絶対に笑ってはいけない連邦生徒会二十四時   作:蒼乃黄色

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その六

 8:00 p.m。連邦生徒会待合室。

 数々の試練を乗り越えた七人は疲れも蓄積しているようだが、同じ時間を共有したことで絆も深まった様子だった。出会った当初はぎこちなかった会話も、今ではすっかりリラックスした様子である。

 そうやって他愛もない会話で時間を潰しながら、ネルは床に落ちていたショットガンのゴム弾を一つ拾う。そして、椅子に座りながら少し離れた壁に投げては跳ね返ってきた弾を片手でキャッチする手遊びを始めた。

 しばらくそれを見ていたコハルは感嘆の声を上げる。

 

「え、凄い。」

「簡単だよ。お前もやってみろ。」

 

 ネルはコハルに弾を投げて寄越す。

 コハルはそれを両手でぎこちなく受け取り、ネルの見様見真似で壁に投げた。

 少し遠慮がちに投げられたゴム弾はゆっくりと放物線を描いて跳ね返り、コハルは両手で包み込むようにしてキャッチする。

 

「で、出来た……!」

「いやいや、そりゃあそんだけゆっくり投げたら出来るだろ。」

「もう少し速よう投げてみよ。」

 

 キサキはコハルの背後に立ってもう一度と催促する。

 

「え、う、うん。」

 

 コハルは言われるがまま、今度は振りかぶって壁にゴム弾を投げつけた。少し力んだ結果、予想以上に指に掛かったゴム弾はコハルの反射神経で追いつけない速度で壁を反射し、

 

「ほぉうッ!?」

 

 キサキのみぞおちに綺麗に突き刺さった。

『全員、OUT!』

 

「こ、コハル……其方、狙っておったじゃろ……!」

「ご、ごめんなさいごめんなさい! そんなつもりじゃ……!」

「すっごい声出てたわよキサキさん。」

 

 七人は罰を受けてから、イオリはゴム弾を拾いあげてコハルの前に立つ。

 

「投げた勢いと角度をなぞるように捕球すると簡単に出来るぞ……こうやって。」

 

 イオリは淀みなく投げては捕り、それを連続で何度も成功させる。

 

「へぇ〜! かっこいい……!」

 

 コハルの純粋な羨望に、イオリは少し照れ臭そうに尻尾を泳がせる。

 

「私だって出来るぞ! 見てろよコハル!!」

 

 嫉妬したマリナはイオリを押し除けて、より速い弾を掴んで見せようとする。しかし、力み過ぎてすっぽ抜けた弾は、壁の上部にあるモニターの液晶を粉々にぶち破ってどこかへ飛んでいった。

『キサキ、ネル、シズコ、イオリ、コハル、セリカ、OUT!』

 

「其方はもう少し落ち着いて行動せんか!」

「良い格好しようとしてダサ過ぎんだろ!」

「ち、違う、こんなつもりじゃないんだ! そんな眼で見ないでくれコハル! せ、セリカは私のことわかってくれるよな?」

「えー、私もさっきのビンタからちょっと疑ってるんだけど……。」

 

 六人が罰を受ける中、黒ずくめは掃除道具を持って来てマリナに押し付けて帰って行った。マリナは顔を赤くしながら黙々とモニターを片付ける。シズコとセリカは手伝おうか迷ったが、少しそっとしておこうと二人で頷き合った。

 

「キサキ、お前もやってみろよ。」

「うむ。」

 

 その間、ネルはキサキにゴム弾を渡して同じことを要求する。

 キサキは制服の袖を捲って一つ息を整える。為政者の持つ風格なのか、その一息で独特の緊張感が走り、待合室はシンとしてキサキの投球を見守った。

 そして、自信に満ちた投球フォームにより真っ直ぐな軌道で投げられたゴム弾は、壁に当たってキサキの手元へ吸い寄せられるように返ってくる。キサキはそれを迎えるように手を握り、ゴム弾はその五センチほど上を通過してキサキの背後へ飛んでいく。

 静まり返った部屋にポンポンとゴム弾が虚しく響く音がして、皆はキサキと顔を見合わせる。

 キサキはしばらく威厳を保った表情をしていたが、示し合わせたように七人の表情は崩れていった。

『全員、OUT!』

 

「ちょっとキサキさんお願いしますよ!!」

「カッコいい人だと思ってたのに、なんか悲しいわ。」

「ち、違うのじゃ……! ちが——うぐぅッ……!」

 

 七人が賑やかに罰を受けた後、待合室に連邦生徒会の由良木モモカが入って来た。

 

「みんなぁ、楽しそうにしてるところ悪いんだけど、ちょっとトラブルが起きちゃったから一緒に来てくれないかなぁ?」

「えぇ……なに?」

「トラブル?」

「年末は色んな仕事がバタバタしてるからみんなピリピリしてるんだけど、連絡の行き違いや無茶な要求とかが原因で割とよく揉め事が起きるんだよね。」

「あー……よくわかるわ、それ。」

「だからちょっと仲裁を手伝って欲しいんだよね。」

 

 七人全員、行きたくないのは山々であるが、それが通る訳がないことは承知している。

 

「……わかったよ。」

 

 ネル達は先ほどの和気藹々とした空気から一変して、新しい刺客の予感に顔を引き締めモモカについて行った。

 

 

 

 8:30 p.m。連邦生徒会応接室。

 七人が件の部屋に着くと、ドアの前から既に不穏な怒鳴り声が聞こえていた。

 

「年末だからといって不当な残業や休日出勤を強要するのは犯罪だ! なぜ取り締まろうとしない! 連邦生徒会の行政の怠慢を、我々労働者は断じて許さないぞ!」

「やかましい! 週休二日はあるはずだぞ、今さら何故文句をつけるのだ!」

「自分の生活があって初めて仕事があるんだ! 余暇より労働日数が多いのがそもそも違憲だとは思わないのか? 我々は週三以上の労働には徹底的に抗議をさせてもらう!」

「それにうちらの家を毎度毎度ボコボコに燃やして、何が総力戦よふざけんじゃないわよ! さっさとワカモを捕らえてなんとかしなさいよ仕事でしょ!?」

「そう仰られましても、私達生活安全局の戦力で七囚人を相手取るのは流石に……。」

「年末は大イベントがあるんだからもうちょっと〆切に融通してくれても良いじゃんか! 割高でも良いって言ってるのに!」

「そういう人達で溢れるから印刷機がパンクするんですのよ! それにちゃんと〆切内に入稿すれば予算内で多く部数を刷ることが出来ますのに、より多くの同志に本を届けたいという気概は御座いませんの!?」

 

 七人が部屋に入ると、抗議をしているのは工務部の安守ミノリを筆頭に、知識解放戦線のメルやジャブジャブヘルメット団のラブ、魑魅一座路上流のアラタ、便利屋のアルも居た。

 それに応対している万魔殿のマコトの後ろには、百花繚乱のナグサ、生活安全局のキリノ、出版部のタカネと七人の案内を終えたモモカが立っている。

 

「どういう面子だよ。」

 

 七人は口論が激化している様子を横目に見ながら、応接室の端に用意された椅子に座らされる。

 

「全く、このままでは埒が明かないな。こうなったら我々が普段どれだけ過酷な労働を行なっているのか、その眼に灼きつけてやろう! セットを用意してくれ!」

 

 ミノリの号令と共にどこからともなく黒ずくめの生徒たちが現れて、部屋の中央に大きな寸胴の乗った卓が用意される。

 

「なんだ、何をするつもりだ貴様ら!」

 

 マコトの問いにミノリは腕を組み、見下ろすように胸を張る。

 

「我々労働者は貧困にも挫けず、期限に追われながら、時には余りにも短い休憩時間で食事を済ませなければならない! だから、例え十秒しか時間が無かったとしても、アツアツのおでんを丼一杯たいらげることなど造作もないことだ!」

「そんな事出来るわけないだろう! 出鱈目を言うな貴様!」

「ならば見せてやる! やれるな、陸八魔アル?」

「えっ、わた、私!?」

 

 ミノリに指名されたアルは動揺を露わにする。

 

「全然準備が出来ていないようだが。覚悟がないならば帰ったらどうだ? ゲヘナから逃げ出した時のように泣きながらなぁ!」

 

 マコトに言われてアルは慌てて前に出る。

 

「バカおっしゃい! 覚悟も何も、こんなの余裕なんだから!」

 

 そうして、アルの目の前にアツアツのおでんが注がれた丼と、十秒にセットされたタイマーが置かれる。

 

「頼んだぞ、アル!」

「ええ、任せなさい!」

 

 ミノリの激励とともに、タイマーのスタートボタンが押される。

 アルは丼を掴み、勢いよくおでんを口に入れる。

 

「熱ぁっ!」

 

 口に入れた大きめのこんにゃくは、そのままボロンと丼に戻される。

 

「おい全然食べれてないじゃないか! 汚いな!」

「頑張れアル!」

 

 大勢の野次を一身に受けながら、アルは涙目になりながらおでんをもう一度口に運ぶ。

 

「あっ、ほ、ほ、ほっほぁっ……!」

 

 アルが苦しみの末にようやく一口を嚥下した時、タイマーのブザーが鳴った。

『全員、OUT!』

 

「何がしたいんだお前らは!!」

「一口しか食えておらんではないか!」

 

 タイマーが過ぎてもなお顔を真っ赤にしながらおでんを食べ進めるアルの横で、七人はショットガンを受けて悲鳴を上げた。

 

「ヤバい……殺しに来てるわよこれ。」

「もう悪ふざけの域じゃないですか。」

 

 七人が座り直すと、今度はマコトが前に出てミノリ達を挑発する。

 

「全く、出来もしないことを宣うのは感心せんな。よかろう。こちらは貴様らと同じことを二人羽織でやってやろうではないか。」

「何? そんなこと出来るわけないだろ!」

「我々管理者は当然貴様らのようなバカ共よりも高い能力を有している。見せつけてやれ! ナグサ、キリノ!」

 

 マコトに指名されて、二人は前に出る。

 

「悪いけど、容赦はしない。自らの利の為に人に迷惑をかけるような人達に譲歩するつもりはないからね。」

「ええ。どんな困難も、手を取り合えば乗り越えられるということを私達がお見せ致します!」

 

 そして卓の前でキリノはナグサの羽織りの中に潜り込む。羽織りの袖からキリノの手が出て、手探りでおでんの丼と箸を掴んだ。

 

「行け、二人とも! スタートだ!」

 

 マコトがタイマーを押すと同時に、キリノの右手が持つ箸は煮卵をぶっ刺してナグサの顔に向ける。卵はそのままナグサの頬を熱した。

 

「あ、熱っ! キ、キリノ……もう少し右!」

「すみませんナグサさん!!」

 

 キリノが箸を動かすと、卵はポロリと落ちてナグサの服の中に滑り込んだ。

 

「づぁっ!?」

 

 ナグサが熱さに思わず飛び上がり、

「うぐっ!?」

 ナグサの後頭部に鼻を潰されたキリノは仰け反り丼をぶちまけてしまう。

 

 二人は熱々のお出汁を浴びて絶叫を上げ、同時に時間切れのブザーが鳴った。

『全員、OUT!』

 

「危ないって! 早く冷やさないと!」

 

 コハルが叫ぶと同時に、黒ずくめが冷水をナグサとキリノにぶっかけた。二人は今度は「寒い寒い!」と泣きながら部屋から出て行く。

 

「全然出来てないではないか! 所詮は法や契約で人を縛る事しか出来ないブルジョワ共だ! 我々は同志はそんな利害関係ではなく、熱い絆で繋がっている。どうだ、アラタ、ラブ。奴らにお手本を見せてやってくれ。」

 

 アラタとラブは良しと腿を叩いて立ち上がる。

 

「うちらの絆は他人より浅く家族よりも深い。信じてるわよ、アラタ。」

「言葉にするなんてなぁ野暮ってもんだ。結果が全てを語るだろうさ。」

 

 そして二人は強い伸縮性のあるゴムをお互い口に咥えた。

 

「このゴム、どちらかが離せば離さなかった方の顔を強打する仕組みだ。お互いを信じ、絶対に傷つけまいとする強い人間の意志を刮目しろブルジョワ共!」

 

 ミノリの啖呵と共に、ラブとアラタはゴムの両端を咥えながらお互いに後退りをする。徐々にゴムが伸びて、お互いの歯に強い負荷がかかる。このゴムが放たれて顔面に当たればタダでは済まないと、軋む音から容易に想像がついた。

 その瞬間、アラタとラブは同時に口を開き、ゴムは二人の間の中心でバチンと収縮して床に落ちた。

 それを見て、二人はメンチを切り合いながら近づきお互いの胸ぐらを掴む。

 

「何離してんのよアンタぶっ飛ばすわよ!?」

「うるせぇ信じてるだとか臭ぇ台詞吐いといて裏切る気満々だったじゃねぇかこのチンピラがぁ!」

「ウチはちょっと歯が痛くて滑っただけよ! ビビって裏切ったのはアンタでしょ!?」

「あんだとビビってなんかねぇよ舐めた口聞きやがってその口縫いつけてやろうか、ぉアァ!?」

 

 今にも殴りかかりそうな二人はそのまま鼻がぶつかるくらいの距離で罵り合う。

 流石に諌めるべきだと数人が立ち上がりかけたその時、息がかかるほど近づいたラブとアラタは口論の最中に「チュ。」っとキスをしてゆっくり離れた。

 

「それじゃあ……今回は許してあげるわ。」

「てやんでぃ……。」

 

『全員、OUT!』

「てやんでぃじゃないだろ! だから何を見せられてるんだ私達は!」

「照れ照れするなよ腹立つなぁ!」

 

 七人が罰を受け絶叫を上げる中、ラブとアラタはもう二度と目が合わせられず、お互いに距離をとったまま黙ってしまった。

 

「信頼など、利害の前では虚しい力なのだと自ら証明したようなものだな。人が持つべきものは恐怖と欲望に打ち勝つプライドだ! モモカ、連邦生徒会として選ばれた者の威厳を見せてやれ!」

「えっ、私もやるの……?」

 

 高みの見物をしていたモモカは予想していなかった指名に表情を強張らせる。

 

「当たり前だ! さぁゴムを咥えろ!」

 

 マコトは強引にモモカの口にゴムを噛ませてそれを引っ張る。

 

「ゴムの先端にはコイツの大好物の明太子チップスが——。」

 

 マコトが準備に取り掛かっているその最中、モモカは口を離してゴムは勢いよくマコトの顔に直撃した。

『イオリ、キサキ、マリナ、OUT!』

 

「——き、貴様……途中で離す奴があるか馬鹿者!!」

「馬鹿はお前だ!」

「当然離すじゃろう。」

「綺麗に当たったな。」

 

 三人が罰を受けるのを尻目に、マコトは憤慨する。

 

「もう我慢ならんぞ。この場にいる全員、このマコト様が相手をしてやる……! 貴様らなんぞキヴォトス支配への礎にしてくれるわ!!」

「め、メルさん大変ですわ! ここは一時休戦して、何かゲヘナの会長さんを鎮めるようなカッコいい似顔絵でも描いて差し上げて下さいまし!」

 

 タカネは暴れようとするマコトを抑えながらメルに叫び、メルは慌ててカバンから本を取り出す。

 

「な、なら丁度今年の年末に出すゲヘナとトリニティのすれ違う謀略と罪悪の中で絡み合い育まれる濃厚な『マコト×ミカ』本があるけど……。」

「そんな大ヒンシュク買いそうな危ない本を全校放送のこの場で広げないで下さい!!」

「じゃあ去年出した『マコト×ヒナ』本は?」

「ふざけるなぁあああ!」

 

 もはや台本なのか本当にキレているのかわからないマコトに、戻ってきたナグサとキリノが慌ててバケツの中の液体をぶっ掛ける。

 

「ちょっと落ち着いてください! 熱くなりすぎですよ!」

「って……なんかこの水ヌルヌルしてない?」

「ローションだこれ!!」

 

 部屋全体がローションで塗れ、転んだり絡みあったりしてミノリ達も全員がヌルヌルになる。

 

「ようし、ならば最後はローション相撲で決着をつけようではないか!」

「言ってる場合ですの!?」

「ちょっと暴れないでよ! まだおでんを全部食べきれてな——熱ぁっ!!」

 

『全員、OUT!』

「もう収集がつかなくなってんじゃねぇか!」

「うるさいし汚いし危ないし!」

「どうするのよこれ……。」

 

 七人が罰を受けると、ドアからアオイが顔だけだして手招きをした。

 

「探したわよ。晩御飯の用意が出来たから、遊んでないで早く来てちょうだい。」

 

 七人は助かったとばかりに、未だ騒ぎの収まらない応接室を後にしたのだった。

 

 

 

 9:30 p.m。連邦生徒会食堂。

 七人は白身魚のフライか水晶鶏かを選択してそれぞれ定食を受け取る。食堂の隅の卓で集まり夜食をつついていると、厨房の方からゲヘナの生徒が近寄ってきた。

 

「こんばんは。皆さんお食事の方は如何ですか?」

 

 話しかけられてもしばらく七人は警戒し「誰だ?」と小声で話し合う。イオリが「ウチの給食部のジュリだ。」と言って、それから皆はジュリに答える。

 

「ええまぁ、美味しいです。」

「そうですか! 良かったです! 慣れない厨房だったので少し不安だったのですが、安心しました。」

「……貴女が作ったの?」

「いえ、調理をしたのは部長です。お呼びしますね!」

「いや、大丈夫……。」

「フウカさーん!」

 

 ジュリが呼ぶと、厨房の方からフウカが登場する。フウカは亀甲縛りで身体を拘束されており、目隠しをされ、猿ぐつわをかまされていて、おぼつかない足取りでこちらの方まで歩いてきた。

 七人はその異様な事態に瞬時に気を引き締め笑いを堪える。

 

「あの、大丈夫なんですか? 凄い格好されてますけど。」

 

 シズコの問いに、ジュリは笑う。

 

「ええ。先ほどまで美食研究会に拉致されていましたので。」

「いや、解いてやれよ。」

「どうやってそれで料理したの?」

 

 コハルの問いにフウカは答える。

 

「ふいろへえういひいえおはいああは。」

『コハル、イオリ、OUT!』

 

「何言ってるかわからないってば!」

「だから解いてやれよ!!」

 

 二人が我慢出来ずに悶える中、新たに食堂に利用者が現れる。

 

「あれ、みんなこんな遅くにご飯?」

「せ、先生!」

 

 共通の知人が現れたことで、七人は少しだけ表情を和らげる。しかし先生が一歩部屋に踏み込むと、その右手にはリードが握られているのが見えた。そして、そのリードに引かれて目隠しをして猿ぐつわを咬まされた四つん這いのゲヘナ生、風紀委員のアコが現れて全員悔しそうに卓を叩いて笑った。

『全員、OUT!』

 

「何やってんだよ先生!?」

「やめてよアコちゃん!」

 

 七人が罰を受ける横で、ジュリは先生に尋ねる。

 

「あら? アコさんも美食研究会に捕まったんですか?」

「ううん。アコのこれはただの趣味だよ。」

「あえあういえふは!? うあえはおほいああいへふあはい!!」

『全員、OUT!』

 

「だから何言ってるかわかんねんだよ!!」

「エッチなのはダメなんだから!! 死刑だから!!」

「はんいあいひあいえうあはい! あはひはふいえあっへいうあへえはあいあへん!!」

「猿ぐつわのまま喋るでない! 取れ、痴れ者が!」

「頼むから食事くらい落ち着いてさせてくれないか!?」

 

 七人はこれ以上罰を受けてはたまらないと全力でフウカとアコを押しやり、食堂から追い出すことに成功した。二人は食堂の外でも奇怪な言語で共鳴していたが、それを無視して七人は食事を続ける。

 そこに、派手な笑い声を上げながらゲヘナの生徒たちが入ってくる。皆が顔を上げると、万魔殿のサツキとチアキがニヤニヤしながら七人に近寄って来た。

 

「何何どうしたの? みんな元気がないじゃない。」

「あはははは、ほら写真とりますよ〜、笑って笑って!」

 

 チアキは許可もなくフラッシュを焚いてインスタントカメラのシャッターを何度もきるが、七人は顔を顰めたまま一向に笑おうとしない。

 

「やあね、辛気臭いわ。そうだ、私の催眠術で笑顔にしてあげましょう。ほら、これをよーく見てなさい?」

 

 サツキは糸に垂らした硬貨を振り子のように振るが、七人は無視をして黙々と食事を続ける。

 

「ほ、ほら、こっちを見て……見なさいよぉ!?」

 

 サツキがあまりにしつこいので、七人は食事を続けながらも目線だけそちらに向けてやった。

 

「宜しい。それじゃあ、貴女達はだんだん笑顔になーる! 箸が転んでもおかしくなーる!」

 

 サツキは自信たっぷりに暗示の言葉を唱えるが、七人の冷めた目つきはピクリともしなかった。

 

「ねぇ笑ってよぉ!?」

 

 もはや泣き出しそうなサツキに呆れながら、一人早めに食事を終えたキサキは彼女の方を向いた。

 

「訊くが、催眠術というのは人を強くすることも出来るのか?」

「え、ええもちろん! 脳のリミッターを外すことによるパワーの増強だったり、痛みを感じないで注射が出来るような素敵な暗示だって出来るわよ!」

「ふむ、興味深い。ならば其方の生徒に催眠術をかけて、妾らの罰を一度耐えさせてみてはくれんか?」

「えっ。」

 

 キサキの唐突な提案に、チアキは笑顔を強張らせる。

 

「それで効果が確認出来れば、妾らも少し真面目に催眠術とやらに取り組もうではないか。」

「わかったわ! いくわよチアキ!」

「え、いや、ちょっと待って……。」

「貴女は痛みを感じなくなーる! お尻がだんだん硬くなーる!」

「嫌な催眠術だなオイ。」

 

 そして、サツキに催眠術をかけられたチアキに、ショットガンを構えた黒ずくめが近寄る。

 

「ちょっと待って本当にやるんですか!? ねぇ、そんな話聞いてな——あぁあああああっ!?」

 

『全員、OUT!』

 床を転げ回る初々しいリアクションを魅せるチアキに、七人は気持ちの良い笑い声を上げた。

 

「そりゃそうだろ。」

「ざまぁないわね。」

 

 七人が小慣れた様子で罰を受ける中、チアキは一人でピースサインをしながら痛みで歪む自分の顔を何度も自撮りした。

 

「意外とタフですねこの人。」

「ひょっとして本当に催眠術がちょっと効いてるのかな?」

「その通りよ! ほら、貴女達ももう一度私の催眠術を受けてみなさい?」

 

 サツキは自信満々に言うが、当然七人は全く信用していない。

 

「まだサンプルが少なくてなんとも言えないんだけど、催眠術って鏡があったら自分にもかけられたりしないかしら?」

 

 セリカに言われてサツキは大喜びで身を乗り出す。

 

「もちろん出来るわよ! 催眠術の一つの究極型は自己暗示だもの!」

「はい、じゃあ手鏡を貸してあげるわ。」

「え?」

「自分にも催眠術をかけて、ショットガンを耐え切ってみて?」

 

 セリカに鏡を向けられ、サツキは冷や汗を一筋垂らす。しかし、この挑発を受けられなければ催眠術を否定するようなもの。

 

「やってやるわよ! 見てなさい!?」

 

 サツキは鏡の中の自分に全力で催眠術をかけた。

 そして、黒ずくめが現れて彼女の尻に至近距離からショットガンをぶっ放す。

 

「ゔぁあぁああ痛っったあぁああぁい!!」

『全員、OUT!』

「痛いって言っちゃってるじゃん!」

「一秒も耐えられておらんかったの。」

「早く帰れよもおおお!」

 

 七人にあしらわれ、チアキとサツキは尻をさすりながら食堂から逃げていった。

 

「みんな本当にごめん。ゲヘナの生徒は、バカばっかりで……ほんとに。」

「だ、大丈夫よ! イオリさんみたいにまともな人が居るのも知ってるから!」

「風紀委員の仕事、いつもお疲れ様です!」

 

 気落ちするイオリを慰めながら、七人は新しい刺客が来る前にさっさと食事を終えるのだった。

 

 

 

 10:30 p.m。連邦生徒会待合室。

 すでに夜も更けて、七人は累積した罰のダメージもありうつらうつらとしていた。

 そこに、調停室の岩櫃アユムが遠慮がちに部屋に入ってきた。

 

「あの、皆さんお疲れ様です。」

 

 七人は気の抜けた返事をしながらアユムの方を見る。

 

「お疲れのところ申し訳ないのですが、今日の最後の業務として、会館の見回りをお願いしたいのですが宜しいでしょうか。」

「やった……これで最後かぁ〜!」

 

 セリカは思いっきり伸びをして気合いを入れ直す。

 

「その後はどうするのじゃ?」

「シャワー室と宿直室をお貸ししますので、そちらでお休み頂きます。」

 

 ようやくこの地獄から開放されるとわかり、キサキ達は深い溜息をついた。

 

「それじゃあまぁ、最後の仕事を頑張りますか。」

「見回りって、具体的にどうすれば良いんだ?」

 

 アユムは七人を二グループに分けて、待合室を出た廊下からぐるりと左右に分かれるよう指示をした。

 そして七人はキサキ・マリナ・イオリ・コハルのグループと、ネル・シズコ・セリカのグループになり、真っ暗になった連邦生徒会会館の見回りを始めた。

 

 キサキのグループは会館のエントランスの方から中庭を通り、体育館を経由して宿直室の方へ向かうルートを見回る。キサキを先頭に四人はそれぞれ懐中電灯を片手に廊下を進んでいく。ライトの灯り以外は非常灯や窓から差し込む月明かり程度で、館内は人の気配もない。

 慣れない場所の夜の静けさは手練れの生徒でも少しは不気味に感じるものがある。中でもコハルはかなり怖がっているようで、マリナの裾を掴みながらひっつくように歩いていた。

 

「これで実際に本当の不審者を見つけてしまったらどうすれば良いのだろうか。」

「適度に懲らしめて、連邦生徒会に引き渡せば良いじゃろう。」

「うぅ……なんにも起きないで欲しい。」

「そんなので正義実現委員が務まるのか……?」

「じ、事件の時は大丈夫なの! 何もないのに何か起きそうなこういう時間が苦手なだけで……!」

「あぁ、それはわかるかも。」

「幽霊が怖いなどと言わぬようで少し安心したぞ。」

「バカにしないでよ! お化けは……ちょっとしか怖くないんだから!」

「ちょっとって……。」

 

 四人が雑談をしながら歩いていると、突如右手の壁が砕けて中から人影が飛び出してきた。

 

「ギャアァアア!?」

 

 三人は絶叫を上げながらキサキに抱きつく。

 

「ギャアァアア!?」

 

 そして壁を破壊した不審者も悲鳴を上げ、猫のように背中を丸めて全力疾走で去って行った。

 取り残された四人は、しばらく逃げ去った影の方向を凝視しながら固まっていた。

 

「い、今のは不審者か? 演出か? 幽霊か?」

「わからぬ……それより苦しいんじゃが。」

「あの、ひょっとしたら、ツルギ委員長かも。」

 

 コハルが呟いて、イオリも納得したように頷いた。

 

「確かに、一瞬だったけどあれは正義実現委員のツルギだな。」

「じゃあ、不審者ではない……のか?」

「た、多分。」

「そこはコハルだけでも違うって断言してやれよ。」

「というか、私達は見回りをしているんだよな。この壊れた壁はどうすれば良いんだ?」

 

 マリナに言われて、皆はしばらく考え込む。

 

「……まぁ、異常なしということで良いじゃろ。」

 

 そして考えても埒があかないと判断したキサキは、無視して先に進もうと判断する。

 

「これが異常じゃなかったらもう見回りする意味なんてないんじゃ……。」

「そんな事言ったら今日一日ずっとそうじゃったろうが。」

「確かに。」

 

 四人は再び懐中電灯を持ち直して、薄暗い廊下の先へと進んだ。

 

 

 

 一方、ネルのグループは、応接室から食堂や会議室を担当するルートで進んでいた。

 

「……今、何か悲鳴みたいなの聞こえなかった?」

「え、そうですか?」

「聴こえた。まぁコハルはビビってそうだったからなぁ。」

 

 三人は怖気た様子を微塵も見せずに暗い廊下をさっさと歩いていく。

 そこに、

「ばぁっ!」

 白い布を被った生徒が応接室の陰から飛び出してきた。

 

「そういえば、コハルとマリナさんってちょっと似てると思わない?」

「あ? バカなところがか?」

「直球すぎでしょ。そうじゃなくて、細かい嘘をついて勝手に追い詰められていく感じが。」

「それ殆ど同じこと言ってますよセリカさん。」

 

 三人はお化け役の生徒の前を、雑談を続けながら通り過ぎていく。

 

「ちょ、ちょっとちょっと! 驚いてよぉ!」

 

 修行部のカエデは白い布を脱ぎ捨ててネル達にしがみつく。

 

「いや、驚いたわよ。」

「ああ。かなり驚いた。」

「全然心がこもってない!?」

「あえて苦言を呈するなら、勢いと声の張りが足りませんでしたね。」

「冷静な指摘やめてよぉ!」

 

 カエデが与えられた役割を演じられず困っていると、そこにお祭り運営委員会のフィーナが間に割って入る。

 

「お客サン! 例え子供騙しに見えてもそこはノッてあげるのがお化け屋敷の人情デス! まして役者にお説教だなんて、例え天が許してもフィーナが許しまセン!」

 

 フィーナは任侠を掲げてカエデを助けようとするのだが、いかんせん相手が悪かった。

 

「あ? あたしらは今見回りで忙しンだよ。つーかお前ら不審者か? あたしらにぶっ飛ばされて生徒会に引っ張られてぇのか? あ?」

 

 ネルに気圧されてフィーナは後退る。

 

「ちょっとフィーナ、相手が悪すぎます! ここは謝って逃げてください!」

 

 シズコはヒソヒソと後輩にアドバイスをするが、フィーナは挫けなかった。

 

「オゥ……流石ミレニアムの極道デス……しかし、毒を制するには毒。此方にも最強のカードはあるのデスよ!」

 

 フィーナは後方に向けてパンっと信号弾を放つ。

 閃光はゆっくりと廊下の先へと消えていき、その暗闇の中から奇妙な陰が恐るべき速さで此方に向かって来た。

 

「えっ、ちょっと何あれ! 怖い怖い!!」

「ばっ、本物の化け物ですか!?」

「あ? アイツは……。」

 

 陰はネル達の姿を捉えると、奇声を発しながら凶悪な笑みを浮かべる。

 

「キェエェえぇえええあぁ!!」

「やっぱりお前か! 上等だ、喧嘩なら買ってやる!! 今度こそ決着つけるぞコラァ!」

「えっ、ちょっとネルさん!?」

「良いんですかこれ! ねぇ!?」

 

 シズコはフィーナとカエデに確認するが、二人共顔を顰めて黙り込んでしまう。

 

「だ、だから驚いてくれないと困るんだけど……あはは。」

「ここでワーっとなってワタシ達の出番は終わりなのデスが……とんでもないことになってしまいましたネ。」

「笑ってる場合じゃないでしょ! 私達でなんとか止めるわよ!」

「私達でなんとかなるんですか……?」

 

 シズコ達が二の足を踏んでいる間に、ネルとツルギは取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。

 

 キサキ達はツルギの出現後、先ほどよりも寄り添い合って行動していた。

 そんな四人の背後から、突然ゆったりとした口調で詩が詠まれる。

 

「くねくねの〜廊下違えて極月へ〜。」

「ギャアァアア!?」

 

 三人はまたキサキに抱きつき、キサキは苦しそうにしながらも好きなようにさせて落ち着かせてやっている。

 

「こんばんわ〜。」

 

 陰陽部のチセはおっとりとした笑顔で挨拶をする。

 

「確か、百鬼夜行のチセであったか。」

「うん〜チセだよ〜。実は皆んなにはこれからミッションに——。」

 

 チセが話している途中で、耳をつんざくような声が廊下にこだました。

 

「こんばんは!! 宇沢レイサです!!」

「ギャアァアア!?」

 

 挨拶をした途端に驚かれて、レイサは申し訳なさそうに声を少し抑えて謝った。

 

「あれ〜。貴女はもう少し後からのはず……?」

「あっ、チセさんごめんなさい! ちょっとトラブルが起きてしまって、今から皆んなで中庭に向かってもらうことになりました!」

「わかった〜。」

「ト、トラブル……?」

 

 マリナが訊くと、レイサは心底困ったような顔で答えた。

「あの、実はネルさんがお化け役の人と喧嘩を始めてしまったので、止めて貰いたいんです。」

 それを聞いて、四人は顔色を変えて中庭に走り出した。

 

 中庭にある花壇の陰で、温泉開発部のメグとカスミは爆弾のスイッチを目の前にワクワクと話あっていた。

 

「いやぁ、まさか生徒会の方から爆破の依頼がくるとは、こんな幸運もたまにはあるものだな!」

「そうだね! まぁ、温泉を掘るには大分少ない規模での依頼だったけど。」

「なぁに、生徒会もしがらみの多い組織だからこそ予算の工面が大変なのだろう。しかし、そこは助け合いさ。別の依頼主からたんまりと資金提供があったおかげで、依頼の火薬の量とは桁違いの、軽く地盤をぶち抜く規模の爆薬を設置することが出来た。連邦生徒会もきっと泣いて喜ぶだろうよ。」

「けど、人が集まってから爆破なんて妙な依頼だよね。こんな周りを建物が囲む場所での爆破で人なんか集めたら危険でしょ。」

「そこはまぁ、政治的なパフォーマンスなのではないか?」

「なるほど! でも、寒いから早くその人たち来てくれないかな。」

「そうだな……いや、どうやら来たようだぞ?」

 

 二人が顔を出すと、何やら揉めている生徒とそれを囲む数人の生徒たちが中庭になだれ込んで来た。

 

「よし、それでは盛大に行くぞ!」

「了解!」

 

 二人がスイッチに手をかけた瞬間、レイサは大声で叫ぶ。

 

「ストップ! ストップです! 温泉開発部のお二人! 爆破は——。」

「部長、なんか中止っぽいけど。」

「ハーッハッハッハ! 構わん、やれ!!」

 

 カスミの判断にメグは容赦なく爆弾のスイッチを押した。

 

 キサキ達が中庭に着くと、すでにネルとツルギはボロボロになっていた。

 

「ネルよ、いい加減にせぬか。」

「ツルギ先輩、もうやめてください……!」

 

 キサキとコハルに言われて二人は一瞬考えるが、

「あと一発、あと一発だけ! それで決着つけるから!」

「それで良いよとなるわけがないだろう。頭を冷やせ。」

「聞き分けて貰えないなら、全員で力づくでとめるぞ。」

 イオリとマリナも臨戦体制でにじり寄る。

 

 その瞬間、爆音と共に中庭の地面がめくれあがった。

 その場にいた全員が一瞬固まり、そして大声を上げながら逃げ出す。

 

「ば、爆弾だ! 逃げろ!」

「ちょっと、この演出はまだ後のはずデス!?」

「それに火薬の量間違えてない? 下手したら死人が出るよこれ!」

「とにかく逃げろ逃げろ!!」

 

 ツルギもネルも、近くにいた鈍臭い生徒を一人二人抱えて走り出す。

 

しかし、逃げ惑う生徒たちの背後に、爆破の衝撃は一瞬で迫り、

「うわあぁああああもうダメだぁ!?」

「振り返るな! とにかく走れぇ!!」

 そして、連邦生徒会の中庭は大爆発と共に吹き飛び、その場にいた生徒たちもみな巻き込まれて仲良く空に投げ出された。

 

 

 

 1:00 a.m。連邦生徒会宿直室。

 中庭の大爆発の後、番組に出演した生徒たちは奇跡的に湧き出た温泉に皆んなで浸かって疲れを癒した。主犯の温泉開発部は風紀委員会に引き取られ、中庭周辺の破壊は後日修繕されることとなった。

 ネルとツルギの喧嘩も有耶無耶になり、七人は湯を上がった後は宿直室で倒れるようにしてそれぞれのベッドに潜り込んだ。

 それからポツポツと一日の思い出を語り合い、思い出し笑いをして何人かが寝る直前だというのに罰の執行を喰らった。

 そしてようやく落ち着き、静寂と共に七人は睡魔に溺れる。

 その一番気持ちの良い瞬間に、館内のスピーカーから大音量で音声が流された。

『しぇんしぇどにぉ〜!!』

 眠りかけていた七人はビクリと身体を強張らせ、何人かは顔を上げて周りを見渡す。

 

「……何? 何て言った?」

「わかんない、眠いんだからもうやめてよ……!」

 

 皆が困惑する中、また同じ音声が流される。

『しぇんしぇどにぉ〜!』

「……これ『先生殿』って言ってるのか?」

「多分そうです。あの……忍術研究部のミチルさんですね。」

「先生殿……え、全然そんな風に聴こえな——。」

 

『し、しぇんしぇどにぉ〜!』

 しつこく繰り返される謎の鳴き声に、何人かの布団がブルブルと震える。

『ネル、イオリ、マリナ、セリカ、OUT!』

 

「いい加減にしろよ!? 眠いっつってんだろうが!!」

『しぇんしぇどにぉ〜!』

『キサキ、コハル、シズコ、OUT!』

「喋るならばちゃんと喋らぬか!」

「もおヤダってばぁ!」

 

 それからしばらく、ミチルの声にエフェクトがかけられて流される。

『じぇんじぇどにょおぉぉゔゔぅゔう!』

 そんな悪質な嫌がらせに何回か屈して罰を受けながら、午前二時頃を境にようやく七人は安息の眠りにつくことをゆるされたのだった。

 

 

 

 8:00 a.m。連邦生徒会エントランス。

 長かった罰が終わり、七人は入り口前でアオイから労いの言葉を貰っている。

 

「みんな。短い間だったけれどお疲れ様。」

 

 七人は清々しい晴天には似合わない、疲れ果てた顔で並んでいた。

 

「とんでもなく長かったっつーの……。」

 

 流石のネルでさえも、目の下に疲れが滲んでいた。

 

「一日を通して、笑うことの大切さと尊さが身に沁みたことでしょう。」

「本当にの。」

 

 ポーカーフェイスのキサキも、笑いを堪えるということが如何に困難であるかしみじみと感じた。

 

「そして、得難い友情も育まれたことと思います。」

「……なんか、これでお別れって思ったら……ちょっと寂しい。」

「おいおい、泣くなコハル。会いたかったらいつでも会えるだろ?」

「そうですよ。気軽に連絡をください。私からも遠慮なく声をかけますしね。」

 

 ぐずるコハルの頭をマリナが撫で、シズコはハンカチを差し出した。

 

「ようやく解放されて清々しさはあるけど、これが放送されるってのが憂鬱でしょうがないな……。」

「ウチはそもそも生徒が少ないから露出も少なかったけど、ゲヘナやトリニティの身体を張ったネタは波紋を呼びそうよね。」

「やめろ、思い出したくない……。」

「愚痴なら聞いてあげるわよ。」

 

 イオリとセリカは冷静になって今までの痴態に頭を抱えていた。

 

「そんな貴女たちの新年が、是非とも笑顔に溢れ、豊かなものである事を祈っているわ。それじゃあ——。」

 

 アオイが締めの挨拶をしようとした瞬間、背後からマコトが現れ、アオイを羽交締めにして高らかに宣言する。

 

「キキキキキ! バカめ、このマコト様を懐に招いたのが運の尽きだ! 本当ならば昨日の爆破で全て消し飛ばす手筈だったが、どのみち連邦生徒会の内情は知れた! 今年限りで連邦生徒会は解体し、マコト様の傘下としてコキ使ってやるから有り難く思うがいい!」

 

 マコトの突然の凶行に七人が戸惑っていると、その更に背後からジャージ姿のミカが現れてマコトの頭を掴む。

 

「朝っぱらからデカい声で大笑いとか、近所迷惑だからやめて?」

「な、おま——!」

 

 そしてそのまま『バンッ』と、マリナの頬を叩いた時の倍近い音を響かせてマコトに強烈なビンタがお見舞いされた。

『全員、OUT!』

 白目を剥いて気絶するマコトを見て、七人は尻に最後の罰を受ける。

 

「なぁ、これって進行通りの話なのか? それとも本当に事件が起きてるのか?」

「知らん。もうどっちでも良いわ。」

「来年もあんまり変わらない一年になりそうですね。」

 

 絶叫と笑い声が、キヴォトスの晴天にこだました。

 

 その後、この事件がきっかけで新年早々トリニティとゲヘナの戦争が巻き起こるのだが、不思議と戦う二校の生徒たちの顔はこらえきれていない笑いで満ちていたという。

 

 

 

 絶対に笑ってはいけない連邦生徒会二十四時 fin.

 




これにて終幕です。読んで下さりありがとうございました。皆さん良いお年を!
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