大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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戦禍

 ────そうしてヴァールや光太郎達がスタンピードを鎮圧した頃には、大勢はすでに決していた。

 長野市だけは守り抜けた。しかしその他の中部地方、主要都市は軒並みモンスターによって探査者含めた市民達が追い出されたと、WSOのエージェントから報告があったのだ。

 

 半壊した長野市全探組支部施設。

 探査者達が多く詰めるなか、エージェントはさらに深刻な面持ちで一同に告げていた。

 

「モンスターによる襲撃後、各都市を"反能力者連合"と名乗る武装集団が占拠しました。同時に中部地方と関西、関東と言った他地域とを結ぶインフラもすべて封鎖されたことを確認しています」

「そうか。電力供給が断たれたこともすでに把握している。電話はつながらない、テレビもラジオも機能していないあたり、電波妨害も広範囲で行われているな」

「文字通り陸の孤島──地方という広大な範囲でやってみせるとも思っていませんでしたがね。どうあれ中部9県は今、日本国内にあってなお分断されたエリアになっているわけですか」

 

 現状は絶望的だ。敵組織・反能力者連合はどうしたことかその圧倒的な規模をもって、日本の一地域を丸ごと封印するという暴挙に出たのだ。

 電波妨害を行い、インフラを封鎖して外部と切り離す。その上でモンスターが襲った後の都市に乗り込み占拠し、各県を事実上麻痺状態に陥らせたのである。

 

 第一次、第二次モンスターハザードでもあり得なかった組織的大規模テロ。いや、もはやクーデターと呼んでも良いかも知れない。

 すでに犯行声明は出されていたからだ……占拠した各都市の近郊、逃げ延びた避難民達にばら撒かれたチラシを受け取ったヴァールと妹尾が読み上げる。

 

「"我々、反能力者連合は大ダンジョン時代社会を打倒し、真にあるべき世界の秩序構築のために動いた"」

「"中部地方を皮切りに日本を占拠し、我々による新国家を樹立し海外をも屈服させよう。我々は反能力者連合、失われたかつての時代からの復讐組織である────連合盟主・権藤平之助"ですか。なんとまあ大言壮語も、ここまで来たらいっそ立派ですね」

「大ダンジョン時代社会の打倒だと……本気でできると思っているのか、この連中は……!」

 

 呆れ返る妹尾に、唖然としつつも怒りの声をあげるラウエン。そのいずれもが理解でき、ヴァールもため息を吐いた。

 この手の、ある種の野心的な輩がいるのは把握していたが、動くにしても極端すぎる。ここまで大規模に、多くの被害を出す形で蜂起するなどさすがの彼女も想像できていなかったことだ。

 

 何よりそれを、あろうことか地元全探組のパトロンでもあった権藤平之助が首魁として行っているのが頭の痛い話だ。

 すでに面々には、その息子でこの地域にとっての英雄たる武虎までもが裏切っていたことをも教えている。

 そのせいもあってか、探査者達の士気は著しく低い……まさしく意気消沈といった面持ちの者も多く見られた。

 

「武虎さんまでも敵に回るというのは……彼ほどの男が、という驚きはありますね。何か事情があるのでしょうか」

「口振りからして平之助に何かしらの弱みを握られているようではあったが、だからこそ厄介だ。あの手の人間は善悪に依らない、自分の成すべきと定めたことに全力を注ぐ口だろう。それでこちらとの敵対を選んだのならば、内心がどうあれ全力で来るぞ、やつは」

「敵にとって不足はありませんが……しかし、地元の探査者達には辛いでしょうね。特に光太郎や鮫島などは、彼に憧れていたようですし」

「うむ。それでその早瀬達はどうしている? 鎮圧後から姿が見えないが」

 

 樹海にて対峙した時点で、何やら事情があるようにも思えた武虎の謀反であるが。ヴァールもそれなりの期間、彼と接してきたなかで察するところはある。恐るべき敵だと。

 たとえ望まぬ道でも、こうと決めたからにはやり遂げる信念があるのだ、あのタイプは。それはソフィアやエリスもそうだったし、あるいはヴァール自身にも似通うところがある。

 

 言うなれば英雄の資質と言うべきか。それが敵に回るからには、生半な説得などではテコでも動かないだろう。

 厄介な男と戦う羽目になったことを残念に思いつつ、ヴァールはそんな武虎に憧れる仲間、光太郎や鮫島達を案じつつも現状を尋ねた。

 妹尾がそこで、少しばかり翳った表情で答える。

 

「光太郎くん達は……市内の避難所に詰めています。その、彼や朝倉夫妻が住んでいた長屋が、破壊されたわけですから」

「あの夫妻、怪我こそしていませんがずいぶんショックを受けてしまったようです。相田さんや鮫島、華嬢も見舞っています。私や教授も後ほど、伺おうかと」

「それは……そうか。ワタシも後で一緒に行こう。あの夫妻には、以前に世話になったからな」

 

 長野市内を襲ったモンスター達。その群れによる破壊のなかで、大規模な範囲で建造物が破壊された。

 ……光太郎の住む長屋もそうだ。彼や朝倉鶴太郎、亀代老夫婦の家もまた戦禍に巻き込まれ、今となっては瓦礫の山。

 

 そのことに、特に夫妻がショックを受けているらしく。

 その見舞いとして光太郎達は今、避難所を見舞っているとのことだった。

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