名もなき褪せ人の手記   作:上代わちき

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虫の姫(後)

 

 

 

 虫の姫は、たまごを背負っていた。

 すぐには経緯はわからなかった。

 

 なんせ、話せなかったからな。

 

 

 

 どうにも人の解するものとは異なる言語を用いるようでな。

 記憶にある言語をいくつか試したが、すべてダメだった。

 

 

 

 そこでふと、寺院の街で手に入れた指輪を思い出した。

 指輪には人には解せぬ文言がびっしりと刻まれている。

 この文言とは、あるいは虫の姫と縁がある代物なのかもしれない。

 

 俺の推測は当たっていた。

 指輪を装着してみると、彼女の言葉を聞くことができた。

 

 

 

 どうやら、とある老いた魔女に由来する逸品らしい。

 どういう理屈かはわからないが、虫の姫と何らかの繋がりがあったようだ。

 

 

 

 ともあれ、コミュニケーションはとれるようになった。

 早速、虫の姫に取材を申し込んだよ。

 

 

 

 

 虫の姫への取材で得られた情報は、以下の通りだ。

 

 

 彼女はもともと、ロードランの存在だ。

 以前にも別件で取り上げた、あのグウィンにも縁があるロードランだ。

 

 どうやら、時空のずれによる影響でこちらの世界に来てしまったようだ。

 エルデンリングが壊れた影響は、まだ完全には消え去っていないらしい。

 

 

 

 とりわけ、グウィンと同様最初の火から王のソウルを見出した"イザリスの魔女"に縁深い存在だそうだ。

 だがある時、毒の膿を喰らってしまい、病を患ってしまったそうだ。

 

 その病を根治する術はない。

 だが対処療法なら確立されている。

 

 "人間性"なるアイテムを人間から奪い、彼女へと捧げれば、その病による苦しみを和らげることができるそうだ。

 

 

 

 ……つまり「虫憑き」が人を切って回っていたのは、"人間性"を探し求めるが故のものだったってわけだ。

 

 

 

 

 

 だが、不幸にもこの世界はロードランとは異なる理で動いている。

 彼女の病を癒せる"人間性"は存在しない。

 

 もはや彼女の病を癒す術はない。

 

 

 

 それをわかっていたのだろうな。

 取材を終えた後、虫の姫は介錯を求めてきた。

 

 せめて、彼だけでも任から解放してあげたい……とな。

 

 

 

 

 ……できることを、したよ。

 

 

 

 

 その直後。

 追いついてきた「虫憑き」に襲われた。

 

 

 当然だな。

 彼からすれば、その時の俺は主の仇だ。

 殺す以外にない。

 

 けど、殺されてやる理由もなかったからな。

 当然応戦した。

 

 

 

 

 

 「虫憑き」は、変わらず刀を用いて近接戦闘を仕掛けてきた。

 だがその直前、左手に炎を灯して自らの体に叩きつけた。

 

 当時は何もわからなかったが、後から調べると「内なる大力」なる術を使ったようだ。

 生命力を犠牲にする代わり、一時的に攻撃力を高める効果のものだ。

 

 

 そんな術を使ってまで攻撃を仕掛けてきたんだ。

 とんでもない殺意だったよ。

 

 

 

 

 流石にこっちも祈祷を発動し、「黒炎の儀式」を中心に立ち回ったぜ。

 

 だがまぁあっちも弁えている。

 こっちの祈祷が火属性であることを見抜いて、炎からのダメージを軽減する「激しい発汗」をも用いて猛攻を仕掛けてきた。

 時には「大火球」なんかも投げつけてきやがった。

 

 

 

 

 「虫憑き」が操るこれらの術は、祈祷ではない。

 ロードランに由来する「呪術」というものだ。

 とりわけイザリスに縁のある代物で、全体的に火を操るもの。

 

 「火の時代」の世界特有の術で、実に興味深い。

 

 

 

 

 だけど、それでもやっぱり俺の敵じゃあない。

 

 俺と「虫憑き」の格付けは、とうの昔に終わっている。

 今更呪術を使った搦め手を使ってこようが、そこは覆らなかった。

 

 

 

 

 強いて呪術以外に特筆すべきことがあるとすれば、その場の「虫憑き」は、一度倒すだけでもう目覚めなかったことだな。

 

 不死を殺す術を使ったわけじゃない。

 だから、奴は復活しようと思えば復活できる筈だ。

 

 それでも、奴は復活してこなかった。

 

 

 

 はっきりいって今でも理屈はわかっちゃいない。

 だけど、一度倒すだけですぐ安全を確保できたのは事実だった。

 

 

 

 

 

 「虫憑き」の正体は、葦名とは別口のもの。

 彼もまた、ロードランのイザリスに縁のある者だったようだ。

 

 その虫もまた、葦名由来ではなくロードラン由来のシロモノだ。

 ロードランの一部では「たまご背負い」という病人達がいたそうで、それと同種の病だったようだ。

 つまり変若水とは無縁のシロモノで、彼の不死性もまた虫とは異なるところが根拠だったらしい。

 

 

 

 じゃあなんで不死だったのか……これについての原因はいくつか調べることができたが、特定まではできていない。

 だからあえて記さない。

 

 

 

 

 

 さて。

 「虫憑き」を退けた後は、虫の姫の墓をこしらえた。

 簡単なものしかできなかったが、せめてもの供養はしておいた。

 

 それで、話は終わりだ。

 

 

 

 

 

 ……だが、そうだな。

 少し後日談だけは記そう。

 

 

 

 後日、別件で同じ道を通った時。

 「虫憑き」の噂は消えてなくなっていたよ。

 どうやら「虫憑き」による人斬り事件は、解決したようだ。

 虫の姫がいなくなったことで"人間性"を探す必要がなくなったからだろうか。

 

 それから。

 俺がこしらえた虫の姫の墓も、まだ残っていた。

 誰かが、丁寧に手入れしているようだった。

 

 

 

 あれから「虫憑き」の姿を見た者はいないそうだから、どこに真実があるかはわからない。

 だが、そこを探るのが野暮なのはわかる。

 

 だから、それ以上はそっとしておいたよ。

 

 

 

 

 

 改めて以上だ。

 

 

 時空のずれに巻き込まれた虫の主従。

 ただお互いに、お互いの苦しみを和らげようとした優しい二人。

 その運命は、静かでありながらもひどく過酷なものだった。

 

 俺にできたことは、主のその儚い願いを少し手伝うことだけ。

 その願いが適切に叶ったかどうかは、神のみぞ知る。

 

 

 

 だがせめて。

 この世界にあの二人がいた事実ぐらいは、積極的に伝えてもいいんじゃないかとは思う。

 

 「虫憑き」が齎した被害は、被害者にとってはシャレにならないものではある。

 だけど、お互いに苦しみを和らげようとする優しい物語は、きっと後世に残るだけの価値がある筈だ。

 

 

 

 『真実の探求者』トニー

 

 

 




 "彼女"が原作の彼女と同一人物かどうかは謎です。
 時空のずれによって生じた、ただ経緯が似てるだけの別人かもしれないですし、たまたまそういう世界の彼女かもしれません。
 答え合わせは、特に用意していません。



 少し話が変わりますが「呪術」はダークソウルシリーズを象徴するスペルだなぁと思う今日この頃。
 「呪術」は基本的に「火」を扱う業なのですが、他ゲームや別シリーズなら魔術とか祈祷の一カテゴリで済ませているところを、ダクソシリーズだけ独立しています。

 あの世界、「火」をテーマとするだけあってその扱いはかなり独特。
 それをゲームシステムとして具現化したのか、「呪術」なのでしょうね。


 特に触媒の強化さえできればステータスを一切気にせずに済む無印のシステムが、より独特で好みでした。



 というわけで、番外編「虫の姫」は以上です。
 ご高覧下さりありがとうございました。
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