名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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六十三ページ目「黄金樹にて」

 

 

 

◆一「ラダゴン」

 

 拒絶の棘は、焼失していた。

 大罪を為す儀式は、確かに意味があったのだ。

 

 こうして俺達は、黄金樹の中に侵入することができた。

 いよいよ、あのエルデンリングを見ることができるんだ……!

 

 

 

 黄金樹に入ると、すぐまばゆい黄金の光に包まれた。

 それが晴れたかと思えば、俺達は「石舞台」に転移していた。

 

 その石舞台には、磔にされた永遠の女王マリカがいた。

 

 

 マリカは一言もしゃべらず、むしろ俺達の侵入と共に磔が解かれた勢いで地面に落下した。

 だがマリカは絶命することはなく、そのまま立ち上がった。

 

 一つの石槌をその手に、黄金色の髪を赤く染めて、女性体から男性の体へと姿を変えて。

 

 

 

 ラダゴンとはマリカである。

 即ち、リエーニエ戦役で活躍した赤髪の英雄「ラダゴン」の正体とは、マリカであった。

 

 故にこそ、マリカの体にはラダゴンの意志と力が宿っていた。

 

 

 

 即ち、黄金樹への侵入者の拒絶。

 ラダゴンは、次代の王である"放浪騎士の彼"を排除せんと立ちはだかってきたのだ。 

 

 その本質的な意図はわからない。

 俺達にできたことは、ただ降りかかる試練を突破することだけだからな。

 

 

 

 ラダゴンは、祈祷だけでなく魔術を修めた完全として有名だ。

 あるいはそのために、レアルカリアに向かったのかもな、

 故にラダゴンに縁深い「黄金律原理主義」の祈祷は、信仰だけでなく知力も必要とする。

 

 彼の理想には、信仰だけでなく魔術の知識も必要だったのだろう。

 

 

 

 だが俺が見たラダゴンに、その面影は見当たらない。

 ただただ黄金のルーンの力を、石槌と石化した肉体を通して振るうのみだ。

 

 彼はエルデンリングが砕けた際、女王マリカとして大いなる罰を受けたそうだ。

 先程の磔が、その一端だろう。

 その時に、ラダゴンの理想もまた壊れたかもしれないな。

 

 

 

◆二「エルデの獣」

 

 完全ではないラダゴンを倒すのは、意外に容易だった。

 だが、それで試練は終わりではなかった。

 

 突如として地面から黄金の怪物が現れ、神の遺体たる壊れたラダゴンを掴み取る。

 それを、如何なる術を用いたのか、骨と脊髄でできた「神の遺剣」を振るう獣が現れたのだ。

 

 

 

 後々に調べて分かったその名は「エルデの獣」。

 

 大いなる意志の眷属にして、律たる概念の具現。

 濃厚な星空をその身から放ち、黄金の夜空と複数の光の柱を背景に生み出した神聖。

 即ち、エルデンリングである。

 

 

 

 エルデンリングは、遺剣を振るう獣の姿を象って次代の王に立ちふさがった。

 その意図は、次代の王に対する試練のつもりなのか、大罪を犯したことに対する裁きなのか。

 いずれにしろ、立ちふさがるなら倒してしまうのが俺達のやり方だった。

 

 エルデンリングは聖属性の攻撃を振るい、時には遺剣を用いた光波や「黄金波」を放ってきた。

 時には、獣自身も浮かび上空にエルデンリングの紋章を形成する、神秘的な景色すら解き放つ。

 その一撃は、神々しくそして恐ろしい。

 

 

 

 真に恐ろしいのは、そんな光ですら打ち倒す"放浪騎士の彼"なのかもしれないがな。

 

 ああ、そうだ。

 結局は、そのエルデンリングすら倒すことができた。

 

 

 

 あれは、いわば神だ。

 であれば、これは即ち神殺し。

 

 放浪騎士の彼は、それを為して見せたんだ。

 

 

 

◆三「壊れかけのマリカ」

 

 エルデの獣が消えた後の石舞台。

 そこは黄金樹の内側だ。

 

 先程のラダゴンの肉体が石化していることもあり、黄金樹の本質とは樹木ではなく石であるような印象を受ける。

 

 

 そんな俺の仮説をさらに裏付けるかのように、その場には石化したような「壊れかけのマリカ」が鎮座していた。

 「壊れかけのマリカ」の体はひび割れていて、その半身が砕けて尚も磔の体勢を崩さない。

 磔そのものは解かれているというのに、腕が固定化されたかのように上へ伸びているんだ。

 

 それに、壊れかけのマリカの首は取れている。

 明らかに普通の生命の状態ではない。

 

 

 女王マリカはマリケスに命じて「死のルーン」……俺が予想するところの「死の概念」を排除したと思われる。

 その結果が、石としての生だったのだろうか……?

 

 生命として刹那を生きることよりも、意志を出せずとも永遠を生きる在り方を選んだのだろうか?

 答えは、もうわからない。

 

 

 

 他方で、この「壊れかけのマリカ」は、次代の王にとって重要な役目を持つ。

 「壊れかけのマリカ」に触れることで、エルデンリングを修復できるんだ。

 

 これこそが、放浪騎士の彼の目的だった。

 

 

 

 また、女王マリカにどの修復ルーンを用いるか、そもそも用いらないのか。

 あるいはまったく異なるアプローチをかけるのか否かで、その後が大きく変わることとなる。

 

 それこそが、次代の王の選択ということになるのさ。

 

 

 

 

 

 放浪騎士の彼。

 彼が、どのような選択をしたのか。

 

 それについては、この手帳の上ではあえて記さない。

 

 

 本来は狭間の地の真実を記すのが、この手帳の本懐だからな。

 だから、この手帳はここまでだ。

 

 

 

◆四「最後に」

 

 狭間の地の真実を暴く旅は、これにて一幕だ。

 途中からは"放浪騎士の彼"という大きな縁にも恵まれ、ここまで来ることができた。

 

 彼だけではない。

 別時空で様々な情報を提供してくれた、数多の友人達にも一度礼を言わなければならない。

 それから、この手帳を読んでくれた君達にもな。

 

 

 

 俺にとってこの旅は、あの伝説の狭間の地の情報を整理するものであり、同時に狭間に隠された真実の一端を掴み取るものだ。

 だがそれで明確な真実を得られた……などと酔うつもりはない。

 記すべき情報を逃してしまったり、手帳の余白などの事情で記せないものもあったりしている。

 俺の個人的なポリシーの都合で、放浪騎士の彼の王としての選択といった、あえて記していない情報も少なくない。

 

 それが、この手帳だ。

 これはあくまで真実のための糸口。

 俺が掴んだ真実が、後世のみんなのためのヒントになってくれたなら、俺の意図としては十分なものだ。

 

 

 

 エルデンリングは壊れてしまった。

 故に狭間の地は壊れ、新たな王を求めた。

 俺がいたのはそんな時代であり、その時代で得た知識・情報が、これまでとなる。

 

 これからは、次代の王の選択が反映された新たな時代となる。

 俺はそこで、変わらず新しい真実を探す旅に出る。

 

 

 

 それはそれとして、彼の友人として色々やりたいと思っているがな。

 彼の物語を歌にしたり、彼が王として伝えたい情報をしかるべきところに届けたり、今まで得た情報をもとに新しい物語を作ったり。

 俺の本分は吟遊詩人だからな。

 

 機会があれば、狭間の内外問わずこの世界のどこかで会えるかもな。

 

 

 

 では、改めてこの手帳はここまでだ。

 読んでくれてありがとうな。

 

 

 

 『真実の探求者』トニー

 

 

 




 これにて灰都ローデイル編終了です。
 即ち「名もなき褪せ人の手記」そのものも区切り。

 本来の予定であったリムグレイブ編10話からみて、かなり長い延長戦となりました。
 おそらく自力ではここまで走ることはできなかったかと思います。

 これもすべて、本作を応援くださった皆様のおかげです。
 ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
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