やっと定刻に戻せました……ここまで感覚を取り戻すのに時間かかるのは、多分僕の経験上初めての事じゃないのかなと思っていたり……あはは(笑)。
さて、今回はいつも通りに本編をお届けします。
前回がまなメインだったので、今回は?と言った所で、前書きでの言及はここまでとさせて下さい(これ以上言わずとも本編でわかるので)。
それでは、本編スタートです。
「……マップの場所に間違いが無ければ、ここか」
……京介から
大学の講義を終えた僕は、自分の車を走らせてある場所を訪れていた。元々土地勘は弱い方では無かったのだが、今回ばっかりは行き慣れていなくて且つ……初めて訪れる場所の為、少々手間にはなるが、出発前にカーナビを操作して住所を入力する程だった。
そして今回訪れた、この場所はと言うと。
「……さすが、お嬢様……。どんだけの高さがあるんだよこのマンション……」
……そう、市街地から少し離れた場所にある、推定でも10階以上はありそうなタワーマンションだった。もう一度間違いが無いかカーナビのマップと、メッセージに送られた住所を一言一句照らし合わせてみたのだが……それは変わらず、今居るこの場所を指していた。
今回は呼び出した本人の都合もあるので、此方から出向く事になったのだが、それを鑑みたとしてもこれには少し驚きを隠せなかった。
「っと、行けない。呆けてる場合じゃないよ。……とりあえず施錠をしてからエントランスで説明しないと」
そうして僕は車から必要最低限の荷物を持って降りて、車の施錠をしてマンションのエントランスフロアに向かう自動ドアに向かった。一応住居者の言伝こそあると思うが、ここは自分の口で説明してこそ、と言うのが筋だろう。
自動ドアを通ってマンションの中に入ると、右手にある個室型の受付で作業をしている人が僕の方に気付いた。……恐らく、このマンションの管理人さん……なのかな?
「こんにちは。何か御用ですか?」
「すみません、長崎 そよさんに呼ばれて来た者です」
「……はい、畏まりました。お繋ぎしますので、そのままお待ち下さい」
そう答えて受付の人は、手元で操作をしていた端末を器用に動かし、イヤホンマイクを通じて連絡を行なった。作業が手馴れてる所を見るに、管理業務に就いてからそれなりに日数があるのだろうと伺えた。
……その後、少しした頃だった。
「確認が取れました。盛谷 颯樹さん、ですね。お待ちしておりました。ここを抜けましたら奥にあるエレベーターにお乗り頂いて、最上階の方までお願い致します」
「さ、最上階……わかりました」
「それでは、ごゆっくり」
そんな定型的な台詞を背に受け、僕はエレベーターへと乗り込んで最上階のボタンを押した。マンション住まいに足を踏み入れる機会がそもそも無かったのもあり、住居の階移動手段としてエレベーターがある、と言う事にびっくりしていたのだが……まさか、今回訪ねる場所が最上階にあると言うのも驚きを隠せない。
……まあ、通っている学校が月ノ森と言う時点で何となく勘づいてはいたものの、実際にそれを体感すると在り来りな感想しか浮かばなくなってしまう。
そしてエレベーターは最上階へと辿り着き、僕はエレベーターを降りた後にその指定された場所へと向かった。廊下だけだったら迷う事も無いのだろうが、正直感覚が麻痺しかねないなとは余談だが。
「……ここか」
その場所に辿り着いた僕は、家主の所在を確認する為にインターホンを鳴らした。時間としては良い頃合を選んだのでは、と思っていたのだが……。
「……あれ、反応が無い」
そう思ってドアをノックしようとすると……。
「本っ当にごめんなさい……私も今帰って来た所で」
「あ、あぁ……なるほど。それなら納得」
左側の側頭部に氷を入れた袋を当てたまま、僕は未だに申し訳なさそうな顔をしたそよと相対していた。僕としては本当に偶然起こった事だと思うので、そこは別に気にしていないのだが。彼女にも何か手が離せない事情があったとも思うし、それはまあお察しと言う所か。
それはそれとして、そよも自宅に帰り着いて直ぐだったと言う事を鑑みるに……少々来る時間が早過ぎたかも、と心の中で後悔する羽目になった。
「……そう言えば、見た?」
「……何を」
「……うっ、き、気の所為じゃないかな……たぶん、きっと……Maybe」
……これに関しては、正直に言えば後が怖い。
と言うのは、先程そよがドアを勢い良く開けた際に……チラリとだが黒いナニカが見えてしまったのだ。月ノ森の制服はましろ達を見てる為にある程度覚えてたが、そこから少しだけ覗いた物に思わず驚く事になった。
ここで素直に話して楽になっても良いが……そうなると今度は社会的信用が失われかねないので、どうした物かと困った所だ。
「……ふーん、分かった。今回だけ水に流してあげる」
「……え?」
「私も不注意だったし、颯樹さんも悪気があってそう言う事をしたんじゃないだろうから。今回はお互い様。……颯樹さんになら見られても良かったんだけど」
小声でボソリと何か言っていた様な気もするが、とりあえず矛は収めてくれたらしい。話を聞きに来た、と言うのにその当人から追い出された挙句聞き出せなかった、となれば来た意味が無くなってしまいかねないのだ。
……そう言う意味では、今のそよの処置には感謝こそしても文句を言う筋合いは無いだろう。
「それでさ、そよ」
「?」
「昨夜の電話で話してたけど、僕に聞きたい事があるって事だったよね」
僕の問い掛けに軽く首肯で返したそよを見て、僕は言葉を続ける事にした。
「何が聞きたいの?」
……そう僕が質問をすると、彼女は少し考えながらも、言葉を少しずつ紡ぎ始めた。
「颯樹さん」
「うん」
「……それ、何処から?」
「颯樹さんの事を知りたくて、色々探ってみたら……過去の記事が出て来て。そこにそんな記載があったから」
……あー、一年前のあの記事か。
言ったら悪いけど、あれはほぼ公開処刑みたいな物だ。数多くのテレビカメラや新聞記者たちの居る会見会場で、よくあんなに小っ恥ずかしい事をスラスラと言ってくれた物だと軽く怨みたくなった程には。
長年女優をやって来た賜物なのかもしれないが、舞台袖で聞いていた僕からすると居た堪れない事この上無かったりする。
「あれはガセ。
「えっ、でも」
「あれは千聖が勝手にそう言ってるだけ。僕は一切容認して無いし、その噂が広まる事自体ノーサンキューだよ」
「……」
そう返答すると、そよの口が少し閉じてしまう。
……まあ、あの時は会見直後に千聖に大きな釘を刺したけれど、その後からとんでもない数のパパラッチに囲まれてしまうなど、本当に息が詰まる思いをしたのだ。やはり元天才子役で……尚且つアイドルベーシスト兼若手女優とお付き合いをしている、と言うのは否応でも興味を誘う物なのだと実感した。
そのせいか知らないけど、一ノ瀬には親の敵でも見る様な目で見られたうえで強襲される始末だし(なお、その度に粛清と言う名の
「聞きたいことはそれだけ?」
「それもそうなんだけど。私が気になってるのは……颯樹さんのご両親の事。あの時聞いた内容が、どうしてもこびりついちゃって」
やっぱりそこは気になるよね……。
でも、あの場に居合わせたうえでその話を聞いたなら、彼女にはある程度の事を話しておく必要があるかもしれない。
「……離婚したよ」
「……」
「僕が小学5年生になった頃かな。と言っても、時期は秋くらいだから、あと数ヶ月したら進級するかそのタイミングだった。もう我慢の限界だった。……いつまでアイツの影に怯えてるんだろう、って馬鹿らしくなってさ」
「そう、だったんだ……」
「さすがに義務教育期間中だったのもあって、姓はそのままになったんだけど、正直これを皮切りに父方の身内との関係はパッタリだよ。これに関しては僕も納得してる」
僕の話を聞いてるそよが、少しずつ表情を曇らせる。
……まあ、この話は聞いていても話してても気分が悪くなるので、あんまり無闇矢鱈に人前で話す事はしないんだけどね……。それで気分が悪くなって目覚めが悪いなんて言われたくないし。
「……私と、同じだ」
「……え?」
「……えっ」
「驚いちゃうよね、まさか今話してる相手が……自分と同じ境遇の持ち主だったなんて。しかも、時期まで同じ。正直、私の鏡を見てるみたいで……何処か放っておけない」
「……そ、そよ……? まさか、まさか?」
僕が突然聞こえて来た言葉を確認する様に問うと、彼女は心底申し訳なさそうに無言で首を縦に振った。そよの方はせっかくなら、と言う心意気だったのだろうけど……僕としてはそんなのは二の次だ。
「……ごめん、余計な事を聞いたかな」
「ううん、私の方こそ。私ももしかして、って興味が湧いたから聞いただけだから……本当にお互い様」
「そうか……それなら、良いけど」
その言葉を最後に、リビング全体の空気が一気に静まり返ってしまった。同じ部屋の中に男女二人っきり、と言うのは立場上経験は多いので何ともないのだが、ここまでこうしてお互いに口を噤んでしまうのは初めてだ。
それが起こった相手が同級生なら、まだ多少はと思えるのかもしれないが……歳が3つも離れた間柄だからこそ、双方言葉を続けられずにいた。
「それなら……今まで、どうして……」
「高二に進級する前に戻って来て、そこから僕だけで一人暮らしだよ。母さんの了承は得てるし、定期的に連絡は取り合ってるから心配しないで」
「……お父さんは、今……」
「何処にいるんだろうねあの野郎は。まあ、生きていても仕方の無い人間だから、もう無視しても問題無いとさえ思ってる」
そう答えた後に、再びそよが黙ってしまった。
……これ以上話を続けていると、彼女自身を傷つけてしまう可能性が高いのはもう明らかだ。そうで無くとも、自分が気にかけている
まなの場合は彼女を巻き込まない様に、と細心の注意を払って居たのだが……今回に限って言えば、そよが自分から踏み込んだので、そこは自己責任でしか無い。
「……ごめん、帰るよ。今度何か埋め合わせを」
そう言って立ち上がって帰ろうとした時、唐突に右の裾を掴まれる感覚があった。思わずその先を見ると……そよが何かに縋るかの様な視線を僕に向けていた。
「……私と、一生一緒に居て欲しい」
「え?」
「……そよ」
「私、颯樹さんの事が放っておけない。一度手放してしまった大切な存在を……もう一度、失いたくない。
そう言う彼女の言葉には、何処か心当たりがあった。
そよは前身であるCRYCHICで一度メンバーの脱退を経験していて、そこから一気に崩れ落ちる様に解散している……それを考えれば、あの時の様な失敗や後悔をするのは、もうたくさんなのだと理解出来た。
そういえば以前……そよが
あの後に舞台袖から響いた大声(……と言うより怒声が表現としては正しいのか)は観客席に居た僕にも偶然聞こえてしまい、その後の後始末に追われたのだ。とは言えど、その怒りの火種は彼女がCRYCHICに対してそれなりの思いを持ってたからこそ、楽奈のやった事を許さんと思ったからだと考えられていた。
「……お願い。私の事、離さないで欲しい」
「……ふっ、一生……か。(これじゃあまるで
「……えっ」
僕の零した小言は聴こえなかったのか、そよは短く反応していた。まあ、こうなってしまえばあとはもう流れるまま。お互いに知られたくない事を言ってしまった手前、ここまで来て我関せずはいさようならは論外と言う物だ。
……で、あるならば。
僕もそれなりの覚悟を決めるしかあるまい。そうでもしなければ、そよに対して申し訳が立たなくなってしまう。
「……わかった。そよの抱いている期待に、何処まで添えられるかわかんないけど」
「はい……っ、ちょっ」
「……言質、取ったからね」
その後の言葉は聞き取れなかったものの、背後から伝わってくる感覚が更に強くなった事から……そよの期待に添う物であったと、後に知るのだった。
……だが、僕の知らない所で事は進んでいく。
一筋の希望すら覆い隠れる程の、淀みきった暗く深い奈落の底に繋がる窯の蓋が、少しずつ口を開けていくかの様に。
今回はここまでです。如何でしたか?
次回の更新は従来通り2週間後を予定していますが……それと並行して進めている新作やその他の影響もあり、予定より少しだけ遅くなる場合があります。その際はまたXにて告知しようと思いますので、更新の通知をお待ち頂ければ幸いです。
予定通りに行けば、次回の更新は4月11日……ヴァンガードのブースターパック【零騎転生】の発売日となります。それに関連した内容を考案中ですので、どうぞお楽しみに。
……たぶん、その話があがるとしたら此方か、若しくはお相手方の作品になると思うので、それも合わせてお待ち下さいませ。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。