名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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二十九ページ目「祖霊の森にて」

 

 

 

◆一「歌」

 

 落ちる鷹の兵団が屯する広場の先は、しかし途切れていた。

 遠くにノクローンの建物郡が見えるのだが、そのための道は落ちてしまったようだ。

 

 だが幸いなことに回り込む道があったので、遠回りしてその建物郡に向かうことにした。

 

 

 その道中ではいくつかの試練があり、中には面白い情報もあったが今回は割愛する。

 

 なんせ、その試練の向こうには「祖霊の森」が広がっていたからな。

 今回はそちらについて記す。

 

 

 この森は地下でありながら動物たちが暮らす地となり、そしてリエーニエの「ウルドの王朝遺跡」にもいた「祖霊の民」が住んでいた。

 

 即ちこの場所には「ウルドの王朝遺跡」との関係性がありそうなのだが、個人的には民が歌う「歌」が気になった。

 

 歌とは何かを伝える手段の一つであり、ものによって兵士を鼓舞したり人々を癒したりする効果が期待できる。

 ここの民が歌う歌は、おそらく動物達に何かを呼び掛けるものだ。

 その証拠として、鹿やネズミといった動物達も静かに民の歌う歌を聴いていた。

 

 

 祖霊の民は、動物の毛皮や骨などを用いた装備を持つ。

 そのことから狩りを生業としていることが伺えるが、一方で獲物であろう動物達と絶対的に敵対しているわけでもないようだ。

 

 あるいは狩りでその恵みをいただくからこそ、彼らなりに動物と自然を愛し、共存を試みているのかもな。

 

 

 

 

◆二「幼祖霊の頭」

 

 祖霊の森の奥で、面白い宝を手に入れた。

 

 

 「幼祖霊の頭」

 何らかの動物……おそらくは、祖霊と呼ばれるものの……頭蓋だ。

 

 大切に保管されていただけあって特別なものらしく、試しに振るってみたら霊の飛沫を振りまくことができた。

 これは相手に魔力ダメージを与えるものであり、さらにその霊の飛沫はしばらく場に残り続ける。

 比較的広範囲で霊の飛沫は残り続けるため、己の安全地帯を広く確保する……などといった、他の飛び道具とは異なる面白い使い方が出来そうだ。

 

 

 また、この頭蓋は先ほど記した"歌う祖霊の民"が同じものを手に持っている。

 これを手に持って歌うわけだから、あるいはこの"幼祖霊"に呼びかけるための歌を歌っていたのかもな。

 

 「ウルドの王朝遺跡」の祖霊の民にも同じことが言えるが、彼ら祖霊の民はどうにもこういった"遺体"というものと縁があるようだ。

 この森にもすずらんがたくさん生えているという意味でも、"死"という概念にある意味縁深いように思える。

 そのことから、祖霊の民が歌う歌とは"鎮魂歌"に近しいものであるかもしれない。

 

 

 

 まぁそれはそれとして、歌う祖霊の民は戦闘時に「幼祖霊の頭」を使用してくる。

 狭間の地を旅する者にとって重要な情報は、多分こっちの方だろう。

 

 広範囲に霊の飛沫を飛ばして戦いづらくしてくるから、ここの祖霊の民と戦う時は要注意だ。

 

 

 

◆三「角骸の霊場」

 

 祖霊の森には「角骸の霊場」なる場所がある。

 入口には六つのかがり火があり、中に入ると一匹の獣の骸が安置されている。

 

 このかがり火だが、実は祖霊の森全域に対応するかがり火があるようで、それぞれのかがり火を巡って火をつけることができる。

 そして六つすべてに火をつけることで、中の獣の骸は霊性の光を放つようになるのだ。

 

 

 おそらくだが、これは祖霊の民のための試練なのではないかと考えている。

 

 六つの火をつけるという行為に対して、俺は何らかの儀式性を見出した。

 というのも、これはまったくの別件の話だが、三つの火を灯すことを入団の試練とした旅団の話を聞いてな。

 あるいはこれも、それに類する試練なのではないかと考えた。

 

 

 考えられるのは、祖霊の民の中で子供が大人になるための儀式か、あるいは戦士として力を証明するものとか、そんな辺りだな。

 もしくは、歌う祖霊の民……そいつらは「祭司」らしいのだが……その社会的な資格を、得るためのものかもしれないな。

 

 なんせ、六つのかがり火を灯してから光る骸に触れると「祖霊の王」がおわす地へと招かれたからな。

 

 

 

◆四「祖霊の王」

 

 六つの火の試練の先で、俺は「祖霊の王」との謁見が叶った。

 

 祖霊の王は、巨大な鹿を思わせる獣だ。

 それ故に人語を解さず、問答無用で襲ってきた。

 

 

 その特徴的な、光る角を用いた頭突きは驚異的だ。

 その巨体故に、ただ蹴りあげる攻撃でも重々しい殺意が宿っている。

 金属盾による防御はいつも以上に意識せざるを得なかった。

 

 だが祖霊の王は「幼祖霊の頭」を思わせる、霊の飛沫のようなものを吐いてまき散らす。

 やはりただの獣ではなく、故に金属盾のみに頼るわけにもいかなかった。

 

 

 

 だがそれより厄介なのは、周りにいる動物達の霊だ。

 

 彼らは祖霊の王に忠誠を誓っているのか、あるいは祖霊の王が強制するのか、傷ついた祖霊の王に命を捧げて癒す。

 それはある種神秘的な景色であり、そして王の霊性と強さを示す光景でもある。

 彼は死から力を得るんだ。

 

 それは、祖霊の民が歌う鎮魂歌のような歌や、ウルドの王朝遺跡のように"遺体"と"墓"と"死"と縁深い性質とも関連があるのか……。

 

 

 

 円卓の文献では、祖霊の王についてこう記述していた。

 

 「祖霊とは、黄金樹の外にある神秘である」

 「死から芽吹く命、生から芽吹く命」

 「そうした、生命のあり様である」

 

 

 

 狭間の地で、祖霊の関係者の姿を見る機会は少ない。

 それは黄金樹と距離をとる性質……とりわけ、黄金樹とは異なる死生観が故だろう。

 

 祖霊の森、および民と王との出会いは、全体的にその事実が印象強い出来事だった。

 

 

 

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