→今回は三話構成
・諸々の事情で今回は一話ごとのサブタイトルはオミットです。ご容赦ください
狭間の外で、王の如き蛇に挑んだ戦士がいた。
これは、その戦士が遺した剣の物語だ。
◆
狭間の新生を見届けた後。
俺は狭間の外で、東に向けて旅をしていた。
その道中で「蛇と岩の街」に立ち寄った。
「蛇と岩の街」は、岩と山脈に囲まれた街だ。
そもそもが火山地帯の奥深くにある場所で、大昔の噴火による火山灰などが固まって地形を形成しているようだ。
場所によって「土柱」と呼ばれる、さながら岩でできた煙突のような奇岩群があったりする。
何千年もの年月をかけて雨風によって作られたものらしいのだから、自然ってのはすごいもんだ。
文献や話す人によっては、妖精の仕業ともいうらしいがな。
だがそういう場所は、なかなか平らな土地というものに恵まれないものだ。
だからか、ここの住民は岩肌を掘ってはその中に民家や施設を造り上げている。
まさしく自然と一体化している街だ。
狭間という魔境を経験した身でも、この景色にはなかなか驚かされた。
さて。
そんな「蛇と岩の街」の街並みから見上げると、一際大きな岩肌に教会が建てられているのが見えた。
「蛇教会」だ。
「蛇教会」は、「蛇と岩の街」を実質的に支配している宗教組織だ。
どうやら"蛇神"を祀っているのがその名の由来であるようだ。
中央の教会とは一定の距離を保っている組織らしいが、それだけにこの街においては医療を司っているらしい。
そして教会らしく墓場の扱いにも一家言あるようであり、かなり広大な無縁墓地を有しているとのこと。
色々探りがいがありそうだ。
早速「蛇教会」を訪れて取材を申し込んだ。
が、断られてしまった。
二日後に「祭り」があるためらしい。
◆
早速うまい肉料理の店を見つけたぜ。
壺で蒸し焼きにされた羊肉が絶品だった。
この辺りは比較的乾いた気候で、前述通り平らな土地に恵まれていない。
つまり農業には向かない場所だ。
まともに栽培しているのはブドウぐらいで、辛うじて麦やかぼちゃも栽培しているそうだが、住民の腹を満たすほどとはいかない。
だからまぁ、この場所の農業が齎す恩恵は美味しいワインが殆どってわけだ。
うまかったぜ。壺ケバブとの相性がばつぐんだ。
……とまぁ、そういうわけで。
この街では家畜がメインであるらしい。
基本は羊を飼っているが、鳥小屋を備えて肥料をこしらえてもいるらしい。
岩肌をくりぬいて作ったもののいくつかが、鳥小屋として使っているとのこと。
火山地帯では、そうやってやりくりしているらしい。
狭間のゲルミア火山も、そうしていたのかもな。
他方で。
少しよろしくない話も、酒場で聞いた。
どうにもこの「蛇と岩の街」では、風土病が流行っているらしい。
具体的な症状はわからない。
ただ、毎年のようにこの時期に多くの人が病死する。
病の兆候が見られたとき、蛇教会から迎えがきて治療してくれるらしい。
万一治療が間に合わなかったとしても、すぐ墓を用意してくれるとのこと。
それで不必要な感染を防いでいるそうだ。
酒場の主はこういっていた。
「はやく街を出た方がいい」
それは善意の言葉ではあるのだろう。
だが俺は、蛇教会や住民が隠す「祭り」について気になって仕方ない。
「祭り」とはこの風土病の罹患者を集めて祈祷を捧げる儀式とされていて、「蛇教会」はそれを主催する組織である。
個人的には、この祈祷の部分が気になっている。
だが、何故か誰も「蛇教会」や「祭り」の詳細を語ろうとしないのだ。
◆
この日の宿は、酒場二階の部屋だ。
宿泊施設も兼ねていた。
酒場にも同じことが言えるが、洞窟をくりぬいて作った部屋であるようで、むきだしの岩の壁と天井が特徴的だ。
ざらざらした質感で最初は驚いたが、これもまた旅の醍醐味ってもんだ。
狭間は円卓以外の殆どが廃墟だったからな……屋根があって綺麗な部屋というだけでありがたいよ。
それと、今のうちに夜景についても記しておこうか。
暗い夜に沈む山岳地帯を、大きな岩の教会の灯りが淡く照らしている。
ロウソクか何かを使って照らしているんだろうが、この蜂蜜色の光は中々にきれいなものだ。
冷たい夜と暖かい灯りの組み合わせもまた、狭間では見られない、文明そのものの活気を感じさせるいい景色だ。
松明やランタンを使って行動している者もいるらしい。
灯りの中には動いているものもある。
どうやら「蛇教会」の密使であるらしい。
密使とは、秘密の使命を背負う使者のこと。
ここ最近は"教会の使い"という意味で使われる場合が多いな。
狭間では、二本指の教えを伝える教会の密使が多かった。
そしてこの「蛇と岩の街」は、「蛇教会」の手の者が多い。
「蛇教会」の密使の、主な役目は一つ。
風土病の感染者を"保護"すること。
奴らの狙いは俺だ。
コイントスをしたんだ。
物理的なものではなく、比喩的なものだ。
「この街から離れた方がいい」と忠告してくれた酒場の主人の心理を読み取るためのもの。
明確な根拠はなかったが、俺はコイントスに成功した。
酒場の主人は、食後に連泊を申し込んだ俺に対して敵意を抱いていた。
後は、身を隠して聞き耳を立てるだけ。
奴は俺を指して「風土病の罹患者がいる」と、誰かに密告していた。
面白くなってきた。
秘密ってのはいつだって甘いものだ。
必死になって隠す者がいるなら、なおさらだ。
宿代は無駄になったが、代わりにいい情報を得られた。
この街と「蛇教会」には、秘密がある!
◆
とはいえ、状況は芳しくない。
敵の数はかなり多いし、狭間の要領で戦闘を繰り返せば後々が面倒だ。
ひとまずは逃げて身を隠すしかない。
まずは宿から脱出だ。
荷物は最初からまとめていたから、すぐ誰にも見られないよう裏口から宿を出た。
そうしたら何人かの足音が聞こえてきて、すぐ身を隠した。
「蛇教会」の密使達のもので、割と間一髪の脱出だったことを悟らされた。
まったくもってたまらないスリルだ。
幸いやり過ごすことはできたが、程なくして宿の方が騒がしくなってきた。
俺が逃げたのがばれたんだろうな。
どんどん騒がしくなって、夜の街を駆ける密使の数が増えてきた。
やけに"必死"だ。
「蛇教会」はよほど探られたくない秘密があるらしい。
やっぱり噂の「祭り」がキーだろうな。
なんとしてでも二日後の「祭り」に参加したい。
"罹患者"としてではなく、より確実に情報を探れる立場としてな。
だが、状況は刻一刻と悪化していく。
最終的に、密使の部隊に囲まれちまった。
応戦は無し。
だがその場から抜け出して逃走するなら、何かひと工夫がいる。
業腹だが、祈祷「黒炎の儀式」を使って奴らの目を誤魔化した。
「黒炎の儀式」は、術者の周囲に黒炎の柱を複数燃え上がらせる祈祷だ。
比較的広範囲に黒炎を燃やすもので、対多数における目くらましにはぴったりというわけだ。
悪目立ちしてしまったが、その場を切り抜けるために必要な行動だった。
実際、その場は何とかなったしな。
……それに、俺の黒炎は意外な奇縁を呼んでくれた。
密使の部隊から振り切った後、路地裏の影から"協力者"が現れたんだ。
そいつは、俺を匿ってくれると言うんだ。
俺の信用を得るためだろう。
"協力者"は、すぐ姿を見せてくれた。
そいつは、滑らかな皮膚を縫い合わせたフードとローブを身に纏っていた。
七面の前掛けを飾った、独特の装束だ。
そしてその手には、とても特徴的な重刺剣を携えていた。
神肌縫いだ。
……そう。
俺を匿ってくれるというこの"協力者"は、狭間で何度も敵対したあの「神肌の貴種」だったんだ。