名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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七ページ目「リムグレイブ東部にて」

 

 

◆一「アギール湖」

 

 嵐の関門まで戻り、そこから南東へ行くと大きな湖が広がっている。

 

 アギール湖と呼ばれるその湖は、とある竜からとられた名だそうだ。

 つまり、その竜の縄張りなんだろうな。

 

 

 竜と言えば、数多のように存在する怪物達の中でも一際強力な存在だ。

 だからか、アギール湖近くで焚火を囲む褪せ人は、アギール湖へ近づかないように警告してくれた。

 

 一方で、そのアギール湖にはその竜を信奉する者達もいた。

 湖の中心で、大きな焚火を使った祭壇のようなものを作り上げて、しきりにアギールという竜の名を呼び続けていたんだ。

 色々調べた感じだと、どうやらアギールの吐きだす竜炎に焼かれて死ぬことを望んでいたらしいが……詳細は不明だ。

 

 個人的には、以前紹介した"死に生きる者たち"の件もあって、狭間の地においては"死"がかなり特別な概念なのではないかと睨んでいる。

 

 

 

 まぁ、当時の俺の目的はアギール湖の北にある坑道だ。

 とにかく鍛石を稼いで、装備を整えたかった。

 だから件の竜は、できるだけ刺激しないようにしておいた。

 

 

 

 

 そうそう、これは余談だが。

 アギール湖には、そのアギールによって破壊された建物が残っていた。

 やはりというか地下には宝箱があったんだが、今回は触らないでおいた。

 

 俺の、犬のように鋭い嗅覚が訴えてきたんだ。

 この宝箱は"外れ"だと。

 

 

 もしかしたら物語に登場するミミックのように飲み込まれるかもしれないからな。

 もしこの手記を読むものがいたら、あんたも宝箱には十分注意することだ。

 

 宝にこそ、罠は仕掛けられているもんだ。

 

 

 

◆二「魔術」

 

 珍しいものを手に入れた。

 スクロールだ。

 

 どうやら魔術学院レアルカリアの、特にその長たるカーリア王家にかかわるスクロールらしい。

 一度読んでみても難解すぎて読み解けなかったが、どうやら"魔術"についての知識が記されているようだ。

 

 

 魔術とは、杖を触媒にして発動できる不思議な力だ。

 ある意味では祈祷にも似ているが、本質はまるで別物だそうだ。

 

 俺が知る範囲では、祈祷は回復やそれに類するものが多い印象で、魔術は敵を遠距離から攻撃できるものが多い印象だ。

 まぁ本当に高度なものや特別なものなら、攻撃できる祈祷や補助に特化した魔術なども多いらしいから、これはあくまで素人からみた印象でしかないがな。

 

 

 

 で、だ。

 魔術とは師から教わるものだそうだ。

 だからスクロールを見つけた程度では魔術を扱えるに至らないらしい。

 

 一応円卓にも持ち寄ってみたが、読み解ける者はいなかったし、ましてや魔術の師となる者もいない。

 どうやら魔術もまた、俺とは縁がないらしい。

 

 

 

 だが、実はリムグレイブのどこかに魔術に詳しい者が隠れて住んでいると、後々から知った。

 少し信憑性がない筋からの情報だが、もしそんな者がいたなら、魔術についてより深く知ることができるのかもな。

 

 

 

◆三「第三マリカ教会」

 

 リムグレイブの東部に、アギール湖から東を記した地図があると知った。

 だからアギール湖を北上する道を使い、そのままリムグレイブ東部へと向かったわけだが、途中で不思議な廃墟と出会った。

 

 第三マリカ教会。

 どうやら他の教会とは大きく異なる性質を持つ、特別な教会らしい。

 

 曰く、永遠の女王マリカの言霊が残っているそうだが……その内容を知る術はない。

 知ることができれば、この狭間の地についてより深く知る手掛かりになると思うんだが、こればかりは仕方ない。

 

 

 

 他方で、魅力的なお宝とも出会えた。

 

 "霊薬の聖杯瓶"。

 教会奥の水盆に残っていたこれは、黄金樹の司祭たる霊薬師たちが遺したものだそうだ。

 どうやら"結晶雫"の力を引き出したものを霊薬として生み出し、それを服用することで効果が得られるそうだ。

 

 代表的な効果としては、同じ教会の水盆に残ってた"緋色の結晶雫"の効果だな。

 これを霊薬の聖杯瓶に配合すると、傷を癒す回復薬となる。

 

 

 勿論、これは氷山の一角でしかない。

 狭間の各地にある小黄金樹を探し出せば、似たような結晶雫を見つけることができるらしい。

 

 結晶雫が齎す効果は様々だ。

 各地の小黄金樹を巡り、結晶雫を集めれば、霊薬の聖杯瓶一つで色々な状況に対応できるようになるだろうな。

 

 

 

◆四「霧の森」

 

 第三マリカ教会を南下していくと、霧の深い森にたどり着いた。

 リムグレイブ東部の地図とその石碑が、森の中で放置されているのは、この辺りは軍事的な価値がさほどないからだろうか。

 まぁ、ケイリッドへ続く道はともかく、その南にあるこの一帯はハイト砦がある程度だからな。

 ましてや祝福が壊れた状態なんだ。

 こういうこともあるかもしれない。

 

 

 この一帯の特徴は、やはり先述した霧の森だな。

 中に入ると、昼間だというのに先が見えないほどに濃い霧が立ち込めてくる。

 

 森の中には巨大な熊の怪物や亜人の集団が潜んでいるから、探索には大いに注意が必要だろう。

 特に熊の怪物の中には、おそらくはルーンを大量に取り込んだであろう個体がいる。

 近づくべきではない。

 

 

 その他特筆すべきこととしては、地下世界にアクセスできる"井戸"があるらしいことだな。

 どうやら狭間の地の下には、広大な地下世界が広がっているらしい。

 今回は霧に阻まれて縁がなかったが、機会があればそちらの情報も探りたいところだ。

 

 他方で、霧の森の中にある小黄金樹の恩恵には恵まれた。

 霊薬の聖杯瓶に使える結晶雫が、麓の水盆にて残されていたからな。

 ありがたく拝借して、これからの旅に役立てることにしよう。

 

 

 それ以降に大したことはないな。

 森の向こうで、放浪商人の焚火と品にありつけたことと、後は何やら狂った兵士達が占領するハイト砦があるだけだ。

 

 このハイト砦は、霧の森を監視する役割があるものと思われる。

 それから、意外と広い抜け道が存在することからリムグレイブ南方"啜り泣きの半島"への道も監視対象と思われる。

 もしかしたら、一番南にあるモーンの城との中継地点としての役割も期待して造られたのかもな。

 あぁそうそう、どうやらハイト砦の奥には特別な宝が眠っているそうだから、それを護る意図も考えられる。

 

 

 まぁ祝福が壊れた今、これらの考察が正しいかどうかを諮る材料はない。

 俺にできるのは、その"啜り泣きの半島"に向かい、新たな情報を探ることだけ。

 

 次は、啜り泣きの半島で得られた情報を記そうと思う。

 

 

 

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