名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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四十ページ目「火山にて」

 

 

 

 

◆一「遠征の騎士」

 

 ゲルミア火山に入ってすぐ、酷い景色が飛び込んできた。

 それは壊された野営地であり、鉄人形に蹂躙される兵士達であり、吊るされた死体であり、そして死体の山を漁る犬どもであった。

 

 ゲルミア火山。

 かつて王都と火山館とが争った、破砕戦争で最も悲惨な地。

 

 

 その悍ましい跡が、今も残っている。

 そんな彼らを支える、悲壮な覚悟をうかがわせる祈祷の知識をここで見つけた。

 

 

 「黄金樹に誓って」

 黄金樹信仰の祈祷の一つで、周囲の味方と自身の攻撃力と防御力を高めるもの。

 効果時間が比較的長いのも特徴だ。

 これは王都の騎士たちに古くから伝わる祈祷で、特に遠征の騎士たちを勇気づけたという。

 

 

 彼らはこの祈祷で背を押され、戦争に臨んだ。

 きっとその時の騎士たちは、本当に精強だったのだろう。

 

 そんな騎士たちを死体に変える戦争の悲惨さが伺い知れるな。

 

 

 

 だが、この祈祷の力は本物だ。

 俺が出入りする褪せ人のコミュニティでも、この祈祷は流行っている。

 今後は俺もこの祈祷の力に頼ろうと思っている。

 

 この祈祷はそれ相応の信仰を要求するが、色々とイカサマさせてもらっているからな。

 中々いい祈祷を手に入れたぜ。

 

 

 

※追記

 

 俺のイカサマについて、少しだけ記載する。

 

 「二本指の伝承」というタリスマンがある。

 信仰を高める効果を持つタリスマンだ。

 

 こいつはリエーニエ東部の「浄化された廃墟」を探索した際に入手したものだ。

 当時の手帳は、東部についてはほぼ北側しか記載していなかったが、まぁあれから南側も探索していたわけだ。

 運の悪いことに当時は手帳のスペースが限られていたし、そもそも情報を記す機会を逃してしまった。

 これで少しは挽回できただろうか。

 

 

 こいつがあれば、信仰を誤魔化して高位の祈祷を使うことができる。

 祈祷に興味があれば、是非リエーニエの「浄化された廃墟」を訪ねてみてくれ。

 

 

 

◆二「英雄墓」

 

 ゲルミア火山の道は途切れていた。

 途中で橋があったんだが、落ちていたんだ。

 

 だがローデイル兵が攻略のためにかけたのか、それとも別の物が別の目的で用意したのか、少し戻ったところの壁際に梯子があった。

 その梯子を利用して、ゲルミア火山を登ることにしてみた。

 

 

 梯子の上も、相変わらずの惨状だった。

 ローデイル兵たちが仲間の亡骸に駆け寄り、嘆き悲しむ地獄が続いていた。

 

 特筆事項として彼らの拠点には「滑車の弓」があった。

 以前ゲルミア火山下の、亜人達の集落で見つけた「滑車の弩」と同じく"黄金律原理主義"にちなんだ武器だという。

 

 あの時は、亜人達の集落にもいたレアルカリアの魔術師達に絡んだ品だと思っていたが……ローデイル側から持ち込まれた品だったかもしれないな。

 

 

 

 さて。

 そんな悲惨な火山の地だが、それ故か「英雄墓」がある。

 

 英雄墓は他の地下墓とは異なり、"チャリオット"が最奥を護るために警備しているパターンが多いのが特徴だ。

 チャリオットに轢かれたら、大抵は無事に済まない。

 即死するか、そうでなくとも瀕死に追い込まれる。

 

 

 だがその分、貴重なお宝と巡り合えることも多い。

 こういう場所は、名高い遺灰に会える場合が多いと聞く。

 その名の通り、英雄のための場所だからだろうか。

 

 "放浪騎士の彼"のような霊体と縁がある者なら、こういう場所は訪ねて損はないだろう。

 

 

 

◆三「狂い火の陰謀」

 

 ゲルミア火山を登っていくと、不気味なものに出会った。

 

 狂い火の病に侵されたローデイル兵だ。

 彼らはローデイル兵としての装いや術はそのままに、狂い火をまき散らしていた。

 

 

 

 厳密な出ところは不明だが……。

 場所的に、火山館の関与を疑うのは無理筋ではないと俺は考えている。

 

 もし件の火山館が狂い火を扱う勢力だったとしたら、大きく話が変わってくる。

 本当は火山館にたどり着けたら、取材を申し込んでみようかと考えていたが……。

 

 

 狂い火の不気味さ、悍ましさは過去に俺が訪れた「病村」や「狂い火村」が物語っている。

 狂い火は伝染する可能性もあるから、かかわりたくない。 

 

 以前の俺ならもう少し好奇心を優先したが、あれから色々あって思考を巡らせていくうちに少し考えを改めた。

 狂い火については、少し慎重に動こうと考えている。

 

 

 

※追記

 

 狂い火に侵された兵士達から離れていくと、亜人の姿を見つけた。

 どうやら彼らは狂い火に侵されていないようだ。

 

 彼らは近くにある「火山の洞窟」を根城としているようで、最奥の女王はこれまた魔術とのかかわりを示す杖を所有していた。

 また如何なる経緯か「壺大砲」という、ローデイル兵が持ち込んだと思わしき試作の武器を持っていた。

 装填には時間を要するが、爆発力は並じゃない特殊な遠距離武器だ。

 

 

 狂い火に侵されていないことから、彼らは本当に無関係で、捨てられたローデイル兵の装備を持ち帰っただけなのだろう。

 もし試作の武器のことが気になるなら、一度「火山の洞窟」を訪ねてみるといい。

 

 

 

 使えるかどうかはともかく、面白い武器だぜ。

 

 

 

◆四「降る星の成獣」

 

 ゲルミア火山をのぼっていった先の一角は、まるで災害でも起きたかのように地面が大きくへこんでいた。

 まるで何かが空から降ってきたかのようだ。

 

 そして空から降ってきた"それ"は、当然のように走り回っていた。

 

 

 「降る星の成獣」

 

 奴は俺の姿を見るや否や突進してきて、恐ろしい膂力で俺を引き潰そうとしてきた。

 またラダーンのような重力の力を扱えるようで、実に面倒な相手だった。

 

 

 以前にも紹介した「降る星の獣」は、空から落ちる隕石であるという話はしたな。

 その成長体と思わしきこいつも、まぁそうなんだろうな。

 

 ゲルミア火山の地形が、所々不自然に尖っていたりするのはこういう奴の影響なのだろうか?

 ケイリッドでも地形変動の疑いをかけた記憶があるが、案外こういうところにヒントがあるかもしれない。

 ただし、証拠がないため断定まではできないのが口惜しいところだ。

 

 

 

 奴は「星獣の顎」という特大武器を落としていった。

 鋭い切っ先で刺し穿つ、そういう使い方が出来そうなものだ。

 

 その大顎には、相応の魔力が宿っている。

 

 

 

 ラダーンが挑んだという星。

 サリアの結晶坑道にもいた「降る星の獣」。

 

 この狭間の地の空には、一体何があるんだろうな。

 

 

 

 




 諸事情につき、本日を含めて数日ほど「一日二話更新」を刊行します。
 次回は「4/3 20:00」予定です。
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