それでは……連続投稿二本目、始めて参りましょう。
「……」
……どうしよう、私の知らない間にそんな事になっているなんて知らなかった。
私の中で今も頭を駆け巡っているのは、今更言うまでも無いけど、颯樹くんの事だ。私が最後に会った時は、自然と周りの空気を変えてくれる様に優しくて……いつも気の利いた言葉や、行動で私たちを支えてくれていた。
それが今では、あの仮面を着けて演奏するガールズバンド──Ave Mujicaの一員となって活動していて、彼はそのプロデューサーに着任したのだとか。
「(なんで、私に何も言ってくれなかったの……)」
本人には届く筈も無い私の想いは、ただの独り言としてその思考回路を埋めつくしている。これは彼の精一杯の優しさなのかもしれない……私に言ったら確実に引き留められるって、そう思っていたから何も言わなかったのかもしれない。
同級生でルームメイトで……親友である千聖ちゃんの沈み具合で、ある程度の状況は察する事ができたけれど、私はそうなっている事をまだ知る事すら出来ていない。
……思えば、ここ暫くこんな調子だ。
周りにはそれを気取られ無い様に、妙に明るく振舞って見せたり、いつもの様に慌てさせてしまう事もあった。でも、やっぱり私の心の中では……状況は変わらなかった。
「(……会いたいよ……)」
もし彼に会えたのなら、この気持ちも幾分か紛れるかもしれない。そしてありったけの想いをぶつけて、身も心も楽になりたいくらいだ。……でも、そんなに都合良く颯樹くんと会える機会ができるほど、今は猶予が無い。
「(……どうして……私……)」
「花音さん。花音さん!」
「ひゃぁっ!? み、美咲ちゃん…?」
「漸く気付いた……休憩時間はとっくに終わってるのに、いつまで経っても戻って来ないから、心配しましたよ」
意識を手放しかけていた私の思考を、美咲ちゃんが元に戻してくれた。彼女の後ろを見ると、こころちゃんとはぐみちゃんと薫さんの三人が何やら話し合っている様子が見えた。もう休憩時間は終わっていて、後は私だけだったみたいだ。
「う、うん……ありがとう、美咲ちゃん」
「このくらい平気ですよ。それで、何かあったんですか」
「……え、えっと……」
……話して良い物か、迷ってしまう。
私のこのやりきれない気持ちを、美咲ちゃんに話してしまって良いのか。芋づる式でこころちゃん達に聞かれたら、また一波乱あるかもしれない……この事に関してだけは、絶対に大事にしては行けない事なのだから。
「……話しにくいですか?」
「……う、うん……」
「分かりました。ほら、後ろで騒いでる三人ー、一旦ここから出てって下さーい。拒否権なんて無いから、さっさと出て行く〜」
そう言って美咲ちゃんはこころちゃん達を退出させて、私と一対一になる様に向かい合った。本当にこう言う気遣いが出来るのは、美咲ちゃんの良い所だと思う。
「さて、どうしたんですか?」
「……怒らないで、聞いてくれる……?」
そう言って私は、美咲ちゃんに今自分が悩んでいる事を少しずつ話し始めた。
「あー、それは重症ですね……。心中お察しします」
「うん……正直な所、今でも納得が行かなくて。私は颯樹くんと関わる機会が多かったし、事ある毎に助けられて来たから、彼の人となりもわかってるつもり。でも、そんな颯樹くんが音沙汰無しって、どうしたんだろう……」
「ふぅむ……」
私の話を聞いた美咲ちゃんは、腕を組んで考え始めた。
今までの経験から言うと、私がここまで何も知らないのは初めてだし、少し前には一緒にご飯も食べたくらいだ。でも、千聖ちゃんはあの一件以降……何かに憑かれた様に躍起になってるし、颯樹くんは颯樹くんでお仕事が忙しいのか、私のところに一つや二つはあっても良いはずの連絡がピタリと止んでいる。
……颯樹くん、どうしちゃったんだろう……。
何か、良くない事に巻き込まれているのかな……はっ、もしかして。あの出来事と千聖ちゃんの様子が変になった事と……表沙汰には出来ない、ナニカがあるのかも。
「あの、花音さん。少し思った事を良いですか?」
「……ふぇっ?」
「恐らく、にはなるんですけど。颯樹さんの連絡がパッタリと途切れたのって、もしかしなくても武道館での一件ですよね」
「う、うん」
それは間違って無い。あの日以降から、彼とはまともに連絡すら取れていない。
「その武道館ではPastel*PalettesとAve Mujicaが対バンライブをしていて、その結果次第で颯樹さんの今後が決まる……みたいな話を、何処かで聞いていませんでしたか?」
「えっ、聞いたけど……美咲ちゃん、どうしてそれを?」
「どうやら、情報をリークした人が居るみたいなんです。それが今ではすごい反響を呼んでいて、ネット中大騒ぎです。あたしはそれを見て事の次第を理解したクチで……」
……そ、そんな……。もしそれが本当だとしたら、颯樹くんはもうパスパレには居ないと言う事になる。千聖ちゃんが躍起になってるのは、十中八九彼を取り戻す為に違いない。私の知らない間にこんなにも話が進んでいるなんて、夢にも思わなかった。
……連れ戻さなきゃ。
彼が危険な橋の入口に立ってしまう……その前に、何としてでも。私だって、颯樹くんの支えであり続けたいから!
「……美咲ちゃん」
「はい」
「……分かりました。こころやはぐみの無茶振りを聞いてるうちに、突然の事態でも思考が纏まる様になりました。そう考えれば、あの三馬鹿には感謝ですけど」
「あっ、あはは……」
「いいですよ、協力します。ただし、あの三人には内密に動きましょうか。下手に感知されて大事にされたら面倒ですから」
そこまで話した後、美咲ちゃんはこころちゃん達三人を呼びに出て行った。それを見届けた私は、直ぐ様スマホの電源を点けて電話をかける事にした。
『あら、花音。どうしたの?』
「ごめんね、千聖ちゃん。お仕事中だったのに」
『構わないわよ、親友からの電話ですもの……合間を縫ってでも応答したいから』
私が電話をかけたのは……千聖ちゃんだ。
出発前に聞いていた話では、今日はドラマの撮影に行っていたとの事だったんだけど……今は休憩中だったのか、私からの着信にスリーコール以内に応答していた。
それを好機と見た私は、美咲ちゃんと先程話し合っていた事を千聖ちゃんにも共有する事にした。
『……分かったわ。夕方頃には帰れると思うから、美咲ちゃんと一緒に先に向かってて貰えるかしら?』
「う、うんっ!」
『ふふっ、それじゃあまた夕方に』
「ありがとう……千聖ちゃんもお仕事気をつけてね」
『花音の方こそ、道中気をつけるのよ?』
うっ、それを言われると弱いよぉ……。
そんなやり取りを終えた後に、私は千聖ちゃんとの通話を終えて、戻って来た美咲ちゃんに耳打ちで事情を説明した。その話した意図をある程度察したのか、美咲ちゃんは声を出さずに首肯で頷いていた。
……そして、ハロハピの練習が終わり移動も終えた頃。
「本当にあたしも一緒で良かったんですか?」
「う、うん。ただこころちゃん達には黙ってて、って強く念は押されちゃったけど……」
「千聖先輩の読みは多分正しいと思いますよ。知ってたら知ってたで、完全秘匿の内容が外部に漏れかねませんし」
「あ、あはは……」
……それは確かに怖い所だよね……。
「しかし、あたしも一緒に立ち会う程の事って一体何でしょうかね……」
「千聖ちゃんがそう言う程の事だし、美咲ちゃんにも少なからず関係がある物だと思うけど……」
「ええ、今から話す事は美咲ちゃんにも共有しておいた方が良い案件なの。恐らく心当たりがある事だから」
……ふぇっ?
「ち、千聖ちゃんいつの間にぃっ!?」
「お、お邪魔してます千聖先輩」
「いらっしゃい、美咲ちゃん。歓迎するわ」
いつの間にか仕事を終えたであろう千聖ちゃんが、私たちの方を向いていた。その証拠に私の声はびっくりした拍子に上擦ってしまい、冷静に対応している美咲ちゃんとは全く正反対の反応だった。
その様子を見た二人から宥められながら、私は千聖ちゃんに先程美咲ちゃんから伝えられた内容を伝える事にした。
「……そう、情報を
「ええ、にわかには信じがたいかもしれませんけど」
「これは私も予想外だったわ。昨日の夜に京介くんからの近況報告を受けたのだけれど、昨日の事も、そして今回も。全てあの女が関与してるのかしら……」
……ん?
「あ、あの……千聖ちゃん?」
「なぁに、花音」
「間違いじゃなければ、さっきあの女と言っていたけど……何か心当たりがあるの?」
「どうなんですか?」
私と美咲ちゃんが千聖ちゃんに聞いた……次の瞬間。
「ええ、ある程度の予測は着いたわ」
……美咲ちゃんから聞いた話と、千聖ちゃんが京介くんから聞いた話……その渦中に居る人物──女の子は、どちらも同じ子がやってるみたい。もしその子が何か思惑を抱いていたとして、そうする事で何か利点はあるのかなぁ……。
「実はね、これは私も聞いた話なのだけれど」
「「??」」
「サポーター陣の素顔、ですか?」
「でも何でそんな事を……」
「先日のdubでのライブの時なのだけど、メンバーの一人が起こした凶行で、ステージに上がっているメンバーの素顔が白日の下に晒されたの」
……!?
「ま、まって!? そんな事をして黙ってる人がいる訳」
「当然……千歌ちゃんがこれに抗議をしたそうよ。でも、結果は自らも被害を蒙ってこの有様。ミイラ取りがミイラになる、とはまさにこの事ね」
「「……」」
「そのうえ、何の気が狂ったか知らないけれど、京介くんを含めた男性陣の素顔も晒せと
そ、そんな……っ!
その事がもし仮に公の人たちに知られたら、颯樹くんたちは一溜りも……!
「ええ、一気に干されるでしょうね。未遂か現行犯、その概要を問わずして」
……そんなの……許せない……っ!
「千聖ちゃん、その人の事を教えて……私が今から、直接やめさせる」
「やめさせて、どうするの?」
「それは……」
「貴女の気持ちは痛い程分かるわ。でも、無策のままに敵の陣地に飛び込むのは、まさに無謀の極み。もし貴女の身に何かあったら、今度は私たちも標的にされかねないのよ」
私が歯痒くその場に座り込むのと入れ替わりで、美咲ちゃんが千聖ちゃんに問い掛けた。
「千聖先輩、どう言う事ですか?」
「京介くんからの通達だったのだけど……その子の地雷を何かしらでも踏み抜けば、颯樹と今関わりを持っている私たち……いいえ、その関係者全てに危害が及ぶ危険性があるの」
そ、そんな……あまりにも酷すぎるよ……。
じゃあ、私も彩ちゃんが二年前に受けた様な辱めを……運が悪ければ、私が受ける事になるの……?! そしてそれを晒された挙句、再起不能になるまでそれが続くとしたら……?
「……花音、貴女の予測は概ね当たっているわ」
「千聖先輩、この事はこころ達には」
「言わないで、何も。絶対に話してはダメよ」
そんなの……許しちゃいけない……。
ううん、誰が何と言おうと、私が必ず……!
「京介くんからある程度、Ave Mujicaでの事の次第の報告は私の方に届く事になっているわ。彼としても、私の事を敵に回す愚行はしたくないでしょうし……私と対峙する理由が無いもの」
「千聖先輩は信用出来るんですか、京介さんや颯樹先輩が居るって言う……そのバンドの人たちを」
「もちろん、完全に信用している訳では無いわ。ああ言うのは何処かで必ず綻びが出る……その機会を見て、今度こそ取り返すつもりよ。これ以上、好き勝手にはさせない」
ち、千聖ちゃん、すごく燃え上がってる……。
私も……何か出来る事は無いか、聞いてみないと!
「千聖ちゃん、私に何かできる事は……」
今はまだ小さな可能性だけど、ここからどんどん大きくして行く……。そして、颯樹くんを……取り戻さないと!
今回はここまでです。如何でしたか?
この度は一週遅れでの本編投稿となりました事、大変申し訳ございませんでした。制作をしている際には、成る可く遅くならない様に務めている所存ですが……諸般の事情も相まりまして、今回は2本連続投稿をさせて頂いた次第です。
次回の投稿も遅くならない様に致しますが、また止むを得ず投稿が間に合わない時には、事前に告知をしようと思いますので、どうかご理解の程をよろしくお願いします。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。