まさかふた月に渡ってお休みしてしまうとは、執筆当時は思いもせず……本当に申し訳ないです。
今回は前回から少し時間が空きまして、Ave Mujica解散後のお話をしたいと思います。大まかな話の流れは原作に準拠していますが、オリジナル要素を多分に含んでおりますので、ご理解いただけると幸いです。
それでは、今宵も恙無く、開演です。
「……まずは、緊急の記者会見にお越し頂いた各報道機関の関係者、そしてこの中継をご覧になられている方全てに、謝罪をさせて頂きたいと思います。この度は、私共の不手際が発端となって此度のAve Mujica解散の運びとなりました事……スタッフ一同、心よりお詫び申し上げます」
僕は勝浦社長の隣で、彼女がそう言うと同時に頭をゆっくりと下げた。暫くはカメラのフラッシュを炊かれるのが嫌になるな、と言わんばかりの報道陣の数々……そのどれもが、先日の福岡公演にて電撃発表されたAve Mujicaの解散についての説明を求めている物だ。
……まあ、こんな事になったのは、元を辿れば
司会者の人が着席を促した為、僕たちは揃って自らが腰掛けていた椅子に座り直した。こう言う時にスーツを自前で用意していて良かったと心の底から思う反面、まさか使う場面がここになるとは……と言うやるせない気持ちだ。
「それではご質問のある方は、順番にどうぞ」
そう言われて一人の記者が立ち上がり、僕たちの方を確りと見据えて発言をし始めた。
……そして数分後に起こったのは、異様な光景だった。
我先にと質問を投げかけて来る報道陣の数。それに最初のうちは対応が出来ていたのだが、中にはメンバー個々のプライベートまで詮索する者が居た為、聞いている僕が思わず耐えきれなくなってしまう程だ。
その間もたくさんのカメラは、休む事無くフラッシュが炊かれていて、一瞬だが意識が飛びそうになるくらいだ。さすがに此方の事情を慮ってくれたのか、司会者が報道陣を嗜めて仲裁する事で事無きを得たが……ハッキリ言って狂気の沙汰でしか無い。
「……すみません、社長。そろそろお仕事が」
「わかりました。ここは私が引き受けます。……盛谷くんには辛い仕事をさせましたね。同席、ありがとうございました」
「僕で良ければ、お易い御用です。それでは」
そう言って僕は会見の会場となったホテルを後にして、駐車場に停めてあった車に乗り込んで仕事に向かった。今日はまなの仕事に付き添う事になっていたが、この分じゃ何を言われるか分かったもんじゃない。
「あっ、颯樹さん!」
「乗って、このまま行くよ」
「はい!」
事務所の前で待っていたまなをそのまま乗せ、彼女を連れて現場まで向かう事になった。これは後に聞いた話にはなるのだが、どうもネットの方も賛否両論と言った具合だったらしい。
聞く所に拠ると……報道陣の対応が如何せんやり過ぎなのでは無いか、と言う物から……社長が言及した様に、スタッフ陣の至らなさが招いた物では、だったり……挙句には、そもそも生中継されている時に喧嘩する様なバンドが何処にいる、と言った物まで様々だ。
まあ、あの大喧嘩に関しては、僕もその撮影の後に思いっきり叱り付けたけど。睦の変貌に驚いていたのは確かだが、それを加味したとしても……公の場で見苦しい真似はしない物だと思っていたが。
「颯樹さん、どうしたんですか?」
「え?」
「……颯樹さん、自分では気づいていないかもですけど、すごく怖い顔をしてますよ?」
まなにそう言われて、僕は歩車分離式の信号で止まっている間に、自分の表情を確認した。彼女から手鏡を借りて確認すると、相当ストレスが溜まっていたのか……酷い有様になっていた。これは確かに、彼女で無くても怯えてしまうのも無理は無い。
「……ありがとう、まな。さっきまで記者会見を受けていたんだ、その疲れが今来てるんだと思う」
「……何かあったら、言って下さいね。私、ういちゃんはもちろんですけど、颯樹さんにもしもの事があったら心配ですから」
……ほんっとに、よく出来た子だと内心思う。
立場としてはマネージャーとアイドル、と言う……此方が彼女たちを導かなくては行けないはずだが、どうしてもまなの前では胸の内に抱え込んだ物が外に漏れやすいみたいだ。この分だと僕自身が気づいていなかっただけで、彼女からすればそれ以上に気遣って居るはずだ。
「ありがとうね、その気持ちだけでも嬉しいよ。……さ、仕事に行くよ。先方を待たせちゃ堪らない」
「はい!」
僕はまなにそう伝えて、仕事場に向かう車を走らせた。
余談だがその日の仕事は何とか無事に終わり、懸念していた要素も起こる事無く終える事が出来た。
そしてその翌日。
Ave Mujicaの解散を受けて、元々組んでいた物から大幅なスケジュール変更をしたので、今日も仕事の予定が組まれている。当然そうなった分の皺寄せは酷い訳で……。
「颯樹さん、予算の見積書と報告書を纏めて置いたぜ」
「……はい、確かに。後で確認した後捺印しておくから、そこの書類箱に入れてて」
「了解」
偶然にも手が空いていた京介にヘルプをお願いし、僕は事務作業に追われていた。Morfonicaのサポートをしているので、勿論彼の手際はなかなかの物だった。一円単位までキッチリ揃っていて、この事案に幾らかかったのか等が事細かに記されていた。
その後にスタッフさんが軽く声をかけてきたので、僕たちはそれに対応しながらも、自らの受け持つ書類を整理して行った。
……まあ、Ave Mujica解散については、メンバーのほぼ全員が素顔を晒されたあの日から、時間の問題だったのは事実。そこにダメ押しの様に睦が突如として変貌を遂げ、我が物顔で振舞った挙句に癇癪を起こし始めたんだから……もう言うまでも無い。
「あっ、そうそう。それと」
「?」
「はい、何かありましたか?」
「社長が二人に用がある、って。私もさっきそこですれ違った別のスタッフから聞いただけだから、実際にはどう言う理由か分からないんだけど」
……社長が? 一体何の用だろ。
僕と京介はその女性にお礼を一言言って、一時離席する旨のプレートをデスクの上に置き、社長室に向かった。京介も何度かここには足を運んでいるものの……社長室まではさすがに来た事が無い様子だった。
なので僕が先頭を行く形で向かい、到着した後は中に居るであろう社長の返答を受けてから入室した。
「お待たせしました、勝浦社長」
「ごめんなさい、今手が離せなくて。作業をしながらになるのは目を瞑ってください」
「別に構いませんよ。それで、ご要件は何でしょうか」
キーボードを叩く手を休めず、勝浦社長は僕たちの方を見てから話し始めた。
「貴方たちを呼んだ理由は二つ……まず一つ。貴方の隣に居るそこの彼、流川 京介くんを正式に我が事務所で雇用したいと思います」
「……京介を、ですか?」
「はい。Ave Mujicaでの活躍は存じていますし、貴方がこことは別件で受け持っている事情も併せて……彼をこの事務所で雇う事は、今後の躍進の糧になると判断しました」
そう言われた京介は、未だに実感が湧かない様だった。
……だが、そんな反応も直ぐに切り替わり、彼はそこに言葉を続けて来た。
「それは嬉しいですが、勤務させて頂くに際して、一点だけ条件があります」
「何でしょうか」
「私はまだ高校生です、立場を契約社員かアルバイトにして貰えるのでしたらお受けします。もちろん、高校を卒業しましたらぜひ此方に就職させて頂ければと」
「……わかりました。その条件で構いません」
京介は社長とそんな話を取り付け、雇用を受けるにあたっての留意事項等を聞いていた。僕自身は千聖のコネがあって、学生の身分であっても正社員として働いているが……彼の場合はまだ高校生の身分である為、芸能事務所で正式に働くという事が難しいのだ。
……だからこそ、この話は最善策。
内心では強かだと思いながら、彼の話を傍らで僕は聞く事になった。
「社長、次に二点目ですが」
「そうでしたね。実は先日の話ですが、Pastel*Palettesがゲストを務めるヴァンガードのイベントで……sumimiをその対戦相手として迎えたい、と東中野プロデューサーより連絡を受けました」
……それはまた、なにぶん唐突な。
「……恐らく、パスパレの目的は僕です。大方、Ave Mujicaが解散した事を受けて、これを好機と見たメンバーの誰かがプロデューサーに進言したのでしょう。もう一度実力で連れ戻す為に」
「その可能性が高いな。大々的に対バンライブでパスパレを負かしておきながら、少し思い通りにいかなければ直ぐ解散だ。……そんな様を向こう様が見たら、良い顔をしないのは確実だろう」
「……確かに。私も向こうの立場であれば、同じ気持ちかもしれません。では、引き受けると言う返事で」
「構いません。参加するメンバーに関しては僕が主導で選抜します。それでよろしいですね、社長」
僕が社長に返答を求めると、彼女は短く肯定の旨の返事を返して来た。その後に雇用契約書云々の話も進み、僕と京介は揃って社長室を後にした。社長の話に拠れば、当面の間は僕の指導を受けて働くとの事だが……今のこの状況下で、仕事を1から教えてそれを数日でモノにして貰うのは些かハードルが高過ぎる。
……で、あれば。
「京介、暫くはアシスタントとして僕の仕事のサポートをして貰うよ。その間に仕事の内容なんかを、みっちり叩き込むからね。遅れない様に気をつけて」
「善処する。アンタの請け負ってる仕事が生易しいモンじゃ無い事は知ってる……元よりそれは覚悟の上だ」
「……よし。それじゃあ、ビシバシ扱いていくからね」
そんな事を話し合いながら、僕たちは最初に仕事をしていた事務所のデスクに戻った。その後は京介に仕事の流れを一つ一つ教えたり、sumimiの仕事に実際に立ち会わせて身の回りの事を頼んだり……果てには、ヴァンガードのイベント関連にも同席して貰った。
今後がどうなるかは彼次第になるが……僕もできる限りたくさんの技術や知識を、京介に詰められるだけ全部叩き込める様にしようと心に誓ったのだった。
そして、暫くして。
「Ave Mujicaが解散してから1ヶ月くらい経つよね?」
「最近全然見なくない?」
僕はsumimiの二人と一緒に移動している際、そんな言葉を聴いた。……そうか、あれからもうひと月か。アシスタントは急激な勢いで成長をしているし、その甲斐もあって他の業務も経験して貰っている頃だ。
その間もAve Mujicaが抜けた分の仕事は、全てsumimiが引き受ける形となっていて、先日に行なわれた物でさえ、解散したバンドに関しての追求が本音と言った所。
『今は、sumimiのういちゃんなので!』
……と、まなが切り返してくれなければ、今頃どうなっていたかは想像に難く無い。初華は実際に
「はぁ……sumimiは被害者だよね、仕事の穴埋めで一番迷惑かけられてるし」
「そうそう。その解散を言い出したオブリビオニス、なんだっけ。結局その子も今は姿を見せないし……」
「まあ、所詮は箱入りお嬢様の気紛れで起こした、バンドごっこだったって事でしょ?」
……こらこら、気持ちはわかるけどそこまで露骨に嫌な顔を表に出すなって……。ただ、そうなる気持ちは先も言ったけどわかるんだよね。何しろ初華はsumimi一本では無く、Ave Mujicaとしても活動をしていたので、本人にとってはこう言う陰で叩かれる事が一番ストレスに感じる事だろう。
「振り回すだけ振り回して、ヤバくなったら雲隠れって一番意味わかんない……颯樹さんも報われないよね、sumimiと兼任する形で参加してたって話だし」
「えっ?! それ何処の情報!」
「しっ、声が大きい!」
……出るか。
「おはようございます」
「「お、おはようございますっ!」」
「なにか、ウチの担当アイドルが失礼な事を?」
「い、いいえ別にそこまでの事は……!」
「し、失礼しましたぁー!」
僕が軽く挨拶を返して、少しカマをかけた途端……その陰口を叩いていたスタッフは、何か恐ろしい物を見た様にその場から散って行った。その後に京介とも合流を果たし、エレベーターを使ってエントランスホールに向かう事となったのだが。
「……颯樹さん、何かあったのか。やけに表情がピリピリしているが」
「ごめん、少し気分が良くなくてね」
「……そうですよね。1ヶ月も経ったのに、まだあんな事を言う人たちが居て、そのうえで心無い言葉をモロに聞いたんですから……」
……内心、この場に二人が居なかったら、もう少し手荒になっていたかもしれない事は否定できない。立場上はマネージャーなので、メンバーに関しての意見なら軽く目を通す事はするが、何も感情的になる事は無いとさえ理解している。
でも、今回の場合は別だ。ただでさえ心中穏やかでは無い状況下で、あんな事を言われた日には……自制していられるかが不安しかない。
「……」
「ういちゃん、どうしたの?」
「最近、
……おいおい、Ave Mujicaの解散を受けて手がかかるって言う時に、今度は祥子の音信不通かよ。どれだけ問題を寄越せば気が済むのか……全くわからん。とは言え、僕もそう目鯨立てられる様な立場では無いんだけどね……その点に関して言えば、祥子とは似たり寄ったりだ。
「あ〜、キーボードの子だっけ?」
「そうだ。バンドリーダーも担っている。……しかしこれは弱ったな。僕と京介は雇われの身だ、雇用主のアイツが音信不通で消息不明となると……今後の身の扱い方に不安が出て来る」
「何か策はあるのか?」
「一応、雇用主であるオブリビオニスとの契約は、一生と聞いている。だが、それはAve Mujicaが存在している事が前提条件だ」
その言葉にまなと初華は疑問符を浮かべたが、僕はそのまま続けた。その間にエレベーターが目的地に着いたので、僕は三人を近くのカフェに誘ってから、落ち着いた場所に移動して話を再開した。
「つまり、雇用主である祥子が何も言わないと言う事は」
「……俺たちは用済み、クビと言う事か」
その言葉を聞いた瞬間、sumimiの二人は目を見開いて驚いていた。むしろその反応が顕著だったのは……初華では無く、まなだったけれど。
「……っ」
「私は、颯樹さんや京介さんにsumimiを辞めて欲しいだなんて……少しも思いません。私たちの誰が欠けても、それはsumimiじゃないんですから」
唐突に添えられたまなの小さな両手が、僕の思考を掻き乱して来る。そして上目遣いでそんな事を言われるもんだから、この話を彼女の前でしたのは悪手だったかと思えてしまう。
「……颯樹さん、あんた、sumimiに配属されたのは一年も経っていないんだよな……?」
「あ、あはは……。ただ何と言うか、まなにはどうしても嘘が付けないみたいだ」
そんな事を京介に伝えたら、盛大に溜め息を吐かれたうえでコーヒーに砂糖を入れて呑み始めていた。……あのなぁ、聞いたなら聞いたで責任取れっての。これにはお前も関与してんだ、俺は無関係ですなんて問屋が卸さねぇぞ。
そうして少しだけ休憩をした後、僕たちは4人連れ立って次の仕事先に向かった。
しかし……予定より早く着きすぎた事が理由で、時間が来るまで先に楽屋で待機するよう促された僕たちは、スタッフの案内によって楽屋に到着した。
「それではお時間になりましたらお伺いします」
彼方で打ち合わせがあるのか、スタッフはそう言い残して楽屋を後にした。楽屋の内部はというと、何処の楽屋にあるような化粧直しの際に使われる席と、テーブルとソファや備え付けのお茶やコーヒーといった、至ってオーソドックスな物だ。
まずはsumimiの二人に座らせてから、僕と京介の二人が座る形で誘導しようとしたが、その当人であるうちの一人から促されたので、渋々座る事になった……までは良かったのだが。
「……えいっ♪」
……あっ、コラ。さりげなく僕の隣に座ったな。
全く、マネージャーとタレントの距離感は……と言葉が出かけてたけど、それで聞く様なら苦労はしてないな。しかも京介、お前に至っては羨ましいと言わんばかりに僕を見るんじゃない。心做しか血涙が見える程だぞ。
「……クソっ、羨ましいな」
「あ、あはは……」
そんなやり取りを受けながら、僕はまなの相手をする事になった。途中で規則正しい寝息が聞こえて来たので、仕事が始まる前まではゆっくり休ませてあげようと心の中で誓う事になった。
今夜はこれにて終幕です。如何でしたか?
次回の投稿はなるべく遅くならない様頑張りますので、暖かい目で見て貰えたら幸いです。
それでは、また次回の