◆五「ヤーナムの王、ヤーナム」
ヤーナム。
これは火の時代と異なる時代、あるいは世界に存在する都市の名前だ。
とりわけ文明が進んだ時代に存在する都市であることで、機械や銃とやらが発達しているらしい。
都市としての特徴は、血の医療なるものが目玉商品であることだな。
その力で、ヤーナムは都市として栄えるに至ったらしい。
その代わり、病が蔓延する呪われた場所としても有名だったようだな。
他方で、ヤーナムという言葉にはもう一つ意味がある。
トゥメルの女王、ヤーナム。
医療都市ヤーナムが成立する前、トゥメルなる文明がその地に存在した。
その女王の名が「ヤーナム」であるらしい。
この女王の名前が、医療都市ヤーナムの名の由来であると推測できる。
女王ヤーナムについての情報はあまり多くない。
前述通り、トゥメルなる文明の女王であること。
赤子を腹に宿した妊婦であったこと。
両手に枷を嵌められ、幽閉される立場に陥られていたこと。
腹を割かれて、赤子を奪われたこと。
文明が変わった後の医療都市に、何らかの影響を及ぼしていたこと。
このぐらいだな。
おそらくは偉業を成し遂げた類の王ではない。
だが、赤子を奪われ悲劇に陥れられた女王は、後年呪いをまき散らす悪霊の類へと変化したらしい。
それは魔術か祈祷か、あるいはそれに似て非なる呪術が根拠の所業かもな。
いずれにしろ、女王ヤーナムが発した呪いは、トゥメル文明の後に築かれた医療都市にも大きな影響を及ぼした。
即ち、医療都市ヤーナムは女王ヤーナムの呪いが基点の都市と言えるわけだ。
なんせ"病が蔓延する呪われた場所"だからな……何らかの関係性は見出せそうだ。
この話を聞いた上での所感は、女王ヤーナムは"赤子"の存在がキーとなる王というものだ。
何らかの理由で赤子を狙われ、幽閉されて赤子を奪われた。
そのためか後年ヤーナムは悪霊の類へと至り、文明が変わった後の都市にも影響を及ぼした。
土地への影響力という点では、ヤーナムは今回ピックアップするに値する人物だ。
が、その本質は赤子の方にこそ隠されているのかもな。
◆六「葦名の王、葦名一心」
土地と王の名前が共通しているケースは、極東にも見られる。
葦名。
海を越えた極東の国、その特に戦国時代末期と呼ばれた時期に存在するという和の国だ。
そして同時に、その国を統治していた盟主一族の名でもある。
狭間の地でよく聞く「葦の地」との関連性は不明。
名前が間違って伝わった同じ国か、似て非なる別の国かは、その実判然としていないのが現状だ。
土地としての葦名だが、険しく切り立った雪山と深い渓谷に囲まれた雪国なのが前提だ。
それ故に厳しい寒さが特徴で、一方で切り立った山脈が齎す高低差による地の利としての高い防御力を誇る。
とりわけ特徴的なのが「水」で、その国の代表的な食糧「米」を美味しく作る秘密が、この葦名に流れる源からの水に隠されている。
この国で作られる、特に「竜泉」という米から作られる酒の味が、葦名の水の質を物語るとされるな。
そんな魅力的な土地故に、この葦名の地は狙われ蹂躙される歴史を持つ。
その国の本来の民は、服従を強いられたという。
だが戦国時代という世の乱れが、本来の民に立ち上がるチャンスを与えた。
そして彼らは見事国を盗り返して見せた。
そうして成立したのが、ここで語られる葦名の国だ。
実際に葦名の地を盗り返し、葦名の国を建国したとされる立役者は「葦名一心」だ。
名の由来は……まぁ詳細こそわかりきってはいないが……おおよそ察しはつくだろう。
葦名一心は、前述通り葦名の本来の民だ。
長い服従に耐え、世の乱れに乗じて立ち上がり、敵から葦名の地を奪い返した英雄だ。
それ以後は統治者として内政に取り組んだとされ、老境に差し掛かる頃には孫にして後継者「葦名弦一郎」に第一線を任せたという。
だが二十余年という短い繁栄の末、葦名の国は滅ぶこととなる。
直接の原因は、内府という強大すぎる勢力に土地と国を狙われたこと。
その一大勢力を退けるには、老境に至ると同時に患った病が邪魔をした。
彼が病で死亡して間もなく、国は内府に蹂躙されたという。
勿論孫の弦一郎はこの事態を打破するべく暗中模索を続けていたが、最終的に至った結論は葦名一心を儀式の類で蘇らせるという、一心に依存したものだったという。
だが個人でできることに限界はあり、それは復活した一心でも例外ではなかった。
結局、滅びの運命は覆らなかったようだな。
葦名一心の邁進により葦名国は成立し、葦名一心の死亡により葦名国は滅んだ。
葦名の国は一心というただ個人の力でのみ成立した、儚い夢のような国だった。
◆七「狭間の王、マリカ」
さて、最後に狭間の地と女王マリカについてまとめよう。
悪いが、"放浪騎士の彼"や別件で聞いた"夜の王"については割愛させてもらう。
理由はいずれも、ここに記すだけの情報が少ないためだ。とくに前者については、まだ時代の途中だからな。
改めて。
狭間の地とは、黄金樹によって祝福された地だ。
より厳密には、黄金樹は永遠の昔から存在していたわけではなく、それ以前の狭間の地も当然存在するが、今回はあえて取り上げない。
そういうわけで、黄金樹には始まりというものがあり、そこに女王マリカの偉業が関連する。
マリカはもともと狭間の外で生まれた存在だが、その時は虐げられる側の立場だったようだ。
だがある時大いなる意志に神として選ばれ、自らやその同胞を虐げた者達へ復讐を試みた。
あるいは復讐が先にあって、その意志が評価されたから神へ至ったのか、単にその手段として神となったか……ここについての詳細はない。
いずれにしろ、人としてのマリカは復讐の念に囚われて活動していたようだ。
その復讐と関係があるのか、いずれマリカは黄金樹と王都ローデイルを生み出す。
その時代の黄金樹は、すべてが敵である。
故にマリカは、配偶者となるエルデの王と共にすべての敵を撃ち滅ぼす戦へと出かけ、おそらくその目論見は達成された。
その偉業のどこまでが復讐で、どこからが復讐とは別の意図がだったのかは、まるで判然としないがな。
大いなる意志に選ばれた事実を思うと、もしかしたら彼女とは別の意志に基づいて活動したのかもしれない。
ともあれ、いずれ黄金樹は狭間の絶対となった。
だが、マリカは黄金樹の祝福の破壊を試みた。
それが、祝福の壊れた狭間の景色が生み出される直接の原因だ。
なぜマリカがそのような凶行に至ったのか。
それも不明だ。
陰謀の夜による事件が無関係とは思えないが、その実確実な情報は驚くほど少ないのが現状だ。
だが興味深い一説として、大いなる意志に叛逆を試みたという説がある。
あるいは、この情報に何か真実が隠されているのかもな。
個人的な所感だが、マリカは巫女のような王というものだな。
もしくは、巫女に向いていない王であるとも。
大いなる意志に選ばれて活動した事実を思うと、王としての彼女の本質は"代弁者"のようだ。
巨人戦争やリエーニエ戦役における主役も、彼女ではなく彼女の配偶者となる戦士が担うしな。
それに、褪せ人がエルデンリングを修復する場合は、マリカの亡骸というべきものが重要な役目を果たすことも無視できない。
そしてそれらいずれにおいても、大いなる意志の意向が影響していることは言うまでもない。
即ち、黄金樹の繁栄のため、女王マリカは利用されていたんだ。
だが、マリカは大いなる意志と意見を異にしていた形跡が存在する。
そのすれ違いが、狭間に大規模な悲劇を齎したのだろう。
◆「終わりに」
さて、土地と王をテーマにした記述は以上となる。
それぞれ大きく異なる歴史と偉業があり、大きく異なる意思と力があり、大きく異なる世界と景色が作られた。
その立役者である王達を纏められたのは、実に幸運だ。
ただし、今回の記述においてはかなり文系的な視点に終始してしまったところがある。
土地をセットに扱うなら、地政学的な知識と視点がとても重要になるのだが……どうやらそちらの才能は、からっきしのようだ。
これはそもそも筆者であるこの俺が吟遊詩人……つまり第一に物語をとり扱うという職業病に由来するものなんだろうな。
だから、より正確なデータが欲しければ、そちらのプロに尋ねるのが一番いいってわけだな。
逆に言えば、物語を作る上でのヒントとしてなら、簡単にではあるが、何とか纏められたと思う。
それは「はじめに」の項目でも触れた今回の趣旨となる目的に沿うものであり、その目的は達成されたものであると俺は考えている。
物語の世界を作るなら、まずは景色を作ってみるものだ。
景色とは土地に基づいて作られるものであり、その土地に人がいるなら、その人を纏める王や統治者がいるのは必然だ。
そして王や統治者が齎す影響力は、その人という枠組みの中では最も大きいもので、転じて人が齎す土地への影響力の大半は王や統治者が握ることとなる。
その逆もしかり、だ。
つまり、土地の景色や歴史を考えるなら、王の存在をセットに考えるのがベストだろうという話だな。
逆に言えば、それぞれの土地の性質や気候から王や国の動きを逆算することができれば、それは現実世界で通用する地政学まであと一歩だ。
その才能を持たない自身の蒙昧ぶりには失望しかないが……まぁ、やれることをやるしかない。
改めて、今回は以上だ。
今回の情報が、今後の物語や誰かの一助になることを願う。
『真実の探求者』トニー