名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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十六ページ目「湖の西部にて」

 

 

 

◆一「しろがね人」

 

 狭間の地において、しろがね人はかなり肩身の狭い思いをして生きてきたようだ。

 湖の西側を旅していた時、日の光が差さない毒沼地帯を見つけてな。

 例の「火の癒しよ」を駆使して毒に対処しながらそこを進むと、しろがね人の村があったことに気づけた。

 

 そこに村を築くからには、相応の理由があると推測するのが道理だ。

 考えられる理由としてはもうそういうところに身をひそめるしかない、といった具合だな。

 それでも虐殺の痕跡があり、一人としてしろがね人の生き残りがいないのだから相当だ。

 

 俺としては色々話を聞いてみたいところだったんだが、こうまでされるとどうしようもない。

 

 せめてもの情報として、彼らは「見たこともない聖樹に仕えている」「その証として、象牙を加工した手鎌」があるということは記しておく。

 それから、しろがね人の中には魔術を扱う者がいるという痕跡があったこともな。

 

 

 

 しろがね人がこうまで差別される理由は、いくつか考えられる。

 

 一つは血の色が異なること。

 白い血が流れるというのは、事前知識がないととてもショッキングだ。

 俺も知識を備えて身構えていないと、彼らへの配慮がない発言をしてしまいかねない。

 そのせいか、彼らは足が弱い、もしくは足がないという情報もある。

 者によっては狼などをパートナーにして足にしていたという。

 

 

 一方で、しろがね人は一部の褪せ人からも蛇笏の如く嫌われている。

 考えられるのは「しろがね壺」の存在で、こいつによって聖杯瓶による回復を封じられることに由来する……と俺は考えている。

 褪せ人にとって聖杯瓶は貴重な回復の手段だからな。

 

 また、褪せ人にとってはしろがね人もまた敵だ。

 全員が全員そうであるとまでは言わないが、俺が見聞きした限り褪せ人としろがね人が敵対するケースそのものは存在する。

 一部のしろがね人は弓を扱い、そしてその弓から放たれる矢は絶大な脅威だ……って話も聞く。

 

 

 俺としては、情報源となる者がいなくなるのはごめんだ……という意味で、彼らへの迫害は反対だ。

 だが、敵として立ちふさがるのであれば、己を優先せざるを得ない。

 

 こういうところが、分かり合えない原因なのだろう。

 

 

 

◆二「四鐘楼」

 

 湖の西部にある丘に、四つの大きな建物が並ぶ場所がある。

 「四鐘楼」と呼ばれるこの場所は、しかし封印された転移門があるだけだ。

 

 内訳としては、転移門がある場所が三つ、謎の宝箱がある場所が一つ。

 

 

 俺の調べでは、転移門の封印を解くには専用の鍵が必要となる。

 そのうちの一つがさっき言った宝箱に納められているようなのだったが、俺と時と空間を共有している誰かが持って行ってしまったらしい。

 俺がその鍵を入手できれば、もう少しだけ情報を得られたのだが……。

 

 

 一方で、この四鐘楼をのぼる道はトロルが護っていた。

 このトロルは首がなく、自在に姿を消しては現れる霊体の持ち主だ。

 つまり歩く霊廟を護る首無し騎士によく似た存在だ。

 

 だからこの場所は、歩く霊廟に似た霊安室のような役割を持つのではないかと予想する。

 

 

 

 ちなみに、この首無しトロルは「巨剣陣」という魔術を使う。

 巨大な魔力の剣を呼び出して円陣を展開するもので、魔力の剣は敵に向かって飛ぶ性質を持つ。

 

 付近の封牢でこの魔術についての知識を得ることができたが、その知識に曰くこれはカーリア王家の魔術であるらしい。

 トロルの魔術騎士たちが用いるものとされ、そして彼らは幼きレナラの盟約の友であったという。

 

 

 だから、そんな魔術を使う首無しトロルがいるこの場所は、カーリアにかかわる場所ということなのかもな。

 

 

 

◆三「荷車」

 

 この狭間の地では、何か特別なものを運ぶための荷車がある。

 基本的に大きく仰々しいものなので、王やデミゴッド、あるいは領主への贈り物や儀式的な意味合いが強い品のために使われているのだろう。

 

 ただ、その荷車の運び手として選ばれているのがトロルであるというのは少々意味深だ。

 なにせ、運ぶための具体的な手段として、トロルの体に鎖を突き刺してそのまま歩かせるというものなのだ。

 

 

 兜を身に纏い剣を振るうトロルの魔術騎士とは、まるで雰囲気が異なる。

 おそらくは奴隷に等しい扱いで、荷車を引っ張っていたのだろう。

 狭間の地において、巨人の扱いは良いものではないらしい。

 

 

 

 今回見かけた荷車はレアルカリア兵と大量の兵士を引き連れていて、その先のカーリアの城館の方向へ向かっていた。

 かなり特別なものを運んでいると思って、そのお宝を探ってみたら「カーリアの騎士剣」が出てきた。

 

 これはカーリア王家に仕えた騎士たちの武器であり、それをレアルカリア兵が運んでいるのだからなおさら意味深だ。

 

 

 レアルカリア兵とカーリア王家は敵対しているという情報を手に入れたことから、今回の場合は挑発や宣戦布告の道中という邪推も可能だ。

 尤も、彼らもまた亡者となっていることから、深い意味はないのかもしれないけどな。

 

 

 

◆四「カーリアの城館」

 

 廃墟を通り抜けた先で、理性的な巨人と会うことができた。

 どうにもカーリア王家は、巨人と一定以上の縁があるようだ。

 これ幸いと話を聞いてみたら、道の先に「カーリアの城館」があるというではないか。

 

 個人的にカーリア王家の情報も探りたいと思っていて、だから聞き込みした。

 

 

 

 だが「カーリアの城館」に近づくなと警告を受けてしまった。

 

 なんでもレアルカリア兵が裏切った際、カッコウがカーリアの城館に攻めていったらしい。

 その際の罠が今も残っていて、不用意に近づけばカッコウと屍を並べてしまうことになるそうだ。

 

 

 

 一度はなんとかその罠をかいくぐろうと試してみたが、ダメだった。

 まるで運命が俺を拒むかのように、近づくことができなかった。

 

 だから、結局はここについても情報は多くない。

 前々から魔術やその関連とは微妙に縁がないとは思っていたが、それにしてもここ最近はこんな結果ばかりだぜ……。

 

 

 

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