大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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罪には罰を、祈りには救いを(後編最終話・第二部完)

 ──とある国の、辺境にある村にダンジョンが発生していた。

 村民達の憩いの場である広場にできたその不可思議な穴は、能力者以外の進入を拒むことから安全面こそそれなりに担保されているものの、いつスタンピード騒ぎが起こるか分からないことから、人々はすっかり恐れ慄いてしまって広場に寄り付かなくなってしまっている。

 

 そんな迷惑極まりないダンジョンに、たまたまその地を訪れていたエリスは進入してモンスターを相手取っていた。

 第二次モンスターハザードにて消息を絶って少し経つが、彼女は国々を放浪してはそんなことをして回っていた。ダンジョンに苦しむ、生活を脅かされる人々を陰ながら助ける。

 今の彼女は、ひとまずそうやって生きているのだ。

 

「ぐぎょぎょぎょぎょぎょぎょ、ぐえぺー!」

「ぴろぴろぴろぴろぴろぴろ、ぴろろー!」

「……《念動力》。エリス・モリガナ、参ります」

 

 厳しくも使命感を帯びた眼差しは、ひたすらにダンジョンとモンスターを排して人々の安寧を守る気概に溢れている。

 しかしその最奥には、たしかな虚無もまたあった。不老と成り果て今や、モンスターよりもなお化物めいた己が人間めいた真似をすることへの、自嘲さえ垣間見えていた。

 

 あるいはエリスのこの行動は、せめて自身を探査者だと定義づけていたいがゆえの防衛反応なのかもしれないが、本人にはもう何も分からない。

 不老となった時点ですでに人との関わりは絶っている。どこにいても誰とも交わらず、話さず、密やかに彷徨い続ける。そんなふうにしか生きていけないのが今のエリスだと、他ならぬエリス自身が強く確信していた。

 

 だがそれでも、苦しみ惑う声だけは無視できない。

 かつて人間だった者として、かつてソフィアやヴァールから教えを受けた身として──目の前で助けを求める姿から、目を背けることだけはどう成り果てようとできはしない。

 そんな思いから、彼女は人間社会の援助と拒絶という二律背反のスタンスを取っているのだった。

 

「っ、遅い!」

「ぐげげーっ!!」

「ぴろっ!? ぴろろー!!」

「────見えています。エネルギーブレードッ!!」

 

 襲いかかるモンスター、ゾンビナイトの剣による斬撃をエネルギーを纏ったナイフで迎撃する。

 剣もろとも身体を叩き斬ったと同時に、エリスは静かに背後から襲いくる敵を予感した。手足の生えた人間大のニンジン、にぎわいキャロットの攻撃を見ることすらなく僅かにステップを踏んで回避したのてある。

 

 戦いのなか、開眼した予知能力は健在だった。オーヴァやイルベスタのようにたしかなヴィジョンとして見るわけではないが、確信に近い未来を予感させる、別ベクトルでの因果演算、未来予知。

 エリス自身の行動をトリガーに、5秒先程度の範囲内において起き得る事象を予知する超能力である。

 

 能力者としてのステータスとは別口に彼女が得たその力は、使いようによっては当代最強の能力者たるヴァールでさえ、完封できてしまいかねない可能性を秘めていた。

 その能力を駆使して返す刀のエネルギーブレードでにぎわいキャロットを叩き斬る。なんの問題もない勝利──なんの達成感もない戦い。

 

「私は。これから、何を。どうやって、いつまで、どこまで……」

 

 去来する想いはそれだけだ。これから何を、どうやって、いつまで、どこまで。そればかりが今のエリスの胸を渦巻いている。

 不老となった身の上は言うまでもなく人類社会にあって異物だ。ソフィアほどの立ち位置を確保できているならばまだしも、失踪し、寄る辺ない彼女はどこにも行くところもなければ至るべき地点もない。

 

 かといって同じ不老であるソフィア、ヴァールに保護を求めることも叶わない……実感があるのだ。同じではない。

 歳を取らないという体質は同じでも、在るべくしてそう在るのがソフィアであり、エリスは決してそうではない。何らかの異常が起きた結果、こうなってしまったのだという自認がある。

 

 そんな不自然な自分が、これ以上誰の手も煩わせてはいけない。人間でなくなった化物である自分は、もう、誰の力も借りてはいけないのだ。

 けれど、困っている人が目の前にいるのなら救いたい。だからこそ──エリスはそれでも、人の世を陰ながら支えることを決めて生きているのだ。

 そこに何もなくとも。誰もいなくとも。どこにも行けなくても、終わりさえ見えなくても。

 

「────犯した罪に、等しき罰を」

 

 己の掲げる信念を口にする。そうだ、罪には罰を。ならばきっと自分の現状も、犯した罪に相応の罰なのだろう。

 使ってはいけない力を使いすぎたのだ、きっと。だから自然に死ぬことすら許されず、永遠にも似た命を人のために使い果たす罰を背負ったのだ。

 そう、思わないではいられない。

 

 だからエリスは人知れず歩く。ダンジョンを渡りモンスターを倒し、それによって少しでも人々の力となる。

 いつか、その果てに何か救いが在ることを祈って。彼女は、どこまでも歩いていくのだ。 

 

 第二次モンスターハザードの英雄、エリス・モリガナ。彼女は戦いの果てに老いることを失い、不自然な存在に成り果てた。

 これより先の歴史の陰を、ひたすらに人々を救って回る彼女の旅の始まりは……どうしようもない虚無感ばかりがつきまとう、哀しいものだった────




これにて第二部完!ご愛読ありがとうございました!
第三部は2026年8/1から開始!
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