全三話予定。
今回はトニーや"放浪騎士の彼"とも無縁の、完全新規のオリキャラ「預言者サイモン」が主役。ただし"直接の語り部"は引き続きトニー。
前回「竜三戦争の竜殺し」と同様"エルデンリングの世界観をお借りしただけのほぼオリジナルストーリー"です。
が、今回のさらなる注意事項として、試作としてのテーマに「信頼できない語り手」と「バッドエンドの文脈」があります。
閲覧の際は注意をよろしくお願いいたします。
一話「血炎の牢獄」
◆
先日、手帳を手に入れた。
狭間の地の外で活動した"預言者サイモン"が記した、日記のようなものだ。
どうやら狭間の地の外で記したもののようなんだが、時空の歪みで俺の手元にまで流れ着いたらしい。
せっかくだ。
今回はこの手帳の内容を記していく。
直接書き写すには内容が支離滅裂なので、俺なりの修正や解釈を交える形で比較的読みやすい形に訳して記す。
間違いなく俺の主観が入り混じるものとなるため、ご理解いただきたい。
内容の信憑性そのものも疑わしいが、そちらについても了承願う。
それから、警告がもう一つ。
今回の話は胸糞悪く、後味の悪いものとなっている。
生理的にもきつい描写も含む。
輝かしい英雄譚としてではなく、悍ましい悲劇を読むつもりで読み進めてくれ。
◆
預言者サイモン。
俺が手に入れた手帳の主で、今回の話における主人公だ。
彼は祈祷の知識に長けた聖職者で、比較的民草からは受け入れられていた方の預言者だな。
何でも、火にかかわるような情報を一切口にしなかったそうだ。
一方で、彼は目に"病"を患っていた。
だから目隠しで目を塞いでいて、いつの間にか聴覚などで目が見えなくても普通に生活ができるぐらいにはなっていた。
ずっと目を閉じているわけではないようなんだが、それでも常人よりは目に頼らないようにしていたようだ。
目がなくても、生活には支障がない。
それでもサイモンには、目の病を治して瞼を開けたい事情があった。
彼は故郷の村に妹を残して、預言の旅に出たようだ。
だがその妹が結婚したようでな、その時はサイモンも普通の人間のように祝福した。
その時に、いずれ妹が生むだろう子供の顔を見たくなったようでな。
実に微笑ましく、共感できる動機だ。
そのために、目の病を癒す手段を探るようになった。
その際、サイモンは啓示を受け取ったそうだ。
サイモンの目を治すためには「血炎の牢獄」に潜り、その奥に封印された「神」と邂逅せねばならないらしい。
サイモンはその啓示を信じ、わずかな武具と祈祷の知識を手に「血炎の牢獄」へと侵入した……。
◆
「血炎の牢獄」
どうやら古代の遺跡をそのまま牢獄へ作り変えた、そういう場所のようだ。
その時点では多分何の変哲もない遺跡でしかなく、通常の牢獄として機能していた筈だ。
だが、後の「血炎の牢獄」となる牢獄に、"異国の囚人"が運ばれた。
それから数日後、牢獄内部から大量の"血のように赤い炎"が噴き出して、内部は地獄のような様相となった。
それが「血炎の牢獄」という俗称の由来だ。
看守たちはみんな炎に焼かれ、閉じ込められていた囚人も同じように焼かれたか、あるいは独房の中で餓死したか。
炎が噴き出してから数日後、牢獄を管理していた国は牢獄を封鎖したからな。
看守・囚人ともに見捨てられてしまったわけだ。
サイモンが実際に牢獄に侵入すると、彼はまず悍ましい悪臭と不快な音に襲われた。
なんせ腐った血が大量にまき散らされて、そこから大量の蝿が湧いて出ているんだ。
狭間の地で旅するようなタフな連中ならまだ耐えられるだろうが、ダメな奴は多分ダメだろう。
念のため今一度警告するが、無理そうなら遠慮せず読むのを止めてくれ。
さて。
サイモンはそんな悪臭と不快な音に耐えながら先に進んでいく。
正気を蝕む暗闇を、調達した松明で振り払いながら進んでいく。
……どうやら完全な盲でもないようでな、牢獄探索時は常時両目を塞いでいるわけでもないから光も必要なようだ。
道中は血色の腐肉が蠢いていたり、元は看守や囚人だったであろう腐った死体が牢獄内を穢している。
それでもサイモンは先に進んだ。
それだけ妹の子供を見たかったんだろうな。
もしくは、正常な目を見せて妹達を安心させたい側面もあったのかもしれない。
いずれにしろ、不潔で悍ましい景色はサイモンの決心を揺さぶるに値しなかった。
腐った血と蝿だけが支配する牢獄の景色は、いずれ炎も混じるようになった。
その炎は普通のものではなく、血のような赤に輝いている。
サイモンが触れれば、その部分が"出血"してしまう。
貴重な「出血の苔薬」を無駄に消費してしまったと、手帳の中のサイモンは嘆いていた。
看守と囚人は、牢獄のいたるところから謎に噴出したこの炎にやられてしまったのだろう。
炎を感じるところから、より一層血の匂いが濃くなったという。
その果てに、奴はいた。
血炎の牢獄に、赤い炎が噴き出す直前。
牢獄へと運ばれたという"異国の囚人"。
奴は極東の、葦の地の鎧を身に纏い、打刀と弓矢を構えていた。
◆
異国の囚人。
またの名を、「蟲憑きのイヌヒコ」。
他の人間が腐っていく中、奴だけはいまだに生きながらえていた。
奴の周りからは血炎が噴き出しており、そこから湧き出る"蟲"と共存しているようだと、手帳のサイモンは言っていた。
これは俺の勝手な推論だが、蟲憑きのイヌヒコは多分"血の君主"の関係者なんだろうな。
奴が何らかの目的でイヌヒコを牢獄に潜り込ませて、そして牢獄を地獄に変えた。
イヌヒコが、サイモンが訪れる日に至るまで生きながらえていたのは、その"血の君主"による何らかの計らいだろう。
その手段が、蟲だったと思われる。
さて。
蟲憑きのイヌヒコは、サイモンの姿を見つけると問答無用で襲い掛かってきた。
打刀による、葦の地の独特な剣術で確実にサイモンを追い詰める。
サイモンが無理やり距離をとれば、今度は弓矢による正確な遠距離攻撃が待っている。
実に厄介な敵だったと思われる。
「蟲憑きのイヌヒコ」
それが、サイモンに前に立ちはだかる"類稀な強者"だった。
対する預言者サイモンは、なけなしの金で買った「ショートスピア」とツルなどで雑に補修した「壊れかけの木盾」程度しか武装していない。
強いて言えば祈祷の知識にもある程度明るいが、戦闘に使えるものは限られる。
サイモンにとって、とても不利な戦いだ。
とにかくサイモンが勝っているのは、武装のリーチのみ。
だからショートスピアの、打刀よりは優れるリーチを使って中距離から攻撃を仕掛けるしかない。
だがイヌヒコも、それは承知のうえで勝負を仕掛けてきている。
サイモンの隙を目ざとく突いて、鞘から"居合"の一撃を放つ。
その一撃で、サイモンは「壊れかけの木盾」を失った。
流石に、その程度の盾では一時しのぎにしかならなかったようだ。
サイモンは追い詰められた。
ショートスピアは盾を構えたまま攻撃できるのが利点の一つだったんだが、その利点を奪われた形となる。
サイモンは戦闘に慣れているわけではないようで、だから盾がないとまともに応戦できない。
壊れかけのシロモノでも、相手の一撃をガードできるという盾の存在が、サイモンに勇気を与えていたようなんだ。
だからもう、サイモンはまともに槍を振るえない。
「何?! 貴様、その目は……」
そこで声をあげたのは、蟲憑きのイヌヒコだ。
手帳では詳しく記されていなかったようだが、状況証拠からしておそらくサイモンは目隠しをとったようだ。
故にサイモンの、病に侵された目が露わになって、その目を見たイヌヒコが驚いたようだ。
サイモンは語る。
「私の目は、いつしか黄色い火に侵されるようになった。それは想像を絶する痛みを伴い、瞳を溶かす」
「だがあと少しなんだ。……あと少しで「神」との邂逅は果たされる。この目も治ると、啓示を授かったんだ」
「だから、退いてくれ。この目から迸る黄色い火は"伝染"する。君まで、私と同じ病に罹りたくないだろう」
……とな。
つまり、黄色い目を晒すことで説得を試みたようなんだ。
あるいは、それは警告なのだろうな。
「……貴殿が"その火"を持つ者なら、なおさら通せぬ。某は、モーグ様からこの地の"封印"を命じられた。人の世に、"その火"を解き放つわけにはいかぬのだ!!!」
だがイヌヒコは、むしろ決意を新たにして刀を構えなおした。
サイモンの説得は、失敗に終わったようだ。
「なら仕方ない。……あと少しで、この目は治る。それまでもってくれ、私の目よ」
サイモンは、改めてその"目"を解放した。
それは『狂い火』の祈祷。
つまり、サイモンは狂い火の病に罹患していたのだ。
祈祷「狂い火」
狂える三本指に由来する祈祷。
その瞳から、黄色い繰り火を迸らせる。
この祈祷の恐ろしさは、己だけでなく相手をも"発狂"させてしまうところにある。
だが最近になって俺も知ったんだが、そもそも攻撃手段としても優れているとの情報も得た。
この祈祷を発動したら、割と広範囲に狂い火をまき散らす。
迸る狂い火は一つだけでなく、連続して火を放つ。
故にその範囲の中の狂い火に捕まれば、かなりの大やけどを喰らう。
そうなれば体幹もまともじゃなくなって、姿勢は崩される。
おそらくはイヌヒコもその火を喰らってしまい、戦闘どころじゃなくなったんだろうな。
「申し訳ございません、モーグ様。貴方の、弱き人々のための、王朝を……見たかった……」
イヌヒコの失策は、弓矢による遠距離攻撃を仕掛けなかったこと。
あるいはその射程なら、狂い火の祈祷から逃れるような立ち回りができたのかもしれない。
逆に言えば、それをさせなかったサイモンの機転が、サイモンに勝利を齎したわけだ。
「すまぬな。私は、行かねばならぬ……」
こうしてサイモンは"類稀な強者"を制して、先に進むことができたわけだ。
だがこの勝利が齎すものは、決していいものばかりとは言えない。
とはいえだ。
イヌヒコ……あるいは彼を通じて施されていた血の君主の"封印"は解かれた。
「血炎の牢獄」を赤く蝕んだ血炎は、しかしもう噴き出なくなった。
その光景を見ただろうサイモンは、さらに先に進むしかない。
「……っ?!」
その先で、サイモンは驚くべき景色を見つけた。
赤い炎が噴き出し、蝿が飛び回る不潔な牢獄。
その地下深くとは、とても思えない光景だ。
そこは、地下でありながら太陽が差し込むような光にあふれている。
松明の火は、もういらなさそうだったという。
その光に照らされるのは、一つの巨大な都市。
黄金色に輝き、そして豊かな植物が生い茂る楽園の如き世界。
間違っても「古代遺跡」だなんて言葉で片づけていい状態じゃない。
このような景色がサイモンの手帳から飛び出てきたのは、血の君主による"封印"が解かれた故か。
いや、古代遺跡に"こういう異常"が起きたから血の君主の使いが派遣されたのか。
一応サイモンが狂気に侵されていて、手帳の記述の信憑性が高くないことは、改めて強調しておく。
手帳に記されていた都市の名は「黄金と調香の街」。
それが、牢獄のかつての姿だ。
次回は、その黄金と調香の街について語ろう。
・預言者サイモン
今回の番外編の主人公。本編には登場しないオリキャラ。
「狂い火の病」に罹患した預言者。「病の治療」を目的に「血炎の牢獄」へと突入した。現在は"類稀な強者"であるイヌヒコを撃破したところ。
「素性:預言者」などと同じ聖職者で「ショートスピア」「壊れかけの木盾」「指の聖印」「預言者の目隠し」を装備する。
ただし、己が「火の祈祷」や「狂い火の祈祷」を扱えることを周囲に隠しているため、ギリギリ迫害まではされていない。
・蟲憑きのイヌヒコ
血の君主モーグに仕える、葦の地の戦士。打刀と弓を装備する。
"封印"を目的に「血炎の牢獄」を地獄に変えて、侵入者であるサイモンの排除も試みた。
どうやら「狂い火を人の世に解き放たない」ことを目的に、大災害を引き起こした模様。
モーグの計らいにより不死身になっているようで、その手段として『蟲』を利用しているようだ。SEKIROの「蟲憑き」との関連性は不明。
前回番外編「竜三戦争の竜殺し」の敵、エドがゴドリック枠、シモンがレナラ枠、ルーリンツがモーゴッド枠なら、イヌヒコは「忌み子のモーグ」枠。
もしくは「素性:預言者」枠のサイモンに対する、「素性:侍」枠の存在とも。
・血縁の牢獄
今回の番外編の舞台。
とある古代遺跡を改築した牢獄だが、蟲憑きのイヌヒコを収監した数日後にモーグの血炎が噴き出すようになる。
以降は看守も囚人もまとめて焼き殺す地獄と化しており、国は彼らを見捨てて牢獄を封鎖した。
原作に例えるなら「忌み捨ての地下」枠のダンジョン。
・「真実の探求者」トニー
サイモンが文を記した手帳を訳する男。今回の語り部。
サイモンとは全く縁がないが、彼の手帳を手にした縁で今回の話を記している。
どうやらサイモンが綴った文は支離滅裂なようだが……。
・祈祷「狂い火」(ほぼ余談)
適切な距離で使えば大型の敵に多段ヒットする強い祈祷。
消費FP16程度なのにゴリゴリHP削れるしゴリゴリ強靭も削れる。
しかも必要信仰は16なのだが、実は素性:預言者の初期信仰も16。何なら目隠しが預言者の初期装備にあり、"目"の存在をどことなく強調している。
……もはや、預言者と祈祷「狂い火」の組み合わせは運命なのでは? 筆者は訝しんだ。