「それで俺の所に来た、と」
PCの前に座る男――俺のトレーナー養成学校時代からの親友、いや悪友はそう言って面倒そうにキーボードを叩く。目はじっと画面を見ながら高速でタイピングして情報の海を精査している。相変わらずコイツのPC・ガジェットの扱いは凄い。
「トレちゃ~ん、買ってきたよん」
「おー、領収書はソイツに渡してくれ」
悪友――トランセンドのトレーナーはそう言いながらタイピングをし続けている。
世界へと反撃する事を決めた日、まずは二人で弟くんの居場所を探そうと決めた。
一族のほとんどは警察に捕まってしまい、今動けるのはドンナだけらしい。
「お父さんは?」
「知り合いの病院に入院しましたわ。鼻が利きますこと」
どうやら捜査の手が及ぶ前に病院の中へと逃げ込んだらしい。政治家がよく使う手法だ。流石は一代で成り上がった当主、間一髪の所で先手を打ったようだ。
「病床でコネを使い、様々な場所に働きかけているそうですわ。ただ、時間稼ぎくらいにしかなっていないようですが」
「なるほどね、あと居場所が分からないのが……」
「ええ、あの子――事の原因となった、我が愚弟」
ドンナの弟はドイツ警察の呼び出しにも答えず、行方が分かっていない。彼の部下や知り合いなどに聞いてもどこに居るのか分からないらしい。
まずは彼の行方を調べる事が先決だ。という事で頼りにしたのが……
「こういう面倒な事で俺に頼るのを躊躇わないよな、お前」
「埋め合わせはどっかでするよ」
「何個ツケが溜まってると思ってるのさ」
ため息を吐く悪友。そんな悪友に担当のトランセンドが近づき。
「麗しい友情だね、トレちゃん」
「腐れ縁って漫画以外でもあるんだな、ホント」
「まぁまぁ、ホレ、甘い物でも食べて。あーん」
「ん、あーん……あ、美味いなコレ」
「一口だけだよ、あとはウチのもの」
「ずっる、俺が手が離せないの分かってて」
「んー、美味しいー♪」
言いながらあーんを終えたトランセンドは悪友の膝に座りスイーツに舌鼓を打つ。
……前々から思ってたんだけど、コイツら距離が近すぎないか?
「――あった、これだ。義弟さんのウマスタグラム」
何となく「オトウト」の発音が気になったが、それよりもウマスタの方だ。
俺が依頼した弟くんのSNSアカウントの発掘はほんの1時間ほどで終わった。悪友が見つけ出したページにはいくつかの写真と簡単な文書が掲載されている。あまり頻繁に更新したり、積極的にSNSで交流するタチではなかったようだ。
悪友はその中の一枚、直近で更新された飛行場の写真に目をつける。
「トラン、こっちの写真の飛行機だけど」
「おっけー、解析かけてみる」
トランセンドが手持ちのタブレットに何かを入力する。待ってくれ、解析?
「え、分かるのか!?」
「ん、『今から出発』って書いてあるっしょ。つまりこれは搭乗直前の写真、飛行機の中だと投稿は出来ないからこの更新時間から直近30分以内と見て間違いなし。海外便でそこまで時間が分かれば候補は絞れるよん」
トランセンドの洞察に舌を巻く。流石は情報屋を名乗るだけの事はある……報酬がジェンティルお気に入りのスイーツなんかで大丈夫だっただろうか。
「こっからは総当たりになるから少し時間がかかるぞ。何か分かったらLANEに入れとく」
「分かった、ありがとう。俺はジェンティルに合流する」
「そういやジェンティルさんは何処に? スイーツの御礼を言いたいんだけど」
「あぁ、アイツは隠れ家の調達に行ってる」
「隠れ家?」
「俺の家だとセキュリティの問題があるからな。知り合いの所に匿ってくれるよう、交渉に行ってるんだ」
「――お前にそんな知り合い居るのか?」
悪友はトランセンドのフォークからもう一口ケーキを貰いながら訝しげにに尋ねる。
――コイツら、本当に付き合ったりしてないんだよな?
「あぁ、あそこなら安心だ」
「もったいぶるなよ、何処なんだ?」
俺は肩を竦めながら言った。
「メジロのお屋敷さ」