名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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 ・番外編最終話です


蛇と岩の街【3】

 

 

 

 魔剣アスカロンの絶大な一撃を喰らってなお、蛇神は健在だった。

 

 魔剣が齎す黒炎の嵐は、一度きりのものだ。

 二度目はない。

 

 

 

 かつて蛇に挑んだ戦士が敗れたのも、今にして思えばこれが理由だったかもしれない。

 

 きっと当時も、何らかの理由でアスカロンが真価を発揮できたのは一度きりだったのだろう。

 だが蛇神という脅威を倒すなら、アスカロンだけでは届かない。

 聖剣で蛇神の生命力を削ってなお、さらに責め立てる必要がある。

 

 

 

 ここからが、本当の蛇神狩りだ。

 

 

 

◆

 

 俺が考える限り、蛇神とは"竜"だ。

 

 種族として竜の末裔だ……という話ではなく「蛇神には、竜を倒すための心得が有効だ」って話だ。

 つまり近接武器ではなく、遠距離攻撃を用いるべきである。

 

 

 

 これは、ファルム・アズラで会った褪せ人が教えてくれた戦い方だ。

 竜のような怪物を倒すなら、離れた敵を攻撃できる"魔術"や"祈祷"が有効なんだ。

 

 

 

 

 

 早速分派神肌の貴種が黒炎を投げてくれた。

 もともと魔剣アスカロンが通じなかった際は、祈祷などで勝負を仕掛ける作戦だったのさ。

 

 だが、蛇神に黒炎は効かなかった。

 黒炎特有の命を削る力は有効だったが、炎としての力は一切通じなかった。

 蛇神を倒しきるなら、他の手段がいる。

 

 

 

 

 次は祈祷「雷の槍」を試した。

 王都古竜信仰に由来する雷の祈祷であり、狭間から愛用するものの一つ。

 

 こいつは有効だった。

 蛇神は炎に対して強い耐性があり、一方で雷には相対的に耐性がないようだ。

 これなら"あの手"が使える。

 

 

 

 

 今度は蛇神が動き出す。

 蛇神はその巨躯を活かした咬みつき攻撃を仕掛けて来たんだ。

 

 奴の牙は恐ろしく鋭いものだが、それ以上にその巨躯が厄介だ。

 思った以上の素早さで飲み込まれそうになるし、その動きの余波で建物が崩れるほどの衝撃が走る。

 

 

 幸い俺達は無事回避できたが、蛇神の出現で混乱していた密使達が犠牲になった。

 たまたまにしてはかなりの幸運だが、きっと次に犠牲になるのは俺達だ。

 あまり悠長にしている暇はない。

 

 

 

 

 分派神肌の貴種は再び黒炎だ。

 黒炎はあまり有効ではないが、それでもできるだけ命を削ってくれた。

 決定打にはならなくとも、少しずつ勝利が近づいた。

 

 一方で分派神肌の使徒は、もうすでに離脱している。

 彼については、救出対象の王の娘を優先しているからな。

 

 

 

 

 だから、この「氷結壺」が勝負の鍵だ。

 

 

 

◆

 

 氷結壺。

 儀式壺を使った製作アイテム。

 

 これはカーリアの王女ラニに由来する投擲物で、強力な冷気の力を宿す。

 この壺をぶつけられた敵は、ほぼ確実に"凍傷"となる。

 

 

 本来俺には縁のなかった代物だ。

 だが俺には縁がなくとも、俺の友人には縁があるアイテムでな。

 快く情報共有してくれた。

 備えとして、わずかだが材料も譲ってくれた。

 

 

 

 前述通り氷結壺は"凍傷"のための投擲物だ。

 この手の状態異常効果もまた、竜のような怪物に非常に有効である……そう、ファルム・アズラで出会った褪せ人が教えてくれた。

 

 だから予め、魔剣アスカロンが通じなかった時の切り札として事前に製作していた。

 

 

 

 

 

 そしてその凍傷は、蛇神に効いた。

 彼らとの縁が運んでくれた知見は、俺を助けてくれた!

 

 

 

 

 

 蛇神は凍傷に苦しんでいる。

 強力な冷気で体が冷えて、一気に生命力が壊死している。

 

 それだけにその反撃は恐ろしいもの。

 が、分派神肌の貴種がその巨体を活かしていなしてくれた。

 

 

 

 後は、祈祷「雷の槍」で追撃するだけ。

 凍傷で苦しむ敵は、より大きなダメージを患う。

 この雷の槍はよく効いたことだろう。

 

 

 

 

 

 それでも蛇神はまだ命尽きてはいなかった。

 その巨大な頭部こそ地面に沈み込んだが、まだ息がある。

 

 

 最後は、魔剣アスカロンでトドメを刺したよ。

 黒炎の嵐の力こそ失われていたが、この魔剣はかつての復讐を果たした。

 

 

 

◆

 

 かくして「蛇教会」の「祭り」は終わりを告げた。

 蛇神へ生贄を捧げる儀式は、しかして失敗に終わった。

 

 

 後は分派神肌と一緒に街を脱出するだけ。

 俺は「蛇教会」と「祭り」について一定の情報を得て、分派神肌も王の娘の救出が叶った。

 十分目的は達成できた。

 

 

 

 街は混乱に満ちていて、存外簡単に脱出できたよ。

 あれだけの騒ぎを起こしたのはちと後々が面倒そうではあるが、そこは分派神肌の方でうまく根回ししているようだ。

 今回の報酬の一環として、俺も根回しの恩恵に与れる。

 

 「蛇と岩の街」は根回しにより中央の教会によって粛清され、故に街への行いが咎められることはない。

 実にありがたい限りだった。

 

 

 

 分派神肌の二人とは円満に別れて、それぞれの旅に戻った。

 これでこの話は終わりだ。

 

 

 

 

 

 蛇神。

 「蛇と岩の街」の実質的な"王"というべきこの怪物は、しかしその出自までは調べ切れていない。

 だが、かつて人間の戦士と勝負し、その戦いに勝った……それがきっかけで街の実質的な"王"へと至ったことはわかった。

 この勝利と繁栄は奴にとって心地よいものであり、故に「蛇と岩の街」は奴の生贄を調達する"狩猟小屋"と化したが、それが永遠に続くことはなかった。

 

 かつての戦士が遺したアスカロン。

 この剣だけが後世に残り、そしてかつての復讐を成し遂げた。

 これ一振りだけでは蛇神を殺しきれなかっただけで、この剣はずっとかつての主を想い、その無念を晴らすに至ったんだ。

 

 

 

 真実は一つじゃない。

 物事の解釈はいくらでもできるもんなんだが、こいつに関してはこれが一番ロマンチックで好みだな。

 

 俺は「蛇と岩の街」で、蛇神と剣の物語を見ることができた。

 とても有意義で楽しい旅だったよ。

 

 

 

 

 さて。

 改めて今回は以上だ。

 

 この世界には狭間の内外問わず面白い物語が眠っている。

 俺が垣間見たのは氷山の一角でしかなく、故に探求の旅は終わらない。

 

 

 命の限り俺はこの旅を続け、伝えるべき物語を取材して見届ける。

 この試みの成果もまた、後世に残り続けることを願う。

 

 

 

『真実の探求者』トニー

 

 

 

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