名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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三十三ページ目「調香師の廃墟にて」

 

 

 

◆一「調香師」

 

 捨てられた荷車の群から横道にそれると「調香師」達の拠点にたどり着いた。

 拠点の建物そのものは酷い有り様だが、一方で建物周辺に配置された植物や道具の手入れは行き届いている。

 それだけに色々と情報を得ることができた。

 

 

 調香師とは、王都ローデイルにて活躍した薬師だ。

 植物……場合によっては黄金樹そのものと何らかの形でかかわっていたと推測できる上、聖職として敬われていたという。

 故にこそ、調香は王都の秘術であったという。

 

 

 

 だがかの破砕戦争では戦場に送られ、調香師はその本分を失うと同時にその秘術も狭間の各地に散らばっていった。

 調香とは薬であるが、そもそも薬ってのは毒の成分を弱めたもののことを言う。

 だから調香の術ってのは毒の使用を目的とする分にはとても便利であっただろう。

 

 また、彼らは火薬にも精通している。

 あるいは、戦争に駆り出されるのは運命だったのかもしれないな。

 

 

 

 一方で、先述通り彼らの術は、今や一般化しているといってもいい。

 狭間のどこかで「調香瓶」を見つけたなら、ツール鞄によるアイテム製作で「調香アイテム」が作れる。

 

 当然ながら専用の製法書も必要となるが、今の狭間ならその製法書の入手も可能な筈。

 俺達褪せ人の身でも、調香師の力を借りることができるわけだ。

 

 

 何かの備えとして、覚えておくといい。

 

 

 

◆二「忌み潰し」

 

 調香師の拠点には「忌み潰し」の姿があった。

 

 彼らは「忌み子」の処理を役目とした者達だそうだが、そのその起源には調香師がかかわっているようだ。

 俺が見かけた忌み潰しは、調香師が着るものと似たような分厚い前掛けを特徴とする。

 

 

 なんでも、彼ら忌み潰しの祖は古い調香師であるという。

 故に、それに由来する分厚い前掛けを彼らも着用するのだろう。

 

 

 

 彼ら忌み潰しは優れた筋力を持つ。

 そもそも、彼らが被る蕩け顔の老人の面に、筋力を高める効果が付与されているからな。

 

 それ以外にも、調香の薬で肉体をより強靭にしている……なども考えられる。

 そのせいか、彼らは他の正気を失った者達と比べても、より不気味で心を壊しているようにも見える。

 副作用があるような、そんな強力な薬を使ったかもな。

 

 

 それだけに彼らが振るう大鉈の攻撃も、重く驚異的なものだ。

 当然のように褪せ人に敵対する者達の一人なわけだから、相対するときは注意することだ。

 

 

 

◆三「醜き地下墓」

 

 俺が見つけた調香師の拠点は「トリシャ」と呼ばれる調香師を筆頭とした、そんな集団の拠点である可能性がある。

 

 トリシャとは、かつて"癒し手"と呼ばれた優れた調香師であったという。

 特に混種や忌み子といった存在の治療を志したようだ。

 

 

 そういう痕跡が、拠点のすぐ近くの地下墓で多く見つかった。

 

 

 

 醜い地下墓。

 内部は混種が多数潜み、中には忌み潰しのターゲットである筈の忌み子の姿もあった。

 

 おそらくトリシャが集めた者達なのだろう。

 地上の拠点で見つけた忌み潰しは、もしかしたら本来の役目を放棄した状態であの場にいたかもしれないな。

 

 

 

 時空の歪みゆえか、地下墓の奥でトリシャ当人と会うことはできたが、話は通じなかった。

 一方で、トリシャ当人についての文献も見つけた。

 

 まぁ時空が歪んだ場所では、百年前の伝説が隣にいるかと思えばすぐ"ずれる"というような、そんな不条理はよくあることのようだ。

 細かいことは抜きにしよう。

 

 

 

 トリシャは、しかし混種たちの治療ができなかったようだ。

 だから代わりに、彼らの死の付き添いとなったという。

 

 詳しい証拠などは見つからなかったが、おそらくは安楽死のための薬を調合して、彼らに安らかな眠りを与えていたということだろうな。

 

 

 

 それを指して『死衾のはじまりにも似ている』そうだが……。

 

 文献に記されていたこの一文の詳しい意味についてはわからない。

 話が訊けそうな女性が円卓にはいたのだが、タイミングの悪いことに不在のようだ。

 

 

 

 しばらく待ってみても姿を見せないため、ここで情報は終わりだ。

 まぁ機会があったら聞いてみようと考えている。

 

 続きはその時にな。

 

 

 

◆四「賢者の洞窟」

 

 調香師についての、俺が見つけた情報はおおよそ記せた。

 が、その拠点の近辺で少し気になる洞窟を見つけた。

 

 その洞窟の名は「賢者の洞窟」。

 

 

 

 その名称の由来はわかっていないが、内部の特徴として"幻"が多いことが挙げられる。

 

 ただの壁が続いているかと思えば、その壁をつついてみると壁が消えて道が開ける……そういう構造が続いている。

 さてはて、どういう理屈の技術なのやら。

 

 

 

 

 だが対抗策はあるようだ。

 

 アルター高原のどこかにいる放浪商人が売っているという「歩哨の松明」があれば、その幻を打ち破れるという。

 歩哨の松明とは、陰謀の夜が再び訪れぬよう黄金樹が兵士達へ与えた備えであるとか。

 

 

 場合によっては、姿を隠す暗殺者の存在を割り出すのにも使えるかもな。

 予め一本、商人から譲ってもらってからこの洞窟に挑んだ方がいいかもしれない。

 

 

 

 

※追記

 

 この洞窟内部では、死に生きる者たちが徘徊している。

 

 死に生きる者たちとは、陰謀の夜にて殺されたゴッドウィンに連なる存在であるらしい。

 どうやらそういう意味でも、この場所は陰謀の夜に縁深い場所なのかもな。

 

 

 

 道中の宝箱から「猛禽の黒羽」なる装備を手に入れたが、それは己を死の鳥になぞらえるような者達の装束らしい。

 死の鳥といえば、スケルトンとは別口の死に生きる者たちである怪物を思い出してしまうが……。

 

 また、洞窟最奥には死の魔術を駆使する魔術師もいた。

 古い死の呪術を蘇らせたという、死術師ガレスだ。

 

 

 彼もまた、死に生きる者たちやゴッドウィンとは縁深い存在であることは想像に難くない。

 まともに話を聞けなかったのが、本当に口惜しいところだぜ……。

 

 

 

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