一週お待たせしてしまい、本当に大変申し訳ございませんでした。その罪滅ぼしとなるかは定かではありませんが、今回はもう1話このお話の後に投稿しております。それで何とかご勘弁下さいます様何卒……。
それでは、本編スタートです。
「お邪魔しま〜す!」
『お邪魔します』
「どうぞ〜」
そんな言葉で出迎えられた僕たちは、事務所から場所を移動して……睦の家へと訪れていた。そして僕たちを出迎えたのは、睦と同じ髪色をしていて、その髪をヘアバンドで留めた女性──森 みなみさんだった。
ここ最近はよく思う事だし、その人に対して失礼な事を思うのは申し訳ないんだけど……揃いも揃って、皆さんお若くありませんか? ちょっと脳内がバグりそう。
「本日はお招き頂き、感謝致しますわ」
「祥ちゃん久しぶりね〜。元気にしてた?」
「はい、おかげさまで」
……やっぱり祥子を見てると、育ちの良さを感じるよ。それなりに名が通ってる所の生まれなんだろうし、一つ一つの動作に無駄が無い。さすが
その後は、祥子と睦が幼稚舎の頃から一緒……早い話、幼馴染である事を聞いた後、僕や京介に話を持ち掛けられた。正直みなみさんとはお仕事で何度か一緒に動いた事があるものの、ちょっと掴み所が無くて大変だった記憶があるんだよな……。
「ところで颯樹くん」
「……は、はい。何でしょう」
「アナタがAve Mujicaに参加してる、って事は……彼女は知ってるの?」
「彼女……千聖の事ですか?」
僕がそう言うと、みなみさんは軽く頷いた。
「ええ、知ってますよ。公には素顔を出してませんが」
「……そう。颯樹くんも大変ね、あの人の息子と知られたらタダでは済まないでしょうに」
「分かってますよ。それは、僕だけじゃなくてみなみさんも一緒じゃないんですか。ご自分に娘が居る、なんて事は」
「そうね。……お互いに、苦労するわね。どうしようも無い弱みを抱えちゃうと」
……そう、みなみさんの言う通りだ。
僕は、本当ならば世間から隔絶されるべき存在だった。あのまま母さんと一緒にひっそりと過ごしていれば、こんな事にならなかったのに。幼馴染からの呼び出しを受けて……自らの生まれた地で一人暮らしをして、そして今や
……そう言われたって、仕方無い。
そうなったのは、全部……
「颯樹くんは、いつか自分の素性を全部晒すの?」
「……晒してなるものか。アイツだけで良い……全ての罪を白日の元に引き摺り出され、地獄の業火で焼かれるべき愚者は」
「……本当に、何と言って良いのかしら。
そんな事を話していると、にゃむからの誘いでメンバー全員で鑑賞会をしようと言う話になった。内容としてはよくある昼ドラで、スクリーンに映し出された映像の中では、みなみさんが相手の人物に対してやりきれない想いをぶつけていた。
まあ、この内容を見ると、僕にも色々とクる物があるのは変わらない事実なんだけどね……。だって、未だに清算しきれてないんだから。
そしてこの内容を見て、にゃむは涙ぐんでるし、みなみさんはと言うと自分の演技を見て自画自賛してるし……ただ、海鈴は眉一つピクリとも動かしていなかったのだが。
「そうだ! もしAve Mujicaの練習場所に困ったら、ここを使って良いから!」
「えっ、良いんですかぁ?!」
「趣味の部屋なんだけど、ずっと忙しくて使えてないし」
「嬉しいです〜!!」
「待った。……みなみさん、今回のご提案、ありがとうございます。その一件は此方の方で一度預からせて頂き、後日折り返しご連絡する形でもよろしいでしょうか? なるべく近日中にはお知らせ出来る様に致しますので」
みなみさんからの提案を、軽々しく二つ返事で引き受けそうなにゃむを引き止め……僕はみなみさんに向かってそう告げた。それ自体には気に留めなかったのか、彼女は自分の事の様に喜んでいたので、後日事務所の方に確認を取って折り返す、と言う形で纏まった。
その後は食べかけの料理をご馳走になり、若葉家に訪れてから約一時間近く経った頃合いで、僕と千歌の運転する車に再び睦以外のメンバーを分けて乗車させ、その場を後にする事にした。
……ただ、この時の僕は、まさかこの後に起こる衝撃的な出来事を、想像する事すら出来なかった。それが……他でも無い、
「ただいま帰りました」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「お出迎えありがとうございます」
「さぞお疲れでしょう、お荷物をお持ち致します」
私は自宅に帰るなり使用人の出迎えを受け、手持ちの鞄を預けた後に鍵を開けて家の中に入った。傍から見れば大きな御屋敷と思ったり、住む世界が違うのではと錯覚されやすいが……私とて普通の人間。
形は違うかもしれないが、こう言う当たり前の光景は、私にも確り存在している。
「失礼ながらお嬢様」
「はい」
「居間にて、奥様がお待ちです。つい一時間ほど前にご帰宅されて、お嬢様の身を案じておりました」
「ありがとうございます。では、行って来ます」
玄関に上がり靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた所で……私はそんな事を言われた。母が私の事を心配するのは日常茶飯事なので、特に気にする必要も無い。けど、今回は私の方から母に相談しなければならない事もあったので、寧ろ好都合だ。
母の居るであろう居間の前に着くと、私は定石通り三度のノックを行った後に軽く声を掛けた。
「お母様、千歌です。只今帰りました」
『どうぞ、入って』
「失礼致します」
母から促され、私は部屋の中に入る。そして一礼を済ませた後に母の対面にあるソファに腰掛けた。
「今日もお疲れ様、千歌」
「ありがとうございます、お母様。それで、今回私を呼んだ理由をお聞かせください」
「ええ。でもその前に……」
そう言って母は徐ろにソファから立ち上がると、棚のある方へと歩いて行った。そこには先程から置かれていたであろう、ティーカップやポットがあり、そのうちの一つを手に取って私に向き直った。
「お夕飯は済ませて来たのでしょう? 食後のティータイムにしましょうか」
「……やはり、母の淹れた紅茶は格別です」
「ありがとう。そう言って貰えると嬉しいわ」
私は母が用意してくれた紅茶を一口飲み、そう伝えた。それを聞いた母は微笑みながら相槌を打って……暫しの談笑に花を咲かせる。これがいつもの私の光景。夕食が終わった後は、こうして二人で卓を囲んでのんびりするのが通例となっている。
父は相も変わらずと言うのか、帰宅時間が遅い。私たちより遅れて帰宅し、朝早くに仕事に赴いて行く。これだけ見れば、颯樹の父親も同じ様な人だった……でも、それは、私の……。
「どうしたの、千歌。さっきから顔色が優れないわよ?」
「……申し訳ございません、お母様。少し考え事をしていたもので……」
「千歌の歳頃の男女だと、色々悩める事もあるでしょう。勉学の事も、それ以外の事でも」
「……はい、仰る通りです」
母から並べられた言葉に、私は頷く他無かった。
「……Ave Mujica、と言ったかしら」
「……はい?」
「この前の配信、見てたわよ。なんでも粗相をしたメンバーを嗜める為に出て来たとか」
……やはり、この事はもう知っている。
なら、私が今置かれている状況の危うさも、どこまで筒抜けになっているのやら。
「……よくあの場で止めに入ったわね。自分の素顔を晒す危険すら顧みずに」
「……」
「結構。貴女は正しい選択をしたと思うわ」
言葉を紡げなかった私に変わり、母は自分の考えを簡潔に短く述べた。そして真っ直ぐ視線を私に見据えた状態で、母からの言葉は続いた。
「誰もが素顔を隠した状態で、尚且つ素顔を晒す事が危険だとわかっている中で……進んで仲間内の非行に仲裁を入れる事は、決して簡単な事では無いわ。その状況なら、誰もが自分は無関係だとありたいと思うモノだから」
「……返す言葉もございません。しかし、私は
「良いのよ。むしろ、その行動は最善と言えるわ。私が貴女の立場でも同じ事をしたでしょうね」
母がその言葉を続けていくに連れ、私の中で心の枷が外れていく様な気がした。あの場でその行動をした事には、被害拡大を止められた事への安堵以上に……もしかしたら自分はとんでもない暴挙に出たのか、と思ってしまっていたからだ。
それを母は怒るでも無く、悲観するでも無く……ただ肯定してくれた。私の行ないを全て理解したうえで、だ。
「勿体無いお言葉……ありがとうございます」
「ええ、私は当然の事を言っただけだもの」
「……実はお母様。今回は折り入ってお母様にご相談したい事があるのです」
「あら、何かしら」
その言葉を聞いた私は、母に今朝起こった事の全てを包み隠さずに話した。その人物の危険性と、これから私たち家族……ひいては颯樹に関わった者全てに起こりかねない、凶兆を未然に防ぐ為に。
「……分かったわ。私も、その様な認識を持って貴女を育てたつもりは無いのはもう知っているでしょう。夫に聞いても同じだけれど」
「はい、存じています」
「でもね、そこまでの固定観念を持つ人が居て、尚且つ私たちやその関係者に危害を加えるともなれば……私たちは然るべき策を取らなければいけない」
そう言った母はソファーから立ち上がって、少し扉の方向に向かった先にある箪笥の引き出しから……メモ帳とペンをひとつずつ持って、私の方に戻って来た。
「千歌、この事はあの人にも聞いて貰うわ。その人にはうんと厳しい報いを受けて貰わないとね」
「元より、そのつもりです。お母様」
「良い返事をありがとう。さて、もう一度聞かせて。その人がどんな事を言って貴女や私たちを侮辱したのか……その全てをね」
「分かりました。順を追ってご説明します」
普段は身に付けない眼鏡(母曰くにはなるが、度は入っていない伊達なのだとか)を付けた母は、私から齎される情報をお父様にお伝えするべく、メモを取り始めた。その表情が次第に私の心中に抱く感情と同じになるのは、そこまで時間は要さなかった。
……そして、暫くした頃。
『失礼ですがお嬢様、奥様。ただいまお風呂の準備が整いましたが……如何致しましょうか』
「あら、もうそんな時間? 千歌、続きはお風呂から出た後でも大丈夫かしら」
「はい、構いません」
「ふふっ、分かったわ。でも、こんな話を聞いてると……颯樹くんに会いたくなるわね」
「私たちが良いと言えば、彼も応じてくれると思います。何せ此方には8年も来られていないんですから」
私と母はそんな事を話しながら、共に笑いあった。
その後は交互に入浴を済ませて……先程話していた内容の続きを伝えた後、翌日に向けて就寝する事にした。母はこの内容を父に伝達するべく、引き続き起きているとの事だったが。
今回はここまでです。如何でしたか?
本日は2本連続投稿……この後のお話では、別サイドにて一話お送りしたいと思いますので、其方も併せてご覧下さい。