◆零「前置き」
さて、ようやく魔術学院レアルカリアの情報を仕入れることができた。
以前紹介した放浪騎士の彼が、いくつかの品と共に持ってきてくれた。
今回はそれらの紹介となる。
注意点として、基本的に彼が見聞きしたものを俺が聞きとり、さらに個人的な所感や考察をするものとなっている。
今まで以上に情報の正確性が保証されないので、そこのところを承知のうえで読んでほしい。
彼を信用しないわけではないが、どうしても直接見るのと聞くのとは情報の精度は変わってしまうからな。
なので、もしこの手帳を読む者がいたなら、間違った情報があったとしても彼を責めないでほしい。
俺にとって彼は信頼できる友人であり、貴重な情報を持ってきてくれた恩人なのだ。
情報が間違っていた場合の責任は、聞きだした情報をまとめた俺の方にあることを念頭に置いてくれ。
◆一「カッコウの教会」
一人しか使えない輝石鍵を用いて魔術学院に入った放浪騎士を出迎えたのは、夜色の霧に包まれた教会だった。
黄金に輝くステンドガラスが青の中に浮かんでいるのがとても幻想的だったという。
そこはカッコウの教会というらしく、周囲に墓地があることから学院内の死者を弔うための用途が主だったと思われる。
破砕戦争以後、レアルカリアは門を閉ざしてしまった。
それはつまり、内部のみで当面を生きていくことを意味している筈。
ありていに言えば、魔術学院のみで生活ができるように備えていたということだ。
だから学院内にて信仰を持つ者へのフォローは勿論、死者が発生した場合にも備えてこういう施設が併設されていたに違いない。
同じ理由で、おそらく学院内には食べ物を供給するための農園や牧場があった筈だ。
放浪騎士の彼はそんなものを見ていないと言っていたことから、魔術か何かで隠した場所にそれがあったのかもしれない。
もしくはまともな指導者を失ったことと、内部の者が軒並み正気を失っていたことから、そういう施設もまた失われたかもしれないな。
いずれにしろ、修道院を思わせる話だった。
出入りを想定せず、一定範囲内で生活が完結できる場所……という意味では、似通っているように俺は思う。
いや、むしろ籠城戦を想定した城の方がニュアンスが近いか。
◆二「輝石頭」
放浪騎士の彼が魔術学院から持ち帰ったものの中には、興味深いお宝が混じっていた。
輝石頭だ。
輝石頭とは、狭間の地をうろつく魔術師の一部が被っているものだ。
たいていは人面を模している。
これはレアルカリアにおいて探求を認められた学徒が被るものだそうだ。
だからこれを被る者は、一定以上の才を持つということだろうな。
また、面白いことにこの石頭には種類がある。
彼が持ち帰ったものを並べて紹介する。
カロロスの輝石頭。
これは最も歴史のある教室のもので、魔術師アズールを起源として彗星の魔術を探求するものだそうだ。
「輝石の彗星」や「ほうき星」といった、直射の魔術を取り扱う教室とされる。
オリヴィニスの輝石頭。
魔術師ルーサットを起源とし、流星の魔術を探求する教室のもの。
「輝石の流星」や「流星群」といった、誘導性が高い複数の魔法弾を放つ魔術を扱う。
ラズリの輝石頭。
この教室に学ぶ者はカーリアの魔術を修めることで知られる。
月を星と同等に見る異端とされていたことから、学院内では肩身の狭い教室であることが伺える。
なおこの教室が扱うカーリアの魔術は、剣にちなんだ魔術が多い。
以前紹介した「巨剣陣」がその一つと思われる。
双賢の輝石頭。
これは選良の証であり、系統を選ばず魔術を修めることが許されたという。
つまり学院内で明確に上位に位置するカーストの者達……と思われる。
これらの輝石頭から得られた情報として思い至ったのは、学院内では一定の派閥のようなものがあったことだな。
特にレアルカリアとカーリアが敵対していた時期があるという情報を照らし合わせると、カーリアの魔術を扱うラズリの教室には面白そうな情報がありそうだ。
他方で、基本的に輝石の魔術を扱うということで結晶の意匠が施されているのも特徴だな。
学院内にも結晶はたくさんあったことからこれらも研究対象であり、だから付近の坑道で結晶を掘り出していたと思われる。
また、輝石頭には加護が付与されている。
たいていは生きる力やスタミナと引き換えに知力を高めるような加護が込められている。
例外は先ほど取り上げたラズリの輝石頭で、こちらはカーリアの剣の魔術を扱うためか技量を高める効果も付与されている。
だがそれでも生きる力と引き換えになる、という意味では他の輝石頭と大きくかけ離れたものというわけでもない。
魔術師と言えば、魔術を扱うことと引き換えにフィジカルは弱いイメージがあるが、その由来はこの輝石頭だったりするかもな。
◆三「人形兵」
魔術学院内には、人形兵と呼ばれるものたちがいた。
これは魔術師の従者として作られたものらしく、基本的に槍を二本構えていたり弓を持っていたりするタイプがいるようだ。
その性質上、レアルカリアの外でも運用されているようで、俺も頻繁に奴らに襲われたものだ。
だが、放浪騎士の彼は奴らを味方につけたらしい。
彼は霊体に好かれる人徳の持ち主で、人形兵の遺灰と出会ったことで彼らを仲間にしたようだ。
そうして実際に共闘してみると、どうやらこの人形兵は壊れかけであることがわかった。
彼の指示なしに勝手に戦いはじめるようだからな。
また空中から火炎壺を投げつけたり鎌を振るったりする"鳥人形兵"のモデルもあり、こちらについては素直に言うことを聞いてくれるそうだ。
だがこちらも少し傷つくだけで故障するため、本質的な脆さは同じだろう。
この性質が実際の人形兵にも適応されるというなら、レアルカリアに人形兵を手入れする手段は失われたということだろう。
なおこの人形兵の一部は、複数の腕を持つ。
まるで接ぎを繰り返したゴドリックや、複数の腕で杖を抱える指読みの老婆を思い出させる特徴だ。
狭間の地には、腕を複数持つような何かがいるということだろう。
ただ、それぞれの出自に統一性が見られないことから、複数腕の由来については本当に古いものなのだろう。