名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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十ページ目「ストームヴィル城にて」

 

 

 

◆一「鉤指」

 

 この狭間の地は、時や空間が不安定だ。

 時空が歪んでいて、だから褪せ人はいつの間にか"ずれ"てしまう。

 

 以前紹介したこの考察は、少なくとも俺が見聞きする限りは正しい。

 狭間の地では、褪せ人と同じ時と空間を共有できるのは刹那限りだ。

 

 

 だがその"ずれ"を渡る手段はある。

 一つは、褪せ人を殺すことを目的に渡ってくる侵入者のもの。

 二つ目は、褪せ人の探索を助ける"協力者"のものだ。

 

 

 

 "褪せ人の鉤指"というアイテムがある。

 いつの間にか入手していたものだ。

 

 これを使えば、地面に金の召喚サインを描ける。

 誰かがそのサインに触れたら、その誰かの世界に侵入し、その誰かを助けることができるんだ。

 

 

 逆に言えば、自分の世界で金の召喚サインを見つけたら、そのサインを描いた誰かが助けに来てくれる。

 俺も早速、ストームヴィル城で世話になったぜ。

 

 狭間の地には"サイン溜まり"が存在する。

 磔の像を中心に、多くのサインが集まる場所だ。

 どうしても誰かからの助力が欲しければ、この像を探すことだな。

 

 

 

 それから、金の召喚サインを起点とした"協力"は、基本的に見返りを前提に行われる。

 それは協力先の敵から得られるルーンだったりアイテムだったり。

 あるいは協力そのものが報酬のような価値観もあったりするかもしれない。

 誰かが喜べば、自分も嬉しくなるというのは、存外に学者たちも証明してくれる現象だからな。

 

 ただいずれにしろ、協力者は見返りを求めて協力してくれることを意識することだ。

 無用に"指切り"で縁を切ったり、協力者を面倒ごとや卑怯なことに付き合わせたりするのは、礼儀としてなっちゃいないってことだ。

 協力者に頼り切りで戦おうものなら、彼らの方から"指切り"で縁を切られるだろう。

 彼らを利用するときは、弁えて行動するべきだろう。

 

 

 

◆二「ストームヴィル」

 

 各地の坑道で得た鍛石で武器を鍛え、各地の幻影の木や教会からの恵みで聖杯瓶を強化し、金の召喚サインからの助力を得て、俺はついにストームヴィル城に侵入できた。

 

 ストームヴィル城とは、リムグレイブの北西に位置する大きな城だ。

 嵐丘の高いところに建つこの曇天と断崖の城は、デミゴッドの一角である接ぎ木のゴドリックが住まうことで有名だ。

 

 

 だが実際に侵入してみて思ったのは、この城は思ったよりボロボロだってことだな。

 なんせ城の壁に、ボコボコと大きな穴が空いているんだ。

 一部は兵士の警備をすり抜ける抜け道になってしまっている辺り、城の機能としては完璧としては程遠い。

 海沿いの壁にも穴が空き、場所によっては巨大な爪痕が遺されていることから、空を飛ぶ巨大な竜との戦闘を経たが故の傷なのではないかと予想する。

 

 またゴドリックは人望がないタイプの君主であるらしく、一部の者は俺の侵入を手助けしてくれる始末だ。

 どうやらゴドリックは、デミゴッドの一員ではあっても王の器ではないのだろうな。

 

 兵士の数は多く、質も悪くはないが、付け入る隙はある。

 城の攻略は不可能ではない筈だ。

 

 

 

 一方で、ここは接ぎの儀式が行われる場所だ。

 ゴドリックは自分の兵に褪せ人を拉致させて、その肉体の一部を奪い自らのものとしているそうだ。

 西側の城壁の下層に潜ってみると、大量の腕が吊るされていて、その部屋の隅には大量の死体が積み上がっていた。

 でかいものだと、巨人の死体すら吊るされていた。

 

 この光景こそが、ゴドリックが恐れられ、そして嫌われる所以だろう。

 

 

 

◆三「大ルーン」

 

 リムグレイブを旅する時、偉大な黄金樹の下に見えていた巨大な塔。

 北西のストームヴィル城から北東へ伸びる、巨大な橋を渡った先にある塔がそれだ。

 

 その塔の名は、神授塔。

 

 

 

 円卓の文献曰く、神授塔とは二本指が"大ルーン"を授ける場所だそうだ。

 

 大ルーンとは砕けたエルデンリングの大きな破片とのことで、そして褪せ人がエルデンリングを修復するのに必要なものだ。

 大抵はデミゴッドが保有していて、だから褪せ人はデミゴッドに挑む運命にある。

 使命を忘れていなければな。

 

 ここでいう使命とは、エルデの王を目指すこと。

 それは壊れたエルデンリングの修復を意味しており、そして祝福が与えられた褪せ人が挑む道でもある。

 

 

 だがしかし、大ルーンをデミゴッドから手に入れたとしても、その力は発揮できない。

 だから神授塔にて、その大ルーンの力を取り戻すことができる。

 上述の"大ルーンを授ける"とはそういう意味だ。

 

 

 

 つまりこの情報は、褪せ人のためのものだな。

 デミゴッド達が塔を利用する場合や、あるいは平時における神授塔の役割については調査中だ。

 

 直接中に入れば、その調査が捗るんだが……。

 崩れた橋を、転移門でうまく通ることができたのは僥倖だったんだが、肝心の塔の扉が固く閉ざされている。

 

 

 

 まぁ今の俺は大ルーンなんて物騒なもんとは縁がないからな。

 大ルーンをゴドリックから奪わない限り、資格がないということなのだろう。

 

 

 

◆四「接ぎ木のゴドリック」

 

 ストームヴィルの、少なくとも今の城主はゴドリックだ。

 彼は城の最奥にて俺を待ち構え、襲い掛かってきた。

 

 彼は接ぎを繰り返したことで、その身に大量の腕を生やす異形と化していた。

 その成果なのか、彼の肉体は見上げるような巨人の如き体躯であり、そして巨大な斧をいくつも自在に振り回す膂力を有していた。

 

 

 その巨躯は、それだけでも脅威だ。

 しかも嵐の業を身に着け、故に斧を振るうごとに嵐を味方につけた。

 挙句の果てに、竜の遺体から首をちぎり、その首を自らに接いでしまったのだ。

 最終的に、嵐と炎を身に纏う怪物となり果てたわけだ。

 腐っても、デミゴッドの名にふさわしい力の持ち主ではあった。

 

 

 

 だが、それでも彼はデミゴッドの中でも弱い方だ。

 少なくとも、人徳という点では間違いなく。

 

 

 また当時の俺は鍛え上げた武具だけでなく、偶然にも時が重なった褪せ人の仲間にも恵まれた。

 

 青い鎧を身に纏い、ロングソードとハルバードを振るう英雄だ。

 特に霊に好かれる人徳の持ち主のようでな、共にゴドリックへ挑む際は以前紹介した"霊喚びの鈴"を使い、三体の狼の霊体を呼び出していた。

 噂では、霊馬なる存在にも恵まれた褪せ人なんだとか。

 

 

 その人徳に、ゴドリックは敗れたんだ。

 

 

 

 俺は、その褪せ人に王の器を感じた。

 

 俺はエルデの王となる使命に興味はない。

 俺の目的は、真実を掴み取ること。

 その過程で間違った情報を取得するかもしれなくても、いずれ真実にたどり着ける手がかりを後世に残すことこそが、俺の使命だ。

 それこそが、俺に遺せる、俺の生きた証だからな。

 

 

 だから。

 きっと彼が、そうなんだと思う。

 順当に、エルデの王と至れる使命の持ち主は、きっと彼だ。

 

 

 

 そう考えて、大ルーンは彼に譲ることにした。

 このタイミングで彼と時が重なること、そして王となる使命を放棄しているにもかかわらず祝福が俺を導いたのは、きっとこの時のためだろうと確信して。

 

 

 

◆五「一区切り」

 

 リムグレイブについては、すべてとまではいかないが、おおよその情報は手帳に記すことができた。

 この手帳も、そろそろ記入できるスペースも少なくなってきた。

 

 だからこの手帳については、リムグレイブの情報をまとめたものとして一度終わらせておこうと思う。

 

 

 

 だが、俺の旅はまだ終わっていない。

 狭間の地は広大で、まだまだ俺の知らない謎や真実にあふれている。

 また、ストームヴィルで大きな縁にも恵まれたばかりで、いずれ王となる彼の記録も試みたいところだ。

 

 

 

 だから、これはあくまで一区切りだ。

 いずれ手帳を新調して、また新しい旅に出ようと思う。

 

 どうかこの旅が続き、そして新たな手帳に情報を記せていることを未来に願う。

 

 

 

 もしこの手帳を読むのが俺ではない誰かだったとして、この手帳が狭間の地の旅や真実の探求に役に立ったなら、それ以上に嬉しいことはない。

 どうかこれからも大切に役立てて欲しい。

 

 そして、この狭間の地に俺がいたんだと、知っていて欲しい。

 はじめにも書いた通り、この手帳こそが俺の生きた証だからな。

 

 

 

 『真実の探求者』トニー

 

 

 




 試作としての本作はここまでです。

 筆者の想定するボリューム感は、元ネタの感覚もあり、だいたいテキスト三十種類程度です。
 (本作の形式では、一話=四種類のテキスト。つまり十話=四十種類+αのテキストとなります)
 その程度の短いお話を書くための試作が本作でした。

 しかしエルデンリングの二次創作としては、まだまだ道半ばであることは重々承知しています。
 そのため、本作についてはこれからも"不定期"で続けていくことを予定しています。
 よろしければこれからもお付き合いいただけると幸いです。

 そして、ここまでお付き合いいただけたことに、今一度御礼申し上げます。
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