名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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 サブタイトルを「コイントス/カード」にしようかちょっと迷いました。
 そんな感じの二話です。


二話「黄金と調香の街」

 

 

 

 

 黄金と調香の街。

 

 陽光のような光で溢れ、建物は黄金色に輝き、調香に使うだろう植物にあふれる楽園。

 地下に広がる不可思議なこの街は、間違っても"古代遺跡"だなんて呼ばれる代物じゃない。

 

 

 

 おそらくは血の君主の"封印"が解かれたが故か、あるいは"何かしらの異常"が考えられる。

 考えられる"異常"としては、狭間の地の"歪んだ時空"の影響が、その古代遺跡に流れ込んだ……とかな。

 

 サイモンの手帳から読み取れるこの都市の印象が、まるで王都ローデイルを彷彿させるのもそれが理由かもしれない。

 

 

 

 ともあれ、サイモンはこの「黄金と調香の街」を訪れ、探索を試みた。

 彼の手帳にはそう記されているので、まずはその内容を訳していく。

 

 

 

 

 サイモンが訪れた、この王都ローデイルを彷彿させる都市。

 当然と言うべきか、まともな住民は殆どいない。

 

 むしろ植物を揺らし、落葉を舞い上げる風の音が鳴り響くのみ。

 それはとても静かで寂しい音だったそうだ。

 

 

 サイモンの手帳を鵜呑みにする限り、この都市はローデイルと同様"調香"の文化がとても盛んな都市だったと思われる。

 だから当然、人の往来も多く祭りのような賑わいを見せていたのだろう。

 だがそれは失われて久しいようだから、そりゃ寂しい印象を受けるだろうな。

 

 

 とはいえ、いつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。

 少なくともサイモンの目にはそう映るだけの"ナニカ"が、その街に潜んでいた。

 

 

 

 それは数多の黄色い火を持つ頭だった。

 それは瞳のようで、ブドウのようで。

 とても名状しがたい容姿を持つ、悍ましい怪物であった。

 

 サイモンの手帳に呼称名はなかった。

 だが俺の方で調べてみると「触れ得ざる翁」なる存在に近しい特徴を持っているように思えた。

 同一存在とは限らないが、わかりやすさを優先して、以降この怪物のことを「仮称触れ得ざる翁」と呼ぶ。

 

 

 

 仮称触れ得ざる翁は、サイモンの狂い火が通じない相手だ。

 そもそも攻撃そのものが、翁に触れていない。

 故にサイモンは、仮称触れ得ざる翁から逃げて、隠密に徹する必要があった。

 

 

 ただ、この怪物は一度見つけた相手への執着が激しいようだ。

 サイモンはすでにこの怪物に見られているから、逃げられるかどうかは運次第だ。

 

 

 

 

 

 果たして、サイモンはカード勝負に勝利した。

 

 一度は、この仮称触れ得ざる翁から逃れられたんだ。

 

 

 

 

 さて。

 この仮称触れ得ざる翁だが、サイモンはこいつを排除しないといけない運命にあった。

 

 詳しい事情はわからないが、サイモンが目指す最奥への道を、この仮称触れ得ざる翁が塞いでいたようなんだ。

 最奥への道を徘徊し続けていたとか、多分そういうことなのだと思う。

 

 

 

 そういうわけで、サイモンは仮称触れ得ざる翁を排除するための、新しい道具を要していた。

 この時点でのサイモンの手持ちの札は、ショートスピアと狂い火の祈祷のみ。

 どちらも、仮称触れ得ざる翁には通じない。

 

 新しい武器が必要ってわけさ。

 

 

 

 ただまぁ、たまたま訪れた「黄金と調香の街」のどこかに、そういう武器があるかどうかも運次第。

 サイモンは、コイントスに打ち勝つ必要があった。

 

 

 サイモンが訪れたのは、その街の調香に関する施設。

 おそらくは、陽光の差し込み方や気候を意図的に管理して異国の植物を栽培する、所謂"温室"とでもいうべき場所だ。

 俺の故郷なんかじゃまずお目にかかれないが、こういう古代の遺跡や、あるいは"別の時空"ではあり得たかもしれない施設だな。

 調香の植物にかかわらず、季節外れの作物を食する目的などにも用いられたという。

 

 サイモンの記述に曰く、この温室はローデイルと同じ調香のためのもの。

 だからか、調香師……もしくはそれに類する者達……の装備をその温室付近で入手できたという。

 

 

 

 黄金の木盾。

 サイモンが持ち込んだ「壊れかけの木盾」の代わりとなるような、けれども状態ははるかにマシな新しい盾だ。

 

 おそらくはその都市の薬師の類が持つ、護身用もしくは身分を示すための小盾。

 ガードには向かないが「壊れかけの木盾」よりは確実で、そしてパリィなんかには向く軽いものだ。

 

 

 

 ショートスピアの、ガードしながら突く……といった使い方には微妙に向かないものだ。

 だが、サイモンはその小盾で十分だったようだ。

 

 二回目の運試し。

 サイモンは、コイントスに勝利したのさ。

 

 

 

 

 サイモンは、黄金の木盾を持って仮称触れ得ざる翁と対峙した。

 

 黄金に輝く家々が両脇に並ぶ、輝きの大通り。

 ただ寂しい風が吹き抜けるだけの広い道の向こうで、サイモンと仮称触れ得ざる翁が向き合う。

 

 

 

「ァァアァアアアアアアアアア」

 

 仮称触れ得ざる翁が、声にならない奇声をあげながらサイモンへ突撃する。

 

 それに対して、サイモンは木盾構えるだけで何もしない。

 ただ"その時"を待つだけだ。

 

 

 

「ァアアアア……っ?!」

 

 仮称触れ得ざる翁が、その杖……なのか、腕なのかわからないが……をサイモンを掴もうとしたその時。

 サイモンは木盾を使って"パリィ"した。

 

 すると触れられない筈の敵に、サイモンは触れることができた。

 

 

 

「っ?!」

 

 そしてそのまま、サイモンはショートスピアで仮称触れ得ざる翁を突き刺した。

 急所を突いたのか、その一撃で仮称触れ得ざる翁は死んだようだ。

 

 

 

 

 

 

 どうやらサイモンは、仮称触れ得ざる翁を排除するための新しい武器として、"パリィ"できる盾が欲しかったようだ。

 多分、そういう啓示を受け取った……ということなのだろうな。

 

 ともあれ、サイモンは新しい武器を入手して、適切に仮称触れ得ざる翁を排除できたってわけだ。

 

 

 

 

 仮称触れ得ざる翁を排除した後、サイモンは「黄金と調香の街」の中心にたどり着いた。

 

 それは巨大な城館のようで、だが入り口は開かれている。

 サイモンは誰にも邪魔されず、中に入れる。

 

 

 

 中に入ったサイモンは「神」と邂逅した。

 その「神」がどういった容姿をしているか、どういう存在かは、記述がないからわからない。

 ただサイモンの手帳から読み取れるうちで有益な情報は、"それ"を「神」と呼称している……ただそれだけだ。

 

 サイモンは「神」から抱擁を受けた。

 それは全身をやけどするほどに熱く暖かい抱擁だった。

 

 

 

 

 

 だがその代わり、サイモンは目の病を克服できた。

 もう、目から狂い火を放つことはなくなったというわけ……らしい。

 

 ともあれ、サイモンにとっては目的達成というわけだな。

 

 

 

 

「……ようやくお会いできましたね。王となるべき者よ」

 

「おや、妙な顔をなさいますね」

 

「もしや、この体の元の主、ご存知でしたか?」

 

 

 

 ただし、まだサイモンの戦いは終わっていない。

 

 目的を遂げ、これから街と牢獄から脱出しようとしたその時。

 サイモンの前に、"黄色い目"を持つ「蟲憑きのイヌヒコ」が現れたのだ。

 

 

 




 ・預言者サイモン
 今回の主人公。目の病を患った預言者。だが今回の冒険で新しい装備を入手し、そしてようやっと病の治療が叶った。
 後は街と牢獄から脱出して、妹がいる村へ戻るだけだが……?



 ・仮称触れ得ざる翁
 今回の敵役。ミドラーの館にいるものと同一存在……かどうかは不明。
 ただ、サイモンが記した文を読んだトニー曰く、似た性質な模様。

 メタ的には、忌み子のモーグを倒した後の通路に出てくる狂い火の「放浪の民」枠。
 勿論性能的には「触れ得ざる翁」そのもの。ボスと言うよりはギミックタイプの敵。



 ・黄金の木盾
 本エピソード専用の、オリジナル小盾。
 基本的には「調香師の盾」と同様のシロモノであり、ガードには向かないがとても軽く、小盾であるためにパリィに向く。
 トニー曰く、薬師の類が護身用もしくは身分の証明に用いるもの……なのかもしれない。



 ・黄金と調香の街
 血炎の牢獄の地下に広がる、黄金に輝く都市。
 王都ローデイルと同じ文化を持つようで、調香の痕跡が数多に残っている。
 トニー曰く、狭間の地の"歪んだ時空"の影響が、もしかしたら古代遺跡に流れ込んだ……のかもしれない。
 一方で輝かしいだけの場所ではなく、"仮称触れ得ざる翁"という悍ましい怪物が潜むという不気味な場所。

 メタ的には「王都ローデイル」がモデル。立地的にはあべこべだけど。
 もしくはAC6の「技研都市」の方が雰囲気近いかもしれない。地下の奥深くにある、光が差し込むかつての都市……という意味で。



 ・「真実の探求者」トニー
 本作の語り部。彼自身は、サイモンが記した文の信憑性をかなり疑っている。
 にもかかわらず手帳の訳を続けているのは、この話が狂い火の危険性を語る資料になるだろうと考えているため。
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