今回は当初の目的通りに2週のスパンを明けまして……本編投稿となります。次回はまたその翌週に投稿できるかもしれませんが、その時はXの方に告知させて頂きたいと考えていますので、その次第をお待ちくださいませ。
それでは、本編スタートです。
「おはようございます」
「あ、盛谷さん。お疲れ様です」
睦の家にお邪魔して数日後……僕は事務所の方に顔を出していた。芸能界に関わってからまだ2~3年位しか経ってないけど、こうやって名前を呼ばれて気軽に返せる程には浸透してきたのだと、ここ最近は特に実感している。
そう思えたのは……Pastel*PalettesにAve Mujicaやsumimiの事がきっかけなんだけれども、それはあまり表に出さず、僕はいつも通りに振舞っていた。
「それと……少し厄介な事に」
「はい。僕で良ければ対応しますが」
「……盛谷さんが当たられた方が良い案件かと」
「はい?」
僕はスタッフさんから話を聞いた後、足早に普段のミーティングで使っている控え室へと訪れたのだが……。
中から聞こえて来たのはにゃむの声で、如何にも怒ってると言わんばかりの声量だった。ここで急にドアを開けて入室をすると本人の琴線を更に刺激する事になるので、僕は直ぐに入室をせずに壁を立てて少し聞き耳を立てる事にした。
『長くは続かない? 此処からって時に何言ってるの⁉︎』
『私、は……』
『あたしにとって……今は自分を売り込むって言う、とっっても大事な時期なの! むーこには分からないかもしれないけどさ、動画のコメ欄も解散解散って溢れていてマジ最悪……っ!』
にゃむが言い出した言葉に、僕は心当たりがあった。
そう言えば……昨日行なわれていたAve Mujicaのインタビューで、
そして見かねたのか、睦を擁護する声が聴こえた。
……どうやらその控え室には僕を除いてほぼ全員揃ってるらしいな。
『睦ちゃんも悪気があったわけじゃないんだし……』
『てか小さい頃からテレビ出てたじゃん! インタビューとか慣れてないの⁉︎ なんでなの⁉︎』
あー、これは完全に頭に血が上ってるね……。
「お前ら、うるさいぞ。外まで聞こえていた」
「さっきー!」
「事の次第は知ってる、だがそこまで血が上る事か」
「……すまない、颯樹さん。実は」
痺れを切らした僕は控え室に入室し、一言声を掛けてその場を諌めさせた。ただそれに応答したにゃむは、今にも掴みかからんとした勢いの為、説得での鎮静化が困難となっていた。
そして僕は、すぐ傍に居た京介から今現在の説明を貰ったのだが……。
「あのねにゃむ。何でもかんでもワーワー騒げば事が解決する訳じゃないんだ」
「さっきー冷たっ! あたしがここまで来るのにどれだけ頑張ったと」
「だから落ち着くんだよ。お前たちの状況は多少なりとも知ってる、でもだからと言って暴れたところで火に油だ。それが分からないわけじゃないだろ?」
「……」
全く、なんでこんな事になるのかなぁ……。
と言うより、睦がこんな風に怯えてしまってるの、お前の所為だっての忘れてないよね? 普通に忘れてたらびっくりだし、長時間お説教コースだよ? 女だからって関係無いよ?
「それにだ、にゃむ
「誤解ってなんなの……って、きょーこ! にゃむ右衛門ってなにっ⁉︎」
「さっき、お前は睦はテレビに出ていた事とインタビュー慣れをしている事を指摘しただろ? 睦だってテレビに出てたのは片手の指で数えられる程度の上、その回数でインタビューを慣れるのは無理がある。それに、だ。睦は見た感じ人前で話すにはあまりにも不向き……それで直ぐに慣れろは酷な話だし、それを気にせず苦言を呈するのは、随分な物言いじゃないのか?」
最初ににゃむを茶化した後、京介が有り得る事象を一つ一つ指摘して彼女の次に出て来る言葉を黙らせた。これは僕自身もそうである様に、この手の雰囲気は一度や二度経験しただけで慣れる物では無く……わかり易い例で行くと、同年代で芸能界の先輩である千聖の様に二桁や三桁、果てにはそれより多くの数と時間を費やして漸く場慣れするのが一般的なのだ。
それに先程の京介の言葉を補足するのであれば、特に睦の様に自分の意思を上手く伝えられない者や……ましろの様に人前に立つ事に対してかなり緊張し易い者に対しては、今のにゃむの言葉はかなり危険だ。
それで慣れてくれるならそれに越した事は無いが、だいたいの場合は当初の予想と全くの逆効果になりやすかったりする。
……それ故、今彼女が発言した内容は、この場においては何の意味合いも持たないただの我儘だ。
「むむむ……さきこも何か言ってよ! それとも、幼馴染だから許すわけ⁉︎」
「……私のマネジメント不足ですわ」
「さきちゃん……」
「
「睦。今後は発言にプロとしての自覚をお持ちになって」
「ごめ「若葉さん。次の仕事に向かわないと」ぁ……」
睦が何か言いかけるも、それは海鈴が呼び掛けた事で有耶無耶になってしまい、引率の京介と一緒に控え室を後にして行った。そして僕は先程余計な事を言ったにゃむを別室に連れ出し、三時間半にも及ぶ大説教をかます事になったのはまた別の話だ。
「さて、ここからどうするか……」
事務所を出た僕は、一人街中へと繰り出していた。今日は事務所に顔を見せれば良かったので、そのままオフとしているのだけど……あんな状態の睦を見ていると、どうにも落ち着かなくて仕方が無い。
家に帰ってゆっくりするも良かったし、予定を変更してまなの仕事に付き添っても良かった。……でも、やっぱり脳裏にこびり付くのは。
『長くは続かない? 此処からって時に何言ってるの⁉︎』
『私、は……』
『あたしにとって……今は自分を売り込むって言う、とっっても大事な時期なの! むーこには分からないかもしれないけどさ、動画のコメ欄も解散解散って溢れていてマジ最悪……っ!』
……にゃむにキツく怒られている時の、睦だ。
他の人から見れば大した事が無い様に思えても、本人にとってはそうでは無い。寧ろ……誰よりもキツイ思いをしてるのは火を見るより明らかだ。扉越しで不平不満を言われているのを聞いた時、そして中に入って明らかに落ち込んでいる彼女を見た時。
……どうしても嫌な予感が拭いきれない。
以前若葉邸にお邪魔した時、練習場所として提供されている地下室に訪れた事があったのだが、そこをみなみさんは普段は使っていない趣味の部屋と言っていた。でも、もしそこが……睦にとって、心が落ち着く場所だったとしたら?
「……もしかしたら、睦は……」
「颯樹さん、顔色が悪いですけどどうかしたんですか? そんなに思い詰めて」
「……まな?」
「はいっ♪ 本当はお仕事の予定だったんですけど、さっき事務所を出る時の颯樹さんを見たら……居ても立ってもいられなくって」
突如として聞こえた声に振り返ると、そこにはまなが立っていた。モノトーンカラーを基本としたフリルの着いた服装で、鞄を手に持ってない所を見ると、どうやら事務所からそのまま駆けて来たらしい。
……あのね、シレッと後ろから抱き着かないでくれませんかまなさん。割とこっちは精神参りそうなんですが!?
「……わかった。行きながら話そう。社長には連絡しておくから、戻ったら仕事の準備だよ」
「分かりました♪」
「じゃ、戻るか」
そう言って僕はまなを連れて事務所に戻り、社長にオフの撤回と仕事に向かう旨の連絡をして……仕事先に足を運ぶ事にした。今は少しでも気分転換をしたかったので、このタイミングでまなが来てくれた事には感謝しか無い所だ。
そうして仕事も順調に終わり、先程途切れさせた話の続きをする為、彼女を僕の自宅に招き入れる事にした。長話になるので、紅茶を用意するのは忘れなかったが。
……そして、暫くした頃。
「そうだったんですか……ういちゃん達の所は、そんな風になっていたんですね」
「ああ。このままの状態が続く様なら、何かのひと押しで崩壊しかねない。僕も支える立場に居る都合上……メンバー各々に対応をしたい所だ。でも、今はそうしている事すら厳しい」
「……私も、何か出来ませんか。同じ事務所に所属しているのなら、尚更気になるんです」
「ありがとう、その気持ちだけでも嬉しいよ」
僕がそう答えている傍らで、まなは何かを思い出した様に傍らにある袋を探っていた。……こんな時に、一体何を…?
「お疲れ様の颯樹さんと、ドーナツを半分こです♪」
「ど、ドーナツ……? その気持ちは嬉しいけど、なぜ?」
「私……颯樹さんやういちゃんと、一緒に活動を続けて行きたいんです。お二人にはAve Mujicaもあるし、
ここまで続けた後、まなはひと息呼吸を置いて続けた。
「……私だったら、sumimiは解散しませんよーってついつい言いたくなっちゃうかもです。こんな事、言っても何の気晴らしにもなりませんけど……」
「そうだね。でも、その言葉があるだけでも心強い。これからもキミたちのサポートをさせて欲しい。任された役目は何があろうと熟してみせるから」
「そう言って貰えると、私も嬉しいです。颯樹さんも良かったらどうぞ」
そう言われて僕はまなからドーナツを受け取って、一口食べ始めた。夕食前に間食をするのは少し罪悪感こそあったけど、それはあまりしない様に務めるし、たまにはアイドルのわがままを聞くのもひとつの交流だと思っていたりする。
……あっ、このドーナツ美味しい。
しかも僕の予想が当たってるなら、これって……。
「あっ、気付いちゃいました? それ、颯樹さんが好きなドーナツですよね♪」
「……よく気付いたね。好みがどう、ってのはあまり話していなかったから、覚えられてるなんて想像はしてなかったけど」
「海でのモデル撮影のあった日、一度自宅に立ち寄った時があったと思うんですけど……その時に部屋の中でチラッと見えたレシートでピンと来たんです」
僕的にはバレない様にしていたつもり──と言うより、一人暮らしだからそこまで気づかれないモノ、と思っていたのだが、どうやら僕の想定を軽く超えていたみたいだ。まなは少し申しわけなさそうな顔をしながらも、自分の取り分であるドーナツを満足そうに一口食べていた。
……ん?
「ちょい待ち、少し電話に出るね」
「はい、構いませんよ」
「ありがとう。……はい、盛谷です」
僕はまなに一言断りを入れてから、唐突にかかって来た電話に応答する事になった。そしてディスプレイを見てみると京介と出ていたので、僕は小声でまなに食べながら聞いててと指示を出して、彼からの電話を取った。
「どうした京介?」
『睦の仕事が終わったから、ひとまず事務所に報告する前にアンタに
「分かった。それで睦は?」
『かなり疲れている。インタビューもまともな質問が来やしねぇよ』
「……そうか。詳細を直接聞きたいから、事務所に報告が終わり次第、僕の家に来い」
『了解した』
その言葉が聞こえた後、彼との通話は途切れた。
「京介さん、ですか?」
「うん、今こっちに向かってるみたいだ」
「分かりました。それなら、少し何処かに隠れてた方が良いですか?」
「うーん、どうしようか……まなは良いの?」
「はい、構いませんよ。それに、颯樹さんが京介さんの為に色々動いてる事は知ってますし……ここで一つ驚かせてみようかと♪」
……はぁっ!?
もしかして勘づいてたの!?
「……わかった。終わったら呼ぶから、それまでは僕の部屋に隠れてて」
「分かりました♪」
そう言ってまなは階段を上がって僕の自室へ入り、それと入れ替わりになる様に京介が来たので、僕は来客用のコーヒーとおもてなし用の菓子を用意して対応する事にしたのだった。結果としては懸念の通りになってしまい、頭を抱える事案となったのだがそれはまた別の話だ。
「……あっ、颯樹さん」
「ん?」
僕がフッとまなの方を振り返ったその瞬間、何かが押し当てられる感覚があった。そこに至るまでの動きが滑らかだったのもあるとは思うけど、これを完全に予想外のタイミングでやって来るとは思わなかったのがあり……僕の脳内は軽く真っ白になりかけていた。
そして、まなは僕の方に近づいて……。
「今夜はよろしくお願いします、颯樹さん♪」
……うん、これはもう逃げられませんね……。
そんなやり取りもありつつ、僕は京介とまなを連れて七深がバイトをしているファミレスへと夕飯を食べに向かう事となった。その道中でまた一悶着あるのだが……それはまた別の機会に、と言った所だ。
今回はここまでです。如何でしたか?
このお話では少し怖さ成分を緩めましたが、次に投稿する予定のお話では、アニメの不穏さをそれなりに感じられる程の強さでお届けしたいと考えております。まあ、このお話を書いてるのが僕の時点でそこまで信用性は無いんですが……あはは(苦笑)
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。
ちなみに余談なのですが、この小説は現在放送中のバンドリアニメとリンクする都合上……タグの内容が、若干かもしれませんが変更の危険性があります。
今後お話を読む際は、そこにも着目して見て頂けると幸いです。