虫の姫は、たまごを背負っていた。
すぐには経緯はわからなかった。
なんせ、話せなかったからな。
どうにも人の解するものとは異なる言語を用いるようでな。
記憶にある言語をいくつか試したが、すべてダメだった。
そこでふと、寺院の街で手に入れた指輪を思い出した。
指輪には人には解せぬ文言がびっしりと刻まれている。
この文言とは、あるいは虫の姫と縁がある代物なのかもしれない。
俺の推測は当たっていた。
指輪を装着してみると、彼女の言葉を聞くことができた。
どうやら、とある老いた魔女に由来する逸品らしい。
どういう理屈かはわからないが、虫の姫と何らかの繋がりがあったようだ。
ともあれ、コミュニケーションはとれるようになった。
早速、虫の姫に取材を申し込んだよ。
◆
虫の姫への取材で得られた情報は、以下の通りだ。
彼女はもともと、ロードランの存在だ。
以前にも別件で取り上げた、あのグウィンにも縁があるロードランだ。
どうやら、時空のずれによる影響でこちらの世界に来てしまったようだ。
エルデンリングが壊れた影響は、まだ完全には消え去っていないらしい。
とりわけ、グウィンと同様最初の火から王のソウルを見出した"イザリスの魔女"に縁深い存在だそうだ。
だがある時、毒の膿を喰らってしまい、病を患ってしまったそうだ。
その病を根治する術はない。
だが対処療法なら確立されている。
"人間性"なるアイテムを人間から奪い、彼女へと捧げれば、その病による苦しみを和らげることができるそうだ。
……つまり「虫憑き」が人を切って回っていたのは、"人間性"を探し求めるが故のものだったってわけだ。
だが、不幸にもこの世界はロードランとは異なる理で動いている。
彼女の病を癒せる"人間性"は存在しない。
もはや彼女の病を癒す術はない。
それをわかっていたのだろうな。
取材を終えた後、虫の姫は介錯を求めてきた。
せめて、彼だけでも任から解放してあげたい……とな。
……できることを、したよ。
◆
その直後。
追いついてきた「虫憑き」に襲われた。
当然だな。
彼からすれば、その時の俺は主の仇だ。
殺す以外にない。
けど、殺されてやる理由もなかったからな。
当然応戦した。
「虫憑き」は、変わらず刀を用いて近接戦闘を仕掛けてきた。
だがその直前、左手に炎を灯して自らの体に叩きつけた。
当時は何もわからなかったが、後から調べると「内なる大力」なる術を使ったようだ。
生命力を犠牲にする代わり、一時的に攻撃力を高める効果のものだ。
そんな術を使ってまで攻撃を仕掛けてきたんだ。
とんでもない殺意だったよ。
流石にこっちも祈祷を発動し、「黒炎の儀式」を中心に立ち回ったぜ。
だがまぁあっちも弁えている。
こっちの祈祷が火属性であることを見抜いて、炎からのダメージを軽減する「激しい発汗」をも用いて猛攻を仕掛けてきた。
時には「大火球」なんかも投げつけてきやがった。
「虫憑き」が操るこれらの術は、祈祷ではない。
ロードランに由来する「呪術」というものだ。
とりわけイザリスに縁のある代物で、全体的に火を操るもの。
「火の時代」の世界特有の術で、実に興味深い。
だけど、それでもやっぱり俺の敵じゃあない。
俺と「虫憑き」の格付けは、とうの昔に終わっている。
今更呪術を使った搦め手を使ってこようが、そこは覆らなかった。
強いて呪術以外に特筆すべきことがあるとすれば、その場の「虫憑き」は、一度倒すだけでもう目覚めなかったことだな。
不死を殺す術を使ったわけじゃない。
だから、奴は復活しようと思えば復活できる筈だ。
それでも、奴は復活してこなかった。
はっきりいって今でも理屈はわかっちゃいない。
だけど、一度倒すだけですぐ安全を確保できたのは事実だった。
◆
「虫憑き」の正体は、葦名とは別口のもの。
彼もまた、ロードランのイザリスに縁のある者だったようだ。
その虫もまた、葦名由来ではなくロードラン由来のシロモノだ。
ロードランの一部では「たまご背負い」という病人達がいたそうで、それと同種の病だったようだ。
つまり変若水とは無縁のシロモノで、彼の不死性もまた虫とは異なるところが根拠だったらしい。
じゃあなんで不死だったのか……これについての原因はいくつか調べることができたが、特定まではできていない。
だからあえて記さない。
さて。
「虫憑き」を退けた後は、虫の姫の墓をこしらえた。
簡単なものしかできなかったが、せめてもの供養はしておいた。
それで、話は終わりだ。
……だが、そうだな。
少し後日談だけは記そう。
後日、別件で同じ道を通った時。
「虫憑き」の噂は消えてなくなっていたよ。
どうやら「虫憑き」による人斬り事件は、解決したようだ。
虫の姫がいなくなったことで"人間性"を探す必要がなくなったからだろうか。
それから。
俺がこしらえた虫の姫の墓も、まだ残っていた。
誰かが、丁寧に手入れしているようだった。
あれから「虫憑き」の姿を見た者はいないそうだから、どこに真実があるかはわからない。
だが、そこを探るのが野暮なのはわかる。
だから、それ以上はそっとしておいたよ。
改めて以上だ。
時空のずれに巻き込まれた虫の主従。
ただお互いに、お互いの苦しみを和らげようとした優しい二人。
その運命は、静かでありながらもひどく過酷なものだった。
俺にできたことは、主のその儚い願いを少し手伝うことだけ。
その願いが適切に叶ったかどうかは、神のみぞ知る。
だがせめて。
この世界にあの二人がいた事実ぐらいは、積極的に伝えてもいいんじゃないかとは思う。
「虫憑き」が齎した被害は、被害者にとってはシャレにならないものではある。
だけど、お互いに苦しみを和らげようとする優しい物語は、きっと後世に残るだけの価値がある筈だ。
『真実の探求者』トニー
"彼女"が原作の彼女と同一人物かどうかは謎です。
時空のずれによって生じた、ただ経緯が似てるだけの別人かもしれないですし、たまたまそういう世界の彼女かもしれません。
答え合わせは、特に用意していません。
少し話が変わりますが「呪術」はダークソウルシリーズを象徴するスペルだなぁと思う今日この頃。
「呪術」は基本的に「火」を扱う業なのですが、他ゲームや別シリーズなら魔術とか祈祷の一カテゴリで済ませているところを、ダクソシリーズだけ独立しています。
あの世界、「火」をテーマとするだけあってその扱いはかなり独特。
それをゲームシステムとして具現化したのか、「呪術」なのでしょうね。
特に触媒の強化さえできればステータスを一切気にせずに済む無印のシステムが、より独特で好みでした。
というわけで、番外編「虫の姫」は以上です。
ご高覧下さりありがとうございました。