戦技「構え」。
剣を水平に構え、攻撃に繋げる戦技。
構えからは、ガードを崩す切り上げ、もしくは走り込む突きを繰り出せる。
狭間の地にいる、とある褪せ人に曰く。
戦技とは、戦士のもっとも雄弁な英雄譚であるという。
ならばこれは、「構え」の戦技に込められた物語でもある。
◆
竜魔の囚人"シモン"は斃れた。
これで竜三のうち、二人を無力化できたことになる。
「っ……」
だが代償は大きかった。
シモンからの攻撃を受けたオスカーは動けない。
オスカーの戦友たる別動隊も全滅し、生きている者はほとんどいない。
雑兵の部隊こそまだ他に残っているが、現状では使い物にならない。
ロンド側の戦士は、もういない。
だが戦いは終わっていない。
最後の竜三である竜雷の騎士"ルーリンツ"がまだ健在だからだ。
「だから……街の未来を、君に託す」
ルーリンツに戦いを挑めるのはただ一人。
"彼"だけだ。
それをわかっていたのだろう。
下級騎士オスカーは、自分の武器「ロングソード」を"彼"に託した。
そのロングソードには、狭間の地に由来する戦技「構え」が宿っている特別なもの。
オスカーが曲がりなりにもいっぱしの戦士のように振舞えていた強さの秘密である。
"彼"はお世辞にも剣の扱いに慣れているとは言えない。
だが、その「構え」の戦灰があれば、"彼"の背中を押して潜在能力を引き出すことができる。
「私から見た君は、剣士としては不慣れでも、戦士としては見どころがある。ならきっと、"これ"は正しく君の力になる筈だ……」
"彼"はここで認められたんだ。
自身の力を、他者からな。
牢獄の囚人であるところからはじまり、しかし己の力を示し続け、ついにここに至った。
その期待により応えるべく、ロングソードを受け取ったんだ。
◆
彼は戦場に出る。
雑兵はいたが、物陰を利用して次々と不意打ちして数を減らし、ついには竜雷の騎士がいる陣にたどり着いた。
「きた……!」
「あいつが、エド様とシモン様を……!」
「それに、俺の仲間も紙か何かみたいに次々と殺しやがった……化け物だ……!」
雑兵たちは他の竜三を倒したその功績と、何人もの雑兵を殺した実績により怯えている。
それだけの力を、"彼"は示したのだ。
「よい。下がれ」
「ルーリンツ様……!」
ただ一人。
黄金の鎧と盾を持つ騎士だけが"彼"と相対する。
彼こそが竜雷の騎士"ルーリンツ"。
竜三の最後の一人にして、その指導者。
竜三戦争における、敵方の事実上の総大将であった。
「よくぞ、ここまで戦った。エドもシモンも、並々ならぬ英雄。その二人を打ち倒した貴公の名を聞きたい」
「……」
「名乗らぬ、か。いや、名乗れぬのか。……だが、貴公もまた優れた戦士には違いない」
ルーリンツは、槍を構えた。
それが、竜雷の騎士としての武器なのだ。
「我が名は竜雷の騎士"ルーリンツ"。エドとシモンを打ち倒した貴公に、決闘を申し込む!」
その槍を掲げ、"彼"に決闘を挑む。
それは、エドとシモンを倒した"彼"を否定することで、味方の士気を高める側面があるのだろう。
だが同時に、ルーリンツは"彼"を決闘に値するだけの強敵と認めたという面もある。
そうだ。
下級騎士オスカーがそうであったように、敵方もまた"彼"を認め始めていたのさ。
◆
竜雷の騎士"ルーリンツ"。
彼から聞いた話を整理してみると、おそらくルーリンツはローデイル騎士に連なる騎士の家の生まれだ。
つまり世襲騎士だな。
"彼"の故郷において、騎士とは主に忠誠を誓い、領地を頂きその収入で戦に出る者達とされる。
その性質上、騎士の家に生まれた子供が自動的に騎士になるわけではないが、そのための教育や道具が他者より恵まれているという意味では世襲騎士ともいえるケースは少なくない。
ローデイル騎士の特徴は、竜信仰だ。
ゴッドウィンに由来する、竜を友とする雷の力だ。
その流れを汲むルーリンツもまた雷の祈祷の使い手でもあり、だからこそ竜餐をなしていない者でありながら竜三の一人に数えられる。
わかるか。
ルーリンツは、エドやシモンと異なり竜の力に溺れてなどいない。
むしろその竜の力を制御する側にいる、理性的な英雄だ。
「黄金樹に誓って!!!」
つまりはまぁ、祈祷を捧げるフリをして戦技「落雷」を繰り出すようなしたたかさはあったわけだ。
それぐらいのフェイント程度は使いこなしてこその、戦士だ。
一対一の決闘と言えど……いや、決闘に値する強者と認めたからこその戦法だった。
「な……ルーリンツ様の落雷を避けただと?!」
だが、彼はその一撃を見抜いて避けた。
槍を掲げる動きとは無関係の、頭上から降り注ぐ雷を横に避けて見せた。
カン、と彼は言っていたが、おそろしいほどに正確な直感であると言わざるを得ない。
そしてそのまま、当時の彼はロングソードを「構え」て、走り込む突きを仕掛けた。
「……我が大盾の護り、舐めてくれるな!」
だがその渾身の突きは防がれた。
ルーリンツが持つ大盾は、岩の如き頑丈さを以て彼の突きの前に立ちはだかった。
すぐさま彼はその場から後退した。
ルーリンツが振るう、雷の力を宿る槍の薙ぎ払いを避けるためだ。
そうして距離をとり、再びロングソードを水平に「構え」て相手の隙を伺う。
「…………」
ルーリンツは盾を構えたまま沈黙。
彼が神経を研ぎ澄ませてなおも、その綻びが見えることはない。
ルーリンツはローデイル騎士の流れを汲むだけあって、守りの力は非常に優れていた。
故に、彼に求められたのは。
相手の隙に強打を叩きこむ正確性ではなく、相手の守りを崩す力であった。
「……なっ?!」
果たしてその力は、彼にはあった。
水平に「構え」るロングソードから繰り出した、切り上げ。
水平の姿勢ゆえに突きを想起させ、けれどもそれとは異なる股下から繰り出す攻撃は、奇襲としては高性能だ。
だからこそ「構え」からの切り上げは、相手のガードを崩す選択肢としてはとても強力で、ルーリンツの守りを崩すのに十分だった。
「ぐっ……!」
そして彼は、ルーリンツに致命の一撃を食らわせ、地に沈みこませる。
「まだだ……!」
けれどもルーリンツもまた、人並み外れた生命力の持ち主だ。
故にすぐ立ち上がろうとする。
「……っ?!」
だがそれをわかっていたのだろう。
彼は、すぐロングソードを「構え」て、ルーリンツが起き上がると同時に頭部へロングソードの切っ先を突きだした。
ルーリンツはその一撃を食らい、脳天を貫かれた。
「馬鹿な……」
「ルーリンツ様まで……?」
「お、おい逃げるぞ。こんな化け物、俺はごめんだ……!」
「ま、まってくれぇぇ!」
ルーリンツは斃れた。
彼が勝った。
たった一人で最後の竜三を倒し、ロンドを攻める敵戦力の主力をすべて削り切ったのだ。
その威光に雑兵は反撃する心を持たない。
すぐさま、陣から逃げ出してしまった。
そうだ。
彼は戦争を生き延びたのだ。
◆
その後、敵方の雑兵は恐怖のあまり敗走し、一方で味方の雑兵は敵の主力足る竜三が打ち取られたことで勢いを得て、戦争に打ち勝った。
即ち彼は街を救った英雄となり、その武功を以て釈放。
そして騎士の称号を得るに至る。
「構え」の力を込められたロングソードも借りものではなく正式なものを獲得し、騎士に相応しいハルバードも盾も鎧も与えられた。
それでも、一番頼りになるのはやはり「構え」の力を宿すロングソードだそうだ。
その力を以て、彼は騎士として多くの功績を残し、当時の世において名を馳せることとなる。
『竜三戦争の竜殺し』としてな。
以上が放浪騎士の彼が生き延びた「竜三戦争」のあらましだ。
王の器たる彼は、真実狭間の地を訪れる以前から器が違ったのだ。
それを示すエピソードとして、この物語を後世に残そうと考えている。
どうせなら吟遊詩人らしく、歌に仕上げたいところだな。
まぁそれは、狭間の地の真実の探求を終えた後のお楽しみとさせてもらおう。
『真実の探求者』トニー。
これにて番外編はおしまいです。
本作本編は「日記形式」を対象とした試作に対し、番外編は「立身出世」を対象とした試作でした。
今後の糧となることが主題ですが、少しでも皆様の楽しみになったのなら幸いです。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
次回は未定ですが、またトニーがどっかしらを旅してその際の所感とかを書くいつものやつの予定です。