「ぬぅぅぅうおおおおっ!! 貫けいッ大魂道ォォォッ!!」
「ちいいっ! 鉄鎖防壁ッ!!」
青木ヶ原樹海の樹海の奥深くにて、二種類のスーパーパワーが激突していた。権藤武虎の超能力"大魂道"とヴァールのスキル《鎖法》である。
鉄鎖による防壁を展開し、自身と隣のエリスを護るヴァールに対し、それさえまとめて撃ち抜かんとする武虎の大魂道。
突き出された正拳突きとともに放たれた、緑の風が圧倒的破壊力をもって鉄鎖防壁を攻め立てる。
レベルはヴァールのほうが上、にも関わらず拮抗に近い衝撃を感じ取り、ヴァールは無表情のなかに一筋汗を浮かべてつぶやいた。
「まずいな……! こと破壊力にかけては超能力のほうがスキルを上回るか。その分、多様性や汎用性では勝るがしかし、この局面では……!!」
「ヴァールさんと互角……!? ならば私が! 《念動力》、エネルギーブレード!!」
スキルにも超能力にもその詳細を把握するがゆえの比較。ヴァールから見て、スキルと超能力とは完全に一長一短の関係にあった。
様々な効果を持ち、多様性に富むのがスキルだ。攻撃に特化したものもあれば防御、あるいは支援に特化したものもあり、能力者達は得たスキルを組み合わせて掛け合わせて己の可能性を引き出していく。そういう設計になっている。
しかし……超能力は、言うなれば火力や破壊力に特化した方向性に伸びている。リソースの出処は完全同じ場所であるものを、それぞれが別々の形で加工しているがゆえの違いだろう。
ゆえに。
レベルや経験値、あるいはスキルの性能で勝るはずのヴァールと《鎖法》だが、武虎の大魂道の一点集中火力を相手にしてはひとまず防戦に回らざるを得ないのが実情だった。
それを見て一瞬、唖然としたエリスだったが即座に手にしたナイフからエネルギーブレードを伸ばして武虎に対応した。ヴァールが後手に回らざるを得ないという圧倒的な火力なら、その分エリスが攻撃に回ればいい!
鉄鎖にて緑の風を散らす、合間を縫って武虎へと接近する。
「エリス!? いけるか!」
「行ってみせます! 権藤武虎ッ!!」
「ぬうっ!? ……元より貴様こそが本来の狙いだ、青髪のエリスとやらぁっ!!」
第二次モンスターハザードの最中に開眼した、ほんの数秒だけだが"自身の行動の先にある未来"を読み取る超能力さえ駆使しつつ。
さらには《念動力》を同時並行にて使用し、己の身体を操り驚異的な動きで確実に接近できるルートを割り出し、半ば強引に進み。
──そして武虎とエリスは相対した。敵もまた大魂道の矛先をヴァールでなく彼女に向けて応戦したのだ。
エネルギーブレードと緑の風を纒った拳が激突する。力の奔流がぶつかり合い周囲に衝撃波を撒き散らし、樹海の木々から施設から周囲に潜むモンスターに至るまでを吹き飛ばしていくほどの超威力。
そのなかで二人は、譲れぬもののために叫ぶ。
「さあ! 犯した罪に、等しき罰をっ!!」
「罪は犯した! だが罰を受けるは今ここにあらずッ! この権藤武虎には、たとえどうあったとて護らねばならんものがあるのだァッ!!」
刹那の交差。鍔迫り合いのナイフと拳が、放つ互いのエネルギーで互いの体を浅く傷つけ合って両者ひとまず距離を取る。
強敵だ。互いに思う。エリスからみて破壊力だけならばヴァールに匹敵する武虎は危険極まりなく、武虎から見て自分にも勝りかねない動きと火力を誇る目の前のエリスは恐ろしい。
少しばかりの均衡。
しかして不意に、武虎は大魂道を鎮めた。訝しむエリスとヴァールへ、彼は淡々と告げる。
「……そろそろ頃合いだな。親父殿には悪いがここいらで少し、塩梅を取らせてもらおう」
「なんだと? 武虎、何を言っている貴様」
「始まったと言っている。今、まさにこの中部地方の各都市を大規模スタンピードが同時多発的に襲っているはずだ。我ら権藤財閥と傘下組織が動き出したのだ」
「…………っ!?」
「ヴァール、空間転移を使って確認してみてくれ。それですべてが分かるはずだ。今まさに、この騒動における真なる戦いが幕を開けているのだとな」
突然の通告。それも決して捨て置けない情報を前に、ヴァールもエリスも反応しないわけにはいかなかった。
同時多発スタンピード。それも中部地方全土の都市部めがけて。敵の言うことゆえこちらの隙を作るための嘘である可能性は高いが、もし本当ならば一大事だ。
警戒を解かぬまま、ワームホールを開く。接続先は長野市の全探組、その施設前の風景。
そして────ヴァールとエリスは、今度こそ戦慄に背筋を凍らせた。
空間転移の先には、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていたのだ。
「うわぁぁあああああっ!! ひぃぃ、ひぃぃぃいいいっ!」
「助けて、助けてよぉぉぉお!! お母さんが、お母さんがぁぁっ!!」
「止め、止めてくれぇぇっ!! 誰か、誰か助けてくれぇぇぇっ!!」
燃える町並み、傷つき狂乱する人々。そしてそれらを引き起こし暴れ回る無数の、モンスター。
嘘ではない、夢でもない、断じて。この光景は現実だ、本当に、スタンピードが起きている!
「き、貴様……権藤武虎、これは、これは……!!」
「なんて、こと……っ! あなたは、一体!」
「……許せなどとは言わん。そして今こそ名乗ろう。我々は大ダンジョン時代に反旗を翻す者。権藤平之助を頂点として、探査者の世を破壊し新たなる時代を確立せんとする一団」
広がる地獄を前に、武虎はなおも冷徹に淡々と告げた。
これなるは権藤の仕業。これなるは権藤平之助の野心の発動。そしてこれなるは──権藤武虎が、たとえ地獄に堕ちようとも為さねばならなかったこと。
心のすべてを凍てつかせて男はただ、語る。
これより後、彼は探査者ではない。ある組織に身を置き、世に歯向かい世界を敵に回してなお進撃し続ける狂気の堕ちた英雄であると。
そして、その組織の名は。
「"反能力者連合"。ソフィア・チェーホワよ、我らは貴様らWSOが踏み躙った大ダンジョン時代以前の世界からの刺客、復讐者である」
「反能力者……連合?」
「この世界にスキルもレベルもステータスも不要。あるべき世界を権藤の名の下に取り戻すための、我らこそが新世界の秩序組織なり」
反能力者連合。
権藤財閥と日本の裏社会が総力を挙げて集結した、大ダンジョン時代社会を破壊するための集団。
それこそがこの、第三次モンスターハザードにおける真なる首謀組織の全貌なのだ。