名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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三十ページ目「夜の神域にて」

 

 

 

◆一「写し身の雫」

 

 祖霊の森の崖から飛び降りると、建物の屋根にたどり着く。

 

 永遠の都、ノクローン。

 それの、特に「夜の神域」と呼ばれるエリアに侵入することができたんだ。

 

 

 いくつかの建物の屋根を渡り歩いているうちに、また銀の雫に遭遇した。

 だがこの銀の雫は、ちょっと雰囲気が違う。

 

 

 ここの銀の雫は、すべてがすべてそうというわけではなさそうだが、人の肉体を模倣する。

 メイスや槍といった武装まで模倣し、その武装をきちんと使用して俺を襲ったんだ。

 まるで人間を相手にするような戦いだった。

 

 

 円卓の文献を読み漁っているうちに「写し身の雫」なる名前を見つけた。

 肉体を模倣しない銀の雫と区別するため、俺はあえて模倣する銀の雫をそう呼称している。

 

 この写し身の雫は、以前にも記した新しい王の肉体を作り出そうとした、その遺物なのだろう。

 その試みは、おそらくは一定以上まで成功していたのだろうな。

 

 

 そもそも祖霊の森にたどり着く前にいくつかの試練にあったと記したが、そのうちの一つにこの写し身の雫があった。

 その雫は、あろうことか俺の肉体を模倣して見せたのだ。

 俺の持つ武器も、俺の修めた祈祷の術も、含めてな。

 

 

 

 夜の神域の、おそらくは何らかの教会か聖堂と思わしき建物の中に「写し身の雫の遺灰」もあった。

 資格ある者が、他の遺灰と同じ要領で召喚すると、召喚者の姿と武器と術を模倣して戦うものだそうだ。

 永遠の都は、恐ろしいものを生み出すことができていたんだ。

 

 

 だが一方で、写し身の雫はその意思までは模倣できないという。

 今の永遠の都に王の姿が見受けられないのは、この意思の模倣に失敗したからなのかもしれない。

 

 

 永遠の都は地底に沈み、荒んでいる。

 そんな暗い末路を辿ったのは、その失敗が故なのだろうか。

 

 

 

◆二「黒い砥石刃」

 

 夜の神域の教会もしくは聖堂で、いいお宝を手に入れた。

 

 

 「黒い砥石刃」

 以前にも軽く概要を記したものだな。

 

 おさらいになるが、これは「毒」「血」「神秘」の属性を武器に付与できるもの。

 いずれも「神秘」と呼ばれる力を持つことで、大きな力になるという。

 

 

 まさかこれが永遠の都に眠っているとは思わなかった。

 つまり永遠の都には、神秘にまつわる力か技術があったかもしれないと推察できる。

 

 

 しかし、その詳細は不明だ。

 考察しようにも、現時点では情報不足だ。

 

 

 だが「永遠の都に黒い砥石刃がある」という情報は、それだけで価値があるかもしれない。

 もしかしたら後進の役に立つかもしれないので、こうして記しておくことにした。

 

 武器に神秘の力を宿したいと考える褪せ人がいるなら、夜の神域を探ってみてくれ。

 

 

 

◆三「ノクスの民」

 

 永遠の都には、ノクスの民がいる。

 

 ノクスの民と言えば、ケイリッドの魔術街サリアにもいたことが記憶に新しい。

 そもそも、永遠の都と魔術街サリアには何らかの繋がりがあったと思われる。

 

 魔術街サリアに伝わる夜の魔術。

 その由来はここなのかもな。

 

 

 さて、そのノクスの民は奇妙な武器を使う。

 今回はそのうちの一つを入手できた。

 

 

 「ノクスの流体槌」

 銀色の雫が硬化したような、そんな不思議な形状をしている。

 

 どうやら銀の雫に由来する液状金属を素材にしたようでな、うまく使えば一時的に流体となるようだ。

 つまり武器そのものが大きく伸びて、しなりながらその遠心力で相手を叩けるらしい。

 

 

 俺が実際に相対したノクスの民も、武器を大きく伸ばすような攻撃を仕掛けてきた。

 その秘密は、やはり銀の雫が握っているのだろう。

 

 その秘密をぜひとも暴いてみたいものなのだが、話ができそうなノクスの民は一人もいなくてな。

 彼らは一定以上の筋力と独特ながら並外れた技量の持ち主である……と、武器の性質を通してそう推察できるだけだな。

 

 

 

◆四「椅子廟」

 

 永遠の都は、魔術街サリアと何らかの繋がりがある。

 それを示すかのように、この夜の神域にはサリアで見た椅子廟と同じものが設置されていた。

 

 サリアのものとの大きな違いは、巨大な人が座っていたことだ。

 生きてはいないようで、ミイラか何か、それともそういう像なのかもしれない。

 触れるような高さではないので、肌触りから情報を探ることはできそうにない。

 

 

 あれが噂の「夜の王」かどうかも、正直わからないな。

 周りの建物群を見る限り、必ずしもあの巨人の生活を前提としていたように見えない。

 

 たとえばそうだな、何らかの遺体を祀るために椅子廟を作り上げた……という物語の方がしっくりくる。

 その遺体を王と呼んでいたパターンとかはどうだろうか。

 この場合、その王の蘇生を目論んで銀の雫を作り出したのかもな。

 

 実は、夜の神域にいる写し身の雫のうち一体は巨人の末裔たるトロルを模倣していた。

 規格外の存在の模倣を試みていた……そういう推測の根拠ぐらいにはなる。

 

 

 

 まぁあれこれ言ったところで、正解はわからない。

 思いついたことを記してみただけだから、あまり気にしないでくれ。

 この手帳は、あくまで真実のための糸口でしかないからな。

 

 

 

 なお、椅子廟の中に入ると宝箱があった。

 が、どうやら俺は中身を得られる運命の持ち主ではなかったようだ。

 

 中身がどういったものかわかれば、ここについてより深堀できそうだったんだが、残念だ。

 

 

 

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