Fallout3 DLC:Goddess’s Blessing On This Wonderful World! 作:Survivalist
(次の取り調べまで随分待たせるもんだな。まあ、セナが毒実験の時の聞き込みをしているのと、衛兵砦付の魔術師がもえもえの実験のレポートを査読しているところだから、それなりに時間はかかるんだろうが…)
一時的な取調室になっている冒険者ギルドの個室で、「ウルトラ・アンチベノム調合のための毒実験」の取り調べは昼過ぎになっても始まらずに、ジェイデンは昼食として差し出された「フライドーポークとポーチドエッグのライスボウル」という彼にとっては謎のメニューを(これも異世界ならではの味なんだろうがなかなかに美味いな)と思いながら勢いよくかき込んでいた。あらかじめ鑑識役の魔術師を連れてきて踏み込んでいるところから、セナの冒険者ギルドへの立入検査の本当の目的はもえもえの人体実験の取り調べである以上、これからが本番で相当長く付き合わせられるな、と思いながら「取調室のカツ丼」を食い終わったところでちょうど、調書の束を抱えて、疲れた顔、というより取り調べの前から精親戚に消耗した顔をしているセナが個室に戻ってきた。
セナは改めてジェイデンの正面に腰掛けて、取り調べを始めようとするが、いきなり詰問をはじめずに、何を言い出すか迷っている様子だったが、やがて、
「…あなた、本当に大丈夫ですか?」
(いきなり可哀想なやつを見る目で言われてしまったが…仕方ないかもな)
「どうしてそう言いたくなったかは分かるつもりだが、どのへんから確認を取りたいか教えてくれ」
「そもそもの話ですが、あなたはもえもえさんから、先日の実験の内容と、その危険性について、十分な説明を受けていましたか?」
「ああ、『万能の解毒剤を作成するために、できるだけ多くの種類の毒物を飲み込ませた被験者に様々な調合を試す』とはっきり言われたぞ。そして、多分俺ぐらいの
「…死亡や、後遺症が残るリスクは考えなかったのですか?」
「俺なら耐え切れると思った。人体実験には、慣れているからな」
セナの目つきは、取調べ中の検事というより、眼の前の人間の言う事のすべてを受け入れ、そして完全に客観的に分析し、なおかつ受容する精神科医のそれに近くなっていった。そして、なぜか机の上においてある卓上ベル型の嘘発見の魔道具を取り上げ、調子を確かめるように裏面を覗き込んで異常がなさそうなのを見て、ため息を付いてそれを机の上に戻していた。
「…嘘ではなさそうですね。では実際の実験の手法と展開について確認します。最初の段階で半数致死量を目安とした毒物の摂取を、もえもえさんから強要されたと聞いていますが、その行為の危険性は本当に認識されていましたか?毒物の成分については十分な説明を受けましたか?」
「ホワイトホース・ネトルと、ヒ素と書かれた瓶から出した試薬がベースのかなり刺激的なカクテルだったのは調合してるのを見て分かっていた。味は最悪だったが全部飲み干しても体力的にはまだまだ余裕があったからな、俺にとっては危険でもなんでもない実験だったぞ」
「…半数致死量の毒物を摂取するだけで十二分に危険な行為ですが。あなたの肉体と精神が普通でないのはよくわかりました。錬金術の知識がかなりおありのようなのに、それでも危険を避けようともしないのですね」
「俺が知っているのは錬金術じゃなくて科学だが、もえもえの試薬づくりの手際の良さや、詳細に記録を取るやり方を見て、優秀な研究者だと思ったから、あいつの学識は信用しているぞ。あいつがどれだけのものを作り出してくれるのか見たかったから、俺も少々無茶をしたわけだが」
「それだけでの理由で、さらに半数致死量の倍の分量の試薬に加えて、ポイズンスライム毒とジャイアントスコルピオンの生の毒まで摂取したと!目撃者は口を揃えて『ゾンビかグールになりかけていた。毒消しひとつで完全回復は、薬が効いたというよりあいつがバケモノだったんだろう』と証言していましたけどね!!普通の人間なら最初の段階で死亡してもおかしくない実験だと、本当に分かっていたのですか?!冒険者というのは自殺志願者の集団なのですか?!」
セナがたまりかねて絶叫するのに、かもしれないな、とそっけなく答えるジェイデン。セナが思わず押し黙った段階で、もえもえの実験記録を査読していた衛兵砦付の魔道士が真顔で入ってきて、やにわにジェイデンに向かって、本当に生きているか確認させていただいてよろしいですかと尋ねてから脈拍を取ったり、呼吸や瞳孔反応を見たり、探知の魔術をかけたりしてから、
「…記録にあった、実験であなたが摂取した毒物の成分から判断した限りでは、トロール並みの体力があったとしても死亡か、重篤な後遺症が残るのは確実と思いましたが完全な健康体ですね。毒物に耐性のある上級アンデットの可能性は探知魔法で否定されています。今はむしろ、私の目と耳を検査したい気分です」
「…実験記録に、虚偽や不審な点はなかったのですか」
「持ち帰って詳細に検証する必要はありますが、私が見た限りでは大変に詳細かつ正確性のある記録だと思います。研究者としての力量は私としても認めざるを得ません。紅魔族の種族的特性かどうかはわかりませんが、モラルは最悪というかそもそも存在しないようですが」
「実験の成果の『ウルトラ・アンチべノム』とやらは、本当に有効な薬物と思いますか?」
「これもおそらくですが革新的な調合と製法の解毒剤と思われます。ですが調剤は並みの魔術師や錬金術師では不可能なぐらい高度の技術が必要でしょう、それこそ紅魔族レベルの」
(…被験者の完全な同意があり、実験手順も記録も完璧で、新薬の有用性も実証されている……どう見ても告発は不可能…というよりも、あきらかにもえもえさんもジェイデンさんもおかしいのに、どうして実験の内容は限りなく正しいんですか?!)
叫びだしたくなるのをこらえて、セナは「再現性」の面からの検証を試みようとした。
「…追加の検証実験は、難しいでしょうね」
「その「ウルトラ・アンチベノム」手元にあるから毒物を用意してもらえれば、すぐにでも追加の検証に付き合うぞ」
「どうして今のセリフで嘘発見の魔道具が沈黙しているんですか!!お願いですからあなたはもっとご自身を大事にしてください!!頼むから今のは冗談と言ってください!!」
机を手のひらでバンバンと叩いてとうとう涙目になって、自殺志願者に思いとどまるように懇願するセナを見て、ジェイデンは今更ながら(そうか、ここはキャピタル・ウェイストランドではないんだったな。少々マシというレベルだが、命に重みのある世界だった)ということに思い至り、少しは慣れたほうがいいのかもな、と思い始めた。
「…まあ、俺が騙されたり、理由もわからずに毒を飲んだり、死ぬと分かって実験を続けたわけではないことは理解してもらえたか?」
「ここまで来れば、この実験に落ち度があったと認めるわけには行かないですね。個人的には大変に不本意かつ理不尽に感じるのですが…次回からは、今回に類するような何らかの実験を、もえもえさんが行うようなら、事前に冒険者ギルドだけではなく、衛兵砦にも届け出をお願いいたします…もちろん、もえもえさん本人にも伝えますが、あなたを通さないと、忘れられてしまう気がしますので」
「…冒険者ギルドのルナに続いて、王国検事のあんたも、俺にもえもえのお守りを押し付けるのか…まあ、俺の方から付き合ってやってるところがあるから、仕方ないか」
「よろしくお願いします。取り調べは一旦これで終了とさせていただきます…お疲れ様でした」
取調べ前よりも遥かに憔悴した顔つきで、見張りの衛兵を伴って、若干ふらつきながら帰っていくセナを見送ってから、ようやく解放されたジェイデンは呑気に伸びをしてから個室を出てギルドの酒場エリアに戻っていく。セナと、衛兵たちは引き上げの準備に入っていて、ギルドの酒場エリアは昼間から酔客で賑わい、窓口のエリアはひっきりなしに冒険者たちが出入りして、早くもアクセルの街は「日常」を取り戻している様子だった。
(ここの世界の奴らもなかなかに、たくましいな)
「お疲れ様!やっと邪魔な人たち、いなくなったね!」
ジェイデンの方から姿を探すまでもなく、もえもえがパタパタと駆け寄ってきて当たり前のようにジェイデンの腰のところにしがみついてくる。今までのようにやんわりと引き剥がそうとして、昨日の晩に自分から「くっつくのはいいが責任は持てない」と言ってしまったのを思い出して早まったかな、と少し思いつつも、
「お前もお疲れだったな。なにか面倒な探り入れられなかったか?あと、人前では手を繋ぐぐらいにしておけ」
「…あ、その、ごめんね。えっと、その…難しい理論を衛兵砦付の魔道士さんに説明するのが大変だったけど、それ以外は別に!セナさんには、私の偉大な理論と実験の意義、わかってもらえてた?」
あまりくっつかないように言われて不満そうにするのではなく、明らかに照れて頬を染めるもえもえ。「ジェイデンの方から受け入れてきた」ということに喜びながら身を離して、それでも武器を握りすぎてゴツゴツしたジェイデンの手に、自分の白くて細い指をそっと重ねていく。その姿を見た酒場エリアの冒険者たちの視線は、いまや「生暖かい」を通り越してもう結婚しちゃえよなものに変化しつつあった。
「なんとか分かってもらえたようだが、今度からは実験の前にはギルドと衛兵砦の両方に事前に届け出るように釘は刺された。ギルドの技術顧問に本当になりたいなら、絶対に忘れるなよ…今日はもう、冒険に出るのも実験に付き合うのも御免被りたいんだが」
「それなら、ちょうどおやつの時間だから私のお家でお茶、しない?それと今度こそ二人っきりで初冒険が無事に終わったお祝いのディナーなんてどうかな?お店で奢ってあげてもいいけど、出来たらジェイデンのためになにか作ってあげたいな…それで良ければなんだけど」
「いいのか?今からの準備は大変じゃないのか」
(デート、というよりホームパーティみたいなもの…だと思っておこう。と言っても、Vault101に住んでた頃、家で食卓を囲むのは親父とだけだったし、最後までよそ者だった俺と親父がほかの家に招かれることもめったになかったから、どんな顔をしてもえもえの家でご馳走になったらいいもんかね)
「大丈夫よ!ジェイデンのためなら何でも好きなもの作ってあげたい気分だから!ねえ、どんなメニューがいいのかな?」
母親のキャサリンを自分の誕生の直後に失い、Vault101という小さな村でよそ者として過ごしてきたため、「当たり前の団らん」の機会を持てなかった過去のせいで、誘いに戸惑うジェイデンにはお構い無しに、もえもえは手を引いて引っ張っていき、仮面のような営業スマイルで見送るルナの前を二人揃って通り過ぎて冒険者ギルドを出て、市場のエリアの方に歩いていく。
「そう言われてもな…ソールズベリー・ステーキのあたりは作れるのか?それよりも今日の昼飯ででてきた「フライドポークとポーチドエッグのライスボウル」なかなか美味かったな」
「…それって「カツ丼」のことをいってるのかな?似たような「親子丼」なら私も大好きだけど、それにする?」
そんな事を言いながらも、露天商が立ち並ぶ市場にたどり着くなり、小麦粉やら卵やら、食材を選んでは買い込んでいくもえもえ。後ろからついていくジェイデンは荷物持ちになっていくが、
(…こんな平和な空気は、俺にはふさわしいんだろうか)
冒険者だけでなく生活者で賑わう市場のど真ん中での「何気ない日常」の空気に居心地の悪さを覚えつつも、ウキウキと食材を選んで、楽しそうに買い込んだ食材を渡してくるもえもえの姿を見ているうちに、ジェイデンのポーカーフェイスはごく自然に柔らかい表情に変わっていった。