるから、それもあって非常に不機嫌だ。
「今日のそよりん何だか上の空だねー。うりうり」
「……やめて」
「あ、あのちゃん、イタズラは程々に……」
そんな私を見逃すまいとしたのか、愛音ちゃんが私に対してちょっかいを掛けてきた。……さすがにしつこいしやめて欲しいんだけどな。燈ちゃんがフォローしてる今が最後のチャンスだからね。
「まぁたまた……。ともりんだってれおぽんに付箋にメッセージ書いて下駄箱に貼り付けたり、挙句の果てには電話しようか数日悩んでたよねー? となれば今のそよりんと同じか……それ以上だと思うけど?」
「あ、あのちゃんっ。それは……!」
……えっ、燈ちゃん、そんな事考えてたの?
まぁ、獅音くんが抜けて一番ショックが大きかったのは燈ちゃんだけど……愛音ちゃん、その話は本当なの? 確かに燈ちゃんの気持ちは私もなんとなく理解できるし、前者ならともかくとして……後者は流石に私でもドン引きするよ。
「はぁっ? 燈の口からまたあのクソライオンの名前が出てくるの? ……よし、アイツ1回殺してくる」
「ストップりっきー、早まっちゃダメー!」
「待って、立希ちゃん……!」
獅音くんの事を聞いた立希ちゃんは、何処からか取り出したか定かじゃないけど、鈍器と鎖鎌を手に持って何処かに(……恐らく獅音くんの所かな)に殴り込みに行こうとしたけど、愛音ちゃんと燈ちゃんに止められた。
……というか、立希ちゃんは何処を目指してるの?
この調子だとバンドマンじゃなくて、
私知ってるからね。2ヶ月分のバイト代を全部費やしてボクシングセットとサンドバッグを購入して……サンドバッグの自分が殴る箇所に、獅音くんの顔写真を貼り付けてストレス発散する際に殴り倒してるの。
これじゃ反省どころか、逆に恨みが積もり過ぎてエスカレートしてるんだけど……。
そう思った私は、誰も見てないところで颯樹さんにこの事を密かに連絡した。確か朝電話した時、彼自身が今日は大学だけって言ってたから……講義が終わったらおそらく数十分で此処に来る事はできるはず。
『わかった。RiNGに向かう』16:21
……さて、連絡もしたし、あと数十分くらいでこっちに来られるかな。そう思って私がカフェテリアに戻ると、その場を離れる前よりも状況が悪化していた。
「だからりっきー落ち着いて!」
「立希ちゃん、やめて!」
「ダメだ! これはいくら燈の頼みでも聞けない! あのクソライオンには……私から直々に目に物を見せないといけない時期が来ちまったんだ!」
そこには今装備している物に追加して、木々を伐採する時に用いる斧や、明らかにその場には異質と思える散弾銃など……更に重装備になっている立希ちゃんと、それを阻止しようとする愛音ちゃんと燈ちゃんが居た。
……うん、元から何処かでツッこもうかなと思っていたんだけど、高校生のバイト代で買える程安価な物じゃないよね、特に散弾銃。こんな所をもし仮に警察に見られでもしたら、
私も止めに入りたいけど、さすがにあの状況の立希ちゃんに手を出すとロクな事にならないから……ここは少し心苦しいけど、大人しく静観してようかな。
私がそんな風に思っていた頃、駐車場に一台の車が停るのが見えた。そしてその中からはある人が降りて、此方に来ていた……あっ、もしかして。
「お待たせ、そよ」
「ごめんなさい、いつも後始末を頼んじゃって」
「構わない。それで立希は?」
「あそこ」
私は件の彼女が居る方を指を差して、颯樹さんにその場所を教えた。本当なら他人を指さすのはマナー違反だし、仮に自分がやられたとなったらそこそこ嫌だけどね。さすがに今回は立希ちゃんに非があるし、どれだけ責められても文句を言えた立場じゃないので、因果応報と言った所。
その時ついでに愛音ちゃんも差し出して、颯樹さんは二人を連れて空きスタジオでお説教をする事になった。ちなみに当初、今回の件に因るスタジオの使用料は……立希ちゃんの給料から天引きする手筈だったんだけど……。
「あー、良いよ。これは迷惑料も兼ねてるし、僕の方で支払わせてくれるかな」
……えっ?
颯樹さんからの唐突な提案に、私も山吹さんも空いた口が塞がらず、ただただ二人して呆然としてしまう始末になった。山吹さんとしては働いてる立場だし、売上に貢献してくれる旨の話を聞けば多少なりとも嬉しいだろうけど、それにしても……えぇ……。
愛音ちゃんと立希ちゃんが、颯樹さんに引き連れられるのと時を同じくして……楽奈ちゃんが来店して来たけど、当の本人はと言えば京介さんに引き連れられていた。
「今、颯樹さんとすれ違ったんだが……何があったか聞かせてくれるか?」
「あー、それは……」
颯樹さんの事は認知していたけど、事情までは把握出来ていない京介さんに、何があったか詳しく説明した(まあこればっかりは仕方が無いけどね……)。
「なるほどね」
「そういう京介さんは、何故此方に? あと、なんで楽奈ちゃんと行動してたんですか?」
「質問は一つにしなさいな……と言いたいが、月ノ森の生徒だから深くは聞かないで置こう。まずはそこの楽奈がなんか立ち往生してたから、詳しく事情を聞いて連れてきたのと……」
そこまで言った後、京介さんはカウンターの方を見てこう続けた。
「香澄のバカに用がある」
「……と、言うと?」
「あのバカ、今日はツーマンライブに向けての打ち合わせがあるにも関わらずバイトのシフトを入れてやがった。ちなみに市ヶ谷から許可は得てる。最低限バンド活動に支障が出ない様にしてくれ、と言われたがな」
……うわ、何それ……。
「香澄、あれほど私もりみりんも言ったのに……」
「あのバカはどこに居る」
「あっ、確か裏の方で作業してると思うよ。私の方から呼んで来ようか?」
「頼む。お礼代わりとして三日後、やまぶきベーカリーでチョココロネを5000円分購入させて貰う。ちなみにその時買ったパンは全てりみりんに送り届けてくれ」
……ご、5000円分?!
それだけ一つの商品を買うって、どれだけ好きなんですかその人って……。それを聞いた山吹さんはまた嬉しそうにしてるし。そう言えば確か、以前颯樹さんから差し入れでパンを幾つか貰った事があるんだけど、その時に聞いたのが……。
『あっ、そうそう。今差し入れに渡したパンなんだけど、実は沙綾の実家で販売されてるんだよ』
『……つまり、山吹さんって』
『そうだよ。この練習の後に直接お礼を言いに行くのも良いかもね。今日はシフトって聞いてるし、スタジオを出る頃にはまだカウンターに居るかも』
……って言ってたはずだ。
愛音ちゃんは当然知ってたみたいだし、たぶん知らなかったのは私くらいなのかな。まあ、帰り道に買い食いをするなんて……中等部に居た頃もそうだけど、そんな事しなかったし。もっと言うなら、学校が終わったらバンド活動がある時以外は早めに帰ってたからね。
そして少しした頃に、山吹さんと一緒に裏から出て来た戸山さんはと言うと……如何にも怒ってますよの京介さんに連れられ、颯樹さんが愛音ちゃん達をお説教しているスタジオに向かって行った。
その道中でメリケンサックが着いてるのを見たけれど、元を辿れば戸山さんが悪いので私は擁護しようが無い。完全な自業自得だ。
「そよ、アレなに?」
「楽奈ちゃんは気にしなくていいから」
「……りっきーとあのんは?」
「あの2人はお取り込み中。愛音ちゃんは1時間くらいで合流出来ると思うけど、立希ちゃんは無理かもね」
「?」
今来たばかりの楽奈ちゃんに、私は今まで起こった事を一部を除いて説明した。立希ちゃんの事に関しては首を傾げてたけど、まあ……あの状態を説明するのは、やっぱりダメだよね。
「楽奈ちゃんは知らなくていい事だから。それじや早く練習しよっか。楽奈ちゃんはバンドしたいんでしょ?」
「! バンド、やる」
「それじゃ決まり。あとで抹茶パフェご馳走してあげるから早くしようね」
「うん!」
そろそろスタジオを借りる時間が近づいていたので、私は楽奈ちゃんを
練習を始めて一時間後に愛音ちゃんが合流したけれど、その様はまるで何かに憑かれている様に見えた。いつもだったら煩い位に入れて来る茶々も、今回はピタッと止んでいた。
「(あっ、これたぶん立希ちゃんはダメだったかな)」
そんな私の思いが当たったのか、立希ちゃんは私たちがバンド練習を始めてから一切姿を見せる事は無かった。そしてその後帰る際にロビーを見てみたら、そこには……真っ白に燃え尽きている立希ちゃんが座り込んでいた。
……何故か、彼女と同じ背丈くらいまでたんこぶが積み上がった戸山さんも、同じ様子でその場に居たけど(これに関しては、あそこまで殴る物なんだと内心引いてしまったけどね……)。
ちなみにこれは余談だけど、楽奈ちゃんが練習の後に食べていた抹茶パフェに関して言うと……それも変わらず、颯樹さんが全額持ってくれたみたい。その事を山吹さんから聞いた私は、ただただ驚く他無かったのは言うまでも無い。
「ねーねーさっきー、今度暇な時あったら私と」
「お誘いはありがたいけど、仕事優先だからね」
「おやおや、モテる男は辛いねぇ」
「嫌味?」
「まさか。羨ましい限りだ」
……颯樹さんは、私の事……どう思ってるんだろ。
以前一生傍に居てくれる、って彼はそう言ってたけど、やっぱり颯樹さん程の人となると、私以外にもそんな人が居たりするのかな。歳も私が3つ下だから、もう私より先にそう言う関係になっててもおかしくない。
……何だろう、このモヤモヤする感じ。
私って、こんなに嫉妬しやすかったかな。たぶん、今まで意識して無かっただけなんだろうけど。
「(……どうしよう、ますますこの気持ちが変な事になりそう)」
なんだろうか、こう……颯樹さんを独り占めしたくなってしまう、そういった感じに近いのかもしれない。でも、それはすぐに確信に変わった。
「(そうか。私、やっぱり颯樹さんの事が好きなんだ……)」
そう。そうでなきゃ全部説明がつかない。
別に他の誰が彼と関わっても、今までだったら特に気にしてなかったのに……やっぱりあの出来事が理由だ。あれがあった所為で、ますます颯樹さんの事を意識してしまう。
「そよりーん。難しい顔してるけど何か考え事ー? あ、多分さっきーの事かぁ」
しかし愛音ちゃんがそこに水を差す様に、私にちょっかいを掛けてきた。……うん、これは私からも手を出しても問題ないって事だよね?
「あっ、待ってそよりん、頭ぐりぐりしないでー! 頭に風穴が空いちゃう!」
……いっそ空いた方が清々しいよ?
「頭ぐりぐりって……」
「愛音、お前ってヤツは……。颯樹さん、アイツだけお説教が足らなかったとか無いのか?」
「いや、ミッチリお説教したんだけどな」
「……見上げた根性だ」
私は京介さんと颯樹さんから……呆れた眼で愛音ちゃんが見られるのも構わず、彼女の
そして数分後……さすがに愛音ちゃんの悲鳴が暫くうるさかったので、私は頭ぐりぐりの刑から解放した。ただその本人はと言うと、蟀谷の近くを押さえてその場に蹲っていた。
それから少しした後。
「ちょっと、なんで私頭ぐりぐりされた訳?!」
「愛音ちゃんが余計な事を言うからだよ。
「えーっ、そんなつもり無いんだけど!?」
……仕方無いなぁ。
「今度余計な事を言ったら、その蟀谷が破壊されるのを覚悟しててね?」
「はーい……」
全くもう、愛音ちゃんったら……。
そんなやり取りがありつつ、私たちはその数分後にお開きとして解散した。さすがに今回は気分転換も兼ねて一人で帰ろうかと思ったけど、最近はたまに良くない噂も聞くので、愛音ちゃんと一緒に颯樹さんの送迎を受ける事になった。
その時に二人して、先程入れて来たちょっかいに対しての苦言を愛音ちゃんに向けてグチグチ言う羽目になったのは、また別の話。
今回はこれにて終幕です。如何でしたか?
次回の更新も……予定通り二週間後である、7月4日を予定しておりますので、更新までお待ち下さいますと幸いです。
それでは、また次回の
最後にお知らせです。
今現在この作品とコラボをされている作品の方で、ヴァンガード回をお届けしております。カードプールが零騎転生までの物となっている為、現在の最新パックまでは追加されておりませんが、それなりに見応えのある内容になると思っています。
投稿間隔は一週間毎に一話を予定していますので、ぜひお楽しみくださいませ。