貴婦人、世界へと反撃を開始す   作:ぼっちクリフ

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第1章:貴婦人、我が家へとやって来る

その日は休みで、俺は自宅で仕事をしていた。

 

有マ記念が終わって1カ月、春のGⅠシーズン以降のジェンティルドンナ……俺の担当バの予定を立てなくてはいけない。

春最初のレースは彼女の能力を考えて海外戦――ドバイシーマクラシックを目標にするのを考えていた。距離も適正だし、世界への第一歩としてこの上ない選択だという自負がある。

知り合いのトレーナーでドバイに詳しい奴が居るので、早速宿の選び方や必要なトレーニングを策定していたのだが……

 

ピンポーン

 

突然鳴ったインターホン。俺は部屋着のまま玄関のドアを開ける。Umazonの荷物はマンションロビーの配達ボックスに入れるよう設定してあるし、こんな夜中に訪ねて来る知り合いも居ない筈だが……

 

「――ご機嫌よう。急で申し訳ないのですが、今晩泊めて下さいます?」

 

絶句する俺の目の前にいたのは、雨に濡れた担当――ジェンティルドンナだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

取り合えず着替えと温かいお茶、それに寝床の準備をした俺は深く深呼吸する。

壁を二枚ばかり隔てた浴室ではドンナがシャワーを浴びている。意識したらとんでもない事になるので、俺は必死に他の事をして気を紛らわせていた。

 

「すまない、そんな物しか着替えがなくて」

「十分よ。こちらが着替えも持たずに飛び出して来たんですもの」

 

俺のシャツとスウェットがなんとかサイズ的に合って良かった。

ドンナはソファーに腰掛けお茶を手に取る。彼女が普段飲んでいる紅茶やらに比べれば安物だろうが、彼女がそれに不満を漏らす事は無かった。

 

「それで、教えてくれるんだろうな。こんな夜中に、雨も無視して俺の所に来た理由」

「ええ、そうね、何処から話そうかしら」

 

ドンナは一口お茶を飲むと、ゆっくり語り始めた。

 

「実は私、警察に追われていまして」

 

一瞬意味が分からずキョトンとしてしまう。

ドンナが、警察に、追われている?

 

「言っておきますが、何かを壊したとかそういう事ではなくってよ」

 

彼女の真面目な顔を見れば分かる。そんなコミカルな事象でわざわざ俺を頼って来るようなドンナではない。事はもっと、重大な筈だ。

 

「明日の朝刊には載ると思いますが、弟が事業で失敗しましたの。それも、かなり深刻に」

 

彼女は説明する。

 

ジェンティルドンナの弟が欧州で行っていた事業、そのひとつで深刻な問題が発覚した。彼が扱っていた電子部品がカザフスタンを経由し、ロシア・イランに密輸されていたのだ。両国は禁輸措置の対象国であり、特定の電子部品……軍事転用できる物に関しては厳しく制限されている。

 

「それは……マズいな」

「ええ、しかもそれで終わりではありませんの」

 

ドンナの弟が欧州の拠点としていたドイツの外務省は彼を呼び出し事情を聞こうとしたが、彼は出頭しなかった。やむを得ずドイツ事務所を捜索した警察はその過程でとんでもない物を発見したというのだ。

 

「最新式の濾過機、その設計図が出て来たそうよ」

「濾過機!?」

「ええ、どういう意味かお分かり?」

「濾過機はBC兵器製作に使われる恐れがあるから、実物の輸出も規制されているはず……」

「そういう事よ。ドイツ外務省は直ちに日本へ連絡、私達一族の会社は全て極秘裏に営業停止となり、親族は全員事情を聞く為に警察へ引っ張られたわ」

 

絶句する。

つまりジェンティルドンナの実家は今、大量破壊兵器の設計図をテロリストとその協賛国家に売り渡そうとした疑惑が掛けられているのか。

 

「どう思います?」

「君の弟がそんな事をするわけがない」

 

断言する。

彼の弟は姉であるドンナと同じように高潔で誇り高い。金の為にそんな事に手を染めるような人間ではない。それは自分もよく分かっていた。

 

つまりは……

 

「誰かに嵌められた?」

「ええ、おそらく」

「一体誰に!?」

「心当たりが多すぎますわね」

 

軽く笑いながら言うドンナに呆れながらも、天井を見てため息を吐く。どうやら彼女はとんでもない事に巻き込まれているらしい。

 

「――で、君はここへ来たわけだ」

「ええ」

「もちろん、俺を頼って逃げ隠れるつもりじゃない」

「あら、分かりまして?」

「そりゃ、君のパートナーだからな」

 

満足そうに頷く彼女を見ながら、此方も真面目な顔をする。

 

「君は戦うつもりだ。弟くんの無実を証明し、一族を取り返す為に」

「私、売られた喧嘩は買う主義ですの」

「それもとびっきりの高値で」

「本当によくお分かりだこと」

 

嬉しそうに笑うドンナにつられ、こちらも笑う。

正直、何処まで出来るかなんて分からないが……

 

「世界を相手に喧嘩する事になっても?」

「あなたは言ったでしょう、次は世界を相手にする、と」

 

それはレースでの話だったが……

まぁ、同じか。

 

「さあ、参りましょう。反撃開始ですわ」

 

高らかに、歌うように言うジェンティルドンナが差し出す手を握り返す。

いいとも、行こうじゃないか。

彼女となら、地獄の果てまで行っても構わない。




終始こんな話が続きます。
ひたすら経済戦というか陰謀とか外交とかそういう単語ばかり出てきます。
レースはしないしイチャイチャもちょっとしか描きません。

それでも良い方、どうか最後までお付き合いいただきたく。
よろしくお願いします。
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