「……ふふ、…幻目〜」
「…んー?どうしたの?」
ある来る日。最近出した新作の続きを執筆していたら、家から出てきた寝起きシトラリが僕の背中に抱きついてきた。
どうしたのと振り返ると、シトラリは僕の顔をじっと見てむふっと笑う。かわいい。
最近だと流泉の衆のウルくんがシトラリの元で氷元素の修行をしていて、その間は僕の天幕をウルくんに貸していた。
そして修行が終わった彼が流泉の衆に帰っていったその日から元の天幕に戻ったんだけど、その次の日から寂しさのせいか甘えん坊になっちゃった。
すりすりしてくるシトラリの頭を優しく撫でながら、僕は筆を置いた。んーっと伸びをして椅子に座り直し、隣に滑り込んできたシトラリからお茶を受け取る。
「調子はどうなの?」
「うーん、ぼちぼちってところかなぁ。良くも悪くもないって、結構微妙なのかな」
「…あのコも帰っちゃったしね。……シゲキが足りてないってこと?」
「…まぁそうとも言うけど……。………違うよ?」
「なにが?」
刺激が足りないに肯定した僕のある一点を見ながら「…シゲキ……足りない?」と言いたげな顔で、赤面するシトラリに突っ込んだ。そういう意味じゃなくてね?
「…まぁ、ウルくんから色々話を聞けて収穫はあったし、いいのが書けそうなんだけど……でも、ちょっとね」
なによ?とシトラリがら覗き込んでくるので少し原稿を見せると、ぽっと頬を種に染めた。
「……これは、ちょっと……」
「でしょ?」
彼の経験談を元に書いてみたはいいものの、これはちょっと世に出せないものが出来上がってしまった。
内容は主人公の好きな子と同じ部屋に泊まり、仲良く喋っていたどさくさで段々距離が近くなっていき……最終的には事故と言い張ってキスをしまくるというもの。そもそも何回もキスしちゃってるのに事故ってなに?ウルくんに聞いてみたけど「お、俺もわかりませんよぉ!」との事だった。
「……いいや、これは一旦ボツに…」
「えっ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「え、なになになんで?」
原稿用紙を丸めようとした僕の手をシトラリが掴む。彼女の方を見ると、何かを言いたそうにモジモジしていた。
「……や、やっぱり、こういうのは1回タイケンしてみないとダメじゃない?」
「……シトラリってさ、けっこうむっつりだよね」
「な"っ!?」
最近のシトラリのアプローチはちょっと落ち着いてきて、酔っ払わないとあんまり甘えて来たりしないんだけど、やっぱりちょこちょここういう所があるんだよね。僕としてはそこも可愛いから最高なんだけど。
僕の苦笑混じりの一言に飛び上がったシトラリは怒ってその場を後にするかと思いきや、座ってる僕の後ろからしなだれかかってきた。腕を首に回して寄りかかってるせいで彼女の2つの爆弾が僕の背中に着弾して、その柔らかさを伝えてくる。
「…し、シトラリ?」
「……あのコ達がいたから、最近あんましイチャイチャできてないでしょ…?……それとも、ワタシじゃ……ヤ?」
「んぐっ」
耳元で囁かれた、蕩けそうな甘え言葉に僕の喉から変な声が出る。シトラリはそのまま腕を僕の脇の下から通し直して身体をさわさわ触りながら、身体を押し付けてきた。
「……ねぇ………ヤなの?」
「そんなわけないじゃないか」
「……でしょ?………えへへ」
シトラリは嬉しそうにはにかみ、僕の手を引いて自分の家へ。そのままシトラリンの上に座らせた僕のすぐ隣に女の子座りで腰を下ろしたシトラリが、何やらモジモジしている。
多分、勢いで言って連れてきたはいいものの我に返って狼狽えてるんだろうな。自分で連れ込んだ癖に眉を八の字にして上目遣いでチラチラ見てくるシトラリが可愛すぎてつらい。
そんな愛らしい彼女を見ていたら、僕の方だって気分が乗ってくる。僕は優しく彼女の手を握った。
「…ん、…幻目…」
「……小説じゃ偶然当たったって書いてあったからね。……ちょっとやってみようか」
「…げ、幻目…ぁっ…」
僕はシトラリの腰を優しく持って一緒に寝転がった。僕の顔の数センチ先にシトラリの整った顔がある。シトラリは、まるでお預けされた犬のような顔をしながらとろんと蕩けてきた目で僕をじっと見つめ、少しだけ僕との距離を詰めた。
「………」
僕もなんでもないふりをしながら、シトラリの背後に手を回して紫がかった綺麗な白銀の髪を指で梳く。それに嬉しそうな顔をしたシトラリは、目を開けたまま僕の顔へ近づいて。
ちゅ。
彼女が可愛すぎて、思わず僕も前に出てしまった。そのせいで思いのほか深いキスをしてしまう。やばい、このまま偶然当たっちゃいました感を出さないと。
そう僕は思ってたんだけど、シトラリはもう限界だったみたいだ。
「…ちゅ……ぅ、んっ……幻目…!……んんっ」
「ちょ、シトラリ?これ体けんむっ…」
そこからはもうダメだった。僕も久しぶりのシトラリとの逢瀬にブレーキも何もかもが妖怪の本能に吹き飛ばされる。
気づけば、小説の中に1ミリもないほどのはげしいキスをシトラリと交わしてしまった。
「……ん、ちゅ、……じゅるっ……ちゅ、ちゅ…」
もはや何も言うまい。シトラリは横で向き合っていた身体を起こし、僕に覆いかぶさりながら舌を絡めてくる。それに応戦しながら、僕の両手が彼女をさらに楽しもうと動き始めた。ほとんど手癖で彼女のパレオのホックを外し、そのまま手のひらで彼女の柔らかさを大いに感じる。
「……んっ、…げんもく…んちゅ…」
シトラリが顔を離すと、僕との口の間に銀色の橋が掛かる。そのまま物欲しそうな顔で眼鏡を取ってくるので、僕が今度は彼女を押し倒した。
もう偶然とか事故とか、小説の追体験とか関係ない。僕たちは只々、目の前の愛しの人をじっくりと味わい続けた。
「………何してたんだろうね、僕たち」
「……わ、ワタシに聞かないでちょうだい…!」
「自分から誘っといて?」
気づけば夜だった。
お互い色々出し尽くしたあとによろよろの体でシャワーを浴びてベッドに並んで横たわる。
あれ、そういえばなんでこんなことになったんだっけ?記憶のほとんどを「とろとろになりながらも心の中で愛を叫び続ける可愛い彼女」が埋めつくしていてあんまし思い出せない。
………あ、そうだ思い出した。
僕たちの逢瀬が何から始まったかではなく、その前に考えていたこと。
「……シトラリ」
「…ん、……ナニ…?」
「はいこれ」
僕は脱ぎ捨ててあった自分の上着の懐からあるものを取り出してシトラリへ渡す。
「……これ、は……?」
「……お誕生日おめでとう」
シトラリは僕が渡した、緋色に光る宝石が着いたネックレスを受け取り、呆然と僕を見てくる。おたんじょうび?と首を傾げるので、僕は慌てた。
「…あ、あれ?……たしか今日が…」
「…………ぁ、……そういえば…今日だったわね」
シトラリも歳を重ねすぎて誕生日という概念が薄れていたんだろう。首を傾げながら思い出した彼女は、もう一度手の中のネックレスを見た。
「……こ、コレは…?」
「誕生日プレゼント。その石に僕の妖力が込められてる。……稲妻の妖怪は、大切な人に自分の一部を相手にあげる風習があるんだけど
……どう、かな?」
「……〜〜っ…!」
シトラリはその「緋妖結晶」と呼ばれるネックレスをもう離さないとばかりに握り締めると、いつもしている首のネクタイを解いた。そのままそれを僕に渡して少し上をむく。
「……つけて?」
「…あぁ」
僕はシトラリにネックレスをつけてあげた。
元々紫のネクタイがあったところに緋色に輝く石が下がり、それを大切そうに眺めている。
「……気に入ってくれたかな」
「…うんっ、…キレイ…。…ありがとう」
あんまり嬉しかったのかちょっと涙目のシトラリは、僕の頬にキスを落とした。僕も同じことをして彼女を優しく抱きしめる。
「……ワタシ、ずっと自分の誕生日がキライだったの。……歳をとるのを実感させられる日がイヤでイヤで…、いつしか忘れちゃってた」
「…うん、気持ちは凄くわかるよ」
「……でもね」
シトラリは僕の両頬を手で包み込む。眼鏡が外れたままの僕に「嬉しい」の感情がこれでもかと飛んで来ていた。
「……でも、幻目のおかげで……ワタシ、自分の誕生日がスキになった気がする…。……ね、幻目の誕生日はいつなの?……これのお返ししないと…」
シトラリが指でネックレスを撫でながら聞く。もう片方の手は、僕を再び求めるように僕の手と指が絡んでいた。
「……シトラリ」
「……うんっ」
「先月」
「……こんっ、の…………ッ、………スットコドッコイぃぃぃ!!!」
ぼ、僕も忘れてたんだよぉ…!