竜餐の祈祷「輝石ブレス」
己が姿を竜となし、魔力のブレスを吐く。
竜餐を続け、只人を超えた者だけが、竜心"ドラゴン・ハーティド"と呼ばれる。
それは、とある地においては『竜魔の囚人"シモン"』が振るう力として有名なもの。
その力は偉大で、一方で彼を破滅への道に追いやった恐ろしきもの。
竜餐。
それを為したものは、いつか人ではなくなる。
シモンもまた、例外ではなかったのだ。
◆
"彼"は、竜三の一人を打ち倒した。
それは竜炎の勇者と呼ばれた"エド・ルー"であり、この後に語る『竜魔の囚人"シモン"』に負けず劣らずの戦士であった。
鍛冶屋の家に生まれながら、しかし蛮族の一員として力を振るうことを選んだ勇者。
古い神話に登場する鍛冶職人に由来する名を持ちながら、しかしあのホーラ・ルーと同じ"ルー"の名を自称するのはそこに理由がある。
だが、エドは斃れた。
それはきっと、竜餐を為してその力に溺れたが故だろう。
エドはもともと荒々しくも賢しい気質の持ち主であったが、一方で竜餐を経てからは竜の力を過信する悪癖の持ち主でもあった。
エドもまた、竜餐によって破滅への道に追いやられたのだ。
「もう、誰もいないか」
だが、エドが齎した被害は決して小さくなかった。
エドは斃されたが、しかしエドはその前にロンドの街の囚人部隊を壊滅に追いやった。
数少ない味方の生き残りは殆どその場から逃げ出して、結局は物語の主役である"放浪騎士の彼"を除くと「下級騎士」オスカーしか味方がいない状態だった。
「君は逃げないのか?」
繰り返すが、下級騎士オスカーが率いる囚人部隊の殆どは逃げ出している。
残っているのは、彼らと同じ囚人である"彼"だけ。
彼だけが、オスカーと共にその場に残っていた。
彼は言う。
エドが壊した壁の向こうへ逃げても、別の兵に殺されるだけだ……と。
事実、逃げ出した味方の囚人の殆どはその経緯で殺されている。
「そうか。……感謝する。君のおかげで、あのエド・ルーを倒せたのだから」
◆
二人だけの部隊となったオスカーと彼は、そのまま別動隊の援軍として応援に向かった。
そもそも彼を含めた囚人部隊とは、もともと援軍のために集められたものだったのだ。
だがその部隊はエドによってほぼ壊滅した。
二人だけで援軍に向かっても、あまり意味はないと考えられた。
だが「竜炎の勇者"エド・ルー"を討ち取った」という事実を伝えれば、あるいは味方の士気を高められるかもしれない。
それを期待して、援軍に向かったのである。
「馬鹿な……?!」
だが、その別動隊もまた壊滅に追いやられていた。
辺りには別動隊が使っていたであろう短剣や槍がいくつも転がり落ちて。
ただただ暗い雨が、彼らの躯を冷たくしていた。
「っ……!」
「ソラール?! 我が戦友よ、いったい何があったというのだ?!」
「すまな、い……竜魔の囚人"シモン"が、私の部隊を……」
「竜魔の囚人"シモン"……エドと同じ、竜三の一人か!」
別動隊を滅ぼしたのが、先程触れた『竜魔の囚人"シモン"』である。
「お宝……お宝が、また二つ……」
「気を、つけろ……奴は、シモンは、正気を失っている……!」
「……お宝ぁぁあぁぁああああああああああ!!! お宝をよこせぇぇぇえええええええええ!!!」
竜魔の囚人"シモン"。
剣に縁がある、おそらくはカーリアに連なる魔術師の家の生まれ。
"シモン"とは名状しがたき物語に登場する人物に由来する名で、その人物は「秘密を暴く者」とされた。
その人物と同じ名をつけられたシモンは、即ち「秘密を暴く」ことを期待されて育ち、そしてその期待に応えて探求を繰り返した。
その秘密を暴く探求の過程で得たのが、おそらくは輝石の魔術に縁がある"竜の心臓"。
その竜の秘密を暴くため、シモンは竜餐に至る。
その結果、シモンは大きな力を得て、一時は多くの怪物を退治した英雄ともされた。
だが竜餐とは破滅への道であり、それを為したものはいつか人ではなくなる。
エドがそうであったように、竜餐を為したシモンもまた破滅への道を歩み始めた。
「お宝ぁあぁあぁあああ!!!」
竜餐以後のシモンは、宝の蒐集欲が強くなる。
一部の物語において竜とは宝に執着するとされるが、おそらくはその属性をシモンも得てしまったのだろう。
各地の遺跡を漁っては宝を強奪し、道行く者の宝を奪い、ついには当時の世の権力者の宝をも狙った。
当然ながらシモンは窃盗犯として捕らえられ、貴族でもあった魔術師の父から見捨てられ、厳刑を宣告されるに至る。
それが、シモンが"囚人"と呼ばれる理由だ。
だが、彼は牢から出された。
恐らくは、剣の魔術と竜餐によって得た強大な力を理由に。
各地の戦場で活躍する、竜三の一人の誕生である。
……"放浪騎士の彼"と、敵対する背景である。
「お宝ぁぁあぁあああああ!!! お前がお宝かぁあぁあ??!!!」
竜魔の囚人シモンは、カーリアの魔術を使用する剣の魔術師だ。
故にその杖は、青い魔術の剣を形成する。
カーリアの大剣。
カーリア王家の魔術の一つ。
魔術師に騎士の力を与える魔術。
それは月に忠誠を誓う証。
魔術としては、魔力の大剣を形作り、斬り払うものだ。
「お宝! お宝! お宝ぁあぁあああ!」
また「カーリアの大剣」は、連続で使用できる。
当時の"彼"にとって、その青い暴力は驚異的だったはずだ。
一度でも当たれば、そのまま青く真っ二つ。
そんな一撃が何度も何度も迫ってくるのだ。
だが"彼"もまた優れた戦士の末裔。
その青い暴虐をすべて凌ぎ切り、シモンにショートソードを叩きつける。
「それはお宝かぁぁあ? よこせぇぇぇえええ!!!」
だが、繰り返しになるがその時の彼は剣の扱いに慣れていない。
数少ない隙を見つけ剣を叩きつけるには至るが、しかし相手を仕留めきるにはまだ剣を振るう技量が足りていなかった。
故にシモンは「カーリアの速剣」で素早く反撃し、彼は後退を余儀なくされる。
「逃すかよ、お宝……!」
後退した彼に対し、シモンは追撃として第三の魔術を発現する。
魔術の輝剣。
頭上に魔方陣を描き、時間差で敵に向かい飛ぶ輝剣を生み出す。
即ち、カーリアの魔術による遠距離攻撃だ。
その輝剣の脅威により、彼は回避を強いられて反撃に移れない。
「ぁぁぁぁああああああああああぁああ!!!」
そうして生まれた時間で、シモンはいよいよ大技を放つ。
それは竜餐の祈祷。
シモンが竜魔と呼ばれる所以である力。
"輝石ブレス"だ。
己が姿を竜となし、魔力のブレスを吐く。
それはロンドの街を襲う豪雨の中でも十全の威力を誇り、故に彼を襲う。
あまりの恐ろしさに、彼はついにショートソードを手放してしまったという。
「そこまでだ。竜魔の囚人よ」
「っ。が、ぁ……?!」
だがその暴虐は長くなかった。
シモンがいつまでも彼に執着していたおかげで、ようやく下級騎士オスカーが攻撃する隙が生じた。
オスカーは、ロングソードによる構えを用いてシモンの体勢を崩したのだ。
そのまますぐ、オスカーはシモンに致命の一撃をくわえたという。
「まだ、だ……お宝が、そこにあるかぎり……!」
「なっ……?!」
だがシモンは並外れた生命力の持ち主でもあった。
致命の一撃を受けて尚もすぐ立ち上がり「カーリアの速剣」でオスカーへ反撃。
その一撃で、オスカーは青い傷を受けて倒れ伏す。
「ぎ、ぃ……?! おた、か……」
だが今度こそ、シモンは致命傷を受けた。
彼はショートソードを手放し、けれども地面に転がっていた短刀を拾い上げて、より鋭利で高威力な致命の一撃をシモンの背面に叩きつけた。
その威力を以て、シモンはようやっと倒れた。
◆
これで、竜魔の囚人"シモン"の物語は終わりだ。
竜炎の勇者"エド・ルー"に負けず劣らずの脅威で、魔術師生まれでありながら恐ろしい戦士であった。
「カーリアの大剣」を使いこなしていたことから、輝石頭を被るに値する優れた知力の持ち主でもあったようだな。
それでも正気を失っていた辺り、竜餐の業はやはり恐ろしい。
竜餐の祈祷を適切に使いこなすには、強靭な意思、あるいは人間性が必要であることを示すエピソードともいえる。
だが、これは同時に"放浪騎士の彼"の立身出世譚だ。
"彼"は、竜の力に飲まれ、だからこそ恐ろしい力を持っていたシモンを打ち破ったのだ。
彼の能力は、そんなシモンを超えているという証を打ち立てたわけだ。
でも、まだ彼の立身出世譚は終わらない。
あと一人だけ、当時のロンドの街を襲った戦力"竜三"の戦士は残っている。
竜雷の騎士"ルーリンツ"。
彼との対決を経て、放浪騎士の彼は『竜三戦争の竜殺し』となる。
次回は、そのルーリンツとの対決について語ろう。
・彼
番外編の主人公。囚人身分からの脱出を目指し、竜三と戦う。
竜炎の勇者"エド・ルー"に続き、竜魔の囚人"シモン"を倒すに至る。
番外編の"彼"は、剣の扱いに慣れていないという欠点を持つ。
・下級騎士オスカー
"彼"の味方として戦うロンドの街の騎士。立場的には"彼"の上司的な枠。
決して弱いわけではないが、剣の扱いに慣れてはいないものの運命力に優れる"彼"や、並外れた功績を持つシモンと比べると等身大的な立ち位置にいる。
シモンの一撃を食らったことで重傷を負う。
・竜魔の囚人"シモン"
竜三の一人にして、今回の悪役。
剣の扱いに精通した魔術師であり、多くの冒険にて成功を繰り返した探求の英雄でもある。
だが竜餐をきっかけに狂気に陥り、そのまま転落して囚人身分に至る。
ここから再起し、狂気を克服して家に戻ることができれば"貴種流離譚"の主役になれたかもしれないが、現実は非情だった。
ポジション的にはレナラ枠。名前の由来はブラッドボーン。