名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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二十六ページ目「赤獅子城にて」

 

 

 

◆一「不落の大橋」

 

 

 「キレムの廃墟」と「サリアの街」を結ぶ、エオニアの沼を避けるような街道。

 その南端にある分かれ道を、さらに南下していけば赤獅子城への道に続く。

 

 赤獅子城へ続く道は、赤獅子の軍団と腐敗に侵された怪物が殺し合う凄惨な戦場となっていた。

 ラダーン軍の兵が燃える投擲物を駆使し、あるいはその剣術で怪物達に抗い、一方でその怪物達は兵たちをまとめて薙ぎ払う有り様だった。

 

 

 それでも、ラダーン軍はその南にある大橋を護っていた。

 不落の大橋と呼ばれるこの橋は、赤獅子城へ続く唯一の道だ。

 例外は獣どもには使えないだろう転送門のみ。

 

 兵たちと怪物の戦いは五分のように見えるが、しかし不落の大橋では投石器といった備えがあり、故に怪物を寄せ付けない。

 赤獅子に近づく者は、しかし大橋の向こうに佇む赤い城を見上げることしかできないのだ。

 

 橋の下は海が広がるし、そもそも赤獅子城自体が海に囲まれた二つの孤島の上に建つ城である。

 故にその護りが堅いのは当然だろう。

 

 

 

 それにしても。

 不落の大橋手前から見上げる赤獅子城は、実に荘厳な趣きだ。

 石でできた城壁が左右に広がり、北側に建つ教会が重々しくもどこか神々しい。

 

 赤獅子の本拠地に相応しい場所だぜ。

 

 

 

 ※追記

 

 不落の大橋から、戦場を抜けた西。

 地図上では大竜餐教会の下に「ケイリッドの地下墓」がある。

 

 おそらくかつては赤獅子やその関係者の死者を弔うための場所だったのだろうが、現在は腐敗の影響で腐敗沼に沈む危険地帯となっている。

 だが、それだけに己を鍛える修行場として相応しい。

 

 

 赤獅子城では戦祭りが開催される。

 そうでなくとも、狭間の地の旅は危険なものだ。

 己を鍛えるという意味でも、一度寄ってみる価値はあるかもしれないな。

 

 

 

◆二「赤獅子城」

 

 赤獅子城内部は、戦祭りのため兵は引きはらっていた。

 だが俺のような褪せ人に荒らされることを警戒してか、各所の扉は固く閉じられていた。

 もしかしたらそれぞれの建物や城壁内に引きこもって、祭りの準備をしていたりするのかもな。

 

 一方で、老獅子と呼ばれる怪物達は正門近くの中庭で放し飼いにされていた。

 彼らは前足に巨大なブレードを備えており、そして風のような俊敏性を持つ。

 実際に戦えば、かなりの強敵となるだろう。

 

 

 これはゲール砦にもいたし、先程の不落の大橋付近の戦場にも一体いた。

 彼らは、赤獅子の軍団の友として戦っていたのだろうな。

 

 あるいは、彼らこそが獅子の名の由来かもしれない。

 

 

 

 また、老獅子のいる中庭から階段を上っていこうとするとバリゲードが待ち構えている。

 これらは、今は戦祭りの会場となっている北側の広場と教会を護る構造となっている。

 だから先程見上げた北の教会が、所謂天守となるのだろうな。

 

 

 

◆三「戦祭り」

 

 いよいよ戦祭りについて記す時が来た。

 

 ケイリッドの南端に建つ赤獅子城。

 その内部にある、数多の武器や盾が吊るされた武具の広場が、褪せ人の集う歓談の会場だ。

 

 

 俺は以前ここを訪れたが、その時はまだ役者がそろっていなかった。

 だがついに揃った。

 

 放浪騎士の彼。

 すでに大ルーンを二つ集めた王の器が、赤獅子城に現れたのだ。

 

 

 

 そして城主により、宣言はなされた。

 

 星辰は満ちた。

 破砕戦争最大のデミゴッド、将軍ラダーンは戦士達を待っている。

 

 

 それはつまり、ラダーンをおくる戦祭りのはじまりだった。

 

 

 

 戦士達は湧いた。

 

 

 豪胆ライオネル。

 大角のトラゴス。

 葦の翁。

 指巫女サロリナ。

 戦士の壺、アレキサンダー。

 半狼のブライヴ。

 この俺、真実の探求者トニー。

 

 そして、放浪騎士の彼。

 

 

 俺を含めた戦士たちが、ラダーンに挑む。

 

 

 

 マレニアの朱い腐敗に蝕まれ、正気を失った彼を。

 戦士として誉れある引導を渡す、葬送の儀。

 

 それが、戦祭りであった。

 

 

 

◆四「将軍ラダーン」

 

 広場奥の教会。

 そこにある昇降機でおりた先の海岸。

 

 その先に広がる「慟哭砂丘」にて彷徨う、星砕きのラダーン。

 

 

 

 彼は腐敗に蝕まれてなお、優れた戦士であった。

 

 何せ遠く離れた場所にいる褪せ人を、その巨大な弓で正確に撃ち抜いたのだ。

 戦士としてのラダーンは、まだ生きている。

 

 

 

 ラダーンとの戦いは熾烈を極めた。

 巨大な重力の弓矢で何人も撃ち抜かれ、さらには空から大量の矢の雨を降らせるのだ。

 近づくだけで何人もの褪せ人が脱落していった。

 

 だが、それでもまだ序の口。

 

 

 

 弓矢を放つラダーンのもとへ近づくと、ラダーンはついに二振りの大剣を引き抜いた。

 そしてその巨大な剣で、近づいた褪せ人を次々と叩き潰していったのだ。

 

 

 実際にラダーンと相対して気づいたこととして、ラダーンには『足がない』ことだな。

 これはしろがね人や、レナラの不完全な産まれ直しに縋る学徒たちと同じ特徴だ。

 ラダーンはレナラの子供であることから、レナラの家系としろがね人には、何らかの関係があるかもな。

 

 ラダーンがしろがね人のように最初から足がなかったかどうかはわからない。

 もしかしたら破砕戦争か朱い腐敗の影響で足を失い、結果的にしろがね人を想起させる姿になっただけかもしれない。

 

 

 

 だがそんなラダーンの足代わりとして、痩せ馬がラダーンを乗せて駆けていた。

 本来ならラダーンの巨体を支えられる道理はないが、だからこそラダーンは重力魔術を学んだと噂される。

 

 噂の信憑性はともかく、ラダーンの操る重力魔術の力は確かだ。

 痩せ馬を助ける効能は勿論、己の大剣に岩石を纏わせては強化し、岩塊を浮かせては放つ魔術をも駆使した。

 そして大跳躍をしてから、己自身を隕石とする大技をも隠し持っていたのだ。

 

 

 

 対する戦士達も「怨霊呼び」や「死屍累々」といった大技や、「グレートソード」や「巨人砕き」といった業物を用いた戦闘をそれぞれ展開していた。

 俺も「雷の槍」や「黒炎の刃」を使ってその中に参加した。

 

 だがそれでラダーンの武勇に敵う筈もなく、最後はもう放浪騎士の彼しか残っていなかった。

 残りの戦士達は皆その場に倒れ伏して、かろうじて俺と赤獅子城の城主だけがそれぞれ祈祷と魔術を投げ放つことができた。

 はっきりいって俺が投げた「黒炎」が役に立ったかは自信はないが、しかし城主の放つ「魔術の輝剣」のおかげでなんとかラダーンの気を散らすことができたようだ。

 

 その隙に、放浪騎士の彼がロングソードの「構え」から繰り出す突きをラダーンに叩き込んで、戦いと祭りは終わった。

 放浪騎士の彼がラダーンを倒し、その大ルーンを手に入れたのだ。

 

 

 

 ラダーンが倒れた後、夜空に浮かぶ星が流れ出し、神秘的なまで夜空を彩ったかと思うと大きな星が落ちた。

 空が真っ白に輝き、目が焼けるほどの光だ。

 

 それが、ラダーンの戦祭りの終わりを告げたのだった。

 

 

 

 将軍ラダーン。

 朱い腐敗に蝕まれてなお、祭りに相応しい強大なデミゴッドであった。

 

 

 




 もうちっとだけケイリッド編続きます。
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