◆一「ラダゴン」
拒絶の棘は、焼失していた。
大罪を為す儀式は、確かに意味があったのだ。
こうして俺達は、黄金樹の中に侵入することができた。
いよいよ、あのエルデンリングを見ることができるんだ……!
黄金樹に入ると、すぐまばゆい黄金の光に包まれた。
それが晴れたかと思えば、俺達は「石舞台」に転移していた。
その石舞台には、磔にされた永遠の女王マリカがいた。
マリカは一言もしゃべらず、むしろ俺達の侵入と共に磔が解かれた勢いで地面に落下した。
だがマリカは絶命することはなく、そのまま立ち上がった。
一つの石槌をその手に、黄金色の髪を赤く染めて、女性体から男性の体へと姿を変えて。
ラダゴンとはマリカである。
即ち、リエーニエ戦役で活躍した赤髪の英雄「ラダゴン」の正体とは、マリカであった。
故にこそ、マリカの体にはラダゴンの意志と力が宿っていた。
即ち、黄金樹への侵入者の拒絶。
ラダゴンは、次代の王である"放浪騎士の彼"を排除せんと立ちはだかってきたのだ。
その本質的な意図はわからない。
俺達にできたことは、ただ降りかかる試練を突破することだけだからな。
ラダゴンは、祈祷だけでなく魔術を修めた完全として有名だ。
あるいはそのために、レアルカリアに向かったのかもな、
故にラダゴンに縁深い「黄金律原理主義」の祈祷は、信仰だけでなく知力も必要とする。
彼の理想には、信仰だけでなく魔術の知識も必要だったのだろう。
だが俺が見たラダゴンに、その面影は見当たらない。
ただただ黄金のルーンの力を、石槌と石化した肉体を通して振るうのみだ。
彼はエルデンリングが砕けた際、女王マリカとして大いなる罰を受けたそうだ。
先程の磔が、その一端だろう。
その時に、ラダゴンの理想もまた壊れたかもしれないな。
◆二「エルデの獣」
完全ではないラダゴンを倒すのは、意外に容易だった。
だが、それで試練は終わりではなかった。
突如として地面から黄金の怪物が現れ、神の遺体たる壊れたラダゴンを掴み取る。
それを、如何なる術を用いたのか、骨と脊髄でできた「神の遺剣」を振るう獣が現れたのだ。
後々に調べて分かったその名は「エルデの獣」。
大いなる意志の眷属にして、律たる概念の具現。
濃厚な星空をその身から放ち、黄金の夜空と複数の光の柱を背景に生み出した神聖。
即ち、エルデンリングである。
エルデンリングは、遺剣を振るう獣の姿を象って次代の王に立ちふさがった。
その意図は、次代の王に対する試練のつもりなのか、大罪を犯したことに対する裁きなのか。
いずれにしろ、立ちふさがるなら倒してしまうのが俺達のやり方だった。
エルデンリングは聖属性の攻撃を振るい、時には遺剣を用いた光波や「黄金波」を放ってきた。
時には、獣自身も浮かび上空にエルデンリングの紋章を形成する、神秘的な景色すら解き放つ。
その一撃は、神々しくそして恐ろしい。
真に恐ろしいのは、そんな光ですら打ち倒す"放浪騎士の彼"なのかもしれないがな。
ああ、そうだ。
結局は、そのエルデンリングすら倒すことができた。
あれは、いわば神だ。
であれば、これは即ち神殺し。
放浪騎士の彼は、それを為して見せたんだ。
◆三「壊れかけのマリカ」
エルデの獣が消えた後の石舞台。
そこは黄金樹の内側だ。
先程のラダゴンの肉体が石化していることもあり、黄金樹の本質とは樹木ではなく石であるような印象を受ける。
そんな俺の仮説をさらに裏付けるかのように、その場には石化したような「壊れかけのマリカ」が鎮座していた。
「壊れかけのマリカ」の体はひび割れていて、その半身が砕けて尚も磔の体勢を崩さない。
磔そのものは解かれているというのに、腕が固定化されたかのように上へ伸びているんだ。
それに、壊れかけのマリカの首は取れている。
明らかに普通の生命の状態ではない。
女王マリカはマリケスに命じて「死のルーン」……俺が予想するところの「死の概念」を排除したと思われる。
その結果が、石としての生だったのだろうか……?
生命として刹那を生きることよりも、意志を出せずとも永遠を生きる在り方を選んだのだろうか?
答えは、もうわからない。
他方で、この「壊れかけのマリカ」は、次代の王にとって重要な役目を持つ。
「壊れかけのマリカ」に触れることで、エルデンリングを修復できるんだ。
これこそが、放浪騎士の彼の目的だった。
また、女王マリカにどの修復ルーンを用いるか、そもそも用いらないのか。
あるいはまったく異なるアプローチをかけるのか否かで、その後が大きく変わることとなる。
それこそが、次代の王の選択ということになるのさ。
放浪騎士の彼。
彼が、どのような選択をしたのか。
それについては、この手帳の上ではあえて記さない。
本来は狭間の地の真実を記すのが、この手帳の本懐だからな。
だから、この手帳はここまでだ。
◆四「最後に」
狭間の地の真実を暴く旅は、これにて一幕だ。
途中からは"放浪騎士の彼"という大きな縁にも恵まれ、ここまで来ることができた。
彼だけではない。
別時空で様々な情報を提供してくれた、数多の友人達にも一度礼を言わなければならない。
それから、この手帳を読んでくれた君達にもな。
俺にとってこの旅は、あの伝説の狭間の地の情報を整理するものであり、同時に狭間に隠された真実の一端を掴み取るものだ。
だがそれで明確な真実を得られた……などと酔うつもりはない。
記すべき情報を逃してしまったり、手帳の余白などの事情で記せないものもあったりしている。
俺の個人的なポリシーの都合で、放浪騎士の彼の王としての選択といった、あえて記していない情報も少なくない。
それが、この手帳だ。
これはあくまで真実のための糸口。
俺が掴んだ真実が、後世のみんなのためのヒントになってくれたなら、俺の意図としては十分なものだ。
エルデンリングは壊れてしまった。
故に狭間の地は壊れ、新たな王を求めた。
俺がいたのはそんな時代であり、その時代で得た知識・情報が、これまでとなる。
これからは、次代の王の選択が反映された新たな時代となる。
俺はそこで、変わらず新しい真実を探す旅に出る。
それはそれとして、彼の友人として色々やりたいと思っているがな。
彼の物語を歌にしたり、彼が王として伝えたい情報をしかるべきところに届けたり、今まで得た情報をもとに新しい物語を作ったり。
俺の本分は吟遊詩人だからな。
機会があれば、狭間の内外問わずこの世界のどこかで会えるかもな。
では、改めてこの手帳はここまでだ。
読んでくれてありがとうな。
『真実の探求者』トニー
これにて灰都ローデイル編終了です。
即ち「名もなき褪せ人の手記」そのものも区切り。
本来の予定であったリムグレイブ編10話からみて、かなり長い延長戦となりました。
おそらく自力ではここまで走ることはできなかったかと思います。
これもすべて、本作を応援くださった皆様のおかげです。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。