◆一「調霊」
まともな屋内であり、ある程度は手入れが行き届いているだけあって円卓は快適だ。
流石に埃っぽいが、まともな安全地帯のない狭間の地ではこういう場所は貴重だ。
ロウソクのある机で、本を読むには最高だ。
しばらくは本の虫になってしまったが、おかげで手帳に記すのに丁度いいトピックを見つけた。
何でも、狭間の地には"調霊師"なる存在がいるらしい。
この間拾ったような遺灰の主である霊体を強くしてくれる存在だそうだ。
俺が見つけた文献はもう少しややこしい表現だったが、わかりやすく解釈しようとするとこういう言い方になる。
一応参考程度に抜粋すると『対話』『調律』『感化』……といった具合だ。
もし本職がいたら、改めて伺いたいところだ。
注意点として、霊体の強化にはすずらんが必要になるそうだ。
それも特別なすずらん。
たいていは地下墓地で咲いているそうだから、地下墓地の探索も欠かさない方がいいかもな。
……尤も、それはあくまで調霊師がいたらの話だ。
今のところそれらしい心当たりはない。
つくづく俺には縁がないらしい。
◆二「双子の老婆」
広い円卓から書斎の方向へ出て、そのまま奥の部屋に向かうと"双子の老婆"がいる。
……といっても、喋ったりはしない。
これは俺の勝手な推測だが、即身仏のような像なのだろうな。
それも、特別な像。
話しかけると、会話の代わりに商いができる。
ルーンと引き換えに武具や特別な品を入手できる。
円卓で物資の調達をしたければ、ここを頼るのがいいだろうな。
その辺の床に転がっているものとは質が違う。
またそれ以外に特筆すべきは、彼女らが手に持っている杖だな。
杖の先端をよく見ると何かを入れるような穴があって、俺の直感がここに何かを入れることでいいことがあると教えてくれた。
形を見るに何か球状のものが必要なようだ。
旅先でそれらしいものを見つけたら、試してみよう。
◆三「信仰」
円卓にいる者の中には預言者……つまり聖職者がいてな。
色々と話を聞かせてくれた。
彼は祈祷を伝えることを生業としているようで、ルーンと引き換えにだが、色々と学ぶことができた。
基本は回復系統だな。
体の傷を癒したり、毒を治癒したり……という具合だ。
これらは二本指が、たとえ傷ついても倒れることなく使命のために戦い続けることを、褪せ人に望んでいる証なのだと、そういっていた。
また、狭間の地は褪せ人を歓迎していない。
だからあらゆるものが褪せ人の敵となり、故に魔術師や僧兵などに抗する防護の祈祷も伝えられているという。
これもまた、褪せ人の為に。
だが俺が個人的に興味深いと思ったのは、火に関する祈祷だ。
これは聖印を通じて火の玉を投げたりできるもので、数少ない祈祷による攻撃手段だ。
だが一方、こういう祈祷の由来となる預言は不吉なものとされている。
火とは、滅びである。
それは同時に黄金樹の禁忌であり、だから彼のような預言者は故郷を追われるんだ。
でも、火は信仰のうちに垣間見るものだという。
であるならば、火のよる黄金樹の滅びは、決して無視してはならない事象なのかもしれない。
まぁ、その所感を口にはしなかったがな。
◆四「死衾」
円卓の一室で、死衾の乙女と名乗る女性と会った。
彼女はベッドの上で本を読んでいたが、俺の姿を見つけるや否や「抱かせて欲しい」と話しかけて来たんだ。
俺も男だ。
美しい女性からの頼み事は断れない。
……と、言いたいところだが。
どうにも彼女の場合は、少し特別であるようだ。
彼女に文字通り抱かれることで、恩寵が齎される。
この恩寵に頼ると、痛みを忘れることができるそうだ。
彼女が語るところでは、死とは何も感じぬからこそ安らぎなのだそうだ。
もしかしたら、彼女は人の死に携わる聖職者の一種なのかもしれないな。
どうにも死という概念について語っている時に、一定の信念や使命感のようなものを感じた。
英雄を抱くということに対して、"聖なる"という文言を使用していたことから、儀式的な意味合いもあるのかもな。
そのためのやり方は……ちょっと煽情的ではあるが。
一方で、恩寵の対価として彼女は温もりを頂いている様子だ。
これが物理的なものではない、というのはすぐ気づけた。
彼女は、いったい何のために円卓で褪せ人を抱いているんだろうな?
次回更新は1/3予定です。