名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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 今回最新作要素あります。程度としてはちょっと名前が出るだけですが、その点だけご注意ください。


蛇と岩の街【2】

 

 

 

 洞窟部屋で目覚める朝はいいもんだ。

 最初に連泊しようとした宿と違い、安全であるのがいい。

 

 

 

 この部屋は、"協力者"が用意してくれたもの。

 「分派神肌」の拠点だ。

 

 

 

 

 分派神肌。

 主に狭間の外で活動している神肌勢力で、その最大の特徴は"聖典"を失っていること。

 

 要するに、本家神肌の出自や目的を一切把握していない神肌勢力だ。

 神肌由来の祈祷や武具を扱えるが、逆に言えばそれだけ。

 故に本家とは行動を別にしており、そして互いに敵対している。

 

 

 

 もっとわかりやすく言うなら「相対的に話が通じる神肌勢力」ってところだな。

 その代わり「神肌の真実を一切把握していない」わけだ。

 

 

 

 

 

 俺を助けてくれた神肌の貴種は、まさしくこの分派神肌の所属だ。

 他にも同じ分派所属の「神肌の使徒」が一人いて、二人で「蛇と岩の街」に潜伏しているようだ。

 

 この街における分派神肌の目的は"攫われた王の娘を救出"することらしい。

 この娘とは、分派神肌の王の娘であるらしく、なんとしてでも「蛇教会」から奪還したいそうだ。

 

 

 つまり「分派神肌」と「蛇教会」は敵対関係ということだ。

 

 

 

 

 

 ただし分派神肌は人員不足だ。

 街にいるまともな戦力は貴種と使徒の二人だけ。

 

 だから二人は、作戦に間に合わないリスクを承知で近くの本拠地に援軍を要請した。

 俺を助けてくれたのは、俺がとっさに発動した「黒炎の儀式」を見たことで、分派神肌の援軍と勘違いしたからだそうだ。

 

 

 

 

 俺はただ単に狭間で神肌の祈祷を学んだだけで、分派神肌とは無関係。

 だが彼らと敵対する「蛇教会」の情報を探りたい立場だ。

 

 つまり利害は一致している。

 

 

 

 

 この辺りの事情をすり合わせた結果、俺と分派神肌は共闘関係となった。

 俺が分派神肌ではないにもかかわらず、その拠点の部屋を借りることができたのはこれが理由だ。

 

 

 

 

 分派神肌は「蛇教会」と敵対している。

 そのため、俺は分派神肌と共闘することとなった。

 

 

 当面は分派神肌側の目的である、"王の娘の救出"のために動く。

 彼らを助けつつ、蛇教会側の情報入手を狙うのが俺の目的だな。

 

 

 

 

 肝心の王の娘だが、どこに囚われているかはわからない。

 だが、おそらく「祭り」の際に蛇神に捧げられることは、分派神肌側の調査で判明している。

 

 故に「祭り」を襲撃し、そのどさくさに紛れて王の娘を救出するのが作戦となる。

 

 

 

 

 

 「蛇教会」側の目的は、王の娘を蛇神へ捧げること。

 つまり生贄だ。

 

 

 元来、この土地に根差す「蛇神」とは強欲な生き物であったらしい。

 

 当初は人間が差し出す羊や宝石で満足していたそうだが、次第に人を求めるようになった。

 一時は人間による蛇狩りを試みたようだが、実際に蛇に挑んだ戦士は返り討ちにあった。

 以降、蛇への生贄文化が今日まで続くようになってしまったそうだ。

 

 

 酒場で聞いたこの街の風土病とは、これを隠すためのブラフであるという。

 

 そして件の「祭り」とは、蛇に生贄を捧げるための儀式。

 故に「祭り」こそが王の娘を救い出す唯一のチャンスなのさ。

 

 

 

 

 

 ただし、実際の救出作戦ではその「蛇神」との接敵・戦闘が想定される。

 もし本当に戦うことになったら、それはとんでもない脅威だ。

 

 そのため、分派神肌は専用の武器を用意していた。

 

 

 

 

 「魔剣アスカロン」

 

 そう銘打たれたファルシオンは、もともと前述したかつて蛇神に挑んだとある戦士の遺品であるらしい。

 元来は嵐にちなんだ聖剣であり、故に時には別の名で呼ばれていた。

 "ストームルーラー"と。

 

 だが現在のこれは、蛇神に敗れたかつての主の無念を引き継いだ、復讐の魔剣だ。

 だから分派神肌の祝福を受け入れ、手段を択ばず蛇神を滅ぼす邪剣と化した。

 

 

 

 その効能は、一度だけ"黒炎の嵐"を解き放つというもの。

 これを蛇神に当ててしまえば、それだけで決定打になるという。

 

 

 

 

 

 本来は援軍に託す予定の武器で、作戦に間に合わなかった場合は自分達で使う予定だったらしい。

 だが使い慣れた武器を使えるならそれに越したことはないとのこと。

 

 だから、俺がこの武器を使うこととなった。

 

 

 

 

 翌日。

 俺達は商人に扮して街に出た。

 

 分派神肌は入念に準備して「蛇と岩の街」に潜入しており、その一環として"秤を持った商人"として振舞っているのだ。

 ……なんでも狭間の放浪商人に似た掟を持つ存在らしく、「蛇教会」の密使といえどそう簡単に手を出そうとしないそうだ。

 個人的にはとても不穏な気配を感じてならないが、今回ばかりはその恩恵に与ることとした。

 

 

 

 

 この日は「蛇教会」の聖堂から行列が伸びていた。

 その行列の中心は、これから蛇神に身を捧げる生贄が殆どだ。

 

 その中に、分派神肌の王の娘がいる。

 彼女が救出対象だ。

 

 

 

 

 

 まず分派神肌の使徒が動き出す。

 彼が"秤を持った商人"の姿のまま、黒炎を密使どもへ投げつける。

 

 密使達は"秤を持った商人"の怒りを買ってしまったのかと混乱した。

 その混乱を突き、分派神肌の貴種が救出に向かう。

 

 

 

 だが、密使の一部が立ちふさがる。

 こいつらは、恐ろしいことに狂い火を使ってきた。

 

 分派神肌と"秤を持った商人"の間で交わされた取引によるものらしい。

 一時的に"秤を持った商人"のネームバリューを使える代わり、敵方にも狂い火の恩恵が齎されるのだそうだ。

 故に、奴らはもう人ではなくなっている。

 

 

 

 事前に聞かされていたこととはいえ、俺としてはたまったもんじゃない。

 殺すべき狂い火の亡者をできるだけ早く選び、黒炎で燃やしていく。

 

 

 敵の数が多いのが厄介だったが、分派神肌の貴種が助けてくれた。

 彼が大きな「黒炎の儀式」を展開し、そのうちの安全地帯から狙いをつけて黒炎を投げる。

 それでも近づく亡者に対しては、貴種の神肌縫いが活躍する。

 

 狭間では結構苦しめられた相手だったが、味方にするととても頼もしいものだったよ。

 実際に話してみると、結構きさくで酒の趣味が合う性格だったしな。

 

 

 

 

 その甲斐あって、分派神肌の王の娘は無事救出できたよ。

 俺達が密使達の相手をしている間に、分派神肌の使徒が手柄をあげた。

 

 

 

 

 分派神肌の目的は果たされた。

 だが、まだ終わっていない。

 

 

 騒ぎを聞きつけたのか、案の定怪物が出てきた。

 

 「蛇教会」が祀り、実質的に「蛇と岩の街」の王というべき君臨者。

 "蛇神"だ。

 

 

 

 

 蛇神は、大きな岩肌を壊すようにして現れた。

 見上げるような巨躯に、足元には緑色に蠢く毒をまき散らして沼と化している。

 

 肉弾戦はできそうにない。

 

 

 

 

 だが、だからこそ。

 分派神肌の備えが効く。

 

 

 

 魔剣アスカロン。

 

 こいつを水平に構えて、刀身に眠る力と同調していく。

 それは刀身に宿る嵐の力を呼び起こすための儀式であり、そして分派神肌が施した黒炎の祝福を重ねるための術。

 嵐と黒炎が刀身から吹き出した時が、戦技の使い時だ。

 

 

 

 黒い嵐を纏う重いファルシオンを振り上げ、まっすぐ蛇神へ見据える。

 その脳天めがけて、魔剣アスカロンを振り下ろす。

 

 それだけで戦技は放たれ、巨大な黒炎の嵐が刃となって蛇神を襲う。

 

 

 

 かつての戦いが、黒炎を纏いながらもその場に再演されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔剣アスカロンが放つ、黒炎の嵐。

 それは蛇神の巨体を激しく切り裂き、その命を蝕む。

 

 神肌の黒炎は重い炎であり、命を細かく削り続ける。

 蛇神にとっても、その痛みは絶大な筈だ。

 

 

 

 だが。

 それだけで倒せるほど、蛇神は甘い存在ではなかったらしい。

 

 魔剣アスカロンの、一度限りの黒炎の嵐。

 これを受けてなお、蛇神はいまだ健在だった。

 

 

 




 次回、番外編最終話



 ・分派神肌の貴種
 相対的に話が通じるタイプの「神肌の貴種」。所謂デブの方。当然狭間個体とは別個体。
 うまい酒が好き。うまい肉も好き。でも自分の服は嫌い。正装だから着てるだけで、不気味な顔ついてるデザインとかは全く好きになれない。
 拠点の自室では普通のローブを着てる。趣味は意外と編み物。よく自分用にあみあみしてる。



 ・分派神肌の使徒
 相対的に話が通じるタイプの「神肌の使徒」。所謂ガリの方。当然狭間個体とは別個体。
 貴種は色々豪快なのに対して、こっちは寡黙。趣味は剥製作り。ここ最近ルーンベアの剥製を作って自室に飾った。
 一方で所属勢力から支給された服のことは普通に嫌い。
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