舞い狂う仮面の人形と孤独の獅子の咆哮   作:なかムー

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 皆さま、お待たせしました。

 今回はヴァンガードイベント回最終話となります。

 それでは、本編をどうぞ。


#EX7.ファイナルターン

 「これで、ジ・エンドです」

 「《奇跡の運命者 レザエル》。……私の負けよ」

 (ダメージ5→6)

 

勝者、時の宿命者

 

 「……や、やった…っ!」

 『ゲームカウント、2VS3。これに因り、チーム対抗戦の勝者はsumimiとする』

 

 まなちゃんが喜びを見せる中で、私は未だに驚きを隠せなかった。ある程度先攻後攻の差が出るのは割り切っていたし、それすら念頭に置いて準備をして来たつもりだ。……でも、その一切合切を真っ向から叩き潰された挙句、奇跡も無に還された。

 

 ……ハッキリ言って、最悪だ。

 

 前回のファイトで颯樹に負けた時以上に惨めで、最悪な負け方をしてしまった。

 

 「千聖ちゃん、大丈夫」

 「行きましょう、私たちがここに長居する理由は無いわ」

 「で、でも」

 

 

良いから帰るわよ!

グズグズしないで!

 

 「……ごめん、なさい……」

 「チサトさん……」

 「白鷺……」

 

 そんな私を見かねた彩ちゃんは、声をかけて近寄ろうとして来たけど……私は悔しさから来る、どうしようも無い怒りに身を任せ、彼女を思いっきり叱った。その様子に他のメンバーたちは思わず萎縮し、プロデューサーでさえも同じ様な気持ちにしてしまった。

 

 ……本当に私、参ってるのね……。

 

 そんな呆気に取られたみんなを置いて、私は一人ステージを降りて控え室に向かった。そして全員が揃ったのは、それから程なくしての頃だった。

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

勝者、時の宿命者

 

 そう聞こえた瞬間、私はどれだけ嬉しかっただろう。

 

 大切な人の想いを乗せたデッキで……無事に勝利を届ける事が出来て。今にも感動で泣いてしまいそうなくらい。ういちゃん達もそれは同じだし、私を信じて大将の役割を任せてくれた颯樹さんに、この気持ちをどう伝えたら良いのかな。

 

 ……でも、そんなに都合良くは……行かない物。

 

 「おぉい、さっきの試合……あれはインチキだろ!」

 「エクストラターンって何だよあれ、ただのイカサマじゃねぇか!」

 「そもそもそんな効果知らねぇよ、つうかそんなのがあって良いのかよ!」

 

 周りを見てみるとそこには不満が募りに募った、観客の人たちが居た(主にパスパレ陣営の)。その内容をあとで颯樹さんから聞いたんだけど、どうやら【ディヴァインスキル】や、私の使っていたリィエル﹦オディウムに対しての批判が殆どだった。

 

 それなら……パスパレの皆さんも運命者や宿命者を使ったうえで、ほぼ例外無くその効果を発揮しているのに、それは見て見ぬふりなのかな……。

 

 そんな私の胸中など露知らず、不満が溜まりに溜まりまくった観客の人たちは私に詰め寄って来ていた。……ど、どうしよう。これは借り物のデッキです、って正直に言っても良いけど、それだと尚更喧嘩の火種になりかねない……っ!

 

 私が内心で諦めかけていた……その時だった。

 

 「騒がしいな、何を騒いでいる」

 

 私とその声を荒らげた男性が声の聞こえた方を向くと、そこには颯樹さんが立っていた。心做しか雰囲気がピリピリしていて、彼の周囲には黒い雷が取り巻いている様だった。

 

 「何だテメェ、俺らはこの女に用があんだ……とっととすっ込んでろ!」

 「大丈夫か、まな。怪我は無いか」

 「は、はい。大丈夫です。特に危害は加えられてません」

 「そうか、それは何よりだ」

 

 その男性が更に怒るのを他所に、颯樹さんは私の心配をして来た。いつもと話し方が違うから……京介さんと話をしてるのか、と勘違いしそうになるけど、あの人の髪色はアッシュグレーで、颯樹さんは真っ黒。……常日頃から見ている私が、見間違えるはずが無い。

 

 颯樹さんの無意識下で行なわれた行動に、私は内心ドキドキしながらも……彼のその後を背後から見守る事になった。

 

 「チーム対抗戦は3対2でsumimiの勝ちだ。これは決定事項のはずだが、何が気に入らない」

 「何が気に入らない……だと。そんなもん全部に決まってんだろうが!」

 「そうだ! お前らが余計な事をしなければ、パスパレは全勝していた! 部外者がしゃしゃり出てくんじゃねぇ!」

 「その通りだ! だいたい……てめえが余計な事をしたからこんな事になったってのがまだ分からねぇのか!」

 

 うわ、それはあまりにも酷過ぎませんか……。

 

 今回私たちは千聖さんからの誘いを受けて、このチーム対抗戦を行なったし……それは向こうとしても承知している事だから、その事で異論を申し立てる事自体がお門違い。でも、相手の言い分としては私たちが余計な事をしたから、パスパレの皆さんの顔に泥を塗る事になった……との事。

 

 ……どうしよう、こんな時……どうすれば……。

 

 と思っていた、その時だった。

 

 「良いだろう。これ以上抵抗するなら、ファイトで決着を付けよう。それで文句は無いはずだ」

 「さ、颯樹さんっ?!」

 「へっ、いいのか? 今逃げ出せば、俺らはお前には指一本手は出さねぇんだぜぇ?」

 「……そこまで言うのなら、お前たちにはそう言えるだけの力がある。と僕は認識しているが? どうした、怖気付いたか?」

 

 ……あっ、颯樹さんの眼光が鋭くなった。

 

 この人、本気でやるつもりだ。自分の悪口を言われた、と言う訳じゃないのに……気概は自分に対して降り掛かった火の粉を、今にも振り払わんとしてるみたいに。

 

 「……てめぇ、巫山戯た事を抜かすのも……大概にしておかねぇと、泣いて謝った所で許さねぇぜ!」

 「……ファイトだ」

 「そのナメきった態度、絶望に変えてやる!」

 

スタンドアップ・ヴァンガード!

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 「……つ、強え……」

 「ば、バケモンだろ……」

 

身の程を弁えぬ愚か者よ、

我が破天の槍にて……。

 

堕ちろ、何処までも。

 

【レヴォルドレス】!

 

《ユースベルク “反抗黎騎(レヴォルフォーム)晄臨(イグジスト)”》

 

 「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!?」

 「……逃げられると思ったか、甘い!」

 

 そう言ってユースベルク(颯樹さん)は、その場から情けなく逃げ失せようとする男性に……自身の持つ黒を基調とした、黄色の装飾がプラスされた槍を構えた。そして……その槍は次第に凄まじい威力の雷を周囲に纏わせて行き……。

 

地に……堕ちろーーーッ!!!!!

 

 「ひ、ひぃぃぃっ……うあああああああああああっ!?」

 

 そんな情けない断末魔と悲鳴を挙げながら、先程までファイトしていた男性は……槍が激突して少しした後に、その場に音を立てて倒れ伏した。その様子はあまりにも酷い物で、颯樹さんのダメージは3で、男性のダメージは7……確実にオーバーキルをしていた。

 

 「て、てめぇ……よくもぉ!」

 「こ、こうなりゃ……俺たち全員が相手だ!」

 

その勝負、お待ちなさい!

 

 こ、今度は何ですか?!

 

 と思っていたら、私の背後にある舞台袖から二人の人物が出て来た。京介さんと……もう一人は、確か副将戦を戦ってくれていた人だった。その人は一歩先に足を進めると、デッキケースを自らの前で翳し、反対勢力を押し留めた。

 

 「これ以上の私闘は、見るに堪えませんわ」

 「な、なんだと……このアマぁ!」

 

 そのデモ隊の一人が言うのを他所に、女性の方は颯樹さんの元に行くと、流れる様な手付きで彼の頬に手を添えた……って、ちょっと?!

 

 「颯樹様、お怪我はありませんこと? かなり暴れていたのでしょう、所々に埃が着いておりますわ」

 「……ありがとう、これくらいは問題無い。担当アイドルが非難されていたんだ、それは巡り巡って僕を侮辱したのと同義だからな」

 「まあ。それは何と酷い事を……」

 

 そう言うや否や、その女性の目付きが一層鋭くなった様に感じた。副将戦の時に日菜さんを嘲笑っている時の物とは違い、今の彼女はまるでハリネズミの身体にビッシリと存在している……逆立つとあまりにも痛すぎるくらいの針を立てるかの様に、怒りを顕にしていた。

 

 「私の颯樹様に向かって、よくもその穢らわしい手で傷をつけてくれましたわね……その愚行、万死に値します」

 

覚悟は、よろしくて?

 

 そう言って女性の方は凛とした立ち姿で私の前に立ち、相手を挑発する発言をしてのけた。その後に空かさず京介さんも私を庇う様に立って、今にも押し通りそうな人たちを睨んでいた。

 

 「やれやれ、見てて醜く感じる。どれ……」

 

 そんな言葉を言った後、京介さんも先程の女性と同じ様にデッキケースを構えて一言。

 

推しにイカサマとか抜かして難癖を付けるヤツには、

ちと手荒にはなるが……。

 

礼儀と言う物を教えてやろうか?

 

 「コイツ、先鋒でイヴちゃんにやられてたヤツだ!」

 「ソイツはいい! どうせ雑魚だ、始末しやすい!」

 「束でかかりゃ数分でボロ雑巾だ!」

 

 ……えぇ……それ、本人が聞いたら怒りますよ……?

 

 「まな、キミは下がって。そしてこの近くに千歌が居るはずだから、保護して貰って」

 「わかりました、気をつけて」

 

 颯樹さんにそう言われた私は、舞台袖に下がって千歌さんの指示を仰ぐ事にした。そうして私が踵を返して数秒後……。

 

 「お前たち、覚悟は出来ているんだろうな」

 

 颯樹さんが発したその一言と共に、辺りには稲光が聴こえて来る様な威圧感が満ちていた。私も何とか助太刀したい、と言う気持ちをぐっと堪えながら……彼からの指示通りに、後ろを振り返らず足を進めて行った。

 

─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 「颯樹様、この者たちは如何様に?」

 「好きにして良い。廃人にならない程度に、遊んでやれ」

 「まあ♪ ……仰せのままに、颯樹様♪」

 「京介、お前は力を抑えろ。お前はAve Mujica解散の一件で既に顔が割れている……下手に目立つのは避けるんだ」

 

 デモ隊と化した観客たちを前に、俺は颯樹さんからそう言われた。……確かに俺は少年と一緒に出ていた事があるから、傭兵の立場ではあるが、観客たち(ゲスト)から見れば今が叩き時の格好の餌食。

 

 ……アンタ、そこまで考えてたのか。

 

 相変わらず何処まで先を読んでいるのか、小一時間くらい問い詰めたいくらいだ。

 

 「今はムカっ腹が立ってるからそれは出来ん…と、堂々と突き返してやりたいが、これも契約の一つだからな。安心しろ、短時間で済ませればその分目立つ時間は短くなる」

 

 そう言って俺はデモ隊の一部の前に立ち塞がった。でも今の俺のデッキケースの中身は先程の先鋒戦で使用した【ヴェイズルーグ】とは違うものだけどな。

 

 「なにゴチャゴチャ言ってやがる!」

 「お前はただ俺たちに始末されてろ!」

 「大丈夫、一思いにボロ雑巾にしてやるからよぉ?」

 

 ほう?()()()()はいいようだな。その言葉、忘れないぞ?その様を見ている限りだと、相当焼かれたいらしいな。これはいざと言う時まで使わんと思っていたが、こうなれば止む無しだな。

 

 「寝言は寝て言うものだ、今の俺は虫の居所が悪いんでな」

 「ハッ、言ってろよ。イヴちゃんに負けてた身で突然良い気になりやがって……ブッ潰す!」

 「上等だ、行くぞ」

 

スタンドアップ・ヴァンガード!

 

─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 「まあ。私のお相手は、貴方方ですの?」

 「なるほどなぁ、女が相手なら好都合だ……。これ以上俺たちに楯突くつもりなら、その身ぐるみひん剥いて泣かせてやっから覚悟しなよ?」

 

 ……下劣な殿方ですこと。

 

 私のこの身全ては颯樹様の物……あのお方以外に触れられる訳には参りません。それに、彼からは私の好きに遊んで良いとのお達しでしたし……これで私も思う存分、愉しむ事ができますわ♪

 

 「安心しな嬢ちゃん、直ぐに終わらせてやっからよ」

 「そーそー。俺たちに任せてりゃ直ぐに終わるぜ?」

 

 そんな下卑た言葉の後に、その最初に言葉を発した殿方を中心に……ゲラゲラと周りの迷惑も気にせず笑い始めた。観覧されている方の中には女性もいらっしゃると言うのに……まるで気にしてない、と言いたげな横暴ぶり。

 

 ……心底嫌気が差します。

 

 であれば、この方々を一瞬のうちに静かにさせる……それが私の颯樹様の為に出来る、最大限の活躍ですわね。

 

 

 「私を女だと甘く見てると……痛い目を見ましてよ?」

 「抜かせ! 行くぞ!」

 

スタンドアップ・ヴァンガード

 

─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 「な、なんだコイツ……」

 「さっきとは全然違う……」

 

こんなんじゃあ満足できねぇ。

こんな三下如きに本気を出せと?

笑わせてくれる。

 

だが慈悲だ、コイツで引導を渡そう

 

ライド、《魔宝真竜 ドラジュエルド・イグニス》

 

 颯樹さんには力を抑えろと釘は刺されたが、あんなに推しに難癖つけた愚か者どもを見逃す事は断じて認める気はないからな…。だからそんな口が叩けぬようにするまで。

 

 それと俺が先鋒戦(さっきのファイト)で見せた戦略を連続して出すとでも思ったか?バカめっ!そんな考えをしている時点で貴様らは三流だ。

 

四炎に抱かれて消えろッ!!!!!

 

 「ぐっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」

 

 聞いても耳障りな断末魔と悲鳴を挙げながら、デモ隊の一人は……四炎に包まれると程なくして情けなく倒れ伏せた。後ろに控えていたデモ隊の仲間は、俺の実力を若宮のファイトを観て侮っていたようで、先程とは打って変わって脚を震え出して怯えていた。ふんっ、このくらいでビビるとは情け無い。

 

 「次は誰が行く?」

 

 「す、すんません…イチ抜けます!」

 「俺もっ!」

 

 俺が指の骨を鳴らしながらファイトの態勢になるも、デモ隊は先程俺とファイトした一人を抱えて俺の前から足早に去って行った。とんだ三下だったな、コイツら。せめて仲間の敵討ちくらいするのがスジってもんだろ。これならイグニスにライドせずにペルソナライドで攻めればよかったよ。

 

 「お疲れ様、京介」

 「すまない、颯樹さん。説教ならあとで受け付ける」

 「いや、お前も思うところがあったんだろ?だから今回は見逃す。それに()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 颯樹さんがそう言った直後、断末魔と悲鳴が鳴り響くのであった。

 

─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 「こ、この女……っ!」

 「強すぎる……!」

 

 私が颯樹様の指示を受けて、デモ隊の方々と交戦してから早数分後……私の目の前には、立ち上がるのがやっとと思しき面々が頭数を揃えた様に立っていた。その様はさながら死霊術で呼び出された、不死の骸骨兵。

 

 ……私の怒りはこんな物ではありません。

 

 さあ、もっと……もっと滑稽に……そして、愚かに。踊って頂きますわ……狂い咲く様に、私の掌の上で。

 

 「この程度で音を上げるとは情けないですわ。さあ、私をもっと愉しませてくださいませ……ワンちゃん?」

 

 「こ、こんのアマ……さっきから調子に乗りやがって!」

 「女だからってもう容赦しねぇ……ぶっ潰してやる!」

 

 「まあ。では、力の一端をお見せ致しますわ。……天誅と参りましょうか。ドロップの《マスク・オブ・ヒュドラグルム》のスキル発動」

 

星よ、天地よ、運命よ。

仮面を着ければ覆る。

 

異星刻姫(ゼノ・アルマジェスタ) アストロア﹦バイコ・マスクス》に……

ペルソナライド。

 

 「副将戦で見せたあの力は、私の世を忍ぶ仮の姿……私を怒らせるとどうなるか、その身に深く刻み込んで差し上げますわ♪」

 

 アストロア﹦ユニカが仮面を身に付け、その御姿を白を基調とした装いに身を包み……額の一角が中心で割れて、二角に変化したのを皮切りに、デモ隊の方々からは根源的な恐怖が伝わって来ていた。

 

 ……そう、その表情が見たかったのですわ。

 

 どうしようも無い程に強大な敵と相見え、底知れぬ絶望を噛み締めるその姿を。

 

 「……こ、コイツ……ッ!」

 「魔女だ……コイツ、星天の魔女だ!」

 「なんでアイツ……こんな惨憺たる状況を引き起こしておきながら、人を弄ぶ様に振舞っていられるんだ……?」

 

 まあ。私はただ、一重に信ずる者の為に、その手腕を遺憾無く発揮しているだけですのに。その様な言われを受けるのは、心外と言う物ですわ。

 

 ……ですが、星天の魔女、ですか。

 

 これは良い事を聞きました。ならば、私はそれに恥じぬ存在であらねば。

 

 「まだまだファイトは終わっておりませんわ。……せいぜい無様に足掻いて、壊れないで下さいませ?」

 

 私がそう言い放って数分後。目の前には悲鳴さえ挙げる事も忘れたデモ隊の面々が、ただの屍であるかの様にその場に倒れ伏していた。

 


 

 その後はデモ隊をものの数十分で撃退する事を終えた颯樹達であった。ちなみにデモ隊はイベントスタッフに強制的に連行される末路を辿ったのは言うまでもない。

 

 ひと段落着いた後は、スタッフの案内によってイベント会場を後にした。その後はスタッフに連れられて、一同は楽屋へと案内されるのであった。

 

 楽屋に入ると、そこには先客がソファに座っていたが、まなと初華の姿ではなかった。それもそのはず、二人とは違う楽屋に彼らはいるのだから。楽屋のソファには、七深と祥子の姿があった。

 

 美優は何故二人がいるのか理解できないという表情を浮かべているが、京介と颯樹は何食わぬ顔でソファに座った。

 

 「……大将戦のナレーション、お疲れ様。祥子」

 「…………」

 

 颯樹は自身と対面している祥子に礼を言うも、何故か彼女は黙ったままであった。しかも何故か首にはチョーカーが着けられており、無言でチョーカーに軽く触れた。

 

 『礼を言いたいのは私の方だ。私の無茶ぶりに応えてくれたのだからな』

 「ひとまずそれをオフにしようか。流石にそれじゃ違和感ありまくりだから」

 『ほう。それは失礼した』

 

 何故か祥子の声は普段とは変わっていて、何処かドスの効いた低い声であった。颯樹はそれを指摘すると、祥子はまたもやチョーカーに軽く触れた。

 

 「お見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした」

 「大丈夫だ。それじゃ改めて…ナレーション、お疲れ様」

 「ありがとうございます♪」

 

 またチョーカーに触れると、今度は普段から聞き慣れている祥子の声に戻ったのであった。突然の様変わりに美優はただただ驚くしかなかった。

 

 「あの…私の勘が正しければ、彼女が豊川さん、ですよね…?」

 「そうだが?」

 「何故、声が変わっていたのですか?」

 「それは京介と七深のおかげ、とでも言っておくか」

 「この二人の、ですか?」

 

 未だに困惑気味で話についていけてない美優に対して颯樹は今回の経緯の答え合わせをするのであった。

 

 「まず京介と七深が作った、この『チョーカー型変声機』で祥子の声を変えていたんだよ」

 

 颯樹がそう言うと、祥子は首に着けているチョーカーを外して美優に見せた。美優も祥子からそれを受け取ってマジマジと見ていた。

 

 「ただのチョーカーにしか見えませんわね…」

 「外見はね。だがコイツは喉の振動を利用して自由に声を変えることができる優れ物さ」

 「更にフリーサイズになっていて、誰でも装着可能になっているんですよ〜」

 

 七深はそう言って美優からチョーカーを受け取ると、それを従来のチョーカーと同様に自身の首に手慣れた手つきで巻きつけた。すると先程の祥子と同じ要領でチョーカーに軽く触れた。

 

 『颯樹先輩聞いてくださいよ〜!透子ちゃんったら、私のこと『ハムスターにそっくりじゃね?』 なんて言うんだよ!こんなしっかり者をハムスター扱いだなんて失礼しちゃうよね!颯樹先輩もそう思うでしょ⁉︎』

 

 チョーカーを触れ終えた七深が喋り出すと先程とは違う声質になっていた。

 

 「……それ、つくしの真似か?」

 「そうです〜。この前るいるいからこの話をつーちゃんから聞いたので〜」

 

 七深がそう言うと、チョーカーを外して京介に手渡した。京介も七深と同じく手慣れた手つきで自身の首に巻きつけて祥子や七深と同じくチョーカーに軽く触れた。

 

 『どうも。最近は本名より人間つけた赤メッシュで名が通ってる美竹蘭です。これもいつも通りだね』

 「それ蘭が聞いたらガチギレするぞ」

 

 今度は京介が蘭の声質に変えて真似をするのだが、彼女が絶対言わない台詞を喋ってきたので颯樹は指摘した。

 

 「ハァ…それで豊川さんは何故この変声機を使用して先程の大将戦のナレーションを担当なされたのですか?」

 「それはだな…」

 

 声を変えて祥子がナレーションを担当した事は理解出来たが、何故そのような経緯になったのかまでは理解出来ていなかった美優を見かねた颯樹は彼女に説明をした。

 

 「…なるほど。それでしたら豊川さんの事情を知っているのは此処にいるメンバーだけ。この件は他言無用…という事ですわよね?」

 「あと知っているのは千歌だけどね。そうして貰えると助かる」

 

 颯樹からの説明を受けた美優は現状の把握をした後、秘密にする事を誓う美優であった。今の美優を見た颯樹は一度頷くと、上着のポケットから鍵を取り出して祥子に手渡した。

 

 「祥子、約束。コレが僕の家の鍵、君に一時的に預ける」

 「分かりましたわ。ありがとうございます」

 

 颯樹にお礼を言うと、祥子は鍵を受け取った。すると同時に千歌が楽屋に入ってきた。

 

 「どうした千歌?」

 「颯樹、報告です。初華さん達がこの後イベント成功の打ち上げをしたいと言ってきまして…」

 

 ファイトイベントも勝利はsumimiに収まったので、初華とまなは何かご褒美が欲しい様子である。

 

 「……仕方ない。祥子、先に家に帰ってくれないか?あとこれで夕飯を食べてくるといい。それと七深、祥子に付き添う形で彼女を僕の家に送り届けてくれないか?」

 「りょーかいしました〜。きょーさん先輩、今度広町に見返りをくださいねー?」

 「…了解」

 

 颯樹に頼まれた七深は、さりげなく京介に見返りを求めた。今回のチョーカー型変声機の作成を共に担ったので、京介は渋々受け入れた。

 

 その後は七深は祥子を引き連れて楽屋を退出した。その後は初華達と合流して、イベント成功の打ち上げをするのであった。




 まずは読んでくださった方、お気に入り登録をしてくれた方、こんな拙作を応援いただきありがとうございます!こんな拙作読んでくれるだけでもありがたいです。

 ちなみに今回の終盤に出てきたチョーカー型変声機の元ネタは、名前の通り『名探偵コナン』のまんまです(笑)

 使用方法や外見などは原作でありますが、サイズは特に言及されていなかったので独自設定としてフリーサイズという事にしておきました。

 次回から本編の再会をしていこうと思いますが、投稿日はまだ未定となります。しかし予定では9月中に本編を一本投稿したいと考えております。

 それでは、次回をお楽しみに。
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