仮面の慟哭と凶宴   作:咲野 皐月

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 皆様、おはこんばんにちは。咲野 皐月です。


 先週の投稿はお休みをしてしまいました……大変申し訳ございません。まだ自分なりに今回の話に納得してない箇所が、その時にありましたので、そこの手直しと文章の調整などを施しまして今回の投稿となります。


 それでは、今宵も恙無く、開演です。


Stulte, nunc ad nihilum reverte.


↓ ↓ ↓ ↓ ↓


愚か者よ、零に還れ



#14 Stulte, nunc ad nihilum reverte.

「あー、疲れた……」

「祐天寺さん。机の上にぐでーっとするなど、傍から見れば行儀が悪いですよ」

「むっ、ちかこに言われたくないんですけどー」

「私はいつ如何なる時も、誰に見られても恥ずかしくない毅然とした態度を心掛けてますので」

 

 

 ……こんな感じで大丈夫なのでしょうか、何となくですが先が思いやられます。

 

 

 私たちが今居るのは、芸能事務所であるWin-Wing-Productionの会議室で……つい先程まであった収録のお仕事の疲れを癒していた。その証拠に祐天寺さんは、机の上に両手を伸ばしてだらけてしまっている。

 

 

 正直な話、私としてはこれ以上若葉さんの負担になる様な仕事の予定を組むのは本意じゃなかったし、颯樹や京介さん……果てには豊川さんですら、この案が出た時は乗り気じゃなかったのをよく覚えている。

 

 でも、それは当の本人が引き受けると言った事で水の泡となってしまい……過密な仕事のスケジュールで動く事になったのだ。

 

 

「お休み中に失礼します」

「はい、何でしょう」

「これ……私たちスタッフからの差し入れです。よろしければ皆さんでどうぞ」

 

 

 そう言ってスタッフさんが持って来たのは、鉄製の見た目が豪華な装飾の入った……お菓子の箱だった。私がそれを受け取り、皆の前で開封すると、そこには色とりどりのマカロンが入っていた。

 

 

「うわぁ〜」

「美味しそう……何色にする?」

「悩むなぁ……」

「赤か、黒……。てか、ダイエット中なんだよねー」

 

 

 ……すみませんが、受け取った本人の前で軽々しく言う言葉でしょうか、その言葉は。せっかくの頂き物です、文句を言わずに食べるのが普通でしょう。

 

 

 若葉さんと初華さんがどの色を選ぶか難儀してた所に、横から八幡さんが割り込んで来て……彼女は誰に聞くでも無く、黒のマカロンを1個手に取って食べ始めた。彼女は段取りが良く、颯樹からの話では掛け持ちしているバンドは30を超える……と聞きましたが、これだと些か疑問しかありませんね……。

 

 その傍らでは、横取りされた張本人である若葉さんが声にならない声を挙げて驚いていた。

 

 

「八幡さん、あまりこの手の事は言いたくありませんが、我先にと食べ物に食らいつくと、いずれ酷い目に遭いますよ」

「大丈夫です。私、食べても太らないので」

「……サラッとムカつく事を言わないで下さい」

「すみませんでした。ですが、事実なので」

 

 

 ……最近、どうしてもメンバーそれぞれが何処か喧嘩腰の様な気がする。と、この場で愚痴ってしまえば気が楽なのだが、今の私の立場で何かを言えば、確実に大事になりかねない。

 

 

 ……あっ、八幡さん。何をする気ですか。

 

 と思っていたら、案の定と言うか……京介さんにちょっかいを出し始めたので、私は即座に仲裁に入って制止した。その後に軽く身内の事を暴露される事態にはなったものの……そこは何とか収まっていた。

 

 

「皆さん、腑抜けないでくださいます? まだ新曲が完成していないのです……そんなに悠長にしてる時間はありますの?」

 

 

 ……こればっかりは同意しか無い。

 

 

 しかし、Ave Mujicaの作詞を担当している初華さんが颯樹と一緒にsumimiのお仕事に行く事もある建前、そんなに口酸っぱく催促は出来ないのだ。祐天寺さんや八幡さんはやる気を見せているものの……当の本人の状況が改善しない事には、作詞をしたくても出来ないのが現実だ。

 

 

 そこは颯樹が何とか反応したのか、豊川さんに頭を下げて現在の状況と共に報告をしていた。豊川さんの方はと言うと、多少苛立ち気味になっていた頭が冷えたのか、颯樹に頭を下げて謝罪をしていた。

 

 そして新曲作りは今週末行なう事に決め……初華さんと若葉さん、八幡さんと祐天寺さんは会議室を後にした。

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

「……すみません、夜分遅くにお時間を確保して頂いて」

「いえ、貴方の方から私の所に出向くと連絡を貰ったのでこうしたまでです。しかし、盛谷くん直々とは珍しい」

「勝浦社長に、一刻も早くお伝えしたい話がありまして」

 

 

 sumimiの仕事を終えた僕は、まなと初華を自宅に直行させた後、一人事務所の社長室を訪れていた。対面には勝浦社長が座っており、こうして緊急の相談にも関わらず、話を聞いてくれるみたいだった。

 

 

「まず、これは前提の知識としてお聞きしたいのですが」

「何ですか?」

解離性同一性障害、と言う障害の名はご存知でいらっしゃいますか」

「……覚えがありませんね。その事と、今回の件に何か関係があるんですか?」

 

 

 勝浦社長からそう言われた僕は、カバンからファイルを取りだして……その中にある一枚のA4サイズのプリントを、社長の前に見せて提示した。この今置かれている状況を説明するなら、物的証拠を見せておいた方が、後々対応もやりやすくなると思ったからだ。

 

 

 そしてそのプリントには、表題として……。

 

 

受診報告書

 

 

 と、記載されていた。

 

 

「……なんですか、これは」

「社長、先日の音楽番組の本放送はご覧になりましたか」

「……はい、見ていました」

「今回お話するのは、Ave Mujicaのギタリストである……モーティスについてです」

 

 

 その言葉を聞いた時、社長の瞳が思わず見開かれた。

 

 この事に関しては全く触れていなかったのか、僕が出した話題に驚いてすらいる様だった。ただ、社長も実際に映像で見てると言うのなら、ここで変に取り繕ったとしても逆効果なのは火を見るより明らかだ。

 

 

 そう思った僕は、一瞬の間を空けた後に話し始めた。

 

 

「社長は先程、音楽番組を見たと仰いましたが」

「……もちろんです」

「その放送中、何か違和感はありませんでしたか。些細な事でも構いませんので、お聞きしたいんです」

 

 

 少しの沈黙の後、社長はこう返答した。

 

 

「違和感……と言うと、貴方は何か感じたんですか」

「質問を質問で返すのは、マナー違反……と言いたかったのですが。僕は確かに、感じました。普段の彼女であれば、殆ど無口で感情を表に出さない……だと言うのに、その音楽番組の収録現場では、一人明朗とした声と卓越した演技で、他のメンバーやその場に居た共演者や司会者たちも置き去りにしたうえで、寸劇を披露したんです。しかも、当初皆に配布していた台本には一切無いアドリブで、です」

 

 

 僕がそう長々と言い終わると、社長は何処か困惑した様子を見せていた。……無理も無い。自分の事務所に所属しているタレントの一人が、まさかその様な状態になっていたとは夢にも思わないからだ。

 

 

「それで、この受診報告書は?」

「これはその生放送が終わった数日後に、僕の知り合いが勤務している医療機関で受診した結果を記した物です。彼女はなかなか病院には行きたがりませんでしたが、然るべき手段を用いて受診させました」

 

 

 そう言って僕は社長に受診報告書を渡して、話を続ける事にした(ちなみにこの書類は、既にコピーを取っているので、早ければ明日にでも千歌たちに共有しようと思っているが)。

 

 

「今現在、この事に関して既に事実を知っている者は……この事務所内だけで言うと、リーダーである忘却(オブリビオニス)、マネージャーの孤独(ソリトゥス)。そして、サポーター陣である憎悪(オディウミス)(アングイス)虚無(ヴァニタス)の計5名です」

「……つまり、他のメンバーたちは一切」

「知りません。ですが、いずれ機会を設けて明らかにする予定です」

「……なるほど」

 

 

 勝浦社長はそう言うと、先程手渡した受診報告書の内容を暫し確認し始めた。まだ現実の事として実感が湧かないのは、社長だけで無く……彼女をサポートしていた僕たちでさえも同じ事だ。

 

 その証拠に祥子は大きく精神を乱し、今や獅音に付き添われている頃だろう。ましてや、彼女は睦からお姉様と呼ばれる程には親しかったのだから、その慕ってくれていた本人があんな変貌を遂げれば、取り乱すのも無理は無い。

 

 

 ……だが、最早悔いている時間は無い。

 

 大至急で何とかしなければ、未だに誰も予想すらしないであろう最悪の事態になる事は間違い無い。それどころか、一歩間違えれば取り返しのつかない事になってしまう恐れがある。

 

 

「……わかりました。今夜は時間も遅いので、明日。明日以降の全体会議で他の職員にこの事を伝えようと思います。……最も、どの程度私の話を信用して貰えるか、それが未知数ではありますが」

「そうですね。他の方々から見れば、著しく根拠に欠ける事案なうえで……正気の沙汰を疑われても仕方が無い事だと思っています。ですが、もうこうなってしまった以上、手段を選んでいる暇はありません」

 

 

 ……さて、僕の思いはある程度は伝えたが……。

 

 

「お話は理解できました。では、私の方でも全体に向けて話をしてみます。盛谷くんは引き続き業務の遂行を。その際、若葉さんに何か不穏な動きや言動が見られた場合は即座に報告をお願いします」

「承りました」

「……それじゃあ、施錠をして帰りましょうか。盛谷くんはどうしますか?」

「駐車場に車を停めているので、それを使って」

「では、駐車場まではご一緒に」

 

 

 そう言われて僕は、勝浦社長と共に社長室を退室し……事務所の施錠を終えた後、駐車場にて彼女と別行動となった。社長の方でもある程度対策は練ってくれるとの事だったが、僕がそれに頼りきりになる訳には行かない。

 

 

 ……さて、どうしたものか……。

 

 


 

 

 そして数日後。福岡ライブ前日。

 

 僕たちAve Mujicaはライブ会場に現地入りを行なって、翌日に行なわれる本番に向けてリハーサルをする事になった。と言ってもこの場に居るサポーター陣は、僕と獅音と千歌だけなのだが。京介の方はと言うと、本職の方で召集が掛かったので、其方に向かった次第だ。

 

 

 ……そして今は、音響の確認を行なう為に、一度本番を想定した合わせを行おうとしていた……の、だが。

 

 

「モーティスさん、ギターを……」

「ギター、要らなーい」

 

 

 ……ほう?

 

 

 モーティスが先程言った、要らないと言った意図がどう言う物かに因っては、彼女に対しての見方を変えないと行けなくなる。今の所は半信半疑なうえ、まだ確証も無いから下手に介入するのは返って逆効果だ。

 

 この言葉の意味次第にはなるが、モーティスが完全に別の人物となっている確証を掴むには……またと無い良い機会だ。

 

 

 ……そう言えばコイツ、確か生放送の時に。

 

 

ムジカの曲、全然知らなくて〜

 

 

 ……そう言っていたはずだ。

 

 だとしたら、これはクロかもしれない。さっきの発言の意図を加味した上で……以前アナウンサーからの問いに答えた内容を思い起こしてみると、ほぼほぼ当たりの筈だ。

 

 

「はい、注目」

 

 

 僕は手を二度叩いて皆の注意を集めて、話を聞く態勢を作らせた。先程スタッフさんには耳打ちで今後の事を伝えたので、何があっても良い様に控えて貰っている。

 

 

「リハは一旦中止。全員、控え室の楽屋で待機しろ。あとオディウミス、ソリトゥス、オブリビオニスは緊急の会議を行なう。所定の場所に向かえ」

『はい!』

「ソリトゥス、アングイスにコンタクトを取れ。今は手が離せない状況だろうが、こうなると止むを得ん。何としてでも会議に参加させろ」

「わかりました」

「俺は独自のツテを当たる。会議は10分後だ、遅れるな。それと他の全員は少しでも妙な真似をしてみろ……当日まで寝ずにリハをする羽目になるぞ。良いな!」

 

 

 僕は他の全員や千歌たちにそう伝言をして、その場を離れる事にした。そして先程言った心当たりの人物に電話をかけ……快く了承を貰えたので、僕は足早に会議室を訪れた。

 

 

 ……するとそこには。

 

 

「お待ちしていました。話はできましたか」

「ああ、問題無い。今呼び出す」

 

 

 千歌が先に椅子に座っていたので、僕は先程起こった件を説明しつつ、その人物を電話で呼び出した。そうしている間に獅音と祥子も来たので、通話先にはなるが京介も加えて5人での話し合いを始める事となった。

 

 

✶ ✶ ✶ ✶ ✶ ✶ ✶

 

 

『……やはり、こうなったのですね……。颯樹様の掛けられた苦労を何だと思われてるのか……』

 

 

 話をすべて聞いた後に飛び出した美優の第一声は、その言葉だった。それを聞いて千歌と獅音に祥子が揃って顔を俯かせ、京介に至っては呆れが出てきたのか、天を仰いでいる様に見えた。

 

 

 ……こうなってしまうと、最悪だ。

 

 社長の方でも事に当たってみる、とは言われたものの、この様子だと取り合ってすらくれなかったのだろう、と察せられた。

 

 

「申し訳ありません。全ての責任は、練習スケジュールを作成した私にあります。本人の体調不良を気づいていながら、私は愚かな行ないをしてしまいました……弁明の余地すらありません」

「それで言えば、私も同様ですわ。総監督と言う重要な役割を担っておきながら、私はいつも自分の事ばかり……。睦の事を気にかければどれほど良かったかと」

 

 

 千歌が謝罪をし始めたのを皮切りに、祥子も自らの過ちを悔いていた。本当ならこの場には、マネージャーの立場である海鈴も同席させた方が良いのだが、彼女は演奏を行なうメンバーの為、リハーサルに集中して欲しいとすら思っている。

 

 

 ……まあ、二人の気持ちはわかんない訳では無いけど。

 

 そんな二人を見兼ねたのか……美優は通話越しの状態にはなるが、一度咳払いをしてから続けた。

 

 

『お二人とも。この件に関して悔いる気持ちがあるなら、今は別にやる事があるのではございませんか?』

「「えっ」」

『私はまだまだ未熟者ではありますが、傍から見ればれっきとした医者です。患者が自身の不調に嘆いている姿を見て、呆然と立ち尽くす医者など居ません。もし居たなら、その時点で医者失格ですわ』

 

 

 美優から発せられた言葉に、千歌と祥子が同時に詰まってしまう。

 

 

『……話を戻すぞ。さっきの颯樹さんや少年の話を元に整理するとしたら、睦が副人格(モーティス)に精神を乗っ取られたのは確定。そのうえで、睦が本来持っていたギターの実力までは反映されていないという認識で良いのか?』

「ああ、それで構わない」

『藤宮女史、一つ質問だが』

『何でしょう』

 

 

 話の要点を纏めた京介は、美優に向かって次の質問を投げかけた。

 

 

『俺の方でもその障害については、ある程度調べたから人並みに知識はある。それを前提に踏まえて話をするが、その主人格とは逆の副人格に、主人格のしていた動きなどを真似させる事は可能なのか? 例えば……睦がライブの際にしていたパフォーマンスや、演奏技術などにはなるが』

『……呼び方の件はこの際問いませんわ。先程のご質問の件ですが、理論上不可能ではありません。ですが、今の若葉さんの状態を加味するのであれば……今の彼女は、産まれたての赤子同然の精神状態となっているのです』

 

 

 ……やはりか。

 

 そうなるといよいよ、本格的に最悪な展開になって来たと言うしか無い。今まではあくまでも可能性の話をしていたが、こうなってしまうともう取り返しがつかない所まで来ている、と表現する方が正しいか。

 

 

「すみません、僕からも一つ」

『何ですの?』

「睦さんがギターを弾けない、って事は理解できました。現時点で精神状態が幼くて、状況判断に少々の時間が掛かる事も。ですが、翌日にはライブを控えているんです。何か対応策はありませんか」

 

 

 ……ほう、お前……良い度胸をしているな。

 

 僕の前でそんな言葉を口にすれば、どうなるかは火を見るより明らかのはずだ。それに、ここ最近もメンバーの一人がやらかした不始末の所為で、全員を叱り飛ばした後に反省文の刑に処した事は記憶に新しいだろう。

 

 

 だ、と言うのに。

 

 お前がそれを口にするとは珍しいな。この手の事には臨機応変に対応出来るもの、と思っていたが、僕の過剰評価だったか。

 

 

『……では、不躾ですが、私から一言言わせて頂きます。雨宮さん』

「……ッ?!」

『アナタ……』

 

 

一体この様な状況になったのは、

何故なのかをキチンと理解したうえで……

 

今の発言をなさいましたの?

 

 

「そ、それは……っ」

『水を差す様で悪いが少年、それは禁句(タブー)だ。何処ぞのヘッドホン掛け器でもある程度言葉は選ぶ。今のお前……いや、この場に集う藤宮女史以外は、全員思ってても言わなかった言葉だぞ。むしろ、それを話し合う為にこの場に集った、と理解しているが違うのか?』

「……すみません、失言でした」

 

 

 そう言って獅音が、再び椅子に座った。

 

 美優から指摘されるのはやむ無しとは言え、同じ学校の先輩で且つ生徒会長から苦言を貰うともなれば……その沈む様相は想像に難く無い。後で僕の方からもキツく言っておく事はするが、今はそうしているのも時間が惜しい。

 

 

『とにかく。その事でしたら、代役を立てて対応する他に策はありませんわ。そう言えば颯樹様、報告書の方は社長さんにお渡し頂けましたか?』

「ああ、問題無く。だが、その後から進展が無い。社長も多忙だと言う事は理解しているが、それでも報告の一つや二つ来ても良い頃だ」

『な、何と言う事ですのっ?!』

『颯樹さん、その報告書ってのは……もしかして、この前のアンタが医師から貰った物か?』

 

 

 京介が確認を取って来たので、僕はその報告書の現物を皆に提示した。睦の受診を行う際には京介も居た為(美優は受診した医療機関の関係上、その場に居ました)、彼への詳細的な説明は不要だと判断出来た。

 

 

「……こ、これは……」

「……颯樹さん、睦は……もう」

「ああ、手遅れだ」

 

 

 僕の言葉に、全員が沈黙した。

 

 

 先程全員に共有した報告書には、睦の現在の状況が事細かに記されている。診察を請け負った担当医師の捺印と、簡単な所見が記載してあり、そこにはその障害の重さと、本人の記憶の程度を示す数値が並んでいた。

 

 これを見て流石に獅音も言葉を失ったのか、京介から苦言を貰ったばかりなのもあり、酷く落ち込んでしまった。

 

 

「……どうする、総監督(リーダー)

「……それは、どう言う意味ですの?」

「言葉通りの意味だ。睦は演奏できない、加えて代役を立てようにも今からだと時間が無い。そんな状況下で、お前はライブを実施するつもりか。俺は反対だ」

 

 

 僕は虚無(ヴァニタス)としての意見を、祥子に述べた。その傍らでは千歌が何処か悟った様な表情になり、獅音はまだ暫く気を落としていた。美優と京介は、通話越しではあったのだが……千歌と同じ様に納得していた。

 

 

 ……祥子には辛い選択をさせるかもな。

 

 そう思っていたその時、今まで顔を俯かせていた獅音が……誰に言われた訳でも無く、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「……解散、なんて有り得るのかな」

 

 

 ふむ。

 

 

「獅音、顔を上げろ。そして話してみろ」

「……はい。藤宮さんが先程言った事を考慮するならば、ここは睦さん本人には気の毒ですが、解散の道しか無いと思います。サポートを起用して代理を務めて貰うのも一つの策でしたが、それだと本職には数倍劣ります。今までの活動は、睦さん本人の演奏があって初めて成り立っていましたが……こうなると、止むを得ないと思っています」

 

 

 ……そうだな、それしか道は無さそうだ。

 

 

『若葉さんには気の毒だと思います。ですが、こうなってしまった以上は仕方ありませんわ』

「そうだな。それに極端な話をするが、ギターの音源がもし仮にあったとしたら、モーティスが体調不良である事を伝えた後、その音源を使って強引に押し通すのも手だろう。だが、それは」

「……ございませんわ。お客様の前で、実際に演奏を行なって夢を見て頂くのが私たちの仮面舞踏会(マスカレード)。その様な策を考えた事は一度としてありません」

「では、最早長々と話し合う必要はありませんね」

 

 

 ……ああ、そうだな。

 

 僕たちの中で意見が纏まったのを見て、祥子は一言口を開いて自身の考えを告げた。

 

 

「……分かりました。それでは───────」

 

 

 祥子の決定を聞いた後、僕らは会議室を速やかに退室してホテルへと戻った。……そして、その後の話にはなるのだが。

 

 

『颯樹様、アナタ……相当人が悪い様ですわね?』

「何を言っている。お前とて、加減はしなかっただろう」

『私は事実を述べたまでですわ。気休めの優しさは、本人のためになりませんもの♪』

「ふっ、そうだな。その通りだ」

 

 

 僕は皆も寝静まった丑三つ時の頃、美優とそんな他愛も無い話をしていた。お互いにスマホの液晶画面を耳に当てていたので、相手の表情がどうかまでは読めなかったが。

 

 

『……豊川さん達は、地獄を歩む事になりますわね』

「ああ、本人が蒔いた種だ……自分で刈り取らせる。そこまで面倒を見れるほど、僕はお人好しじゃない」

『まあ♪』

「……とにかく。今日はもう遅い、早く寝て翌朝に備えないといけない」

『そうですわね。それでは……おやすみなさいませ♪』

「ああ、おやすみ。美優」

 

 

 そんな言葉を交わした後、僕は灯りを消して就寝した。




 今夜はこれにて終幕です。如何でしたか?


 次回の投稿なのですが、当初は2週間後の7月25日に本編のお話を予定しておりましたが……急遽予定を変更しまして、番外編で1話執筆をしたいと思います。お相手の方とは相談などを重ねており、内容を考案している真っ最中ですので、楽しみにお待ち頂けると幸いです。


 それでは、また次回の仮面舞踏会(マスカレード)にて。


どうか、良い夢を。
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