名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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四十六ページ目「王都ローデイルにて【4】」

 

 

 

◆一「女王の閨」

 

 黄金樹の大聖堂を登っていった先に、何故か黒き刃が護る円形の巨大な建物がある。

 「女王の閨」だ。

 

 閨とは寝室であり、特に婦人のものを指す。

 

 

 ……ただ、おそらくは儀式的な側面が強い施設ではないかと考えている。

 

 この閨は、聳え立つ黄金樹と「黄金樹の大聖堂」の間に存在している。

 また私的な閨は、以前の項目にて記述した「王都の円卓」と呼ぶべき城館にもある。

 俺はあの城館が、本来の王や女王の寝泊まりする場所と睨んでいる。

 

 

 また、女王の閨には巨大な寝台の他に、多くの巻物や石板が積まれている。

 

 その景色は威圧的で、どうにも私的な寝室とは考えにくい。

 やたらと風通しがいいのも閨という概念と噛み合わないように思える。

 寝台に「黄金樹の恵み」という、私的な場所に置くには妙に堅苦しい知識が置かれていたのも気になる。

 

 

 まぁ、例の女王様が俺と大きく価値観を異としているなら、話は別だ。

 仮説の一つ程度として考えてくれ。

 

 

 

◆二「忌み王、モーゴット」

 

 黄金樹の傍にある、王座。

 そこを守る番人がいる。

 

 

 祝福のモーゴット。

 音に聞こえたローデイルのデミゴッド。

 

 だがその正体は、忌み鬼だった。

 

 

 奴は角を持って生まれ、王族の生まれ故に角を切り落とされず、代わりに忌み捨ての地下に幽閉された。

 だが戦の折に出され、その後破砕戦争に疲弊したローデイルを統治する立場にまで栄転した。

 その際はかなり活躍したようで、相当にうまく立ち回った英雄というわけだ。

 

 その目的は、祝福なき褪せ人から黄金樹と王座を護ることにある。

 相容れない敵というわけだな。

 実際、奴から何度も刺客を放たれていたわけであるし、因縁の清算にも相応しい決戦となった。

 

 

 

 モーゴットは不可思議な色の剣を振るい、そしてその巨躯に見合わぬ俊敏性を活かして敵を翻弄する戦士だ。

 時には祈祷か何かで生成した黄金色の短刀や剣、あるいはハンマーを織り交ぜてくる、実に動きの読めない策士だ。

 

 並の褪せ人はおろか、ここまで来れた選ばれし戦士でも彼には敵わないだろう。

 

 

 

 だが俺は、すでに次代のエルデの王である"放浪騎士の彼"と合流できてな。

 彼はどこかで仲間にしたであろう、変装した黒き刃をも味方にして、三人でモーゴットに挑んでいたんだ。

 ……いや、彼が呼ぶ遺灰の霊体も含めるともっと賑やかだ。

 

 それだけの力があれば、デミゴッドが相手であろうと十分打倒が可能だ。

 

 

 故に、モーゴットという試練を乗り越えることはできた。

 

 

 

◆三「拒絶の棘」

 

 モーゴッドを倒し、後は"放浪騎士の彼"がエルデの王になるところを見届けるのみ。

 そう思った矢先で、問題が起きた。

 

 黄金樹の内部へ至る道が「拒絶の棘」なるものにて塞がれていた。

 それはすべてを拒むものであるらしく、誰も黄金樹に入ることができない。

 

 

 モーゴットは絶望していた。

 彼もまたエルデの王を目指し、しかし拒絶の棘により阻まれた。

 

 彼がローデイルに居座って尚もエルデンリングの修復がなされないのは、この棘が理由だったんだ。

 

 

 

 だが、"放浪騎士の彼"が王になるための策はまだ尽きていないようだ。

 

 彼の仲間である変装していた黒き刃……その名はメリナ。

 彼女が背負う使命は、王を阻む拒絶の棘を"焼く"もの。

 

 それは放浪騎士の彼が進む道を拓くものであり、しかしそれは同時に黄金樹を焼くというとんでもない大罪の行いだ。

 

 

 

 

 

 わくわくした。

 

 前々から予感していた、黄金樹の炎上。

 それは、次代のエルデの王の誕生のためのものだったんだ。

 

 

 普通の者なら、きっとこの事象に耐えられない。

 黄金樹が焼かれるというのは、大きな意味を持つ。

 黄金樹とは絶対にて永遠のものであるとされ、故にその信仰も強固だった。

 彼女の使命は、それを否定する行いなのだ。

 

 

 だが俺は異端者だ。

 俺は今まで普通の信仰者であることを装い、時にはその力をイカサマなども用いて利用してきた。

 それでも、"盲信"だけは避けてきた。

 

 絶対の信仰を疑ってこそ、真実にたどり着ける。

 そう己に言い聞かせて、理性を保ってきたんだ。

 他の誰にもそれを告げず、ただただ周りの盲信に耐え続けて。

 

 

 俺は見事、真実にたどり着くことができた。

 後は、それを見届けるだけ。

 

 

 

 俺は改めて"放浪騎士の彼"に、共闘を提案した。

 

 

 

◆四「巨人たちの山嶺」

 

 遥か雲の上、雪深い巨人たちの山嶺。

 その頂きにある、滅びの火。

 

 

 メリナが使命を果たし、黄金樹を焼いて拒絶の棘を取り除くためには、まずそこまで行かなければならない。

 彼女は特殊な肉体を有しており、直接共闘できたのは黄金樹の麓のみに限られる。

 だから、そこから先はメリナは霊体化し、直接では俺達二人での旅路となった。

 

 

 

 その道は「王都東城壁」の下にある門をくぐり、さらに東へ進んだ先にある。

 それは「東アルターの神授塔」への道でもあり、彼がモーゴットから得た大ルーンの力を得るために寄ったのは言うまでもない。

 

 だがその道は、禁域に至るための道でもある。

 雪深い地に近づくだけあって酷く寒く、地面は真っ白な雪で覆われ、空も灰色の霧がかかっている。

 だというのに巨人の火にも近いだけあって、灰色の霧の中には火の粉が入り混じる幻想的な場所。

 

 道中ではローデイル兵だけでなく、赤黒い力を振るう卑兵やガーゴイルといった「黒き剣の眷属」まで立ちふさがる始末。

 指読みの老婆にすら、運命の死を解き放ち世界を殺す、原初の大罪であると指摘された。

 それは指が許すはずのないものである、とな。

 

 

 

 いよいよ、世界を敵に回したのだと実感する道中だった。

 

 それでも"放浪騎士の彼"は、歩みを止めず「ロルドの大昇降機」の先にある「巨人たちの山嶺」にまでたどり着いた。

 

 

 

 

 巨人たちの山嶺は、高所から雲を見下ろす絶景が広がっている。

 それだけに雪が舞い散る寒い場所となっているが、早速地図の石碑にもありつけ、祝福にも恵まれた。

 

 ここに地図があるのは、黄金樹側がこの地を管理するためなのだろうか。

 

 

 

 ともあれ、俺達は雪の地で一息ついてこれからの旅の計画を練ることとなったんだ。

 

 

 

 ……といっても、計画の内容はシンプル。

 滅びの火があるという山頂で現地集合だ。

 

 

 

 狭間の地は、時空が酷く不安定なもの。

 ここまでずっと共に時空が重なり続けていたのが奇跡だ。

 だからいずれお互いの姿が見えなくなるのは予見できていて、だからそのような計画を練ったわけだ。

 下手したら、もう二度と会話できないかもしれないからな。

 

 実際、祝福で休息した後はもう"放浪騎士の彼"の姿はなかった。

 

 

 

 まぁ、いざという時はサインで彼との"ずれ"を渡って合流するつもりだ。

 それまでは、またこの地で情報を探ることとなる。

 

 

 

 

 ……というわけで、アルター高原での記述は以上だ。

 これまでの記録が、これを読む君達の役に立っていることを願う。

 

 機会があれば、また会おうぜ。

 

 

 




 これにてアルター高原編は以上となります。
 改めて、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


 トニーの冒険もいよいよ佳境に入り、終盤エリアとなる「巨人たちの山嶺」編が始まります。

 ……が、その前に番外編を挟もうと考えています。
 具体的な「巨人たちの山嶺」編の配信日時は、現時点では未定となりますのでご了承ください。



 改めて、次回は番外編です。
 現時点では"全三話"予定です。
 よろしくお願いいたします。
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