放浪騎士の彼の過去を描いた前日譚。殆ど、エルデンリングの世界観をお借りしただけのほぼオリジナルストーリーです。
一話「竜炎の勇者」
これは情報を記す手記ではない。
これは精度の怪しい文献を調べて所感を出す考察ではない。
これは、物語である。
◆
この俺、真実の探求者"トニー"には友がいる。
今まで『放浪騎士の彼』と呼んでいる、ゴドリックやスマラグを共に打ち倒した戦士だ。
魔術学院レアルカリアの情報を持って帰ってきたことも記憶に新しい。
彼は霊体に好かれる人徳の持ち主で、すでに大ルーンを二つ得て王の資格を持っている。
まさしく王の器と呼ぶべき英雄だ。
だがそんな彼にも、過去と言うものがある。
友としての縁があってか、彼から語ってくれてな。
許可をもらって、手帳に記すことにした。
放浪騎士である彼が、「騎士」になる前の立身出世譚。
いずれ王となる者の、貴重な物語だ。
今回は、そんな彼の過去について語っていく。
◆
彼はもともと農民であった。
どこにでもいる、ただの青年だ。
だがある時、投獄された。
彼からの話を聞いてみる限り、おそらくは冤罪だろう。
だが当時の為政者にとってそんなことは関係なかったようで、容赦なく彼は牢に繋がれる毎日を過ごすこととなった。
ただでさえ不潔で窮屈な牢から出られないのに、着の身着のまま後ろ手に枷を嵌められているんだ。
食事は犬食いで、排泄もままならない。
それが何日も何日も続くのは、何にも勝る拷問であると彼は言っていたよ。
不潔なネズミがはいずり回る、湿った地下牢。
まともな灯りはなく、誰かの汚物の悪臭が充満する暗闇。
亡者のようになり果てた囚人の一人が、鉄格子を叩きながら呻き続ける悪夢。
そんな地獄に、世界の終わりまで入る。
親から貰った名前も剥奪され、ただの名無しとして。
それが彼に下された刑であった。
今日に至るまで彼の名前を手帳に記せないのは、その刑に由来する。
故に今回も基本的に"彼"と呼称する。
でも、運命の女神は彼を見放していなかった。
「戦に出ろ。武功次第では、釈放も夢ではない」
◆
ロンド。
それが街の名前だ。
彼が閉じ込められた地下牢はその街のもので、しかしその街は攻められていた。
戦争だ。
「ショートソードだ。これで奴らと戦え」
戦争はロンドの方が不利であった。
だから地下牢に収容されていた囚人も戦争に駆り出されることとなった。
囚人の彼が牢から出されたのは、そういう事情故だ。
「私の名はオスカー。この街の下級騎士だ。これから君達囚人部隊を率いる者となる」
彼を牢から出したのは下級騎士オスカー。
そのオスカーは、彼を牢獄の外の広場へ連れ出した。
酷い雨が降り注ぐ広場に、彼を含めた囚人が十数名集められていたのだ。
それほどまでに、ロンドの街は追い詰められていた。
「ガッハハハハハハハハーーーーー!!!」
「な、もうここまで……?!」
そして敵の手は、その牢獄の広場にまで伸びてきていた。
「我、竜三が一人! 竜炎の勇者"エド・ルー"!!!」
その広場に入ってきた敵の名は、エド。
斧を振るう、巨漢の勇者だ。
かのホーラ・ルーに連なる者を自称していたもので、彼のように余計なものを身に纏っていなかったという。
「ぐあっ?!」
「ガハハハ! 鉄を叩くほどの手応えもなし!!!」
だがそれに値するほどの筋力の持ち主で、その剛腕から振るわれる斧は豪雨を切り裂き囚人の一人を真っ二つにするほどの威力が宿っていた。
「エド様に続けー!」
「殺せー!」
「うああっ?!」
「死にたくなっ……?!」
そして彼と共に雑兵も広場に雪崩れ込んできて、次々と囚人たちを殺していった。
せっかく集めた部隊は、もう半壊に追い込まれていた。
「っ?!」
「な、こいつ……?!」
ただ彼だけが、支給されたショートソードを使って雑兵を次々と斬り殺して抵抗できていた。
敵方の雑兵も大したものではなかったらしく、剣の扱いに慣れていない当時の彼でも簡単に御せるそうだった。
俺に言わせれば、もうその時点で彼には"素質"があったんだろうな。
「ぐっ……」
「ガハハ! 死ね、下級騎士……っ?!」
そうして雑兵の数を減らした彼は、そのまま味方のオスカーを助けるため、エドに切りかかった。
「邪魔をするなこの屑が!!!」
だがエドは、類稀な強者であった。
ショートソードで切りかかった彼を、斧の薙ぎ払いで一蹴するほどの力を有していた。
「燃え尽きろ!!! 我が竜炎は豪雨すら焼く!!!」
しかもあろうことか、エドは竜餐の祈祷を使う戦士であった。
竜餐とは、竜の心臓を捧げ喰らうことで竜の力を得る儀式。
おそらく狭間の地とは別に存在したであろう祭壇で心臓を喰らい、竜の力を我が物としたのだろう。
野蛮な戦士に相応しい力であり、だからこそ美しく強大だ。
特にエドが使用した祈祷は、二つ名と彼の話から察するに狭間の地でも「竜炎」と呼ばれるもの。
己の姿を竜となし、炎のブレスを吐くもので、竜を狩りその心臓を捧げ喰らう者達の代表的な技だ。
「ば、化け物だー!!」
「燃える、燃えちまう……!」
それは、とても恐ろしい光景であったはずだ。
霧のようにすら見える夜の雨の中、炎がどこまでも舞い上がる。
それは純粋で、圧倒的な力なのだから。
「ガッハハハハハハ……ハ?!」
だが彼は竜炎に怯えることなく、冷静にローリングするようにして横へ回り込み、エドにショートソードを叩きつけた。
それで、ようやく強大なエドは隙を晒した。
「食らえ……!」
「なっ……?!」
体勢を崩したエドの背中に、ロングソードが突き刺さる。
それは、先程エドに追いつめられていたオスカーの反撃だ。
彼がエドの体勢を崩したことで、オスカーは反撃を叩きこむことができたというわけだ。
「わ、我がこんな屑どもに……っ?!」
「な……エド様が、死んだだと?!」
「に、逃げろ! エド様なしじゃ勝てねぇ……!」
こうして"竜炎の勇者"エド・ルーはあっけなく倒れ伏すこととなった。
彼に付き従っていた雑兵も、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
そうだ。
エド・ルーは倒れ、彼は勝利したのだ。
◆
これは情報を記す手記ではない。
これは精度の怪しい文献を調べて所感を出す考察ではない。
これは、物語である。
いずれ王となる運命を持つ、放浪騎士の彼の物語。
彼はもともと農民であり、囚人であり、騎士などではなかった。
だからこれは、彼が騎士に至る立身出世譚だ。
その過程として、「竜三戦争」とよばれた戦いを生き抜いた記録である。
"竜三"とは、当時の世にて竜の力を振るう三人の戦士を指す言葉だ。
一人は、鍛冶屋の家に生まれながら、蛮族の如き力を振るう「竜炎の勇者」エド・ルー。
一人は、剣を振るう魔術師の生まれでありながら、厳刑を宣告された「竜魔の囚人」シモン。
一人は、竜信仰の雷を使いこなす、竜三の指導者「竜雷の騎士」ルーリンツ。
彼らが戦力の主体として「ロンド」の街を攻め、そしてその戦争で果てたが故の俗称が「竜三戦争」。
繰り返す。
これは王の器に至る放浪騎士の、騎士になる前の前日譚。
ただの農民が、ただの囚人が、誇り高き騎士に至るまでの立身出世譚。
"竜三"と呼ばれる三人の戦士に挑み、「竜三戦争」を生き延びた竜殺しの英雄譚。
以上は、その第一章である。
・彼
番外編の主人公。本編では放浪騎士として描かれるが、今回はその騎士になる前の話。
囚人として囚われていたが、釈放を目指して竜三と対決することとなる。
色々あって名前がないので"彼"と呼ばれる。
・トニー
今回の語り部。この番外編は、上述の"彼"が語った思い出話を、トニーが文章としてまとめた……という体裁のもの。
・下級騎士オスカー
"彼"を牢から出した騎士。その後は"彼"の味方側として竜三に挑む。
名前の由来はソウルシリーズから。
・竜炎の勇者"エド・ルー"
竜三の一人にして、蛮族の如き力を振るう勇者。
斧を持ち、竜餐の祈禱を使いこなす。
原作でたとえるならゴドリック枠。だから斧を使い、竜の炎を使う。
名前の由来はデモンズソウルから。
・ロンドの街
"彼"を閉じ込める地下牢を持つ都市。もしくは城。
今回の"彼"はロンドの街側として戦争に参戦し、街に侵入してきた竜三と対決する。
ゲーム的にたとえるなら、三人のボスと戦うタイプのレガシーダンジョン。